こんな展開、聞いてないっ!?
せっかくバレンタインの日なので、それっぽい内容の短編を投稿しました。
作中でチョコは出てきませんが、よろしければのぞいてみてください。
私――白継 真恋は恋をしている。
「……ふぅ~」
二年生になってから一ヶ月ほど、新しい教室はまだちょっと慣れなくて落ち着かない。
おしりを軽く乗せた自分の机に両手をつきながら、ふと、手持ちぶさたに壁のかけ時計を見上げる。
下校しなきゃいけない、ギリギリの時間帯。窓からさしこむ夕日のおかげか、昼間と違う顔をした教室は現実感がなくて、より一層そわそわしてしまう。
だって、今日は私にとって、特別な日になるはずだから……。
「……ん」
自然と体が揺れてもじもじしていると、通学カバンに手が触れた。
なんとなしに見やれば、少し前からつけ始めた『くたビレ君』のマスコットと目があった。
緊張がほぐれるかもと指先でなでれば、ぬいぐるみのふにふにした感触が気持ちいい……けど、ドキドキはおさまってくれないみたいで、大きなため息が自然と出ちゃう。
「大丈夫。結果が良くても悪くても、悟君に告白するって決めたんだから……」
誰もいないひとりぼっちの教室だからかな……こぼれたひとり言が、変に大きく聞こえる。
始業式の翌日に行われた席替えで、教室のど真ん中に決まったくじ運の悪い私の席を囲んでいるのは、まだまだよく知らない人たちと……私の、好きな人。
学年が上がったときのクラス替えで、仲がいい友達とは別々になっちゃったから、いつも言いようのない居心地の悪さを感じてる。
今のところ、クラスの人たちから避けられてるとか、いじめられてるとかはない。
けど、人見知りで恥ずかしがり屋な私は、まるで自分のいるべき場所じゃないような――子どものころにお祭りに行こうとして知らない場所に迷い込んじゃったみたいな、勝手な疎外感に襲われたままだ。
わかってる。この窮屈さを感じているのは、私だけってことも。周りの人たちは、私にそこまで関心がないことも。
でも、自分で作った壁からなかなか一歩を踏み出せないのが……私だ。こればっかりは、すぐにはどうしようもできない。
「――う~、っ」
ただし、私が今感じてる緊張は、日常にはない特別な想いが関係している。
バクバクとうるさい心臓を両手でおさえようとするけど、すなおで激しい鼓動はいうことを聞いてくれるどころか、暴れる一方で。
私が望んでこの場所にきたはずなのに、静かすぎる空気にチクチクと急かされるせいで、緊張がどんどん高まっちゃってる。
「あ~もうっ! 意気地なし! バカ! 嫌いっ!!」
だから、ほら。
まだ何もしていないのに、私の心は勝手に限界がきちゃって。
弱気に押しつぶれそうな自分をしかるように、弱虫な私へ悪口をぶつけてしゃがみ込んだ。
「やっぱり、好きになれないや……」
私じゃない人は、好きになれたのに、な。
両手をついた机に、こつん、と額をくっつける。
こぼさないって決めてたはずなのにあっさりと弱音が口に出て、私は近くの机を――外井 悟くんの席を見つめる。
『――なにか探し物?』
きっかけは、ささいな出来事だった。
一年生のとき、新入生の部活見学で私は校舎内で迷子になった。
直前まで一緒にいた中学校からの友達とはぐれた私は、スマホで連絡を取ることも思い浮かばないほどテンパっちゃってた。
そんなおっちょこちょいな私を気にかけてくれた、どこかぼーっとしていた男の子が――悟くん。
『……手伝うよ』
『え?』
『友達、見つけるの』
それまで男の子とちゃんと話したことがないほど内気だった私。
だからあせりまくって、自分でも何を言ってるかわかんなかったくらいの説明なんて、ほとんど意味不明だったと思う。
なのに悟くんは、私の言いたいことをすぐにわかってくれて、『行こう』って手をさしのべてくれた。
でも結局、ちょっとだけ悟くんの背中について行ったところで、私を捜してくれていた友達と合流できた。
だから、悟くんとはほとんどなにも話せなかった。おまけに、実は同じ新入生の同じクラスだったってあとから知って、男の子の自己紹介を聞き流していたのをすっごく後悔したなぁ……。
悟くんの姿を無意識に目で追うようになったのは、彼の優しさに触れた次の日からだったと思う。
朝は弱くてあくびを何回もしていたり、友達と話していてもまぶたがとろ~んとしてたり、体育の授業では意外と機敏に動いていたり――なんだかつかみ所がない人だった。
でも、机から落ちた文房具に気づいたらすぐに拾ってあげたり、荷物を大量に持っている人がいれば半分持ってあげてたり、たまたま学校の外で見かけたときは外国っぽい人に道を教えてあげてたり――誰にでも優しい人なんだって知って。
気づけば、悟くんが好きになっていた。
我ながら単純だと思う。
でも、男の子との接し方なんて知らなくて、話しかける勇気も出なくて、なんでもいいから話しかけられるのを待つしかなくて。
一年生の間は……ただ見てるだけだった。
「でも――」
しゃがみこんだ背中に夕日を浴びたまま、体にかかった影で色がくすんだスカートの折り目から顔を上げた。
机にすがった指先に、ぐっと力を込める。
春休みになって、このままじゃダメだって気づいて――。
何回も女の子の友達に相談して――。
何度も少女マンガを読み返してシミュレーションして――。
何日も前に告白するぞ! って決めて――。
ラブレター、は無理だったから、人が少なくなる時間と場所を書いた手紙を悟くんの下足箱に入れて――。
悟くんがこの教室にくるのを、こうして待っている。
もう、あと戻りなんてできないんだ。
心の中で、強く思う。
(今だけ……今だけでいいから、内気な私なんて、いなくなっちゃえ!)
ぎゅっとつぶっていたまぶたを、ゆっくり開いた。
消えそうだった告白する勇気が、ほんの少しだけ戻った気がして、小さなガッツポーズで気合いを入れなおす。
「伝えるんだ、ちゃんt「お待たせ」ひゃいっ?!?!」
――びっ、びっくりしたぁ!!
教室の引き戸が開いたの、カンペキに不意打ちのタイミングだったよね!?
思わずぴんっ! と背筋を伸ばして立ち上がっちゃったよ?!
うわ~、変な声まで出しちゃって、はずかしぃ~……。
「あ、この手紙、白継さんだったんだ」
「へ? あっ、うっ、そ、えと……はいっ!!」
も~っ、私のバカ! どんだけかんじゃうの!!
ずっと教室で待ってたときとは比べものにならないほど、怒った猫ちゃんの尻尾みたいに体がガッチガチに固まっちゃった私に、悟くんは首をかしげながら近づいてきた。
あっ、きょとんとした感じの顔、ちょっとかわいい……。
「話って、何かな?」
「話っ!? う、うんっ! 話ね! はなし――」
いつの間にか目の前にいた好きな人に、胸のドキドキが止まらない。
私が書いた手紙を持って、読んでくれて、約束を守ってくれたこと……それだけでもう、泣きたいほど嬉しくなっちゃう自分がいる。
女子の中でも背が低い方の私よりも、頭二つ分は背が高い悟くんの顔を……首を……第二ボタンを見て、何度も悟くんのオウム返しをしてしまう。
「えとね! さ――んと、えと、そとい、くん……」
わ、私のバカ!
ほとんど話したことなんてなかったのに、いきなり『悟くん』って名前呼びはダメでしょ!
ど、どうしよう~! 変に思われなかったかなぁ~?!
「うん」
「あと、えと、う、んと、その――」
とっくに、頭の中はぐちゃぐちゃだった。
鏡がなくても、顔が真っ赤になってるのがわかる。
今にも熱を出して、倒れちゃいそうなほど恥ずかしくて、苦しくて。
告白のために用意していたセリフが、ぜんぶ真っ白になってて、見つけられない。
意味のない言葉だけが、悟くんの前で何度も空回りする。
(あぁ……やっぱり、ダメだ)
好きです。
たった一言、たった四文字の言葉が……言えない。
あきらめが胸の奥からじわじわ上ってきて、ぎゅっとつむった目から涙があふれてくる。
まるでパパやママにイタズラがバレたときみたいに、にじんだ汗をにぎりしめた両手を胸に抱えて縮こまってしまう。
「落ち着いて」
――そんなときだ。
優しい声が、聞こえたのは。
「白継さん、男子が苦手って、知ってるから」
力を込めすぎて痛いまぶたから力が抜けて、ちょっとだけ、目を開けられた。
「ちゃんと、話、聞くから」
他の男の子と違って、おっとりしていて。
一言一言を大事にしているみたいな、ほっとする口調に、肩の力が抜けた。
「途中で、逃げたり、しないから」
バクバク、ってうるさかった胸が。
とくんとくん、って温かい音に変わっていく。
「待ってるよ。ずっと」
そうして、いつもみたいにポヤポヤしている悟くんの顔を、気づけばちゃんと、見つめていた。
(あぁ……かなわないなぁ)
何回言いきかせてもおさまらなかった私の緊張を、私よりも上手になだめてしまう。
ちょっとやそっとじゃニコリともしない無表情なのに、ぽや~ってしてるから愛嬌があって。
いつもおねむで半分しか開かない目を、じっと、逃げてばっかりだった私の瞳とあわせてくれる。
ずるい――なんて、意気地のない私が言っちゃいけないかもしれないけど。
こんな時でも私を夢中にさせちゃう悟くんは……やっぱり、ずるいや。
「――あのね、外井くん」
「なに?」
もう、大丈夫。
だから、言っちゃえ。
私の、本当の気持ちを。
「私、ね……」
さっきバラバラになっちゃったばかりの、ありったけの勇気を。
もう一回だけ、かき集めて。
振りしぼるんだ――今、ここで。
「私――「ガラララッ!」」
「よっしゃ到着! 部活終わりで気づいた俺、マジ天才!!」
大げさじゃないくらい私にとっての渾身の告白は、黒板側の引き戸が動く音にまぎれて消える。
見ると教室の前の扉から、悟くんとよく一緒にいる男の子が入ってきた。
あぁ、これ知ってる……花火とかで告白のセリフが聞こえないパターンのやつだよ。
まさか、少女マンガみたいなことが本当に起きるなんて……。
私って、くじ運だけじゃなくって、タイミングも悪かったんだなぁ……。
「あれ? 悟とプル子じゃん。何してんの?」
「……慎治。白継さんに、すごく失礼」
「だってプル子の名字って覚えにくいじゃん。その点、プル子だったら一発だろ? いっつもプルプルしてっからわかりやすいあだ名だし!」
……なんだか、さらっとバカにされた気がする。
「それより、慎治は、どうしてここに?」
「あっ、そうそう! 明日の課題を忘れちまってよ! さすがに白紙だと先生にドヤされっから、回収しにきたってわけ!」
「……いつも、間違いばかりなのに?」
「うるせー! 何もしないよりはマシだろうが!? ――っと、発掘!!」
いろんな意味でむくれてる私をよそに、悟くんとおしゃべりしながら里中くんは机の中身を引っ張り出し、床にぶちまけた本の中から一冊のノートをひろって高々とかかげる。
よけいなお世話かもしれないけど、置き勉するにしても普段から整理整頓はした方がいいんじゃないかな……?
「じゃ、俺は帰るぜ! 途中のコンビニで五人姉妹の『からあげちゃん』が俺を待ってるからな!」
「もも肉に、性別はない……また、明日」
面と向かっては言えない文句を心の中でつぶやいたところで、里中くんはまた教科書の山を机の中へぎゅうぎゅうに押しこみ、片手を上げてドタバタと走り去った。
悟くんは律儀に手を振って見送るけど、たぶん里中くんには挨拶が聞こえていないタイミングだったと思う。
そんなマイペースなところもかわいいなぁ。
「……ごめん。慎治が、騒がしくて」
「う、ううん。私の方こそ、なんか、ごめんね……」
嵐のように場をかき混ぜられたあと、残ったのは私と悟くんと気まずい空気。
もう、告白する雰囲気なんて、ぜんぜん残っていない。
せっかく、東京スカイタワーの展望台から飛び降りるくらいの勇気が出てきたのに、無駄になっちゃったな。
なのに、悟くんに想いが届かなかったことを、ちょっとだけ安心した私がいる。
中途半端でも、思い切って気持ちを口にできたのが、結果としてはよかったのかもしれない。
私の、悟くんを『好き』って気持ちは、変わらない。
だったら、次からはあせって関係を急がなくても、私なりのペースで、ゆっくり伝えていけばいいや。
――そう、思えるようになったからかな。
意気地なしはちっとも変わってないけど、胸にたまったモヤモヤが晴れて、すっきりした気分だ。
『下校時刻になりました。校内に残っている生徒は、すみやかに下校してください』
「あ……じゃあ、私たちも、帰ろっか?」
うじうじ悩んでいた間に時間は過ぎていたみたいで、気づけば下校の十分前になっていた。
ちょうどアナウンスが告白タイムの終わりを告げてくれたから、自然と悟くんに話しかけられて、胸がほっこりする。
他人から見ればささいなことかもしれないけど、私にとっては大きな一歩。
明日からは、もうちょっと自分から話しかけてみよう。
今度はきちんと、『好きです』って、言えるように……。
「待って」
そう思っていたときだった。
「『すきで』……って、なにが?」
「 え゛っ 」
――悟くんから、安全装置のはずれた手榴弾を投げ返されたのは。
「な、ななな、なんのこと、かなぁ~?」
さっき女の子として好きな男の子の前じゃ出しちゃいけないダミ声をゲロっちゃったマイナスを埋めるべく、つとめてかわいらしい感じを意識してとぼけてみせる。
でもダメだ。まず足からキてる動揺がぜんぜん隠せてない。
しっかりして私!
スカートに隠れた内股をガクブルしてる場合じゃないよ!!
「慎治が、扉開けて、入ってきたとき。言ってたよね?」
「ぅ、ううんっ!! 言ってない言ってない!! 外井くんの勘違いだよ、きっと!!」
コテン、って小首をかしげる悟くんのレアショットで得した気分になったけど、内心はほんわかしていられる余裕なんてない。
力いっぱい右に左に首を振りながら、悟くんに見せた両手のひらも同じようにブンブンと否定して、告白事故をうやむやにしようとする。
里中くんにぶちこわされた空気でリトライなんてムリ!
この場はなんとかごまかさないと!!
「ちゃんと聞こえてたよ? それに、廊下、歩いてたときも」
「――え?」
「『やっぱり、好きになれないや。伝えるんだ、ちゃんと』……って」
ひとり言まで聞かれてたっ!!?!
しかも一言一句ばっちりと!?!!
教室はちゃんとドアも窓も閉めてたし、そんな大きな声を出してなかったはずなのに――この学校の壁って防音対策ガバガバなの?!!!
吹奏楽部が練習しただけで苦情が殺到しちゃうじゃん、なにやってたの建築の人!!!?
「あとは……『意気地なし。バカ。嫌い』、かな?」
聞こえすぎだよ悟くん!!!! ――え、っていうか耳良すぎじゃない?!?!
聴力とか2.0はあるんじゃないの?! ――あれ?! それって視力だっけ!?
でも、私の言葉を全部覚えてくれてるとこも素敵っ!! ――あ~もうっ、わけわかんないっ!!
……はっ!!
「ち、ちなみに……私、他に何か、言ってました……か?」
たしか私、『悟くんに告白する』的な、結構ストレートなことも言ってたはずだよね?
やばい! もしそれも聞かれてたんなら、私の告白は最初から空回りしてたんじゃん!!
もはや隠せる力もなくなった震えが足から全身に広がって、着信をバイブでお知らせするスマホみたいになりながら、悟くんからの聴力判定を待つ――
「――他? ううん、聞いてない、けど」
――うん!! ちょっと期待してたところはあったよねっ!!!!
ひとり言をそこまで聞かれてたんなら、『もしかして……?』って思っちゃうじゃん?!
『真恋が僕を好きなんて、知らなかったよ。実は僕も――』なんて超展開を欲しがっちゃうじゃん!!
壁ドン……は教室の中央にいて距離的に遠いから無理としても、あごクイくらいまでならイケるって妄想しちゃうじゃん!!
そりゃあね!?
せっかく私と悟くんだけで満たされた雰囲気バッチリの告白シチュだったのに、まさかのお邪魔虫乱入でめちゃくちゃにされちゃったからさ!?
告白を別日に仕切り直したい、って気持ちはホントだよ!!
でもさでもさ!!
聞かれなくてよかったって気持ちの裏で、ちょっぴり聞いてて欲しかった乙女心が、こう――ザワザワする!! ザワザワするんだよ~っ!!!!
「でも、知らなかったよ……」
「――っ!?」
え?
うそ?
まさか、私の乙女心、悟くんに伝わっちゃってた……?
いやいやいや!? それこそまさかだよ?!
で、でも……これって、絶対、あれだよね?
少女マンガのヒロインが、胸をキュンキュンさせちゃうやつだよね!?
すごい!! 少女マンガってノンフィクションだったんだ!!
「まさか、白継さんが――」
あ~、どうしよ!?
息って、今までどうやって吸ってたっけ?!
心臓もさっき以上にドキドキしちゃってるし~っ!!
あぁ、神様。
夢なら、どうか醒め――
「――僕のこと、そんなに『嫌い』、だったなんて」
「 う゛ え゛ っ 」
――て!! おねがい!!!! 夢だと言ってええええぇぇぇぇっ!?!?
めっちゃ勘違いされてるじゃん!!
びっくりしすぎて女の子どころか人が出しちゃいけない声ぶちまけちゃったじゃん!!?
私からもれでてた乙女心、里中くんの置き勉と一緒にぎゅうぎゅう詰めにされちゃってたんじゃん!?!?
うそ!? どうして?!
私、さっきまで『天国』行きのホームにいたはずだよね!?
なんで『地獄』にしかとまらない環状線になっちゃってるの?!
――やめてっ!! 『プルルルルッ!』って発車のベルを脳内で鳴らさないでっ!!
乗らないよ!? 乗らないからねっ!?
特急『失恋』行きとかぜったいに乗らないんだからぁっ!!!!
「そ、そんなことないっ!! 外井くんが『嫌い』なんて! 私っ! そんなっ!!」
「……でも、『意気地なし』で、『バカ』で、『嫌い』で、『やっぱり好きになれない』から、『ちゃんと伝える』って――」
「違うのっ!!!! 違うからっ!!!! 誤解っ!!!! 誤解なのっ!!!!」
それ『私』!!!!
全部うじうじしてた『私』に向けて言ってた言葉だからっ!!!!
つい自己嫌悪がもれちゃっただけで、悟くんのことじゃないの~っ!!!!
――というか、これじゃあ私、めっちゃイヤな女の子じゃん?!
わざわざ誰もいない放課後の教室に悟くんを呼んで、『あなたのことが嫌いです』って言いたかったとか、性格悪いにもほどがあるよ?!
それに、こんなときに限って悪い意味が通じるような伝わり方してるとかありえないから!!
もうちょっとだけ私のひとり言を聞いてくれてれば、こんな勘違いされずにすんだのに――いくらなんでも私の運とタイミングって最悪すぎるんじゃないかなぁっ?!?!
「それはっ!! ちょっとした行き違いでっ!! 外井くんじゃなくてっ!! 私でもなくてっ!! その! あの……っ!」
あぁ、もう、ぐちゃぐちゃだ。
頭の中も、目の前も、告白も。
ぜんぶぜんぶ、ぐっちゃぐちゃ。
ちゃんと否定したいのに、きちんとした説明ができる言葉がでてきてくれない。
さっきまでは前向きになろう、って思っていた気持ちがしぼんでいっちゃう。
言い訳の言葉だけを探して、思わず足をうしろに引いて――
「あ、っ!?」
――バランスを、崩した。
「ひ、っ!!」
思いがけない不運に、体が固まってしまう。
倒れたときの痛みを想像して、自然と悲鳴がのどから飛び出た。
とっさに目をぎゅっとつむって、せめて少しでも痛みが小さくなるよう祈る。
――ガシャンッ!!!!
痛みよりも先に、机とぶつかったような音が聞こえた。
私は恐怖で体がすくんだまま、自分が倒れる瞬間を待つ。
一秒――二秒――三秒……?
いたく、ない……?
「――大丈夫?」
「 え、っ ?」
優しい声と、あったかい息が、鼻にかかった。
おそるおそる目を開けると……えぇっ!? 悟くんっ?!?!
「どっ! どどど、どうして!? なんでっ?!」
「いきなり、転ぶから。危ないな、って」
視界いっぱいの悟くんの破壊力がすごすぎて頭が沸騰した私をよそに、彼はすっごく冷静な顔でささやいた。
なにここ天国……?
あれ、でも悟くんの説明がよくわからなかったけど、今どういう状況なの?
少しだけ正気に戻った頭をなんとか動かし、自分の状態をたしかめる――
「ひょぇっ?!?!」
――と、すぐさま正気が宇宙のかなたへ飛んでった。
首を左に動かしてすぐ、耳に触れた感触は床の冷たさじゃなくて、ちょっとやわらかくて優しいぬくもり。
あわてて反対を見ようとしたけど、とちゅうで黒っぽい柱にさえぎられてとまっちゃう。
そこで頭のうしろも包まれているような感触があるのに気づいて、黒い柱の正体にピンときてしまった。
「……どうしたの?」
「――ひゃいっ?!?!」
その上、悟くんが心配そうな声をかけてくれたひょうしに足がもぞもぞ動くと、ズボンっぽい生地の感触がふとももの内側をかすめた。
こうして、私の勘は確信に変わる――
(ゆっ、床ドンとっ!? 股ドン~っ?!?!)
――自分が、壁ドンとあごクイよりもすっごいシチュエーションに身をおいていることに。
「はわ、はわわわわわっ!?!?」
もう自分がまともな声をだせているかもわからなかった。
ずっと遠くから見ていただけだった悟くんが、肌と肌がくっついちゃうほど、息と息が熱く感じるくらい、ず~っと近くで、密着してる。
恥ずかしすぎて逃げたいのに、耳のすぐ横を悟くんの両腕に閉じこめられてる状況も。
けがをしないようにと後頭部を片手でかばわれながら、押し倒されてるように見える体勢も。
すべてが夢みたいで、なにもかもがご褒美だった。
なにこれ極楽――!?
これってあれでしょ?! ラッキースケベってやつでしょ?!?!
男の子が女の子にならともかく、女の子が男の子に――ってなってもいいの?!
どうしよう?! こんなのもう、ベッドインとおんなじじゃん!!
ファーストキスもまだなのに、大人のゴールテープ切っちゃったよ!!!
ええと、え~っと、こんなとき、ヒロインの女の子たちはどうしてたっけ!?!?
――あ~、もう!! ぜんぜんおもいだせないよぉっ!!!!
「白継さん、立てる?」
「えっ? ……あっ」
なんて。
あは~んうふ~んな妄想でピンク色に染まりだした脳内が、なにごともなく悟くんに手を引かれて立ち上がった瞬間、いつもの色を取り戻した。
……そうだよ。
悟くんはガツガツしたオオカミさんじゃなくて、のんびりしたカピバラさんみたいな人。
勢いに任せてのぼった大人の階段を、『危ないよ』って手をさしのべて元の場所までおろしてくれる紳士なんだ。
そんな、優しすぎるくらい優しいところを、私も好きになったんだから。
あんなことやこんなことになるなんて、悟くんに限ってはありえないこと。
もっともっと悟くんを好きになることはあっても、もうちょっとだったのに……って残念がったりしちゃだめなんだ。
だめなんだよ、うん。
……悟くんって、自分よりちっちゃい女の子に、興味ないのかな?
「怪我はない?」
「う、うん。どこも痛くないよ」
「よかった」
あ、笑った! かわいいっ!!
悟くんって、こんな『ふにゃっ』て感じに笑うんだ。
笑顔になるところなんてはじめて見たから、すっごくしんせn――
「じゃ、話の続き、しよっか?」
――もうやめて! これ以上は私を追いつめないで!!
せめてもうちょっとだけ悟くんの癒しスマイルで安らぐ時間にひたらせてぇっ!!
というか、顔に似合わず意外と根に持つタイプだったんだね、悟くん!
まさかのねっとりねばねば納豆系男子って新たな一面と出会って私、なんだか胸が苦しくて泣いちゃいそうだよ?!
そんな粘着質な悟くんなんて、悟くんなんて…………っ、ダメ! よく考えたら私、納豆好きだった!! むしろ悟くんになら束縛されてもいいかも、って思っちゃってる!
なんなの私、ベタぼれじゃんっ!! 悟くんならなんでも許しそうな気がしてきたのが怖いっ!! そろそろ自分でもちょっと引いちゃいそうだよっ!?
――ま、まあ? ねばねば系って言いかえれば意志が強いってことだし? そう考えれば、硬派っぽくてかっこいいと思うよ?
けど、けどさ! やっぱり今だけはふにゃふにゃのしらたき系軟派男子になってほしいっ!! おダシをすって私色に染まってから流されちゃう悟くんもかわいいよぜったいっ!!
見たいなぁ! まったく別の話題に引っかかってくれるくらいチョロくてあっさり系の悟くんが見たいなぁっ!!
「そ、それは……また別のときに話そう!」
悟くんのきびしい追求にもういっぱいいっぱいだったけど、教室のスピーカーから流れてきた『蛍の光』――あれ? 『別れのワルツ』だっけ? なんでもいいけど、それを聞いてビビッ! ときた。
「――ほら、もう帰んなきゃだしっ!!」
そうだ! とにかく学校からの『帰れ!』って催促に乗っかって、うやむやにしちゃおう!
なんかもう、悟くんの好奇心から逃れるには、強引に行くしかなさそうだもんね!!
「早くしないと、先生たちに怒られちゃうよ! 行こう、外井くん! 今行こう、すぐ行こう!!」
こうなったら、少しくらい変に思われてもかまうもんか。
さっきのゴタゴタで乱れた机をなおし、自分のカバンを肩にかけながらとにかく悟くんをせかす。
そして、相手に会話のバトンを渡さないよう、悟くんがカバンを持ったところで教室から飛び出した。
「あ、待って」
「ほら、早く早く!」
あ゛~っ、このセリフ、夕日をバックにした浜辺でやりたかったなぁ~!
日が沈みかけた学校の廊下じゃ、ぜんぜんロマンチックじゃな――
「そっち、昇降口へは、遠回りだよ……?」
――うん、それ以前の問題だったね……主に私が。
「ほら、行こう?」
「……はぃ」
純粋な恥ずかしさから熱いくらい火照った顔をうつむいて隠し、悟くんから差し出された手に指先を乗せた。
そのまま、悟くんに手を引かれて、校舎内をとぼとぼ歩いていく。
「白継さんって……その……」
「…………うん」
「……方角に、嫌われちゃうタイプ?」
「ぅぅぅ……」
むしろ『方向音痴』ってはっきり言ってくれた方がよかったよ、悟くん……。
それから、気まずい空気をやわらげようと話しかけてくれる悟くんに言葉少なく返し続け、私の『ファースト手つなぎ』は昇降口までの道案内であっけなく散ってしまった。
この日、ちょっぴり大人になれた私は、身を持って学んだんだ。
――優しさが、ときに人を傷つける刃になるんだ、って。
「結局、『すきで』、って、何だったの?」
「 お゛ え゛ っ゛ 」
……そそくさと靴に履きかえ、一緒に校門を出たところで悟くんから四度目の致命傷を食らった私は、私の中にいる乙女心にお休みを伝えて吐きそうな声をゲロった。
私は自分を犠牲にして優しさの『すばらしさ』と『ざんこくさ』を学んだよ、悟くん!
それでね、自分でもどうしたらいいかわからない感情で、もう胸がいっぱいいっぱいなんだ!
だからお願い――もう許してぇ!!
「そ、れは……ぇと……そのぅ……」
「大丈夫。白継さんが、言いたいこと、全部聞くよ。それまで、ずっと、待ってる」
どうやってごまかそう……それしか頭にない私に、悟くんはもう一度、教室でしてくれたように優しい言葉をかけてくれた。
夕焼けと宵闇が混じる空を背負って、まっすぐ私を見つめてくれる悟くんの姿は、やっぱり私にはとてもかっこよくかがやいて見えたよ。
でもね? 今はちょっと、ほんのちょびっとだけど、里中くんみたいにも見えちゃうんだ~。
なんでだろうね~? 追いつめられた私に気づいてくれないからかな~? ……ぐすん。
「あのぉ~、それはぁ~、……」
顔で笑って心で泣きながら、なんとかこの場をやり過ごすための言い訳を必死に考える。
あーでもない、こーでもないと、視線と脳みそをあっちこっちにぐるぐる回していたら――本日二度目のひらめきが私へ降ってきた!
「――あのねっ! 外井くんっ!!」
「うん」
もう、これしかない――っ!
変に興奮しちゃって大きくなった声にもかまわず、じっと見つめてくる悟くんの目から『視線をそらした』。
「実は――私も好きなんだっ!! その『マスコット』っ!!!!」
「え……?」
そして、ずびしぃっ! って音が出そうなくらいの勢いをつけて、ぴんと立てた人差し指を悟くんの『通学カバン』へ指し示す。
ぽかん、と口を開けた悟くんが小さく首をかたむけた瞬間、チャリ、とチェーンでつながったマスコットキャラクターの『エラぶり君』がわずかに揺れた。
この『エラぶり君』と、ついでに私がつけている『くたビレ君』は、とある会社が『ブラック企業で働く魚介類』をコンセプトにして作った、一頭身のイロモノ系マスコットキャラクターだ。
ただ、ちょっとキャラクターデザインがシュール……というか悪い意味でリアルだからか、一般の売場ではぜんぜん見かけないマイナーなグッズなんだよね。
入手方法は、私の知る限りネットオークションで買うか、クレーンゲームの景品でとるかしかないし。おこづかいがそんなに多くないから、私はクレーンゲームでがんばってゲットしたよ。
そんな、人気もデザインもいまいちなマスコットに活路を見いだした私のカミングアウトを聞いた悟くんは――
「――本当っ?!」
――普段とは比べものにならないほど瞳をきらきらさせて、もう一歩分の距離を満面の笑顔で縮めてきた。
「う、うん! 私もそのグッズを偶然見つけたんだけど、外井くんもカバンにつけてたから、好きなのかな、って!」
「そうなんだ! 白継さんも『くたビレ君』のファンだったなんて、嬉しいなぁ! 友達にもオススメしたんだけど、ぜんぜん相手にしてくれなくて寂しかったんだ!」
「そ、そうなんだねっ!」
「白継さんは『くたビレ君』のどこが好き? 僕はキャラクター全員が背負っている哀愁とか脱力感とかが好きなんだ! 特にメインキャラクターでもある『くたビレ君』の、ハイライトが消えて濁った沼みたいに人生を諦めて腐りきった瞳の質感がたまらなく愛おしくて――」
いつもののんびりおっとりした悟くんからは想像できないほどの距離感とおしゃべりに、すごいエネルギーを感じて思わず引いちゃった……あ! 足をね!!
でも、悟くんは圧倒された私の様子にも気づかないまま熱弁を振るってるし、なんとか告白の誤爆はごまかせたみたいでこっそりホッとする。
ちなみに、この『くたビレ君』ってマスコット……見ての通り最初から『私』じゃなくて、『悟くん』が好きだったキャラクターなんだよね。
だって、クレーンゲーム限定で販売されてるようなマイナーグッズなんて、ゲーセンにほとんど行かない私が知るわけないもの。
そんな私と『くたビレ君』の出会いは、もちろん悟くんが関係している。
一年生のとき、悟くんに話しかけるタイミングをうかがっていた私は、たまたま里中くんとのおしゃべりを聞いてしまったことがあった。
そのときに聞いたのが、悟くんが『ハマっている』と口にした『くたビレ君』シリーズのマスコットだったんだ。
もちろん、少しでも悟くんと話すきっかけがほしかった私はネットで調べ、悟くんのカバンにつけられた実物も確認し、リサーチ万全でゲーセンに行きましたとも。
……たしか、地図を見ながらだったのにゲーセンへの道が途中でわかんなくなって、一週間くらいたどり着けなかったっけ。グッズの調べものは一日ですんだのになぁ……。
それに、クレーンゲームもそのとき初めてやったから、コツをつかむのに時間がかかったんだよね。
私がカバンにぶら下げてる『くたビレ君』がそのときの戦利品なんだけど、ゲットするのに三千円もかかっちゃったのは手痛い出費だったよ。
でも、そのおかげで悟くんと急接近できたんだから、結果オーライだよね!
それによく見たら月曜日の朝に出勤するお父さんとそっくりで、今じゃ私も本当にかわいいって思えるようになったんだから、ぜんぶが嘘でもないんだし!
ありがとう『くたビレ君』! ありがとう三千円!
あなたはとってもコスパのいい『恋のキューピッド』だよ!
キャラデザは『鯉』じゃなくて『鮪』だけどね!!
「本当に『くたビレ君』が好きなんだね、外井くん。でも、カバンのそれって『エラぶり君』だよね? もしかして、毎日いろんなキャラクターを付け替えてるの?」
いっぱいしゃべってくれる悟くんにうれしくなって、ふと疑問に思ったことを口にしてみた……んだけど、あれ?
悟くんの口が、ぴたっと固まっちゃった――?
「…………これ、しか……」
「え?」
「これしか……取れなかったんだ……クレーンゲーム……苦手、で……十万円以上……使った、のに……」
めちゃくちゃお金使ってた!?
っていうか、思いっきり悟くんの地雷ふんでんじゃん私っ?!
「え、え~っとぉ、その……ね、ネットオークションとかで、買わなかった、の?」
「……真の『くたビレ君』ファンなら、卑怯な転売屋に魂を売るような真似はしちゃいけない。自分だけの『くたビレ君』は、ちゃんと筐体から引き上げて出会わないと、『くたビレ君』にも失礼だし、『くたビレ君』を生み出してくれたメーカーさんにも顔向けできない……。
『くたビレ君』への愛が足りない転売屋なんて、社会に疲れた通りすがりのサラリーマンに刺されればいいんだ……」
フォローのつもりでかけた言葉が、悟くんのもっと深い闇に足をつっこんでた?!?!
ど、どうしよう!? すっごい落ち込んじゃってる!!
今日の私ってばなんでこう、失言ばっかしちゃうのかなぁ?!
なにか、なにか悟くんを元気づけられるようなことは――あっ!
「外井くんっ! 今度、一緒にゲーセン行こうっ!!」
「……え?」
いきなり私が大声を上げちゃったからか、悟くんはびっくりした様子でうつむけていた顔を上げた。
「私、こう見えてクレーンゲーム得意だからっ! 外井くんの横でお手伝いしたらきっと……いけす? から、外井くんだけの『くたビレ君』を救ってあげられると思うっ!!」
要するに悟くんは、自分の力でクレーンゲームから景品をとらなきゃダメって考えてるんだよね?
だったら、少なくとも悟くんより上手っぽい私がアドバイスすれば、悟くんが納得のいく形で『くたビレ君』を手に入れられるはず。
それにもし私が行ったゲーセンみたいに、『くたビレ君』が他のキャラクターマスコットの下に埋もれてても、私がいれば露払いをしてあげられるし。
っていうのも、『くたビレ君』だけ人気なのか、そもそも最初から数が少ないのか……クレーンゲームの中に積まれてた景品って、ほとんどがわき役キャラのマスコットだったんだよね。
私が挑戦したときだって、三千円で取り出せた十八個の中で『くたビレ君』は一個しかなかったから、『くたビレ君』だけをねらうならきっとお金も時間もかかるはず。
でも、ワンプレイ三百円で二~三個くらいとれるようになった私なら、『くたビレ君』を探し出すまでの手間をはぶけるよね!
「いいの? 僕、本当に下手だよ?」
「いいの! 私がしてあげたいだけだから!」
遠慮がちな悟くんの不安を吹き飛ばしてあげられるよう、意識して声を強めて前のめりに押してみる。
悟くんはこんなに『くたビレ君』が好きなんだもん!
私もできるかぎり力になってあげたい!
「……ありがとう、白継さん」
そんな、私の純粋な想いが伝わったのか。
悟くんはほんの少しだけ表情をくずして、ふにゃっと笑った。
その後。
私たちは最寄り駅までの道中で連絡先を交換してから、『くたビレ君』のレスキュー日を決めて家路についた……んだけど。
「ちょっとまって! 冷静に考えたらこれってデートじゃん?!?!
どうしよう!? 私、かわいい洋服なんて持ってないよ?!!!」
晩ごはんを食べてお風呂に入って部屋でまったりしていたときに、勢いで悟くんと交わした約束の意味をようやく理解した私が、ベッドの上でもだえまくったのは……いうまでもないかな。
ついでに、『うるさいっ!』ってママにめちゃくちゃしかられちゃったのも、ね。
……そうそう。
これもちなみに、なんだけど。
デート当日、迷子になって待ち合わせ場所がわからなくなったり。
半べその私を悟くんに見つけてもらってからゲーセンに向かったり。
クレーンゲームのコツを実演して悟くんに教えてたら人だかりができてたり。
なんとか悟くんが『くたビレ君』をゲットするころには、私が店員さんからお店の出禁を言い渡されたり。
いろんなことがあるんだけど、それはまた別のお話だ。
よく見る『大きな音で告白のセリフが遮られる』シーンで、通常は『鈍感+難聴』属性により告白が不発に終わるのがあるあるだと思います。
そこで思ったのです――告白された側が『鈍感だけど耳がいい』場合だと、後処理がめちゃくちゃ厄介なんじゃないか? と。
というわけで、実際に思いつきを自分なりに書いてみたのが今回の『告白シーン大喜利』ともいえる短編でした。
文字数的には少々長めでしたが、ひとときの暇つぶしとなりましたら幸いです。
キャラ設定
・白継 真恋
本作主人公。よく言えば一途、悪く言えばストーカー気質のある人見知りな女の子。恋愛知識が少女マンガや恋愛ドラマなど、かなり創作物方面に偏っている。
普通の地図や方向の感覚を失う代わりに、限定範囲内でのみ驚異的な空間認識能力を発揮する○ュータイプ系女子。クレーンゲームの戦績は、初回のゼロ個をのぞけば平均して二~五個の景品を獲得する猛者。
・外井 悟
告白相手。よく言えばマイペース、悪く言えばいろいろと無頓着な人畜無害系の男の子。恋愛方面だと鈍感なくせに地獄耳のため、主人公の思惑をことごとくくじいた強敵。
『くたビレ君』というマイナーなマスコットキャラクターをこよなく愛しているが、クレーンゲームのセンスが絶望的なためゲームセンター的にはいいカモ。
・里中 慎治
告白妨害担当。よく言えばやんちゃ、悪く言えば空気を読まない置き勉上等なムードメイカー系の男の子。毎日クラスの中心で騒ぐような性格で、周囲からは『明るいバカ』と認識されている。
本作での役割は主人公の告白を邪魔しただけのキャラだったが、実は主人公のことが異性として気になっていて、わざと告白の寸前に乱入してうやむやにした――という裏設定があったらよかったのに。(願望)
マスコット設定
・『くたビレ君』
ブラック企業・『バース株式会社』につとめる平社員。上司からの無理難題や厳しい営業ノルマ、サービス残業の強要に満員電車内における痴漢冤罪の恐怖などと戦いながら、生活のために働く企業戦士。
就職活動中に抱いていた淡い期待はあっけなく砕け、活力にあふれた元気なヒレは若い頃に比べてしおれてしまった。見た目は死んだ魚の目をして表情に影を背負ったマグロで、シリーズの主人公的立ち位置。
・『エラぶり君』
『くたビレ君』に毎日鬼のような量の業務を押しつけ、部下の成果を自分の営業成績に加算し上役にゴマをすって出世した悪役部長。見た目は絶妙にいらつく笑みを浮かべた丸っこいブリで、ストレスのたまった成人男性に人気(意味深)。
・『フンがい君』設定
仕事が遅い『くたビレ君』にいつも怒って罵倒するか、自分の成績を自慢する悪役課長。見た目は大きくギザギザした鼻でふんぞり返ったカジキで、ストレスのたまった成人男性に人気(意味深)。
・『ウロコうさ君』
ストーキング・ハッキング・誘拐・監禁・暴力・脅迫などの裏工作で取引先から契約をもぎ取るヤクザ社員。見た目は鱗でびっしり覆われた笑顔のウサギという、一般を意識した(?)キモカワイイ系。
・『めでタイ社長』
太鼓持ちの部下に囲まれ、毎日のように高級クラブや経営者のパーティーで豪遊する悪役社長。見た目は満面の笑顔で日の丸扇子を両手に持つ鯛で、ストレスのたまった成人男性に人気(意味深)。
・『フグうさん』
『くたビレ君』と同期入社のオフィスレディ。毎日のように男性社員からのセクハラや、女性社員からのパワハラ・モラハラを受け、就職前は自慢だった肌つやが今はもう失われている。
見た目はひきつり気味の愛想笑いを浮かべつつ、ところどころしわが寄って乾燥気味な肌をした体をぷくーっと膨らませたフグで、同シリーズのヒロイン(または女性主人公)的立ち位置。
・『おツボねーさん』
若くてきれいな女性社員が入社したら光の速さでいびり倒す、ベテラン女性部長(独身)。見た目は頭に噴火するフジツボを乗せたオニオコゼで、垂れた唇の両端と三角形のザマスメガネに肌荒れを隠すための厚化粧が特徴。