魔法学園で再会した王女殿下は会話の端々に下ネタをぶっ込んできて困る
果たして18禁の制限に引っかからないか、ご意見をお聞かせください。
「ライアン、いよいよ魔法学園に入学するのですね」
母親のエリザベートが感無量という表情で、ピカピカの制服に身を包んだ我が子を見つめている。かつて彼女は自らの夢であった魔法学園を目指したのだが、力が及ばすに諦めて貴族の子女が教養を学ぶ一般的な学校に入学した。その若かりし頃の思いが、果たせなかった夢を息子に託すかのようになって、このような感傷を母親に齎しているのであった。
「我が家の長男ともあろう者が魔法学園に入学するとは嘆かわしい」
父親のローゼンタール子爵ヘクターは涙ぐんでいる母親とは対照的な憮然たる態度を顕にしている。ローゼンタール子爵家は代々国王の近衛を務めてきた家柄で、当然長男であるライアンは騎士学園に入学するものと、彼の父親は誕生する前から決め付けていた。
だが息子のかなりいい線をいっている魔法の才能と、吹けば飛ぶような剣の才能を天秤に載せれば、この頑固な父親でも魔法学園に入学して魔法使いの道を歩むことが長男の、ひいてはローゼンタール子爵家の繁栄に繋がると自ずと理解するしかなかった。
「兄貴! どうせなら最強の魔法使いを目指してくれよな! いずれは最強の座を賭けて私と勝負だぜ!」
ライアンには1つ年下の双子の妹たちがいる。この発言は双子の片割れであるシャルディーヌであった。彼女は貴族らしからぬ奔放で傍若無人の性格故に、両親とも普通の子女のようにお淑やかに育てるのを諦めている。その天才とも謳われている剣の腕を以ってすれば、女子でありながらも長男のライアンに成り代わって騎士学校への入学も十分過ぎるほどに可能であった。
「何故ライアンとシャルディーヌの才能が反対にならなかったのだ・・・・・・」
諦め切れない父親の呟きが聞こえてくる。そうであったのならば、代々の仕来たりに従って次期当主を務めるライアンが近衛騎士団に入団することが十分に可能なのだ。だが神の気紛れか、父親の思惑は完全に外野に置かれて、今日を迎えている。
「兄様、私も来年は魔法学園に入学いたしますから、どのような学校なのか詳しく教えてくださいまし」
こちらはライアンのもう一人の妹である双子の片割れであり、名をエルレーヌという。彼女は自由過ぎる姉とは打って変わって慎ましやかで大人しい性格をしているが、その分重度のブラコンを患っているのだった。魔力こそ現状はそれほど多くはないものの、魔法に関する知識と術式を理解する柔軟な思考力は群を抜いており、このままいけば近い将来『魔法学園始まって以来の才媛』と呼ばれる日が到来するかもしれない。
「父上、僕が騎士学校に入学する件はどうか諦めてください。剣の技術を披露した時点で試験会場から追い返されるのが関の山です。その分魔法学園で名を成せるように努力いたします」
「まあ、ライアンはなんて母親孝行なんでしょうか。お父様の愚痴など今日からはどうでもいいのです! あなたはあなたの道をしっかりと歩むのですよ」
「そうだぜ! 兄貴はしっかりと魔法の腕を磨いてくれよ。私には魔法の才能がない分、剣で頑張るぜ! どっちが先に最強に辿り着くかの勝負だからな」
「兄様は私の一番の自慢ですから、最強の座は兄様に決まっています!」
ライアンが一言何かを述べると、父親を押し退けて女性三人が一斉に言葉を紡いでいく。彼女たちはライアンが晴れてこの日を迎えたのが嬉しくて仕方がないようであった。それだけ彼は家族から愛されていた。もちろん父親もライアンを息子として愛していたのだが、どうしても自分と同じように近衛騎士団に入隊するという夢を諦め切れないだけであった。
「母上、僕は母上の分まで自らの夢を追求してまいります。シャル、お前には剣の稽古で散々にやられたが、いずれは魔法と剣で対決する日が来るといいな。エル、お前のために魔法学園がどんな場所かこの眼でしっかりと見てくるぞ」
こうして入学式の朝の時間が過ぎていく。家族が食後の紅茶を飲みながら団欒する場には、家令のアーノルドが入ってきて丁寧な態度で一礼する。
「失礼したします。ライアン様、学園に出立する馬車の用意が整いました」
「ありがとう、それでは行ってまいります」
ライアンは当主である父親に一礼すると、学園から支給されたローブを羽織って部屋を出る。女性3人はその後に続いて彼が乗る馬車を見送りに外へと出て行く。残された父親だけが諦め切れない様子で溜息をつくのだった。
「後程入学式に顔を出しますよ。何しろ私の息子の晴れ舞台なんですからね」
「兄貴は確かに剣は下手クソだけど、魔法の技術は大したもんだからな」
「兄様、私も母上とご一緒して、兄様のお姿を拝見いたします」
「家族が来ると逆に緊張してしまうかもしれないなぁ。入学式が始まると話はできないだろうから、帰ってきたらどうだったか聞かせてほしいな」
女性3人は正装に身を包み、ライアンとは別の馬車に乗り込んでいく。母親とエルはドレス姿であるが、シャルだけは騎士の礼服姿をしている。そもそも彼女は物心付いた頃からドレスなど着用していなかった。歩く姿は背筋が伸びて歩幅が広く、ドレスをまとってお淑やかに歩くこと自体不可能なのだ。しかも剣を肌身離さず持ち歩くため、裾が大きく広がったドレスなど無用の長物であった。
御者が合図をすると、屋敷の玄関から馬車がゆっくりと出発する。長年子爵家に勤めている家令やメイドたちが静かに頭を下げる中、門を抜けて石畳が続く通りを2台の馬車は魔法学園に向かって進んでいくのだった。
ひとまずここでライアンが暮らしている世界の大まかな解説をしておこう。ライアンが生まれたローゼンタール子爵家はこの世界の唯一の大陸に存在しており、その一部を領有するマハティール王国に所属している。
その大陸の名をセーランドといい、その東部を治める大国であるマハティール王国は約千年に渡って波乱の歴史を刻みながら、現在に至るまで王家の血統を維持してきた。
肥沃な大陸を4分割するように東西南北に強大な4つの国家が覇を唱え、間に挟まれる小国は相次ぐ戦乱と滅亡の憂き目を繰り返す時代を経て、現在はようやく安定した統治が齎される時代を迎えている。ここ20年来大陸に於いては目立った戦乱もなく、人々は日々の生活を謳歌する平和が続き、辛うじて生きていくだけの時代から余暇や趣味を楽しむ余裕に満ちて安定した時代を過ごしている。
このマハティール王国は、千年前に伝説の龍勇王アンドリュース1世によって建国されて以来、自主独立と博愛の精神で周辺国と友好的に結びついて領土を拡張しながら現在に至っている。
東側に広がるバルニア海に面した王都ティラナを中心にして、四方に伸びる街道は地方都市を結んで盛んに行われる交易のルートとして長年整備された甲斐あって、行きかう商人の姿はひっきりなしの盛況である。このような豊かな国家であるマハティール王国の王都ティラナにある歴史の古い魔法学園が、この物語の舞台となっている。ざっとこのような説明をしたところで、話を元に戻すとしよう。
魔法学園は王都ティラナの北西に位置している。王都北側の大半は広大な面積を占める王宮となっており、その敷地の西隣に魔法学園が立地している。ちなみに王宮を挟んで反対の北東側には騎士学校が置かれているのだった。
新たな年を迎えた学園内には在校生に混ざって新品の制服に身を包んだ新入生の姿が目に入ってくる。この日は入学式とあって学園全体が華やいだ雰囲気に包まれた感がある。案内板やクラス分けが発表されている掲示板を見つめるのは大概新入生と相場は決まっており、ご多聞に漏れずにライアンも案内板の前に立っている。
「新入生は一旦教室に集合してから、入学式が行われる大ホールに向かうんだな」
これからバラ色に包まれた学園生活が始まると、期待に胸を膨らませている時期が確かにこの時までライアンにはあった。そう、この瞬間までは・・・・・・
掲示板から振り返って教室へと向かおうとしたライアンは、ちょうど彼の後ろに立っていた少女たちの存在に気が付かなくて、彼女たちを避けようとしてヨロけてしまう。
「おいおい、大丈夫か? チンポジが偏っているんじゃないのか?」
「殿下、これはチンポジの影響ではありませんよ。おそらくキン○マが振り子のように作用したものだと思われます」
(えっ! チンポジ? キ○タマ? この人たちは何を言っているんだ? いやいや、これは僕の聞き間違いに決まっているぞ)
同年代の少女たちの口から飛び出した言葉を、ライアンは自らの聞き違いで済まそうと考えた。だが、すぐにそれは間違いではないと証明される。
「そこのチンポジ少年! 何処かで会った記憶があるが、君は私を知っているか?」
「き、聞き間違いじゃなかったぁぁ!」
ライアンは同年代の仲間との交流が極端に少ない少年であった。大方の貴族の子弟は12歳前後で社交界にデビューする。だが根っからの武官である父親は華やかな社交パーティーの警護をすることはあっても、自らがそこに参加するケースは年に1,2回程度しかなかった。それもどうしても断れないパーティーにしぶしぶ参加して、早々に帰宅するという本当に義理程度の付き合いだった。したがって男女を問わずに出会いの機会が殆どなかったライアンは1歳年下の妹たちを除くと、年齢が近い若い貴族がどのような会話をするかなど、指の先程も知る由はなかった。
「何が聞き間違いなのだ? それよりもチンポジ君とは何処かで出会ったような気がするのだが?」
「殿下がこの方のお知り合いだとは初めて聞きましたわ。尻愛だなんて、いきなりア○ルを攻める高等技術ですね」
「なんでそこで言い直すんだ! 会話の方向がブラジルまでぶっ飛んでいるぞ!」
ちなみにこの世界にも『ブラジル』という地名がある。それは世界の果ての更にその先、誰も行ったことがない土地という意味で使用される。それにしても突然現れた少女二人はライアンを驚かせている。両者ともその外見はいかにも深窓の令嬢と言わんばかりなのだが、口をつくフレーズが残念過ぎる。思わずライアンが突っ込みを入れるのは仕方がないだろう。
「ふーむ、チンポジ君の名前を聞きたいな。まずその前に私から名乗ろう。私はリンディール=フォン=マハティール、この国の第7王女だ」
「えぇぇぇぇぇ! まさかの王女殿下キタァァァァァァ!」
ライアンの心臓が止まりそうになっている。目の前に突然現れて『チンポジ』を連呼しているのが、この国の国王の7番目の娘であるリンディールなのだから。
「そうでした! 私もウッカリしていました! こんな基本的なことを忘れていては貴族として失格です!」
(いや、違う意味ですでに失格だろうが!)
もう一人の少女に対してライアンの心の声が響く。その言動は彼の常識から有り得ないものだったが、果たしてその正体は何者なのか気に掛かってくる。こうして王女と仲良く会話をしているのだから、いずれにしても高い身分ではないかと考えるのが当然だろう。
「私はマリエメール=フォン=ルノリア、ルノリア公爵家の長女です」
「公爵家ご令嬢がキタァァァァァァ!」
子爵家の長男から見れば公爵家など王家同様に雲の上の存在である。ギリギリで課長を務めるレベルからすれば、重役も社長も雲の上の存在であるのと同様だ。再びライアンの心臓が不規則に脈打って、顔色があからさまに悪くなっている。だが、ここでしっかりと非礼を詫びておかないと、後々の家名に係わってくるから、彼は必死だ。
「王女殿下と公爵様ご令嬢には大変失礼いたしました。私はローゼンタール子爵家の長男でライアンと申します」
「やはり、ライアンであったか・・・・・・ 出会える日を心待ちにしておったぞ。子供の時分にそなたは一度だけ王宮に遊びに来たであろう!」
そういえばライアンにも心当たりはある。まだ7歳にもならない頃に、近衛を務める父親に連れられて一度だけ王宮に参内した記憶がある。確かその時に・・・・・・
「ライアン、かくれんぼしよう! 私が隠れるから、ライアンが見つけてね!」
「わかりました。殿下がどこに隠れようとすぐに見つけますよ!」
「それじゃあ、20数えたら探してよ!」
「はい、わかりました」
ライアンは目を閉じて数を数える。そして数え終わると何処かに隠れている王女を探し始める。だが勝手知ったる王女とは違って、ライアンは中々彼女を発見できなかった。何故なら宮中の裏庭には隠れていそうな場所がたくさんある。こんもりとした木の陰や、美しく咲き誇るバラ園など方々を探しながら20分ほど掛けてようやく探し当てた時は、王女は不安げな表情で涙目になっていた。
「ライアンが遅いから、もう来てくれないんじゃないかと心配だった・・・・・・」
「遅くなってすいませんでした。殿下が隠れている場所を中々見つけられませんでした」
「でもこうして見つけてくれたのが嬉しいの!」
「はい、殿下がいる場所は僕がいつでも見つけますから!」
こうして二人で手を取り合って、お付の者たちが待っている場所に戻っていった。ライアンの記憶に残っている子供の頃のちょっとした甘酸っぱい想い出だ。あの時の王女がこうして今目の前にいる。こうしてはっきりと思い出してみると、幼い頃の面影が今でも王女の表情に宿っている。もちろんあの頃より背丈も伸びて、ずいぶん大人になった王女であるのだが、キリッとしながらも優しい眼差しを向けてきた瞳は以前と少しも変わらなかった。
「あの時の王女殿下でしたか! ご立派になられてすぐにわかりませんでした」
「こうして出会えたのは嬉しいな。あれから再びライアンが訪ねてくるのをずっと待っていたのだ」
「すみませんでした。我が家は平凡な家柄なのでおいそれとは王宮に伺えませんでした」
実はこの裏にはライアンを気に入った王女の様子を危険視する他の貴族からの圧力があった。子爵家の者が他の有力貴族を差し置いて王女と仲良くするのはけしからんという無言の圧力によって、ライアンがそれ以降宮中に参内する機会はなかった。
「まあまあ、それは心温まるお話ですね。もしかして小さな頃の殿下はライアンが初恋だったんですか?」
「マリア、きゅ、急に何を言っているんだ! わた、わたし・・・・・・ タワシはあそこによく似ているぞ!」
「まあまあ、殿下ったらずいぶん動転していらっしゃる」
(王女殿下が動転して変な言葉を口走っているな。でもそうだな・・・・・・ 言われてみればあれが僕の初恋だったのかもしれないな。本当にまだ子供の頃の記憶だから、今思い出すとなんだか恥ずかしくなってくるな)
どうやらライアンと王女にとってはたった1日限りの出会いであっても掛け替えのないものだったようだ。公爵令嬢にからかわれた王女殿下は見る見る顔が真っ赤になっていく。
「あ、あれが初恋なんて、そ、そんな話がるはずないだろう! わ、私は何故あの時にお医者さんごっこに持ち込まなかったのかと後悔しているのだ!」
「美しい思い出が台無しだよ!」
こうして数年ぶりに色々な意味で衝撃の再会を果たしたライアンと王女であった。果たしてこの二人はこれから公爵令嬢や周囲のクラスメートとともにどのような学園生活を送るのか、この時点ではまだ誰も知る由はなかった。
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