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異世界転移のバツバツさん  作者: カボチャ
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王女の思惑

「さ、三百!? 王女殿下! これは我ら人族の威信を賭けた聖戦なのですぞ!? それをたったの兵三百しか出せぬとは何事ですかっ!!?」


「そうは申されましても、我が国も昨年は化け物の跳梁跋扈に苦しめられ、北方においては蛮族共の越境に端を発する争いを強いられました。無論、人族諸国家の一員として協力は惜しみませんが、私共のような小国にはこれが精一杯なものでして。」



 王城は内郭に設けられた一室の中、泡を飛ばして食って掛かる衆国外交官のその剣幕を、のらりくらりと躱してみせる。周囲に居並ぶのは兄上をはじめ、私が到着するまでの引き延ばしを頼んでいた文官諸君で、心なしかやつれたその姿からは、大国相手に強気に出続ける事を強いられたその気苦労が見て取れた。まぁやらせたのは私だけども。


 そんな中にあっても済ました顔で、ふてぶてしく茶を啜るのは先日に召し抱えたドーマウスの娘。当初はノマの奴を制する為のおまけ程度に考えていたが、今でして思えば良い買い物をしたものだ。なにせ我が国は人材不足とあって、優秀な人間を在野で遊ばせておくような余裕は無い。ぜひ相方の赤毛共々に、良き武官文官に育ってほしいものである。二人とも男に媚びへつらわないあたり気も合うし。



 それにしても衆国の連中め、ただ己の利権を守りたいだけだというに、言うに事欠いて聖戦とは笑わせる。私達とてこの冬の間、ただ無為に時を過ごしていたというわけでは無いのだ。少ないながらも各地に放っていた密偵に加え、今は一度叩き潰して無理やりに吸収してやった裏社会の情報網もある。自分達に都合の良い情報ばかり寄越しおって、こちらが事態の推移を把握出来ていないとでも思ったか。



「殿下は事の次第を甘く見積もっておられる! 今この時も悪辣なる蛮族共は先祖伝来の土地を奪い、罪無き多くの民を戦禍の苦しみに晒しているのです! この様な凶事の中にあってこそ、団結の意思を見せるべきだとは思いませぬか!?」


「我ら為政者にとって、領土を失うは身を引き裂かれるにも等しいもの。心中お察しを致します。それにしても獣人国の瓦解に乗じ、ようやくにかねてからの領土問題が解決を見たというに、災難な事でございましたね。まして憎き蛮族共から侵攻を受けている件の土地は、流出した彼の国の民の協力のもと、大規模な砂糖生産を行っておられるのだとか?」


「……よく、ご存知であらせられますね。」


「それほどでも。此度の難事、我ら王国の民としても改めて、お見舞いを申し上げさせて頂きます。」



 相手が言の葉に乗せた迂闊に口角を上げ、ここぞとばかりに畳みかけて主導権の奪い合いに一手を指す。なーにが先祖伝来だ。団結の意思などと曖昧な美辞麗句を並べ立ておって、それで少しでもこちらから兵を出させようという魂胆は目に見えておるわ。


 そもそも連中が侵攻を受けていると主張する南端の地は、元々獣人国とその領有権を巡る対立の続いていた係争地であったのだ。それを例の大干ばつによって彼の国の統治能力が実質的に崩壊したと見るや、兵を送り込んで堂々と掠め取ったに過ぎないのである。よってそうである以上は件の地を、衆国が今後も統治し続けるという正当性は皆無に等しい。


 つまるところ私が兄上と共に画策し、父上の支持を取り付けたこの一計の妙はそこにある。南方蛮族との争いによって衆国の軍備に打撃を与え、その一方で我々は援軍として一翼を担いつつも、ノマという手札を活かす事によって損耗を抑えるのだ。そして首尾よく蛮族共を退けたその暁には、衆国単独による南端の再統治は正当性を欠くものであるとして、難癖をつけて切り込んでいくのである。


 事そこに至り、国力の落ちた衆国が王国侮りがたしと見て、交渉の席に着いてくれたのならばしめたもの。なにせ彼の地は莫大な富を生み出す甘い砂の一大産地とあって、僅かにでも譲歩を引き出せたのならば万々歳だ。それによって我が国は砂糖の安定供給を得ると共に、輸入超過で流出し続ける一方の金銀に歯止めをかける事が出来るというわけである。いやぁ実に美味い話だ。砂糖だけに。



 そんな諸々の裏事情を知っているんだぞとチラつかせつつ、内心で算盤をはじきながらほくそ笑む。少し前ならばこの国力差で駆け引きを仕掛けるなどという自殺行為、一考に値するものですら無かったろうが、いま私の手の内には化け物すら抗する事の出来ぬ切り札があるのだ。くくく、気分が良い。まったく以って、ノマ様様と言ったところだろうか。


 この我が国の態度の変化、衆国の側からすれば計算違いも良いところのはず。なにせ本来であれば、吹けば簡単に飛ばされてしまうような関係性である。連中にとってみれば、脅しつければ屈辱に震えながらも要求を呑むであろうと、そう楽観視をしていたであろうことは想像に難くない。さぁて、その事にすっかりと困惑して勢いを失っておられる外交官殿は、次の一手をどう指してくるか。



「失礼。衆国軍務局のクラキリンであります。外務次官殿、発言の許可を頂いても?」


「む……ク、クラキリン女史か。発言を許可する。ま、任せたよ。」



 おそらくはまだ食い下がってくるであろうという予想に反し、早々に引っ込んでしまった外交官殿と入れ替わる形で立ち上がったのは妙齢の女性。切れ長の瞳が如何にも出来る女を思わせる美人であり、その居丈高な佇まいからは、何となく私やキルエリッヒに近しいものを感じさせる。一言で言ってしまえば厄介そうな女だ。



「ドロシア殿下、南方蛮族の侵攻に手を焼いているとはいえ、我ら衆国は周辺各国に比して、依然として大国の地位を保っております。この戦が終わった後の事を考えれば、貴国もここで身を切ってでも、協力的な姿勢を見せておくのが最善と愚考致しますが?」


「遥かひんがしの地には、無い袖は振れぬという言葉があるそうです。現在は小康を保っているとはいえ、我が国にとって北方の蛮族共への備えは欠かすべからざるもの。どうか先ほどに申し上げた兵三百の派兵にて、ご理解を頂けはしないでしょうか。」


「貴方がたのその判断の誤りによって、北方のみならず東方に対しても備えを持たなければならないようになると、私はそう申し上げているのですよ。三百年の歴史あるこの王都が戦火の中に飲まれて消えるなどと、そのような悲劇は互いに望むところでは無いはずです。」



 あまりにも直接的なその物言いに、呆気に取られて言葉を失う。私以上に強硬な姿勢を見せるクラキリンなる女の横で、外交官殿が攻め過ぎだ馬鹿と言わんばかり、必死の形相でピシガシグッグ! と送る謎の手信号にもガン無視なあたり、両者の関係性は言わずもがな。ううむ、戦時下とあって軍部の発言力が増しているのだろうか、厄介な。


 自らの手の上から外れつつある展開に内心冷や汗を流しつつも、隣に座らせたノマの奴へと腕を伸ばし、その小さな手のひらをギュウと握る。いや落ち着け、こちらにこの娘がついている以上負けはないのだ。むしろその場合、問題となるのは勝ちすぎて衆国の体制を崩壊させてしまう事であって、それを回避する為の落とし所を考えねばならないくらいなのである。だから大丈夫だ。私は間違っていない。



「クラキリン殿。無論我が国とて、何の策も無しに貴重な兵を死地に送るつもりはありません。私の隣に控えておりますこの娘、彼女は万の兵にも勝る我が国最高の術者であり、その五色の神に愛されているとしか思えぬ類まれな才が故、国王陛下より正式に聖人の称号を与えられております。ノマ、皆様にご挨拶を。」


「え? あ! はい! わ、私はノマと申しまして、ただいまご紹介に預かりましたとおり、僭越ながら王国の聖女をやらせて頂いております。ええと、どうか今後とも、お見知りおきを?」


「如何に幼いとはいえこれまで全くの無名であった者が、この機に都合良く頭角を現した……と? ふむ。失礼ですが、私にはただの見目の良い子供にしか見えませんね。」


「本当にそうであったとしたならば、我らは一度は聖人として祭り上げた娘をその場凌ぎの為に無駄死にさせて、陛下の名に泥を塗る愚者となってしまいます。我が国が人族の一員として貴国を尊重しているからこそ、これまで秘匿していた切り札である、この娘を同行させようというのですよ。」


「……彼女が優れた術者であるという話が偽りならば、そもそも我が国と南方の蛮族共、どちらが勝ったところで貴国の不利にしかならない消極的な提案をするはずも無し。と、いう事ですか。わかりました。事実として天上に神々がおわす以上、その奇跡を体現する者に対し、あまり空手で疑ってかかるというわけにも参りません。その旨、私から上層部へと報告を上げさせて頂きましょう。」



 思いのほかあっさりと態度を軟化させた女の弁に、心の内でそっと胸を撫でおろす。このまま大人しく帰ってくれたのであれば、とりあえず第一関門は突破というところであろうか。


 ところがそう安心できたのも束の間の事。外交官殿と二言三言を交わしていた切れ長瞳のその女が、ぐりんとその頭をこちらへ向けて、じっと品定めを始めたのは我が隣に座るちんちくりん。ええいくそ、鬱陶しい。こいつめ、まだ何か難癖をつけてくれようってか。



「ノマ殿。先の貴国を脅かすかの如き私の発言、どうかお許しを頂きたく存じます。ドロシア殿下が自国を最優先しておられるように、私もまた何よりも故国を優先しなければならない身。戦火の只中にある南部の民を思うが故に、つい心無い事を申し上げてしまいました。」


「あ、別にその、私はそんなに気にしておりませんので……。それに謝罪をして頂くならば、ドロシア殿下をはじめとした王国の代表の方々に……。」


「貴方様も幼いながら、聖人の称号を頂かれる程のお方です。どうか異国の民たるこの私共も、その慈悲の心に縋らさせては貰えないでしょうか。なにせただでさえ我が国南端に居住する元獣人国の者達は、普段から農園において過酷な労働を課せられていた、痛ましき流浪の民であるのですから。」


「……お砂糖を作る為の農園、ですか。確かに炎天下での重労働である為に、働き手への負担は相当なものであると、物の本で目にした事があります。そこへきてさらに異種族の侵略者が、とくれば、まさに泣きっ面に蜂というものですね。」


「その通りでございます。ノマ殿、彼らが不憫であるとは思いませんか、可哀想であるとは思いませんか。貴方様が万の軍勢にも匹敵する力を持っておられるというのであれば、此度の戦にて積極的にその御力を振るって頂く事で、彼ら獣人の民をはじめとした多くの民草をお救いになる事が出来るのです。勿論その暁にはこの私も、微力ながら彼らの待遇改善の為に働きかけをする事をお約束しましょう。」



 まずい。この女、ノマがこちらの切り札でありながら見た目幼い童女であると見るや、情に訴えた懐柔策に出てきおったか。奴からすれば我が国が急に強気で交渉に臨むようになった、その拠り所がコイツであろう事は察しのつく話である。


 今しがたこちらに振られた話へ露骨に言葉を被せてきたあたり、話術を以って操るべきはこのお子様であって、私達の相手は二の次で良いと断じられたのであろう事は明らかだ。おのれぃ、この私を軽んじおって。おいポンコツ娘、お前も考え込むような仕草を見せるんじゃあない。奴の言葉に耳を貸すな、ド阿呆が。



 おそらく奴の狙いはノマに対し、自国の王族を差し置いて自分こそが重要視されているのだと思わせる事によって歓心を買い、離間を図ろうとしているといったところだろうか。だがまぁそこは良い。コイツは色々と抜けてはいるが、見た目通りの子供というわけでも無いのだ。少し煽てられたからといって、ホイホイと簡単についていくような玉でも無いだろう。


 じゃあ何がまずいのかって、この銀髪娘があまりにもお人好し過ぎる事である。弱肉強食は世の常であるというに、コイツが前世を暮らしたニホンという国は余程に平和ボケをしていたらしい。なにせ何か事あるごとに、私には強い力があるのだから何か御力になれる事はありませんかと、自ら付け入る隙を晒してくれるぐらいなのだ。


 まぁそれはそれでこき使える分こちらにとっては好都合であったのだが、今この状況においては大変に宜しくない。ただでさえこの機に乗じて衆国に打撃を与えるという私の策に、歯切れの悪い返事を返していたノマである。それが戦火に晒される民の苦しみを直接に訴えられたとなれば、さっさと一人で事態の解決に動いてしまうという事も考えられた。


 そして一たびそうなってしまったのならば、私達にこのポンコツを止める手立ては無い。衆国は今後も十分な国力を残したままに、ただ両国の関係を悪化させただけでこの一件は終わりを迎えてしまうだろう。それだけはなんとしても避けたいところである。



 くそぅ。砂糖農園における過酷な労働といった、ノマの同情心を買うような情報を出し渋っていた事が裏目に出た。最悪は王国がその搾取を黙認し、便乗して甘い汁を啜ろうとしていた狙いを感づかれる事によって、あ奴の私達に対する幻滅を招く可能性すら考えられる。ううむ、この状況をどう切り返してやったものか。



「ええと、クラキリンさん。そちらの窮状はお察し致しました。ですが私はこの場において、物事を判断する権限を持ってはおりません。私では責任を持てぬ迂闊な返答をしてしまうやもしれませんので、やはりこの場の代表たる王族の方々と、引き続き交渉の席を持っていただければと思います。」


「ノマ殿、貴方はご自身の価値を、少々低く見積もり過ぎておられる様子。なにせ一国がその命運を賭ける程であるのです、さぞや素晴らしい力をお持ちになっておられるのでしょうね。その力、もっと正当に評価をして貰える環境に興味はございませんか?」



 ついに飛び出した勧誘の言葉を前に、思わず手元にあった長い銀髪をむぎゅりと握ってぐいと引っ張る。それに驚いたのか、ピッ! と素っ頓狂な鳴き声をあげたノマにその場の注目が集まって、それから少しばかり赤面をした彼女はこほんと咳払いをしつつ、再びに口を開いてみせた。



「あー。えーとですね、失礼な物言いであるかとは思いますが、確かに争いの焦点となっている南端の地は、様々な利害得失の絡み合った要衝であるのだと存じます。ですが捕らぬ狸のなんとやら。未だ南方の蛮族を退けた訳でも無いというに、既に事が終わったつもりになって、パイの切り分けで揉めるような真似は慎むべきでは無いでしょうか。」


「ふふふ。これはなんとも、幼くして実に聡明でいらっしゃる。ですがだからこそ、本当はおわかりになられているのではありませんか? 貴方のか弱き者を思う慈しみの心が無下にされ、その心身を操る者の手によって、その力をいいように使われているに過ぎないという事に。」



 公的な場であるというに、流石にあまりにも言葉が過ぎる。そう食って掛かろうと開きかけた口は、ノマの小さな手によってぺちんと塞がれた事によってもごりと閉じた。任せておけという事だろうか。正直に言っていま私が一番怖いのは、蛮族でも衆国でも目の前に居るこの女でも無く、お前の心変わりなんだけれども。


 おい、信じていいんだなノマ。信じるぞコラ。もう私達は全額ありったけをお前に賭けているのだ、この期に及んで裏切りなどと許さんぞ。だから本当にお願いしますこのままこっちの側で居てくださいなんでもしますから。



「そうですねぇ。何事も言い様次第ではあるのでしょうが、実際のところ私が王女殿下に都合良く利用されている事などは百も承知です。ですが私は、私がそうして他人様に利用したいと思って頂けるだけの価値ある存在である事を、それなりに誇りに思ってもおります。」


「随分とまあお人の良い。貴方が周囲に対して向けているだけのその好意を、同じ様に周囲の者が返してくれるとは限らないでしょうに。今回の一件に関しても同様です。ノマ殿に命を下した者達は貴方の理想を汲む振りをして、その実ただ己の利益のみを追求しようとしているのかもしれませんよ?」


「今まさに困窮している方々がいらっしゃるというのであれば、それを助けて差し上げたいと思う事を否定はしません。ですが往々にして、世はそのような同情心だけで回るものでは無い事を私は存じております。それに私に対して好意を持って頂きたいとは思っておりますが、己の個人的な主義主張にまで、それを向けて頂きたいとは思っておりませんので。それと、最後に一つ。」


「……何でしょうか?」


「貴方が自身で口にされたように、王女殿下がその立場上、自国を優先されるのは当然の話です。だというにまるで私がそれに不満を覚えているかのような口振りで、心の内の代弁を気取るのは辞めてください。端的に言って不愉快です。」



 珍しく、はっきりと不快感を露わにしたノマの言葉。それを受けた衆国女は口を噤むとその切れ長の瞳を細く歪め、小さく笑みを作って見せる。これを以って、奴の仕掛けた引き抜きの交渉は決裂したと見て良いだろう。ノマの奴も私の信頼に応えてくれた事であるし、まずは一安心といったところだろうか。


 だがその代償として、ノマが王国戦力の中核でありながら御し難い存在であると、このクラキリンという女に危険視される存在となったであろう事は間違いない。このまま大人しく引き下がってくれるのであれば問題無いが、今回の戦に乗じて何か仕掛けてくる可能性も十二分に考えられた。


 とはいえまあ、この際それ自体は問題無いのだ。なんせこのチンチクリンが、二回や三回殺された程度でどうにかなるとは思えない。問題はそれに巻き込まれた私達が危険に晒される事によって、反撃を開始したノマにより現場に大混乱が引き起こされかねないという点である。一応はそれも危険性の一端として織り込み済ではあったのだが、いざ導火線に火がついてみれば物凄く不安極まりない。



 不安のあまりそわそわと視線を彷徨わせてみれば、視界の端に映るのはどうにか穏便に治めてくれと、シュビシュバシュビビ! と必死の形相で手信号を送る兄上の姿。それを見た私は瞳を細め、わざわざ言われずとも思いつくならやっておるわと八つ当たり気味に、その嘆願をぷいっとガン無視してみせたのであった。






 結局、そのままクラキリン女史が発言を引っ込めた事で、王国からの派兵は兵三百名という形で合意に至った。請われて援軍を寄越してやるというに合意を求められるのも不愉快だが、曲がりなりにも他国の領内に武装した集団を通過させるのだから、この手間暇もやむを得ないというものだろう。政治はめんどくさいのだ。


 厄介な衆国女は早々に帰路につき、残された外交官達は兄上達となんだかちょっと親しくなった風に談笑しつつ、揃って胃薬を貰いに席を立つ。そんなガランと静かになった部屋の中で、頬杖をついたキルエリッヒの奴に見守られつつ、私はずっと握り締めたままであった銀の髪をくいくいと軽く引っ張ってみた。


 この際聞いておきたかったのである。自国の利益だけを追求し、他を蔑ろにする私達を、お前は本当は不快に思っているのでは無いのかと。それを告げた私に対し、彼女はその紅い瞳をパチクリと瞬かせながら首を傾げ、それからこう口にしたのだ。



 誰もが幸せになれる玉虫色の未来なんて存在しないのだから、与えられた最悪の中で少しでも良いものを選び取っていきましょう、と。






ノマの武力行使による戦術的勝利が、イコール事態の解決や好転とならないようなお話を考えていたのですが、なんか早くもゴッチャゴチャになってきました。


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― 新着の感想 ―
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