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異世界転移のバツバツさん  作者: カボチャ
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征服欲

「おーい、ノマ、大丈夫か? おいってば。」


「き、貴様! ノマ様に対し不敬であろうが!? やめろ! こらっ!」



 べっちんべっちんともちもちほっぺをひっぱたかれるその衝撃に、ぱちり目を見開いて真上を睨む。そこにあったのはようやく起きたと言わんばかりの赤毛の顔で、隣では肉色の触手を蠢かせる我が娘が彼女に向かって掴みかかり、ぎゃいのぎゃいのと吠えたてていた。寝覚め最悪である。


 はて、どの程度眠り込んでいたのだろうか。明かり取りに設けられた小さな天窓へと視線を向ければ、外では冬の温い太陽が未ださんさんと輝いており、それは私が寝所に潜り込んでからさしたる時間も経っていない事を伺わせる。悪夢は去った。そして私は今再びに、永遠の悪夢の中へと帰ってきたのだ。忌々しい。



「……ゼリグ、フルート。私は今しばらくの間、一人にさせて欲しいとお願いをしていたはずですが?」


「い、いえ! その! ノマ様がうなされておられた故、私もこの無作法な女の侵入を許してしまったものでしてっ! ほら、もう用は済んだろう!? 戻るぞ! おい!」


「んだよ、機嫌わりぃな。悪いがその、一人にさせて欲しいってのはいい加減にお断りだね。いつまでも引き籠ってウジウジとされてたんじゃあ、こっちの気が滅入っちまう。」



 人の頬を思うさま張っておきながら、悪びれもせずにそう言ってのける赤毛をねめつけてぶっきらぼうに、別にウジウジなんてしていませんと言って返す。ひりりと痛む両の頬へと手を添えてみれば、そこに感じられたのは幾筋もの涙の跡。やれやれ、これではまるでべそをかいて不貞腐れた、子供の如き有様では無いか。なんともまあ、みっともない。


 それでも寝起きで単純化した思考に流されるままに、再び寝具を被ってコロンと一つ寝返りをうつも、今度は首根っこを引っ掴まれて無理やりに居住まいを正させられる。流石に事ここにきて、これ以上に見苦しい真似を晒すというのも気が引けたもので、観念した私は好きにすれば宜しいと一言告げてその手を払い、寝台の上で半身を起こしたままに背を丸めた。


 不機嫌を隠そうともしない私に向かい、二度三度と赤毛の脇を小突いたうえで、深々と頭を下げて退出していくのはフルート吹き。それに対してやはりと言うべきか、残った赤毛はじゃあお言葉に甘えてと言わんばかりに寝台の端に腰掛けると、無遠慮に伸ばしたその手で以って私の髪をくしけずる。どう反応して見せれば良いのだろうか、これ。なんていうか、その、なんだ。困る。



「さぁて、あのフルート吹きの前じゃあお前も弱い所を見せづらいだろう? 何にそんなに気を滅入らせちまってるのか、このアタシに話してみなって。」


「……貴方に対してであれば、私もしおらしい姿を見せるであろうというその自信。いったいどこから来たのでしょうかね。いえそもそもにして、私に前世の記憶があるという事は既にお話をさせて貰ったはず。このような子ども扱いは困ります。」


「別に子ども扱いなんてしてないさ。内に抱えて塞ぎ込んじまうような悩みの種はさ、誰かに話して楽になっちまうのが一番だって、古今東西でそう決まっているもんなのよ。それとも何か? まさか下に見ているアタシ相手に弱みなんて見せたくないと、そう言って返すつもりじゃあねぇだろうな?」



 内心で思っていたそれに図星を指され、思わず言葉に詰まって顔を背ける。ところがお相手もその反応は心得たもので、逃げるほっぺたをわっしと両手で挟み込まれた私は引き寄せられて、ごちんと軽く頭突きをされた。顔が近い。



「……まったく、仕方がありませんね。出来れば自らの内で飲み下したいところではあったのですが、若い貴方にそう気を遣わせてしまうというのも年寄りの名折れです。私の恥、どうか聞いて頂けますでしょうか。」


「アタシを下に見ているってのは否定しなかったな、こんにゃろうが。おう、聞いてやる聞いてやる。聞いてやるから、後で覚えてろよな。」



 口ではそう言いつつも口角を上げる彼女に対し、私も薄い愛想笑いで以ってくひひと返す。続けて顔に受けていた拘束からも解放されはしたものの、それでも彼女の目を見て話すにはやはり忍びないとあって、徐々に徐々に視線を落とし……。


 そして乳房に目を合わせる格好になってしまった事でギクリと固まり、これは失礼をしたと言わんばかり、再びに顔を背ける事でお茶を濁した。いやぁ締まらないね、どうも。さぁて正直なところ、私自身ですら整理のついていないこの心の内を、いったいどこから話したものやら。



「そうですねえ……。語らせて頂くのならば、私が前世を生きたのは地球という世界のですね、日本という国であったのですが、これがまた平和なものであったのですよ。少なくとも真っ当に暮らしていく分には斬った張ったの刃傷沙汰とは無縁でしたし、まして殺し殺されなどともってのほかです。」


「へぇ、そいつはまたなんとも、羨ましいこって。アタシなんてガキの頃からずっと生傷が絶えなかったし、死にかけた事だって一度や二度じゃあ効かねえってのにさ。」


「ははは、あと五百年も歩みを進めることが出来たのならば、きっとこの国もそうなりますよ。それでまあ、そんな太平の世の下で長年を過ごしたものですから、己の為に誰かを傷つけるだなんてとてもとても、私には慣れぬ行いであったのです。心苦しくて堪らないのですよ、人様に迷惑をおかけするだなんてのはね。」


「そうやって謙虚に言ってのけるその割にはさ、いつもさんざっぱらに調子に乗って、好き勝手暴れているようにしか見えなかったけどなあ。なあ、お前も自分でそうは思わねえか? バケモンの吸血鬼様よ。」


「……まあ、急に転がり込んだ大きな力に、のぼせあがっていた事は否定しません。とはいえ私なりに力を振るう対象は弁えていましたし、利害関係の不一致からやむを得ず敵対した場合であっても、やり過ぎぬようにはしていたつもりです。暴力を振るうのならばそれ相応に、納得のできる理由が欲しい。それが、私の線引きでした。線引きであったのです。」



 歯切れも悪く言葉尻をすぼめつつ、両の手を組んで蜘蛛脚の如くに揺らめかせながら、その蠢く指先へじぃと目をやる。青の神はこう告げた。安寧に浸ることは許されず、常に世は激動の荒波であり続けなければならないのだと。以前にこの地が滅びてしまったその経緯から察するに、求められているものはおそらく戦火。血沸き肉躍る、狂喜と狂気の産物だ。見世物としては恰好だろう。


 問題はその見世物を演じるにあたり、私が納得して力を振るうに足るだけの『悪』が存在しない事である。いまのところ。善悪は所詮、それを観測している者の価値観に過ぎないのだ。で、あるからには本来において悪などというものは世におらず、私が悪というレッテルを張りつける事によって、それは私にとっての『悪』となるのである。


 故に、割り切りづらい。誰だって生きている限り、各々に事情を抱えているのは当然の事。だからこそかつてにおいて、私が思うさまに暴力を振るった相手はあの、白蛙の化け物くらいなものである。奴とは対話が出来なかった。奴が何を思い、何を目的としてあのような暴虐を働いていたのかを、私は最後まで解する事が出来なかったのだ。だから殺せた。共感を覚えることが無かったから。



「……ねぇ、ゼリグ。これからの私はきっと、私個人が憎いと思っているわけでも無い人をこの手にかけて、時に殺してしまう事もあるのでしょうね。なんというか、その……私はそれに、踏ん切りと言うものがつかないのです。叶うのならば、誰かに誇れもしないそんな無様、犯したくはありません。」


「お姫さんの手先になって、尖兵としてあっちこっちに戦争吹っ掛けるってぇあの話か。だったら今からでもやっぱり気が変わりましたっつって、一言断りに行けばいいじゃねえか。どうせアタシ達に、お前を力づくで動かすような真似は出来やしないんだ。やりたくないものを無理に引き受けるこたぁねーよ。」


「……そうもいかないのです。貴方だって、あの地下室でのやり取りは聞いていたでしょう? やらねばならぬのです。やらねば誰も彼も、みなが死んでしまうのです。そしてその時、私はこの世界に取り残されてたった一人。そんな辛苦には耐えられません。だから、やってみせるのだと決めました。」



 邪知暴虐にならねばならぬ。しかしその一方で、そのような品の無い者にはなりたくない。既に己の中で結論を出したその葛藤を、何時までもこのように蒸し返し続けるのは無意味そのもの。それを承知はしているものの、それでもこうして悩んでしまうのだ。そうして悩み続けているその限り、私は未だ善良な人間であるのだと、自分に言い聞かせる事が出来るのだから。


 いやはや、我ながら実にめんどくさい奴である。しかし悩みを話してみろと言ってくれたのはゼリグの方で、ならばそのお言葉に甘えて今日は思うさま、めんどくさい奴で居させてもらおう。そんな事を考えつつも、伸びてきた彼女の腕にされるがままに、頭をわしゃわしゃと撫でられて目を閉じる。わっぷ。



「なんつーかなあ、お前は本当に平和ボケっていうか、育ちの良いお嬢ちゃんだなってつくづく思うよ。アタシにとって一番大事なのは自分の命で、次に大事なのは今日食べる自分の飯だ。その次に来るのが母さんと、まあ一応、親父とキティーの奴も入れといてやるかな。でも、そんなもんで手一杯さ。赤の他人がどうなろうと、気にしてられるような余裕は無いね。」


「私としても、こうして力を得て余裕を持つ事が出来たからこその、贅沢な悩みであるとは思っております。以前の自分のままであったならば、ただ己が生き延びる事に手いっぱいで、他人を顧みるような真似など出来なかったでしょうから。ところでその、貴方のいう大事なものに、私は入っていないのですかね?」


「なーに言ってやがる。おまえ殺してやったって死なねえじゃねえか。どこに一人で放り込んだって、平気な顔して戻って来やがる癖をしてよ。」


「ああ。先の大事とは、すなわち心配の度合いなわけですね。なるほどなるほど。しかし何と言いますか、もうちょっとくらいは気に掛けて頂いたって、バチは当たらないと思うのですが。」


「っち、話すだけ話して楽になったからって、好き勝手お気楽なこと言いやがって。そうだなあ、気に掛ける事っつうか、気に掛かる事なら丁度持ち合わせが一つあるぜ。ほれ。」



 私の眼前でおもむろに唇の端へと指を引っかけ、ぐにぃと引っ張ってみせる赤毛の彼女。突然のその奇行にぎょっとして目を剥いたものの、しかし並びの良い歯列の中で不自然に伸びた長い牙を見つけるにつけ、小さく息を吸い込んで押し黙る。なんと、言って返したら良いのだろうか。言葉も無い。



「……そういえば先日に、話したい事があると言っていましたね。その、牙の事でしょうか?」


「まぁな。なーんか最近になって妙に口の中がチクチクしやがると思ってたら、知らねーうちに生えてやがった。ほら、あのはぐれの化け物とやり合った際にアタシがヘマをやって死にかけて、そんでお前に助けて貰った事があったじゃねえか。多分あの時にアタシの血は根こそぎお前に飲み尽くされて、置き換わっちまったってとこなんだろうな。そんでまぁ、気が付いたらこの有様よ。」


「……そう、ですか。申し訳ありません。私はきっと、貴方の人生を滅茶苦茶なものに変えてしまったのでしょうね。牙以外で、何か身体におかしなところはありませんか? 例えばその、日光が苦痛だとか、流れ水を渡る事に拒否感があるだとか。」


「いや、特にそういうような自覚は無いな。強いていうならまあ、なんか異様に死にづらくなった事くらいか。こないだの北方での戦いでも、これがなかったら多分死んでた。あー、待て待て。別にお前を責めようってわけじゃねーんだ。なんせこちとら、二回も命を助けられてるわけだしな。だからそんな、泣きそうな顔してんじゃねえよ。」



 ……別に、泣きそうになどなっていない。ただちょっと、真っ青になっていただけである。いや、あのとき彼女の生き血を一切の加減無く吸い上げた事は、やむを得ない措置であった。とはいえそれが軽率な行動であった事に変わりは無く、もっと言ってしまえばそもそもにして、私が調子に乗って吸血鬼などという怪物にならなければ済んでいた話であったのだ。


 私はこうして生まれ変わるにあたり、選択肢を持っていたのである。怪物の身では無くもっと人知を超えた超人になるを願っていたのならば、彼女の人生を損なうような事も無かったはず。流石にたらればの過ぎる話であるが、しかしいざ事の起きてしまった今となっては、そう考えずにはいられなかった。


 脳裏を駆け巡るものは後悔と謝罪の言葉、そして歓喜。目の前の彼女が既に、人外へ片足を突っ込んでしまっている事は間違いない。で、あるならばこの先において私が過ごすであろう長い生を、彼女が共に歩んでくれるであろう事は期待の出来る話である。


 いや彼女だけでは無い。私は己が望むのであれば、彼女のような存在を選別して生まれ変わらせる事によって、自らを孤独の恐怖から解放してくれる友を作り出していく事が出来るのである。例え世界の滅びを免れたとしても、いずれ私を知る人達は死んでいくのだ。それを回避する手段に思い至ったという喜びに打ち震え、そして吐き気を催すほどの自己嫌悪に苛まされる。何様のつもりか、私は。



「……いっそ責め立てて、それで罵ってくれた方がまだしも気持ちが楽でしたね。しかしそのようなつもりが無いのであれば何故に今、私にそれを明かしたのですか?」


「別に文句をつけるつもりでなけりゃあ、話しちゃあいけないって事も無いだろう? アタシはお前の中の、取り留めも無い悩みの言葉を聞いてやった。だから今度はこっちの番さ。だがまあ責めて欲しいっていうのであれば、一つアタシのお願いを聞いて貰っちゃあくれねえか?」


「……私に応えられる事でしたら、なんなりと。」


「喉がな、渇くんだよ。さっきから渇いて渇いて、我慢するのが辛いんだ。」



 言うが早いが、寝台の上に押し倒された私の首筋を、彼女の熱い舌が這い回る。驚いて抵抗しようとした私の両腕は掴み取られてねじ伏せられ、脚の間に片膝を入れられた事によって小さく股ぐらを開かせられた。


 そのまましばし、くすぐるように蠢いていた彼女の舌は、やがて頸動脈を探り当てると肉との境目をほじくるようにその先端を突き入れて、薄暗い部屋の中に小さな水音を響かせる。まったくもって、淫猥である事。そしてなんともこそばゆい。



「……ゼリグ、私は真面目な話をしていたはずなのですがね。これはいったい、何事でしょうか。」


「ノマよぅ、さっき私の人生を滅茶苦茶なものに変えちまったって言ってたけどさ、アタシの生き方なんてお前に出会ったあの時から、とっくにおかしくなっちまってるよ。それでもアタシが愚痴を言ってお前を罵ることをしなかったのは、命を助けられたってぇその恩と、こういう役得があるからさ。」


「これを役得とはまた、下世話な物言いをしてくれるものです。この身を痛めつける事はそんなにも貴方にとって、愉悦に満ちた一時であるのでしょうかね?」



 抑えつけられた両腕から力を抜いたことを悟られたか、彼女の右手が離れて肩を伝い、そっと私の喉に押し当てられる。そしてそのままに万力のような力を籠めて、思い切り押し込まれた親指はしかしなんら痛苦を与える事も無く、私が一つ咳をした事を合図としてふにゃりと緩んだ。



「……楽しいっていうかなあ。ん~、なんて言ったら良いんだかな、これ。なあノマ、アタシが本気で恨んでいたとして、こうやってお前を殺そうとしてみたところでさ、それを成し遂げられるだなんてお前は思うか?」


「……いいえ、全然。これっぽっちも。」


「クッククク、そうだろうよそうだろうよ。じゃあそんなお強い吸血鬼様に、もういっこ質問だ。お前はやろうと思えば簡単にアタシを殺せる癖に、いつだってこうも簡単にねじ伏せられて、碌にやり返そうともしてこない。それが何でなのか、一つアタシに教えてくれよ。」


「別に、本気で抵抗するような必要を感じなかったからです。なにせ私は貴方よりも、ずっとずっと強いのですから。それにまあ、大抵は大なり小なり私のやらかしあっての事でしたから、貴方やキティーに対する引け目というものもありました。」



 天井を見上げたままによどみなく答える私の目を、顔をもたげた彼女の瞳が覗き込む。赤茶けた色合いであったはずのその瞳はいまや鮮血の如き紅によって彩られ、煌々と光を発しながらも、ぎしりと歪んだ笑みを形作っていた。


 それを醜いとは思わない。彼女を歪めたのは私なのだ、だからきっと、受け止めてあげるべきなのだろう。なによりもそんな彼女が私を許し、求めてくれたことが嬉しくて、そして悲しい。



「そうだろうなあ。荒事に関しちゃあきっと、お前の右に出るものなんて居ないんだろうよ。そんなお前に特別扱いをして貰って、こうやってその身を思うさまに嬲って蹂躙出来るってのがさ……。」


「……なんでしょうか?」


「堪らなく、興奮する。」



 その言葉を最後にして、私の首筋にずぶりと彼女の牙が突き立った。ゴクリゴクリと断続的に鳴る嚥下の音が、妙に艶やかな響きを持って私の耳へと入りこむ。ああ、爛れているなあ。私と彼女のこの関係は、果たしていったい何と呼べば良いのだろうか。


 少なくともまあ、色恋沙汰のそれでは無いことは確かである。私は確かに彼女を好いてはいるが、それが情愛の感情故のものであるのかと問われてみれば、首を傾げざるを得ないのだから。強いて一つ当てはめてみるのであれば、共依存が一番近いか。うぅむ、やはり爛れている。いつか諸共に腐り落ちそうだ。



 そんな益体も無いことを考えつつも、寝具の端を握り締めてはスルリと手のひらから滑り落とし、スルリスルリと指ざわりの良いその行為を何度となく繰り返す。まあ、いいか。今はこれでいい。どうせいくら思い悩んでみたところで、建設的な閃きなどなんら浮かびはしないのだから。


 疲れた。もう考えるのは疲れてしまった。だから今はこの心地よい堕落の中に身を投げ出して、楽になってしまいたい。被虐の喜びのその只中に、溶けて無くなってしまいたい。薄くぼんやりとそう考えた私は小さく小さく吐息をこぼし、私を蹂躙する彼女の顔をそっと静かに、抱きしめてあげたものであった。






 と、まあそんな感じでちょっと盛り上がっていたこの私。それがふいと見上げた天窓から頭半分を覗かせて、キリキリと歯ぎしりをしながら涙を流すフルートちゃんに気が付いて悲鳴を上げるのは、このもうちょっと後の話である。


 ……うん。やっぱり、締まらないなあ。






王城編、と呼ぶにはあっちこっちに話が散らかってしましたが、ひとまずはこれにて一区切りです。ここまでで第一部完といったところでしょうか。


次回は少し閑話を挟み、それからいよいよ傍迷惑となる覚悟を決めたノマは、王国の外へと飛び出していく予定です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ふぁっ!?第一部!?うせやろ!まだまだこの作品楽しめるやんけ!! [気になる点] 第一部で世界観を広げすぎじゃないかなーとは思いました。 こういう世界の真理って中盤以降あたりで判明するの…
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