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異世界転移のバツバツさん  作者: カボチャ
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それから④ 定まりかねる心の内

「ふぅ、わりぃなあドルディさんよ。高い飯奢って貰っちまってさ。」


「いえいえ、こんな程度でゼリグ殿に、先日の遺恨を水に流して貰えるとなれば安いものです。どうかこれからも、我が家名をご贔屓にして頂ければと。」



 アタシは別に、さして根に持ってなんかいなかったけどね。と低く喉を鳴らして酒杯を回し、飲み慣れぬ高価な酒を喉奥へと流し込む。それからけふりと息を吐こうとして、ここが何ともお上品な店であった事を思い出して口元を覆い、すかさず周囲を見回した。


 幸いなことに、それを見咎めたのは対面に座る神殿騎士殿だけであったようで、あちらさんもこの成り上がりの田舎娘の無作法っぷりに、ただ苦笑いを返すばかりである。それでも表立って態度には出されずとも、こちらが低く見られたのは確かだろう。っちぇ、悪態の一つもつけやしねぇや。


 悔しいので今度キティーの奴にでも、食事の作法ってもんを教えて貰おうかなあ。そう心に決めてからパンの最後の一切れでもって皿を拭い、肉に添えられていた調味液を染み込ませて口に頬張る。肉汁に手を加えたのであろうそれは何とも複雑が味わいがして、一度でいいから母さんにもこんな飯を食べさせてやりたいなあと、おぼろげにそう思ったものだった。





 店を出てその去り際に、愛想よく手を振ってくれた彼に挨拶を返し、一路王城への道をゆく。さすが王都でも最も栄えた地区だけはあって、周囲に立ち並ぶ店々もアタシなんかには覗き込んでみるのも億劫なくらいに仰々しい。既に陽も傾き始めた寒空の下ではあったが、それでも商売人連中の血気は盛んなようで、扉一枚を隔てた売り買いの声が、表通りにまで漏れ聞こえていた。


 自分はつい先ほどまでそんな中の一つに居て、虚勢を張りつつも慣れぬ豪勢な食事を摂っていたのだ。この辺境産まれの田舎者が、思えば遠くまで来たもんである。広い世界に憧れて村を飛び出し、王都の片隅で食うや食わずのその日暮らし。それがまさか、王女様に雇われてお仕えする身になるだなんてホント、人生なにがどう転ぶやら。


 振り返ってもみれば、つくづくアタシは人の縁というやつに恵まれていたのだろう。マリベルや今は亡き自警団のお頭と出会い、売女にならずとも女一人で生きていく術を教えて貰う事が出来た。キティーの奴と縁を持てた事で怪我に怯える生活から解放されて、おまけにお貴族様を相手に仕事のツテを持てるようになった。


 その縁の極めつけが、あの銀色のマセガキだ。アイツのせいで懐がすっからかんになり、その補填の為にはぐれ退治なんぞという危険な仕事を請け負って、それで偉いさんの覚えがめでたくなった事で今度はオーク相手の遠征に駆り出されて、トドメに名を売り過ぎたアイツごと、王族に召し抱えられるような事になっちまった。本当、つくづく面白いところへ連れてきてくれたもんだよ、このアタシをさ。



 とはいえ流石に王女様の直下ともなれば要らぬしがらみも増えるようで、先程の神殿騎士殿のように、アタシと個別に接触を持とうとする者も現れるようになった。キティーと違ってお偉方の社会に縁深いわけでも無い、このアタシなんぞに媚びを売っても対した恩恵なんてありゃあしないぜと伝えはしたが、それはそれで、貴族家間の力関係を考慮する必要が無いので便利らしい。


 あのバケモン聖女や王女様相手に自分の家名を売り込む為に、アタシは利用しやすくてお手軽ってわけか。歯に衣着せぬ物言いにそう言って返してやれば、どいつもこいつも肩を竦め、曖昧に笑って誤魔化しやがる。まったくもって、みんなして調子のいいもんだ。アタシが王族へ顔を繋げる立場になったとわかった途端、急に媚びへつらってヨイショヨイショと持ち上げやがって。


 まあそれが悪いとは言わないし、別に咎めだてするようなつもりもない。誰だって我が身は可愛いのだ。自分の利益や保身の為に、気安く撒いておける種があるのならばそりゃあ飛びつくってもんだろう。アタシが相手の立場であればやはり同じような事をするだろうし、なにより得をしているのはこちらなのだ。貰えるものは貰っておかなければ勿体ない、田舎者の貧乏性をナメンじゃねーぞ。



 身なりの良い連中にチヤホヤとされる自分を思い出し、ちょいとばかし良い気分になってクツクツと笑みを零しながら、スルリスルリと雑踏の中を抜けていく。やがて見えてきたのは王城をぐるりと取り囲んだ石壁とそれに沿って掘り抜かれた空堀で、このたいそうな代物をどんだけの手間暇かけてこさえたのかねと見上げたりなんかしつつ、正門へと続く跳ね上げ橋をヒョイと渡った。


 本格的な冬の訪れに備えて税の徴収でも進めているのか、これまた馬鹿でかい正門の真ん前では、満載の荷車が列をなしてごった返している。そんな手続きを待つ出入りの連中のすぐ横を、王女様から頂いた通行証代わりの首飾りをちらつかせて通り抜けていくのは少々ばかり、意地の悪い楽しみだ。とはいえそこは門兵さん方もきちんと仕事をしているようで、不意に誰何の声をかけられた事に足を止めた。


 やはりというべきかなんというか、アタシみたいな育ちの悪い女が王女様の紋章を持ち歩いている事が、このおっさんには如何にも怪しくて仕方が無いらしい。まぁしょうがない、誰だってそう思うだろう。アタシだってそう思う。でもこれで、かれこれ三日も連続なのだ。いい加減に勘弁願いたいもんである。



 幸いな事に問答はすぐに終わり、アタシは早々にその場から解放された。さすがに立て続けに三日とあって、相手もこちらの顔を覚えていたらしい。なら胡散臭そうな目で見んなよ、嫌がらせか。せっかくなのでアタシの方も、やっぱりこんな成り上がり者があっさりと自分達の頭上を越えて、王族に顔を覚えられるなんてのは腹の立つ話かい。と煽ってやる。


 そうしたらばやっこさんってば肩を竦め、自分は妻も子もあるよい年ですので、内心ではどう思おうともそれを口に出すような無闇は致しかねます。と来たもんだ。ったく、食えないおっさんである。これ以上旗色が悪くなる前に、大人しく負けを認めたほうが良いだろう。そう考えて両手を掲げ、苦笑いを残してさっさとその場から去る事にした。っち、良い気分が台無しだ。覚えてろよおっさんめ。





 ぷらりぷらりと歩きながら、どうせ明日も突っかかってくるだろうから何か良い返しでも用意しておくかと、余計な事を考えつつも脇道に逸れていく。足を踏み入れたのは庭師の手によって整えられた庭園で、冬の初頭だけあって花が咲き誇っているというわけでも無いそこは北風の中、ただ常緑の葉だけが揺れていた。


 さして見所があるわけでもない、面白みに欠ける光景である。それこそ育ちの良いご婦人方であれば、こんなものへは見向きの一つもしないだろう。そうは思うものの、寒さにも負けぬ乾いた力強さというやつがなんとなく琴線に触れて、知らずしげしげと眺めてしまうのがいつもの事。ノマの奴が籠ったきりの離れの部屋は、ここを抜けるのが近道だ。今日もちょいとばかし、見物をしていくのも悪くない。



 雑多に建て増しのされた王都の中ではあまり嗅ぐ機会の無い、土と草の匂いが鼻をくすぐる。そういえばアイツと出会ったのは夏も盛りの山中で、これよりもずっとずっと強い、むせかえるような緑の中での事だった。いや、むせてたのはアイツにベットリとこびりついていた、血の匂いのせいだったかな。まあいいや。


 今でして思ってみれば、日光を苦手としているあの馬鹿はさんさんと降り注ぐお日様に囲まれて、動くに動けず立ち往生をしていたのだろう。それで不貞寝をしていたところを都合よくというかなんというか、このアタシが見つけてしまったというわけだ。たかだか季節が二つ巡った程度に昔の事でしかないというに、なんだかそれが、ひどく懐かしい出来事のように思えてくる。


 あそこでノマと出会っていなかったら、どこで死んでいたかな。天蓋落としに潰されて死んだか、槍羽根に貫き殺されたか、はぐれのクソガエルに呪い殺されたか。ああ、多分そこらか。あの競りで散財しておらずとも、破格の報酬に釣られたアタシ達はきっと、はぐれの討伐に参加していた事だろう。そして死ぬ。


 アイツの言うとおりに世界が巡っているというのであれば、少なくとも前回のアタシはそこで死んだのだ。けれども今アタシはこうして生き延びていて、その先にいる。故郷の村は嫌いでは無かったが、狭苦しかった。広い世界を見てみたかった。世に混乱を巻き起こすのだというアイツの後ろをついていけば、今度は世界のその果てを見る事すら出来るかもしれない。くくく、縁ってやつは本当に面白い。



 大分と機嫌も直ってきた。鼻歌を口ずさみつつも歩みを進め、そのうちに目印である、とんがりのっぽの三角屋根も見えてくる。一昨日昨日は一人にさせて欲しいと言われて追い返されたが、あれからもう三日も立つのだ。そろそろいい加減に、無理やり引きずり出してやっても良い頃合いだろう。あんまりウジウジされても鬱陶しいしな。


 離れに繋がる通用口を目指し、広い広い庭園の突き当りに位置する植え込みの際をひょいと曲がる。そこで目にしたのは頭巾を目深にかぶった一人の女で、如何にも怪しげなその風体に一瞬目を細めたが、裾からにょろりと覗いてゆらゆら揺れる、どこぞで見かけた肉色の触手を目に留めた事で息を吐いた。そういえば姿を見かけなかったなコイツ。いつからここに居たんだろうか。



「よう、アンタに草木の風情を楽しむような趣味があるとは思わなかったな、フルート吹きさんよ。」


「……貴様か。ノマ様はつい今しがた、お休みになられたところだ。用件があるのならばこの私が取り次ごう。」


「さいで。そいつはなんとも、間が悪かったかな。」



 他に何をするでもなく、両開きの扉の前に立って道を塞ぐ邪魔っけなそのバケモンの、背中の後ろをひょいと通ってやれないものかと覗き込む。けれどもそんな考え無しの行動はあっさりと見咎められて、じろりと睨みつけられた事に肩を竦めて一歩を下がり、塗りかべの外壁にもたれかかって背中を預けた。


 今日こそはアイツを引きずり出してやると決めてきたのだ。だというにここで通せんぼをされて、仕方なくすごすごと引き返すというのもちぃとばかし、癪に障る。さぁて、どうしましょっかね。別にこの笛吹女とやり合って押し通ろうというほどでは無いし、世間話に興じて時間を潰そうにも話題ってもんが見つからねえ。いまいち何を考えてるんだかわかんねえしな、こいつ。



「……お前達があの地下で見たものについては、私も御方から既にお聞きしている。わからんものだな、人間よ。私も貴様らもその創造者に違いはあれど、為すべき役目を持って世に生み出されたのは同じ事。それが改めて知れただけだというに、何故にそのように心を乱すのだ?」



 手持ち無沙汰に髪をいじっていたアタシに向けて、意外にも先んじて話題を振ってくるはやっこさん。今一つ何を言いたいのかわかりかねる問いではあったが、二度三度と瞬きをするそのうちに、要は道具として生きる事に何の不満があるのかと聞きたいのだなと察しをつけた。なんともまあ、答えづらくて難しい事を言うね、アンタもさ。



「あー……、そうだなあ。ノマの言う事が本当ならさ、アタシ達も、蛮族も化け物も、みんな舞台に上がって神様の退屈を紛らわせる為に踊る、一人の役者に過ぎなかったってぇわけだ。いや、そりゃあ誰だって生きていく上で、何かの大きい括りの中で果たすべき役割ってもんはあるんだろうけどさ、それがちょっとばかし思ってたもんと違ってたっていうか、なあ?」


「なんとも、不明瞭な答えだな。貴様は己自身を構成する心の内について、それを正しく外部へ発する事も出来んのか。愚か者め。」


「っち、言ってろい。ノマの奴に造られたばっかりのお前さんと違ってさ、人間様の心ってのはなんとも複雑怪奇で、ややこしい代物だったりするもんなんだよ。アタシみてーに考えてもしょうがないって目を覆った奴もいるし、あるかもわかんねぇ答えを求めて書庫に籠っちまった奴もいる。心構えも無しにいきなり真実とやらを突き付けられてみたところで、そう簡単には割り切れないさ。」



 せっかく相手をしてやったってぇのに罵声を浴びせやがる笛吹女に、単純なお前さんとは違うんですーと言って返して懐を漁り、紙巻きたばこを一本手にとって口に咥える。いや、ついさっきまで今の自分が如何に恵まれているのかをあげつらって、そういう余計な事を考えないようにしていたアタシが言うこっちゃねぇかもしれないが、まあこういうのは上から被せて言ったもん勝ちだ。


 続けてごそごそと火種を探すが、どうやら間の悪いことに何処かに置き忘れてきちまったらしい。咥えたままの煙草をぷらぷらと揺らしながら、駄目元でお隣さんに物欲しげな視線を送ってみるも、返ってきたのは何してんだコイツという侮蔑の視線。まぁはなから期待なんてしてなかったけどさ、どうにもなんつうか、恰好がつかねえなあ。



「それにしてもよ、ノマ様ノマ様とアイツのケツを追いかけ回してばかりのお前さんが、アタシ達に興味を持つなんざぁどういう風の吹き回しだい? アレを見せられて、それを各々おもいおもいに飲み下そうとしているアタシ達が、アンタにはそんなに滑稽に映ったってか?」


「別に、貴様らなんぞの事はどうでもいい。私はな、貴様ら人の争いに介入しろという命を受けて、御方に世へ生み出して頂いた存在だ。そしてその御方もまた、より上位の者に与えられた役割を持って、この地へと顕現を為されたものであるらしい。ならば私がそうであるように御方もまた、そのお役目を全うする事に躊躇などあろうはずも無いと、そう思っていたのだよ。」


「ああ、なるほどねえ。それが予想に反して、ノマの奴が妙にあれこれと思い悩んで引き籠っちまったもんだから、混乱してるってぇわけかい。その分じゃあアイツが元は人間だったらしいって事も、もう聞かされてるんだろう? それで同じ人間であるアタシ達が、どういう受け止め方をしたのかを知りたかった、と。」


「ふん、貴様にそう言い当てられるのは腹立たしいがな、概ねはその通りよ。貴様ら人間のモノの考えを知る事で、ノマ様を苛ませているその苦悩を推し量ることが出来るのでは無いかと考えたのだが、どうやら私の見込み違いだったようだ。……何が可笑しい?」



 そこまで言って、にょろにょろと渦を巻いていた触手の一本がぴょこりと動き、まるで恨めし気に睨みつけるようにしてこちらを向いた。どうやら自分でも知らずのうちに頬が緩み、笑みが零れてしまっていたらしい。くっくくく、いや悪いね。別に嘲笑していたってぇわけじゃあないのだ。許してほしい。



「くく。いやぁ何、アタシは今の今までアンタの事を、自分で考える意思を持たない不気味な奴だって、そう思ってたんだよ。ノマの言う事にただ追随するばっかりの、人形みたいな奴だってな。そのアンタがアイツとの違いを自覚して、それを受け入れようと四苦八苦してるのがどうにも人間臭くってな、そんな姿を見れた事がちょいとばかし、嬉しかったのさ。」


「知ったような口を利いてくれるな、人間風情が。この私を値踏みするような真似をしおって。」


「悪い悪い。だがそうやって、今のアンタがアイツに向けている……なんていうのかな、そのグチャっとした取り留めの無いもんが、人間の持つ情ってやつなのよ。アイツはアタシと違って余程に育ちが良かったのか、自分の為に誰かを傷つける事をやたらと忌み嫌いやがる。だからその『役割』を果たすってのが嫌で嫌でしょうがなくって、それで伏せっちまってるってぇとこじゃねえのかなぁ。」


「……課せられた役目を果たせぬ者に、存在する価値は無い。それが私にとっての道理であり、だからこそ御方のご期待に応える事こそが、無上の喜びなのだ。だが、御方にとってはそうでは無いのだな。……ふむ、やはりその何故が、私には理解出来ん。だがノマ様の御心に寄り添おうというその為には、それを解さねばならんというわけか。」



 口元に手を添えて思案を始める笛吹女を横目に見つつ、そういうモノの考え方が出来るんであれば、とりあえずそれで充分だろうさと言って返して煙草を吸う。咥えたそれが送り込んできたのは味気の無い空気ばかりで、そういえば火をつけれていないままだったなと思い出し、渋い顔をして口内のそれをぷぅと吐いた。


 それにしても中々どうして、意外と話そうと思えば話せるもんだ。この化け物を一人の友人として見る事はまだ難しいだろうが、コイツが変わっていこうとしているのであればアタシだって、見る目を変えていく必要はあるのだろう。というかこちとら既に、人外へと足を突っ込みかけてしまっている危うい身である。ならば将来の御同輩と今のうちに、良い関係を築いておく事も必要か。



「ま、さっきも言ったように人の心なんてのは複雑怪奇、なんとも捉えどころの無いもんさ。アタシだってまるで知っているみたいにモノを言ったけどよ、結局のところノマの奴が何を考えてるかだなんて、アイツから話してくれない限りはわかりゃあしねえんだ。って言ってもアイツが今の自分の心の内を、言葉に出来るくらいに整理出来てるかなんてのは知らねえけどな。」


「そうやって、貴様はさっきから曖昧な事ばかりを言う。言っておくが、だからと言って今ここを通しはせんぞ。ましてノマ様が自らの御心を整えようとされているのならば、それは尚更の事だ。」


「だからってなぁ、幾らなんでも三日は長すぎるってもんさ。一人で飲み下せない事でも誰かに吐き出せば、多少はマシになったりするもんなんだぜ? いやこの際だ、無理やりにでも吐かせてやる。アタシはウジウジと縮こまってる奴を見るのが嫌いなんでな。それが知った顔となればなおさらよ。」



 ノマが役割を果たさなければ、遠からずアタシ達は『また』死ぬのかもしれない。だがその役割とはつまるところ、切れ味の良い刃物を持たされて目についた奴を、誰でもいいから刺してこいと言われているようなものだろう。アイツを板挟みにして苦しめているのは、きっとそれだ。そんなただ守って貰う立場でしかない、自分の不甲斐なさに腹が立つ。


 アタシは自分と何ら関係の無い他人の生き死にになど、さしたる興味は持っていない。そんな事を気にかけていられるような、育ちの良い生を送ってきたわけでもない。アタシにフルート吹きのような力があれば、アイツの重荷を一緒に背負ってやる事が出来るだろうか。いや違うな。アタシにそんな、殊勝な趣味などありはしない。アタシはただ、気に入らないんだ。アイツから下に見られるという事が。


 なによりアイツに連れて行って貰わなければ、アタシは世界の果てを見る事が出来ないのだ。せっかく期待をさせておいてそいつは困る。空と大地は四方に果て無く広がっていて、未だ見聞きした事の無いものは数多くあるのだから。どうせやらざるを得ないのならば、開き直って楽しくやっていこうじゃないか。なぁ、それでいいだろう? ノマ。アタシが一緒に、汚れてやるからさ。



 ……ああ、参ったね。つい先ほどに、なるべく仲良くやっていこうと思い直したのはどこへやら。内心の荒ぶりを感じ取られたか、それとも強引にでもここを突破しようとしていると思われちまったか。お隣さんは細めた瞳で以ってじとりとこのアタシをねめつけると、その長く伸びた肉色の触手をひゅるりと振って。



 そうしてゆるりと対峙をするアタシ達の耳に、まるで悲鳴のように荒げた小さなアイツの呻き声が届いたのは、その時の事だった。






書きたい事を上手く言葉に出来ずに、随分と取っ散らかった感じになってしまいました。


次回からようやくノマちゃん視点へ戻ります。

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― 新着の感想 ―
[一言] ふと他の方の作品を読んでいて思ったのですが、邪神(?)の管理するこの世界も、NPCに高度なAIを搭載したVRMMO世界も、暇つぶしか商用かの差でやってる事は大差ないんですよね… むしろイベン…
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