表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移のバツバツさん  作者: カボチャ
54/152

お友達ごっこ

「あ~~。やっちまったな~~、やらかしちまったわ~~~。はぁ。」



 なだらかな起伏の続く丘陵で、草むらの中に身を投げ出して日光浴と洒落込みながら、わたくしノマちゃんハフンと小さくため息をついて寝返り一つ。


 青空の下ぼやんと細まった視界の中、遠目に映るのは王国領と旧帝国領の境界となっているらしい小高い山の数々で、その麓には寄り集まった陣幕の白と誇らしげに掲げられた軍旗の赤が、ここからでもよ~く見えた。



 聞くところによればアレこそが王国領に攻め込んできたオーク達の陣地であるらしいのだが、今現在ころりと寝転がる私の後ろにあるものは別に広大な原野というわけでは無く、王国の北方最前線たる城塞都市なのである。


 まあ城塞都市といってもその実態は、小高い丘の上にあった諸侯軍の詰める砦を中心に、兵士達から発生する需要を目当てに集まってきた商売人が集まって形成されたという小さな街ではあるのだが。


 城壁も石造りの頑健なものでは無く原木を組み合わせて作られた武骨な代物で、私の感覚としてはどちらかと言うと都市だの街だのというよりも、ドでかい山城に近いようなものがある。なんか全体的に平ぺったいけども。



 話が逸れた。ともあれそんな砦の目と鼻の先にこうも堂々と布陣されているあたり、王国諸侯軍がいかにオークの連中から見くびられているのかがよくわかるというもの。


 いや、彼らの目的が争いそのものであるという事を考えてみれば、ああして挑発をし続ける事でこちらが砦から打って出てくるのを、手ぐすね引いて待っているというべきだろうか。


 なんせ妙に紳士なオークさん達の事である、民間人を巻き込んでしまう市街戦よりも野戦での決着をもってして、こちらを打ち破ろうという算段であるのかもしれない。そちらのほうが如何にも戦士同士の闘争という感じがして、脳筋さん方の好みそうな展開である事だし。



 さて、今頃メルカーバさんやルミアン君は、そんな脳筋戦士達に対してどのように抗するべきか、駐屯している諸侯軍の方々と喧々諤々協議をしている事であろうか。


 私がこの戦いにおいて及ぼすであろう影響を考えると、口は出さないにしろ一応は同席するのが筋というものかとも思ったが、結果としては上の方々が私の運用を含めた諸々を決めてくれるのを、ただ待つ形と相成った。


 理由としては単純なもので、私みたいな子供が顔を出す事によって諸侯軍の方々に、こんな子供を寄越すとは本国は我々を軽んじている、と要らぬ勘繰りをされてしまう可能性があると言われてしまったのだ。とはいえ、まあそれはごもっとも。


 こちとらルミアン君と違って何の肩書も持たぬただのヘンテコ10歳児である。自分達の命運をかけた会議の場に私みたいな子供が足をプラプラさせながら座っていれば、敵軍の布陣を前に神経を削り続けた大人達にとって面白かろうはずが無い。



 それはいい。別に私としても納得の出来る理由であるし、指示に従う事について何か不満があるという訳でも無い。それ自体は別に全然構わないのだが、問題はそのせいで如何せん暇になってしまった事である。暇暇なのである。



 最初はいつもの三人で何か時間を潰そうかとも思ったのだが、キティーは神学校首席の知恵を貸せという事でメルカーバさんに連れられて行ってしまい、早々に居なくなってしまわれた。で、残された私はゼリグの希望により刃物屋巡りとかいう物騒な趣味に付き合う事になったのだが、これがまた大失敗であったのだ。


 なにが不味いって、私が街中をウロウロして姿を見せると諸侯軍の兵はともかくとして、ここまで一緒にやって来た遠征軍の人達が怯えて逃げてしまうのである。道端でばったり出会った新兵君に悲鳴を上げられたのはさすがに堪えた。


 私の胃にもキリキリ来るし、最初のうちは気にするなと言ってくれたゼリグの奴も、それを何度も繰り返すうちに目に見えて機嫌が悪くなっていくしでもう散々である。



 よって私は己を含めた皆々様方の胃の為に、同行する彼女に少し一人にさせて欲しいと願い出た上でこうして街の外にまでやってきて、したくもない日光浴に甘んじているというわけなのだ。ああ、フライパンの上の豚バラ肉の気持ちが良くわかる。日除け帽が無ければコゲてたかもしれん。


 まあ、仕方が無い。かつての私が今の私の異形を見ても、やっぱり同じような反応を返す事だろう。これは子供じみた一時の誘惑に駆られ、化け物になるという選択をしてしまった己の自業自得でもある。


 だから仕方が無い。これは、仕方の無い事なのだ。




 私達が黙々と歩き続けた行軍の末、国境沿いのこの小さな街に辿り着いたのは昨日の事で、私が怪鳥の群れとイツマデちゃんを撃退してからのこの数日は、正直に言って針のむしろも良い所であった。


 いや周りの皆さんからしてみれば、私の近くに居なければならない自分達のほうがそれを言いたいと主張なさるやも知れないところではあるのだが、それはまあお互い様という事で許してほしい。同じ釜の飯、もとい同じ胃に打撃を与えあった仲という奴である。


 とにかく会話が無いのだ。皆さん本当に真面目に、黙々と行進しくさりやがるのである。まあおそらくは、私の目の届かないところでは普通に会話をなさっておいでになるのだとは思うのだけれども、この際それは考えないものとする。泣きそう。


 そしてそれより何より、初日は普通に話しかけてくれたメルカーバさんが余所余所しくなってしまった事が何より辛い。別に嫌われてしまった訳では無いのだと思いたいが、如何にも距離を測りかねているといった様子が目に見えるのがまた心に来る。



 ちなみに怖がらせてしまうと思ったので、ルミアン君や黒猫ちゃん達とはあの日以来顔を合わせていない。もしもあの子達に怯えて逃げられでもしようものなら、それこそ私のハートは木っ端微塵のお陀仏である。


 とはいえ私の保身まみれのこの気遣いが、私が傷ついているのだと彼女達に要らぬ心配をさせてしまっているかもしれない事もまた事実で、それを考えると距離を取った方が良いのかもっと気さくに接しに行った方が良いのか、今一つ判断しかねてしまうのだ。



 しかしそれでも、そんな中でゼリグとキティー、そしてシャリイちゃんは私と食事を共にしてくれたし、他愛もない世間話に応じてくれた。マリベルさんも合間を見て、私の様子を見に来てくれた。


 あれにはじ~んと来たものだ。ありがてぇ。ありがてぇ。人の心遣いが身に染みる。本当にありがてぇ。でも私が引っ張ってる荷馬車からは降りろ。楽すんなコラ。




 そんなここ数日を思い出しつつ、あっちへこっちへゴロゴロゴロ。こうして暇を持て余していると色々と余計な事を考えてしまうものだと相場が決まっているのだが、果たしてそれはその通りで、頭に浮かんで消えていくのは先日の己の失態ばかりである。


 ハルペイア退治の提案、それ自体については問題があったとは考えていない。兵士の皆さんへの悪影響を考えればあの怪鳥達を放置する事は愚策であるとしか思えなかったし、結果的にではあるがその背後にはイツマデちゃんという化け物が存在していたのだ。


 何処か腰の引けたマガグモと違い、あの子は実に好戦的な少女であった。これからオーク達との戦いに臨む事を考えれば、私の目の届かない所で彼女の介入を受けることにより、大惨事が引き起こされたかも知れない事は想像に難くなく、ならば早い段階で彼女を退かせる事が出来たのは僥倖と言えるだろう。



 問題があるのは、いや、私が気に入らないのは、そこに至るまでの私自身の態度と行いである。


 この身体を得てからというもの、私は本当に怪物の如く強くなった。霧化をはじめとしていくつかまだ使う事の出来ない吸血鬼の権能は残っているものの、それでも今の時点で十分過ぎるほどにこの世界の住人達を圧倒しているのだ。


 とはいえ身体がどのように変じようとも、私という人間の心は、その本質は変わらないものであると何の根拠も無く楽観視していたのだが、どうやらそういうわけにも行かなかったらしい。



 その気になれば、この圧倒的な暴力でもってして他者を屈服させる事が出来てしまう。その事実に私は驕り高ぶり、優越感に酔いしれていたのだ。いい気になっていたのである。


 それが強く出てしまったのがあの石投げの一件であろう。実力を示す事によって私の提案に説得力を持たせるための行いであったが、同時にあれは、私はお前達よりも強いのだから逆らうなという恫喝でもあった。


 私自身がそのような意図を持っていなかったとしても、他人からどう見られるかは別である。自らの意見が通りそうになければ力でねじ伏せるという姿を行動で表してしまった以上、メルカーバさんやルミアン君、騎士の皆さん方から危険視されるようになってしまったのもわかるというもの。



 そうして自分は強いのだから何でも出来る、何でも解決できると驕った末が、あわや惨事を引き起こしかけたイツマデちゃんとの大乱戦である。いや、たまたま死人が出なかっただけで十分に惨事ではあったのだが。


 そもそもにして私は、ゼリグやキティーをはじめとした皆の安全の為に、単独での怪鳥退治を提案したのである。先日の白ガエル戦での実績を元にした判断ではあったのだが、それが碌な根回しもせずに勝手な行動をとったうえ、化け物を本隊の場所にまで招き入れてしまうという失態を晒してしまったのだ。まさに本末転倒、愚かしいにも程がある。


 結果として、私はその対処の為に化け物としての異形を晒す事となり、方々に己への恐怖心を植え付けてしまったのであるからお話にもならない。ルミアン君も固まってしまって私への処罰を言い出せないようであったし、ゼリグの奴が私のドタマをカチ割って茶々を入れてくれなかったら、果たしてどんな空気になっていた事やら。



 そして失態はもう一つ、イツマデちゃんの事がある。私はあの子を、殺すべきであったのだ。



 化け物は人間を好んで喰らう。彼女が世に存在し続ける限り、あの子はどこか私の知らないところで人を殺し続ける事であろう。そうで無くても恨みを買ってしまった以上、いつか復讐の為に現れた彼女が私の周囲に対して危険を及ぼすであろう事は、十二分に考えられる事であった。


 にも関わらず、私があの子を殺めることなく、どこか遠くに放り投げて退けるに留まった理由は一つ。少女の姿を纏った存在を、この手にかける事を忌避したからである。


 先々の安全を考えれば、あそこで彼女には死んでもらうべきであった。だがその一方で、私は彼女を本当に殺してしまおうなどと、はなっから思いもしていなかったのだ。



 私はイツマデちゃんよりも強い。よってあの子が再度襲い掛かってきたとしても、己の安全だけは保障される。私が心の奥底で持っていたのだろうその卑しい性根が、自らの判断に影響を与えたであろう事は想像に難く無い。


 結局のところ、私は世の為人の為を謳っておきながら、自らのエゴによって周囲の人々を危険に晒し続ける事を良しとしてしまったのである。あの日あの時においては己の考えに疑問を持つことは無かったが、こうして落ち着いてみると自らへの嫌悪のあまり、思わず下唇を噛んでしまう。


 さりとて、では何が正しい判断であったのか、何が物事の道理であったのかを考えてみたところで答えは出せぬ。私があの大鷲の少女を殺めていたとしてその場合、彼女を手にかけなかった事で後悔をしている今の私は、今度は彼女を手にかけてしまった事により、今以上の後悔に打ちひしがれているに違いないのだから。



「あ~~。へこんじゃうわ~~、へこんじゃいますね~~。う~あ~~、ぐげ。」



 ゴロゴロゴロゴロ、コロンコロン。悩み、後悔し、考え込んでみたところで物事が進展してくれるようなはずも無く、私に出来る事といえばただ転げ回って石に頭をぶつけ、変な呻き声をあげる程度の事。


 まあそもそもにして、ただ考え込む事で正しい答えを導き出せるのであれば、何ら苦労は無いのである。より良い自分になろうとは常日頃から思うものの、だからといって人の心とは、そう簡単に変わっていけるようなものでは無いのだ。少なくとも私はそうであった。


 変わらざるを得ない環境におかれ、世の理不尽の中を転がりながら削れて擦り減って丸くなり、それでふと立ち止まった時に、まあちょっとくらいは前の自分より良くなれたかなと思い返す。その積み重ねで人は変わっていくものなのだ。多分。



 結局のところどのような道を選び取ったところで、私はなにがしかの後悔をするのだろう。ならば少しでもその後悔が小さくなるよう、自らの思う最良の選択をしていきたいものである。


 私は正しい行いをしているのだと、自分自身に言い聞かせながら……。いやまあ、根回し不足に関しては完全に私が悪かったんですけども、うごごごご。







「よう、ギン。な~にこんなところで寝っ転がってやがんだよ、散々街中探し回っちまったじゃねーか。」


「……どーも、親分さん。なんだか私、兵士の皆さん方にすっかり怖がられてしまったようでしてね。妙な騒ぎを起こさないように、こうしてお外でお昼寝と洒落込んでいたのですよ。まあ私は別に気にしておりませんので、お気遣いなく。」


「嘘つけ、泣きそうな顔しやがって。隣、座るからな。」


「…………ご自由に。しかし、ルミアン様の傍についていなくても宜しいのですか?今頃砦に詰めていらっしゃる事だと思いますが。」


「どうせアタイ達には小難しい話はわかんねーしなー。今はマリベルだけでいいから、この機にちょっと休んでこいって暇を出されたんだよ。っと。」



 自問自答の悩み事は同じ話題を繰り返しながらいつまでも続き、やがて襲ってきた睡魔と戦いつつも、日光に蝕まれる私の身体がブスブスとちょっと焦げてきたそんな頃。


 不意にかけられた聞き覚えのあるその声に、パチリと目を見開いた私の前にあったものは、黒髪の猫耳少女の見知ったお顔とカボチャパンツであった。


 いや、黒猫ちゃんちょっと寄り過ぎである。おかげでスカートの中が丸見えで、視界を埋めてる面積が顔よりパンツのほうが広いとはどういう事だ、思わずビクリと震えてしまったではないか。一瞬で目が覚めたわおい。



 しかし、泣きそうな顔などと言われてしまうとは心外であった。心の内ではそのようなつもりでは無かったのだが、案外とこういうものは自分ではわからないものなのだろうか。そんな事を考えつつもペタペタと顔を触る私の横で、彼女はすとんと座り込んで足を投げ出し、こちらの顔を覗き込む。


 見れば子分ちゃん達三人も、黒猫ちゃんの後ろに隠れるようにしてこんもりと山を作りながら顔を出しており、そんな彼女達もやはり同じように、へにょりと眉を下げながら私の事を心配げに見つめているのだ。


 この子達はあの姿を見せられてなお、私の事を恐れていないのだろうか。であるならば、変に距離を取ろうとしてしまった私の選択は、どうやら却ってこの子達に要らぬ気を遣わせてしまう結果に終わってしまったようである。がっくり。



「あの、ギンちゃん、その~……。」


「えーっと、ギンちゃんは、ギンちゃんって、えーっと……。」


「おばけなの?」


「シロゲ、チャトラ、トビ、アタイが話すよ。ちょいと下がっててくれ。」


「……すいません、ちょっとトビちゃんの一言が直球過ぎて胃にきたんで、呼吸整えるの待っててもらえませんか親分さん。」



 ヒッヒッフー、ヒッヒッフー、と息を整え、私も身を起こして黒猫ちゃん達と視線を合わせる。さぁて彼女達のご用事とは如何なものであろうか。とはいえまあ、その言わんとしているところはなんとなく察しがつく。


 なんせ私は仮にも彼女達のお友達であり、かつて寝食を共にした仲間であったのだ。それが本当はヒトの姿を偽っていた化け物であり、肉を喰らってやろうと近づいただけであったというのならば、私達の幼い友情は偽物であったという事になる。


 彼女達はきっと、それを確認しにきたのだろう。私達は、本当に友人であったのかを。



「で、まあ、なんだ。アタイは回りくどい事は苦手だからさ、はっきり言わせてもらうぞ、ギン。お前はさ、その……化け物ってぇ奴なのか?」


「……化け物という言葉の定義、などという面倒な事を言うのは止めておきましょうか。ええ、親分さんの言う通り、私は化け物。人の血を喰らう吸血鬼という存在です。驚かれましたか?」


「やっぱ、そうか。そうだよなあ……。でも今更驚いたりなんかしねーよ、こないだの夜にもう十分過ぎるくらい驚かせてもらったさ。」


「……あはは、それもそうですねえ。」



 カリカリと頭を掻く黒猫ちゃんの質問に対して言葉を返しつつも、しかし私は知らずの内に視線を逸らし、彼女の瞳を見る事を避けてしまった。自分でも己の事が良くわからぬが、本当は怖かったのかもしれない。


 体は正直。もしも彼女達に拒絶されたらという事を考えると、とても顔を合わせる勇気など持てぬ。そういう事なのだろう。まったく、思わず自嘲の笑みが浮かんでしまうではないか。良い年をして子供の前で、私は一体何をやっているのだか。



「じゃあさ、もう一個聞かせろ。化け物のお前は、今でもアタイ達の友達か?」


「……私が化け物である事は構わないんですか?こっそりチューチューと、血を吸っちゃったりなんかもするかもしれませんよ?」


「アタイ達にとってのお前はさ、化け物である前にギンなんだよ。一番ちっこい癖に生意気で憎たらしい、大切な妹分さ。血を吸うってのは、まあ……ちょっと考えさせてほしいけどな。」



 うーむ、そうきたかぁ。さぁてどのように返したものかと一瞬悩み、自分をどう取り繕ったものかと考えて、けれども結局、私は己の思うところをそのまま口にする事にした。


 元大人であるこの私が、女の子同士のお友達ごっこを求めるのかという内なる声も無いわけでは無かったのだが、子供というものは人の感情に敏感なものである。妙な虚勢を張って不信感を持たれてしまう可能性を残すよりかは、そちらのほうがずっと良いだろうと思えたのだ。


 時には子供のように、素直に飾らずにものを伝えたほうが良い事もある。むしろ人生、そんな事ばっかりな気がしなくもない。



「…………改めて口にするのは少々気恥ずかしいものがあるのですが、私は、いえ私も、皆さんの事を大切な友人だと思っております。許されるのであれば、以前のようにお友達としてお付き合いをさせて頂けないかと……ふごっふぉ!?」


「おう!それが聞けりゃあ十分さ!これからも宜しくな!ギン!!!」


「うにゃ~~!良かったですぅギンちゃん~~!ギンちゃんが怖い子になっちゃってたらどうしようかと思っちゃいました~~!」


「ああ!?おやびんもシロゲちゃんもずるいずるい!私も私も~~!」


「私も~。むぎゅう。」



 伏し目がちになってチラチラと視線を向けつつ、これからもお友達でいてくださいと呟いた私の言葉は、しかしドカリと突進しながら抱きついてきた黒猫ちゃんによって遮られ、それから立て続けに突っ込んできた子分ちゃん達に圧し掛かられて、私達はもみくちゃの団子になった。


 ああ、なんか前にもあったなあこんな事。と思いつつ、同時に私達の関係性があの頃と変わっていない事を実感できて、なんだかとても嬉しくなってしまう。ふふふ、ちょっと涙が出てしまいそうではないか。ずび~。


 でもすいません、一番下敷きになっている私の身体がなんか踏まれまくってるんですけども。こんなところまであの頃と同じで無くても良いんですけども。って鳩尾に!鳩尾に肘が!?あ!止めて!グリグリしないで!?



「いよーしお前らぁ!ギンはおっかねえ化け物ではあるけれど、でもアタイ達の大切な仲間で友達だ!それが確認できたところで、いっちょ仕掛けてみるとするかぁ!!!」


「「「おーー!!!」」」



 ようやっと解放されて、ゼヒーゼヒーと地にへばりつく私を尻目に、気勢を上げて腕を突き上げる黒猫ちゃん達。いや待って、ちょっと聞いてないんですけれど。仕掛けるってなんですか、何をですか。


 あ、なんか猛烈に嫌な予感がしてきた。お友達ごっこは早まってしまったやもしれぬコレ。



「なあギン、アタイ達を攫って売り飛ばしやがったあの優男の事、覚えてるよな?」


「え、ええ。それは勿論。えーとたしか、バラッドさんでしたっけ。旦那呼ばわりばっかりでどうにも名前が……。」


「おう、そいつそいつ!そいつがさ!じゅーぐん商人だとかでアタイ達の隊列にくっついてさ、一緒にここまで来てんだよ!シロゲが街中で商売やってるのを見たってさ!!!」


「はい!おやびん!ばっちり見ましたよ~!あれはギンちゃんに夜な夜な酷い事をしていたあのわる~い商人に違いありません!とっちめてやりましょう!!!」



 ふおお、嫌な予感的中である。まあ人攫いなんてやっていた旦那の身から出た錆とはいえ、彼もまさかこんなところでかつて売っぱらった少女達に補足されて、復讐戦を挑まれるとは思いもするまい。


 いやちょっと待て、これは少々都合が良過ぎる。よもやこの子達が、わざわざ私を探してまで会いに来てくれたその真意は。化け物である私を友達だと言ってくれて、関係を繋ぎ止めようとしてくれたその真意は……。



「だからさあ、今から一緒に、アイツぶっ殺しにいこうぜ!!!」


「ぴゅ~!とってもとっても強いギンちゃんが味方についてれば百人力ですよ~~~!」


「周りの兵士さん達が止めようとしたってギンちゃんなら蹴散らせちゃいます!完璧ですよこれは!」


「ぶっころー!」


「あああああっ!?やっぱりそれですか!?その為にわざわざ私とお友達である事を確認しに来たんですか!!?」


「ばっか!人聞きの悪いこと言うなってーの!アタイ達の可愛い妹分が悲しんでるんじゃないかと思って様子を見に来てやったんじゃねーか!優しいお姉ちゃん達に感謝しろぉい!!!」


「お姉ちゃん達のお気持ちは伝わりました!ありがとうございます!それでお姉ちゃん!本音のところは!?」


「くふふふふ!まあ、そうでもあるけどなぁーーっ!!!」



 叫ぶや否や、四人がかりでヒョイと担ぎ上げられて小脇に抱えられ、タッタカタッタカと街中目指して運ばれていく小さな私。見た目的には城門とか突き破ってくるアレである。凹凸も無い事だし実に持ち易い事であろうて。ふはははは。


 いや、なんかもう台無しである。先ほどまでのしんみりした温かい気持ちを返して欲しい。なんつー強かな子供達だ。



 しかし不味い。これは真面目に宜しくない。なんせ暇を持て余しているとはいえ、今の私は一応は待機命令を仰せつかっている身なのである。それが街中で騒ぎなんぞを起こしたとあっては指示を下したルミアン君の顔を潰してしまうではないか。


 というかそれについては彼を主人と仰ぐこの子達についても同じであるはずなのだが、どうやら降って沸いた復讐の機会に興奮しきった彼女達は、その事にまったくさっぱり思い当らぬご様子で。いや、この分だと思い当っていたとしても、気にも留めずにぶん殴りに行きそうだなコレ。



 なんとかして説き伏せたいところではあるのだが、実際に私達は攫われて売り飛ばされたという実績があるだけに上手い言葉が思いつかぬ。今は開戦直前なのだから、皆さんに迷惑をかけないように後でぶっ殺しに行きましょうと提案するくらいしか……あ、いかん。これだとどっちにしろ旦那が死ぬわ。


 とはいえ旦那もアレで中々の手練れである事だし、よもや黒猫ちゃん達にうっかり殺されてしまうような事なんぞは無かろうて。あとは黒猫ちゃん側の主戦力である私が適当に手を抜く事で、どうにか丸く収めてあげるのが落としどころか。


 あちらもヤクザ者とはいえ商売人、お天道様の下で騒ぎを起こしたくないのは私と同じはずである。どうにかこうにか上手い事、荒事に持ち込まずに終わってくれれば良いのだが。



 そんな事を考えつつも、エッサホイサと雑に運ばれる私は砦に繋がる大通りを真っ直ぐ進み、やがて繁盛を見せるサソリの旦那の移動商店を遠目に見ながら人だかりに突っ込んで……。


 うーん、ほんと、どうしましょっかねえ。お友達として、私は感情で動くこの子達をどう諭してあげるのが良いのだろうか。



 さあノマちゃんよ、早速の良い機会である。お前の言う最良の選択とやらを選び取って見せるがよい。いやまあ、そもそも選択肢自体思いつかないんですけどもね。チクショウメー!




今から一緒に これから一緒に 殴りに行こうか。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] いやー、ほとんどニンジャな4猫に襲われたら蠍の旦那も実際死ぬんじゃないですかね…?
[一言] やー やーやー やー やーやーやー やー やーやー やー やーやーやー
[一言] 愉快な仲間達ですね。主人公の個性が強いので、読んでて飽きません。、、、楽しいです。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ