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異世界転移のバツバツさん  作者: カボチャ
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怪鳥の群れと調子乗り

「さてと、念の為にお声をかけさせて頂きますが、あなた方ハルペイアは言葉を解したりは…………ぶっふぉ!!?」



 十重二十重に伸びた枝葉がすっぽりと頭上を覆い隠し、僅かに月の光が漏れ込むに過ぎぬ暗い暗い森の中、転がり込んだ私が対峙するのはギイギイギャアギャアと騒がしい事この上ない無数の怪鳥のその姿。


到底話の通じる相手とは思えないがそれでも一応確認だけはしておこうと、かけた言葉に対する返答は手近に居た一匹によるぶちかましであった。



先だって遠目で見た際に大きな鳥であるなとは思っていたが果たしてそれはその通りで、成人男性ほどもある巨大な猛禽の体当たりに姿勢を崩した私はすってんころりと転がって、これまた大きな太い爪で頭を鷲掴みにされると枯草の上に叩きつけられる。


思わず声をあげられたのも一瞬の事。それを皮切りに私という肉塊を食らい尽くさんと次から次に怪鳥達は殺到し、薄汚れた白い羽で瞬く間に覆い尽くされた私の視界は噛まれ嬲られ蹴り飛ばされて、ぬたりと糸を引いた鋭い牙がこちらに向かう絵面を最後に真っ暗になった。がぶりんちょ。



「ぎゃああああ!?キモい!ばっちい!ええい!!!いつまで纏わりついとるんじゃ!!!いい加減にせんかいゴラァ!!?」



蹴り飛ばされようが引き裂かれようが到底この身に対する痛打にならぬが、それでも着ている外套はズタボロになるし何より顔面を口の中に放り込まれようものなら溜まらない。


思い切り手足を振り回しながら全身のバネを使って飛び起きて、勢いそのままに怪鳥達を吹き飛ばす。身を起こした私の視界に入ってきたものはこちらを取り囲む無数の瞳で、今しがた撥ねのけた数匹は未だ地に這いつくばってもがいているが、それでもやっこさんまだまだ数が居るらしい。



それにしても中々に醜悪なお姿だこと。濁った瞳をギョロギョロ動かし、奇声をあげながら涎を垂らして地団太を踏むその様に思わず顔を顰めてしまう。ハルペイア、ハルピュイア、ハーピー、呼び名はまあ色々とあるのだろうが、いずれその名を聞いて頭に浮かぶのは美しい女性の半身を持った鳥の怪物である。


それが目の前の怪鳥はといえば、猛禽の身体に猿の顔、おまけにその頭頂にはトサカの如く生え伸びた白い体毛が垂れ下がっているとあって、白髪を思わせるそれがこの大鳥めらの外見を老婆の如く見せかけているのだ。


あまり人様をその外見で嫌悪するような真似は気が引けるのだが、正直に言って薄気味悪い事この上ない。メルカーバさんはこやつらを狂った老婆と評したがなるほど確かに、なんとも言い得て妙である事よ。



ボロボロになってしまった外套をぽんぽんはたき、周囲をぐるりと取り囲んだ怪鳥達を睨みつけてやる。とはいえ如何にも小さく非力な獲物である私の事を連中はすっかり侮っていると見て取れて、先ほど見せた少々ばかりの抵抗もまったくもって意に介しているようには思えない。


長い舌を振り回し、涎の飛沫を振り撒きながら、こちらを嘲笑するように叫んで踊って吠えかける怪鳥達の輪は次第に狭まり小さくなっていく。そしてそれに押された私は一歩二歩と後ずさりをして、それからかぶりを一つ振るとため息を吐いた。


……やはり気乗りはしない。だがやると決めたのだ。決めたのであるならば、私はそれに従って行動するのみである。お覚悟召されよ。



「それでは怪鳥の皆さん方。私は己の身勝手な都合により、あなた方を追い散らすと心に決めてこちらへ参った次第でして、大変申し訳なくは思うのですが…………ぶっっ飛ばさせて頂きます!!!」



胸を張り、高らかに宣言しながら両の腕を持ち上げる。次いで私の長い銀髪がゾゾゾと伸びて、枝葉の茂る蔦となったそれは両腕に巻き付いて渦を巻き、何重にも絡み合った蔦の束はさらに十重二十重と巻き付きあって、膨れ上がって伸びあがるとその先端をブワリと花開かせた。


突然に始まった小さな獲物のなんとも奇怪な変容に、唖然とした様子でそれを見上げる怪鳥達の前でみるみるうちに出来上がったのはカギ爪の如き五指を備えた大きな大きな銀色の両腕。


大人の一人二人は掴み上げられそうな巨大な手のひらをゆらりゆらりと蠢かせ、早くも後ずさりをし始めた連中目掛けて腕を振るえば、銀の蔦で編まれたその巨腕は周囲を取り巻いていた怪鳥達を一薙ぎに打ち払い、掬い上げては吹き飛ばす。


ある者はお空に向かって打ち上げられて、またある者は囲いの後ろでこちらを窺っていた別の集団に突っ込んでもみくちゃとなり、一帯は瞬く間に恐慌をきたして慌てふためく怪鳥達によって騒然となった。



「わははははーーーーー!!!おらぁ!死にたくなかったらさっさと逃げ散っていかんかいド阿呆共がぁ!!!ほらぁ!逃げろ逃げろ逃げろぉーーいぃ!!!」



のっしのっしと近づきながら、手近にいた怪鳥達を手あたり次第に掴み上げ、ぶぉんぶぉんと振り回してはお空の彼方に放り投げる。悲鳴を上げながら吹き飛んでいくお仲間の姿に連中はもはやすっかり逃げ腰であるが、こやつらには今日この場で私という脅威を思い知って貰わなければならないのだ。ならば叩けるときに叩くに限る。


ダメ押しとばかりに両手を組んで、連中の眼前に向かって金槌の如く振り下ろす。ガゴン!!!という地響きと共に悲鳴を上げた地面が陥没し、土砂が跳ね飛んで草木が千切れ、枯草が舞ってついでに巻き込まれた鼠も舞う。そして爆ぜ散ったそれらは嵐となって怪鳥達に襲い掛かり、逃げ惑う連中のその恐慌に拍車をかけた。


土濡れになった怪鳥達は事ここに至ってついに心折れたようで、仲間同士で押し合いへし合い罵り合うと、眼前の脅威から逃げ出そうとして森の奥へ奥へと逃げていく。勝った。勝ちました。むふー。



さてこれだけ驚かしてやれば十分であるかとも思ったが、考えてもみればここは未だ森の入り口、ゼリグ達が拠点としている街道の一帯にはまだまだ近い。出来るのであればもう少し深部へと追いやってやる事が必要か。


なによりあの連中の背後に控えているという化け物の類には未だお目にかかれていないのであるからして、現時点で脅威を十分に打ち払えたとは言い難い。少なくともその存在について真偽のほどを確かめておく必要はあるだろう。


未開拓の森は暗く、どこまでも深く深く続いている。この何処かに件の化け物、あるいはマガグモのお仲間やもしれぬそいつが潜んでいるのだろうか。ならば逃げていくアレらをさらに追い立ててやることで、親玉に助けを求めた連中がその化け物の元まで案内してくれるやもしれぬ。



銀の巨腕を前方に向かって叩きつけ、十指を地に突き刺して身を伏せる。弾丸はこの私、狙うは遠目に見えるハルペイア、木々の隙間を縫うようにして飛び回り、逃げ散って行くその背中。


巨腕を引き絞って狙いを定め、思い切り地を蹴り飛ばす。そして砲弾の如く飛び出した私は瞬く間に怪鳥の一集団に追いつくと、こちらを見て驚愕に目を見開く彼奴等に向かってニタリと笑顔を向けて見せたのだ。



では参りましょうか。今から始まるのは鬼ごっこ、怖い怖い鬼に捕まったらば、もれなくお空の旅をプレゼントである。ははははははは!!!



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― 新着の感想 ―
[一言]  スランプなのですね。  でも、おもしろく読めています。  お疲れ様、そして、ありがとうございます。
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