未確認神闘症候群
るおおおおおおおおぉぉぉぉんんんンン!!!!!
常々考えていたことがある。獣を無限と吐き出す我が身、果たして際限はあるのだろうかと。
常々考えていたことがある。私という核を増やしたならば、『私』の主体は何処に在りや? と。
たぶん幾らでも増えるのだ。しかし精神は人間であり、そこにしがみつく半鬼の以上、自己の忘失には恐れがあった。前者は何時かで試そうとして、後者はやらぬと内心思い、しかしこうなってしまったもんで。バギン! 縦に二つ割れ、裂けた頭蓋からあらゆるモノを、渾然一体怒涛に吐き出す。狼コウモリ蠍熊、犬猿雉が、猪鹿蝶で、私の体積が膨らんでゆく。いやさ、一つ覚えとは言うなかれ。
個々に独立の姿無く、混ざり、歪み、波打ち叫び、大きな大きな輪郭を成す。頭は人面のそれを模し、手足は短く絡まり合って、四つ足で這う赤子のように。提灯アンコウよりなお高く。巨大ツチノコよりなお太く。鱗と羽毛と人皮と肉の、纏い蠢く膨れ女郎。十重に二十重に着膨れて、髪の豊かは失った。目鼻口穴開く虚無。もくもくしたり、うねったり。空間を塞ぐ巨体を震う、厭らしき形の面を上げる。
ゆおおおおおおおおぉぉぉぉんんんンン…………!!!
魔狼の突進迎え撃つ。大質量、大重量。激しく激突す肉と肉。粘性を帯びる重低音が、空気打ち叩く大槌となり、残骸遺骸。周囲悉く潰して撥ねた。鼻っ面向けて真っ正面で、小細工は無しで来たか、女ぁ! みしり、ぎしり、押し込まれ。吐いた威勢は瘴気に変じ、虚無の目鼻が泡泡と鳴く。其の儘肩口喰い付かれ、脂肪層包み噛み剥がされて、消失。制御失って何処も知れぬ、遠い虚空の果ての果て。
そんなんじゃお腹膨れんやろがい!!! お返しとばかり腕振り上げて、先端に大の白鯨生やす。肉と、骨と、内臓と。そびえ立つそれを重力任せ、一気果敢の撃槌噛ます。再度鳴り渡る重低音。消化器系と循環器系、筋肉を纏う百トン超。魔狼の姿を覆って潰し、塵風も派手にぶち撒け荒び、そうでも静かにゃ成っちゃあくれぬ。撥ねて退けられる肉戦槌。咆哮と共に消し飛び抉れ、腰椎骨までの露、鯨。
ばぐるる るるるる るるるる るるぁ!!!
ぎょるぎるぎるぎょる ぎょるぎょる ぎょるぁ!!!
言語捨て去った化物二匹、掴み、叩き、瘴気ぶち撒いて、喰らい、千切り、腸ぶち撒けられる。足元転げる百トン超。無限回伸びる膨れた背。一撃百尺躰を失くし、毎秒百尺躰を増やす。再生効かぬなら増えればよいと、先に戦り合って得た知見である。が、魔狼も同じく肥大を続け、軍拡競争は一進一退。此方は自重で重たい言うに、彼方は軽やか重力無視で、ずるい。質量保存を無視しつつ言う。
咆哮、共に衝撃波。犬の女の異次元飛ばし、ごりっと私の食らう側。派手に奥まで大抉られて、中枢部分たるワタシを掠め、膨れ女に大穴が空く。じりじり貧。やっぱ続けても不利か? これじゃ。如何に巨大に着膨れようと、制御する意思は一つである。そこの中枢を次元ごと、知らぬどっかに飛ばされたなら、意思の軸足もそっちに移る。跡に残るのはただの肉。干渉の術を失って。つまり私の敗北困る。
ぼ! ぼっ! 目鼻口穴音漏らし、ひっくり返った仰向け巨体、嫌というほど地響き鳴らす。更にその上飛び掛かられて、前脚揃えた大踏み付け。底の底までも落ち入る様に、お腹相当虚空に消えた。アカンこれ。出来ることならやりたくない。しかしさっき踏ん切り付けた。よし、やるか! 思考放棄と人の言ふ。空いた風穴外縁沿いで、生やす人形銀髪赤眼。もう一人。増殖をさせた『私』、自身!
ぎ は は は ハ !!! 見昏ダ! ニョロトーブラがみずんがデ、ゴログーンするゾ! 見ま見まになったボロゴーン! 猛鼠が奪い狩っゾ!!!
なんだコイツ、バグってやがる。ドン引きしながら意識向け、増えた私の目玉も向いて、嘲笑うようにニタリと歪む。だーからやりたく無かったのだ。既に私から独立し、自立して動く『私』の以上、私にゃわかりゃあせんのである。何を考えて『私』が居るか。が、今は非情事態。勝てば官軍意地張り合って、別にアンタに恨みもないが、大っ嫌いなのデ負けるノ私! 奪っテ狩っゾ! ヤッラ・ヤッレ!
兎角増殖の起点増し、肉の膨張の加速も増して、『私』の勢力を盛り返す。増える速度と消される速度、どっち勝ちますのゴリ押し合戦。とてもとても実に頭の悪く、とてもとても他に仕様の無い。ついに天井を埋め尽くし、壁の際までを骨身に埋め、圧して雪崩れる肉と、皮と、脂肪の怪。当然機械も圧迫し、どれがエクスでマキナか知らんが自己再生くらいするだろ多分。しろ。やれ! 根性みせろ!
私もすんげぇ頑張ってんだよぉ!!! と、いう意欲以ち、魔狼を巻き込んで奥へ、奥へ。何をどうしたら勝利であるか、現状ちっとも見当無いが、有利足る点は幾つか在った。機械の鎮座する地下空間、如何に奥行き巨大と言えど、閉所、たぶん、有限だろう点がまず一つ。それとも一つ神在るせいで、巻き込み無差別無茶無法、広範囲攻撃は出来ない点。これが彼女の一方損で、私はあくまで脳筋の故。
ぎしりぎし! がしゃん!!! みしみし! ……ぞるぞるぞるぞる!!!!!
要は仮にの話であるが、自身中心円形範囲、半径百キロ異次元抉り。そういった真似が出来たとしても、作戦目的の都合上、いま、この時に付いちゃ禁止であるのだ。機械何某の制圧確保、上司へ報告ほうれん草。たぶんそこまでが彼女の任務、真面目のお堅い感じであるし、決裁を経ずに下手はすまい。つまり、『点』で削るより他は無し。最早本体であル『我々』たちヲ、全て一遍消し飛ばすナド……!
ジッツにテェカクリツで危っぶね掠ったぁ!!? ぞんっ!!! 自我の混濁がひゅこり解け、温い瘴気が頬撫でまわし、赤い眼球をぎょろりと向ける。裂けた内から見る外界、犬の彼女と目が合った。すぐさま塞ぐ、緊急離脱、体内無作為高速移動。私のさっきのもう一匹は!? 接続伸ばすも応答なし。今の一撃『彼方』に行った? こわい オノレ ワタシは今生縋って付クゾ……!!!
巨体肉塊外縁部、滅多矢鱈とワタシを増やし、生える人面オギャアを叫ぶ。ぼこぼこと増える金切り声。言っておこう。最後のも一つ有利の点。最早私がヤケクソですと、肉体制御とか無理ですコレと、こんなもん只の暴走ですと。こうだろう事はわかっちゃいたが、わかっていようと行らんとならぬ。それが奥義、膨レタ女!!! 身共の奴らも詩え! 詩エ! 奪っテ狩っゾ! ヤッラ・ヤッレ!!!
見昏だ ニョロトーブラがみずんがで ゴログーンした 見ま見まになったボロゴーン 猛鼠が奪い狩った
ジャブジャブ鳥や恨淫ら 受骨に接すな常敏の剣 回せ 敵を物色しろ 燃える瞳の暴猛禽 フョーと茂ぐ森を抜け バリューと鳴いて 襲え 殺せ
輝ましい日だ ヤッラ・ヤッレ !!!
あ は は ハ ハ! ワカレ! 尖った世界からのモノとは言えド、モハヤ! ワレワレの前で他愛ナシ! 膨れ続けるワレラを前に、タダ翻弄をされるばかりであっテ、肉ト、骨ト、臓腑にまみレ、もつレ転がる木の葉のオマエ! 倍デ、倍ノ、倍成ろうとモ、ワレワレのほうがデぇっかいのダァ!!! 結晶化した神経系、ざくり、ざくり、茨のように、魔狼の肌を櫛削る。今やよ同胞の胎の内。
上下左右を埋め尽くし、疾うに生物の形を失くし、鳥と魚と獣と蟲と、あらゆる手足が混ざ繰り合う。てらてらと光る舌と牙。ただ大口をぽっかと開けて、体表面に並ぶ無数のそれ。それと同じくらいワレワレたちが、上の半分を外気に晒し、此処の膨大地下空間を。叫び、謡い、喚いて散らし、奥へ奥へと雪崩れ続ける。何処まで在るだか知らんがシカシ、我々我へと手向かうなどト、百万光年は早いのダ!
しばし。翻弄をされる彼女の四肢が、肉壁を掴み踏み締める。開く顎がクオオ! と吠えて、神経の束が引き千切られる、縦! 振るわれた次元の大鉈。真っ正面。前面部。ワレワレのそれが潰れるように、ひしゃげ裂かれて内部を晒し、消滅の分で左右に割れた。相応に消えるワレワレたち。消えた分だけ理性が戻り、正気と狂気で反復横跳び。だがね、貴様。正気じゃ大業は出来んのよ。
ゆおおおおおおおおぉぉぉぉんんんンン…………!!!
壁が哭く。ワレワレの鬼気に中てられてか、それとも必要を悟ってか。機械仕掛けの神が呻き、何百何千何万人の、生産をされる見知らぬ『ダレカ』。ヒトの形をした肉であり、しかし確実にニンゲンである、それが即座に枯れて、朽ちる。血液を全て吸い出され、痩せた皮すら喰われて吞まれ、ただただ命を召し上げられる。誰に? ワレラに! 積んで重なるサレコウベ。喰おうと思うて喰うでなし。
肉塊の圧にひき潰されて、ベキベキと最後の悲鳴があがる。圧倒的に倫理に反し、しかしそうでも歯止めは効かぬ。ワレラは暴走状態であるです故。増殖をして削られて、減った分だけ一層増えて、そりゃあ腹も減るのだろう。許せは言わん、供養もする。自我の製造の前であろう、人形の様な彼らで在るが、気に楽という点も否定はせん。しかし決して無駄では亡イト、ワレワレが勝っテ証明シヨウ。
事実力も漲った。十二分に血を喰らい、命を喰らって膨れるワレラ。見昏だ 見昏だ 見昏だ 尖った世界、ワレワレのほうが上回ったタゾ! アメーバ状の肉肢を広げ、天井を這って床を這う。壁も伝って覆わんとして、ぶくぶくも鳴く、蛋白質と脂肪の曲線。先の彼女の人間大、今の彼女の怪獣大。手札を切ったという事なれば、たぶんで本気に嫌だったのだ、さっき仕掛けたお鍋のアレは。
ぞるりぞるりと這い寄って。ぶくぶくも鳴く、ひょうひょうも鳴く。魔狼の影をぐるりと囲む。鍋に代わって肉で蓋。全面くまなく封じてやれば、似てる結果は得られるだろて。切り札? 二枚目ってのもそうはあるまい。入れ、入れ、胃の腑の内に。譲り渡してお眠りよ。魂胆とっくに知られてようと、大鉈次元の振り回そうと、天秤は既に傾いたのだ。わかれ? わかれよ。ア キ ら め ロ。
何度も何度も吠え猛る。何度も何度も消し飛ばされて、何度、何度も増殖する。しかし恐れは残ったもので、『私』の近くが抉れて飛ぶを、見る都度で慌て動いて回る。それの僅かに波打って、肉のぬた打つその蠕動を、彼女が見たのを私が見た。追尾? 弾着観測する気? 恐れない方の『ワタシ』を無視デ! スルナ! キさマぁ! 勝つト決めたンダカラ私に勝タセロ!!!
雪崩打つ。これで仕上げと言わんがばかり、弧をば描いて円を成す。筋肉繊維の毛糸玉、或いは生きてる肉団子。或いはニンゲン山ほど潰し、圧縮したモノを球状に纏め、口だの牙だの無限に生やした厭らしき形の巨大な死人! ノマちゃんです!!! 文句あっかぁ!!? るぅおおン!!! 当然が如く撃たれる文句、最後一吠え『私』を掠め、髪の一房千切って彼方。は は は。遅かっタナァ!!!
ご っ ぐ ん
完全に覆い潰した。肉の楕円が隙間なく、埋めて魔狼の拘束をして、小さく小さく押し込める。あとはこのまま圧縮のちに、『参った』言うまで無限の隔離を! ……ヲ!? 急に手応えが無くなった。楕円の内側のワレワレが見る、自壊して溶ける彼女の姿。残った頭部が大口開いてワレワレ一体砕いて潰す。それ自体は別にいい! そっから『内部』に侵入された!? 視えるワタシは誰か! 在るか!?
彼女は『私』を観測していた。最後一撃も至近であった。で、だ。あるならばぁ!!! 巨大な死人の心臓部、接合し動く私の真上、ぶち破って突いた頭! 目玉! そうまでしてキサマ頑張るか!!! 迎撃直掩オオカミを出す、流石に質量で鎧袖一触。顎が開いて牙を見せ、彼方へと至る輝き増して、 不浄の地 螺旋の塔 悪夢の具現 尖った都市 あ。 これ ちょっと ヤバ
ごぉぐるぅあぁぁおおおおおおオオオ!!!
べち。
ぎゅぐるぎょるぎるべ! かひ!? うべべべべべべべっ!!!!?
顔面にシャケが激突した。次いで熊の額が当たり、馬だか鹿だか蹄が見えて、獅子と猛虎とガゼルとヌーと、マッコウクジラ!!! 山海の幸が怒涛に迫る。潰れ……っ!? いや、ちょ! ナンダコレ!!? もしかしなくとも逆流してる!? あっちの世界を丸ごと埋め、飽和状態のワレワレたちが!? 考えてみれば無いではない。彼女の攻め手は消滅でなく、あくまで隔離であるのであるなら。
で、彼方へと飛んだワレワレたちは、そこで増殖をし続けた。時間の流れが同じか知らん、彼方の広さも勿論知らん。しかし破綻したことは事実である。海底深くから天の頂、みっしり埋まったノマちゃんたちが! そりゃあ魔狼も目を白黒とブヘ!? 顔面にシャチが激突した。とにかくアカン、あの顎閉じろ、でなくば何れだ此方の世界まで埋まってしまう! 制御しろ? 出来たらやっとる!!!
暴猛禽ヲ殺したカイ? この腕に来イ シック・シャック コノ腕に来イ!!!
他のワレワレがゲハゲハ嗤う。埋めてしまうなら埋めてやろう。それが『私』以外のワレワレたちの、総意であるのだと言わんがばかり。ふ ざ け ん な。主体は『私』だ『私』が決める。何百何千お手々が伸びて、オイデ、オイデ、引き摺り込もう。それを全力でぶん殴った。肉塊の海を貫き渡る、がっくんがっくんと揺れる鼻づら掴む。今度こそ。すまんねアンタ。いっせーのーでぇ!!!
が っ ち ん
鼻っ面。両の手ぇ添えて真下へぎゅむり、強烈に牙を叩かせる。肉塊の波も寸断された、ぼしゅ! ぶしゅ! っと音鳴った。静まり返ったワレワレたちの、ヴー。と膨らむ不満の声。『だまらっしゃい。』声高に言う、下の目玉に目ぇ向ける。『我々の勝ちでよろしいですかね?』文句ねぇだろ言外込めて、投げ落とすそれにグゥグゥと。しばし彼女も唸りをあげて、しかし観念をしたかヴー。鳴いた。
勝った。ひしひしと湧いた実感同時、こっからどうするも頭に浮かぶ。後の始末はどうすんのよさ、膨れに膨れたワレワレとかの。首だけで喘ぐ魔狼を見、肉の天球にびっしり生えた、ワレワレを見上げ独り、言ちる。相も変わらぬ声なき声。漏れる不満はぶくぶくと鳴き、溢れ重なった獣の層を、喰らい、飲み干し、合わさり膨れ、いまや増殖を再開せんと。……した。それのところで真下が抜ける。
ごおおおおぉぉん ごおおおおぉぉん ごおおおおぉぉん
鐘を撞くように空間が、揺れて、ひび割れ渦巻きとなり、私もワレワレも魔狼の首も。ねじ曲がり、歪んで底へ呑まれるように、暗い、暗い、影の中。そういや影の女悪魔さま。最後の最後でアナタが居たか、意識と視界が暗転する。さて。
どうやって奉ろうか。




