ここから始まりここで終わります
「くふっ! くひ! ひひひ! どーーーっじゃ北のぉ!!! 力比べはわしらの勝ちじゃ! さんっざデカい胸と顔しおってからにぃ!!!」
「……いや、南の。貴様が誇るのは可笑しかろう? 私を下したは銀色のヤツ、そこの流れのチビじゃあないか。」
「ひひ! 銀色はわしの客分じゃ。つまり南の一員であり、彼奴の勝ったはわしらの勝ちよ。さーぁさぁさぁ腹か!? 肝か!? 北の頭のケジメば魅せい!!!」
ヤクザか。南の親分褐色肌と、北の親分黒衣のそれと、クモとバッタとをじろじろ見る。何処がとは敢えて言うでもないが……。まぁ、うん。勝てんわなぁ。ふへ。漏れる変な笑い。
顔面にクモの蹴りが刺さった。
さて、先の一騎打ち。それが終わってどれだけ経って、お天道様のどこを知るでも無いが、とりあえず非常にごちゃついていた。地下の不明の大空洞で。位置は道中やや戻り、畏れるとべきを浴びない程度、ちょっと煮炊きもしたりして。おでこに空いた穴を撫で、炒って潰したカボチャの種の、お茶を啜って一息つく。『心臓じゃー!』『心臓かー。』ケジメ案件アステカ仕草、動脈損壊聞きたくねぇなぁ。
とまれ、ごちゃついているのである。お湯呑も一つクピりやる。まずは化生の娘らが居て、南の四体北の五体、揃ってスーパー姦しい。ちなみに四肢と胴体の欠落部位は、マガグモの糸でぐるぐる巻きに、粘性で以ってくっ付けていた。破損も現在進行形。身体の造りがすげー雑。まー、人様を言えた義理じゃあ無いが。クピり。一方そちら真反対。他の皆さんも全員います。居ます。ごちゃつき以下を略。
「魔王様! 御無事で! 御無事であらせられますか!!?」
「……む? ……うむ。……南の、辺境伯の嬢ちゃんかぃ。化け物どもは……、おまえ、どうした?」
「退けました! このサタナチアの指揮の元、陛下をお救い申したのです! ですので何卒! 我が辺境伯領とこのわたくしを、何卒! 何卒! 何卒! 是非に今後ともご贔屓へぶっはぁ!!?」
「やっかましいっ!!! この非常時に! おばあ様がお疲れだろうが!!!」
しかし略でもまぁ騒ましく、口角泡飛び蛮族娘、あっちもあっちでド突かれド突き。『フレルティ、ババァを年寄りと舐めんでね!』元娘さんがぴしゃりと締めた。矍鑠としてらっしゃるなぁ。とはいえとてとて理不尽だけど。あとはオーク、ゴブリンの雇われ娘、地上との繋ぎで魔将の女性、以上デーモン一式である。兵は不在。私にくっ付いてきたお人だけ。なんでって? そりゃあ上まで行ったので。
喧々諤々丁々発止。すったもんだがあったんですよ、さっきあの後の前も、後も。具体的には直後の短期的滞在場所。それを下に留まるか、上に戻るかで若干揉めた。此処は本能で危険である。しかし意識の無い御老人を、迂闊で動かして平気なものか、しかもダンジョン縦横に。と、いうか化け物地上に置いとけねぇし。そうというわけで暫定案。私が上まで行きましたのだ、鰭と尻尾をべちべちしつつ。
こーれがまた大変だった。ゴギーの嬢ちゃんにくらった毒、それが身体から中々抜けず、あっちこっち捥げて崩壊するのだ。その度に身体を増設する。サルの頭を生やしたり、タヌキの胴を増やしたり、トラの手足と尾っぽのヘビと、なんせ再生が効かないもので。ともあれそんな図体使う。せっせと戻って小道で詰まる。ごり押し最強どすこい! をする。捥げる。増やす。地上に顔出すスゴイ・キマイラ。
したら上も大変だった。顧みてみればデーモン兵と、魔王都到着の私たち。不幸にも成った小競り合い。ダーク・お昼ご飯未遂事件。魔王城マッハ攻略をして、バッタ軍団の横やりを受け、王都上空スーパー蝗害大戦祭り。大変ご迷惑をお掛けしました! で、そこまでは一応よいのである。よくねぇけど。ゴギーの嬢ちゃんが敗北かまし、統制を欠いたバッタの群れは、雲散。既に霧消でありましたので。
あとは散った方々の自然の中の、淘汰圧の中で減っていくはず。そうなって下さいお願いします。ただし指揮官鬼だけは粘ったらしい。大猿のような猩々バッタ、孤軍奮闘玉砕の跡、微妙にちょびっと齧られてるし。別に美味しくはなかったようだ。んで。そうという事になるとである。地上に残ったのは化け物組と、クラキさんはじめ人形組と、フルートちゃん及び銀の軍勢。そして魔王都防衛の兵士たち。
どうでしょう。お分かり頂けましたでしょうか。横の連携のコの字もねぇのが。兵士諸兄ならび一般市民、蛮族皆さんの御目からすれば、化け物同士の縄張り合戦。それが終わっただけの話である。あとに残るは化け物と、バケモンみたいな人形たちと、ほぼほぼバケモンの銀の軍勢。ついでに中央都心の広場、くそデカクラゲもぶち立ってるし。魔王城くらいでけぇヤツ。最早どうとは皆まで言うまい。
当然第三者様の視点において、なんか国家存亡の危機である。すげぇめたくそ唐突に。至急、執られる迎撃の指揮、魔将の皆さん中核とした、臨時編成の決死部隊! それがクラゲにぶち当たる。物理的にこうカチンとなって、化生娘らが牙を剥く。加えて『無断で勝手をするな!』、フルートちゃん及び軍勢たちも、そうと介入しシッチャカメッチャカ。これを平易に言い表そう。オール怪獣総進撃と。
あっちでドカン! こっちでドカン! 槍の羽根がばらまかれ、デーモン兵たちが奮戦し、銀のコウモリその他が舞って、光る、回る、巨大クラゲがフィーバー状態。カオス。家々を壊す流れ弾、バッタの死骸も掻き分けて、一般市民が家財を抱え、一族郎党大脱出行。自衛隊は助けにこない。そこに顔出すスゴイ・キマイラ。帰りてえ。人形娘らの修理済、クラキさん組の傍観見つけ。這い寄るべちべち。
「クラキさん! ちょっと、クラキさーん! 見てないで!? あっちのアレを鎮めれますさ! 非殺傷でなんか有るでしょほらさ!? いい感じに!!!」
「……なによ? まーた巫山戯た格好をして。混ざったらアンタ怒るでしょう?」
「一緒で暴れてどーすんですか!? んもー! とりあえず拝見しますよ!!!」
城の裏手の隅っこ暮らし、顔出しポイントすぐの傍。尻尾代わりのヘビ伸ばし、人形使いをとっ捕まえて、逆さまに振ってシャカシャカやる。『こらー! リンになにすんだ!?』ティミー嬢はじめ人形娘、剣と抗議が振りかぶられる。蠍ボディーは乗り捨て済の。んでも忙しいんで後ね! 後! 物理で刺さった抗議に併せ、ダボつく袖からガシャガシャ落ちる。落ちる、一際デカい奴。むむ?
「なんですこれ? 達磨ストーブのオバケみたいな。」
「変圧器。」
「貰います! クラキさんはこいつの操作を!」
「は?」
有無を言わさず背ビレの上に、ぼすん! 放って一台一人。短絡的とは後で聞こう。聞くので後追う人形乗せて、繰り返す更に自壊と増殖。アンコウボディーを下地とし、サルの頭とタヌキの胴と、トラの手足と尾っぽのヘビに、メガトンウナギを増設どーん!!! なんだかわからないナニカになった。後はそのまま景気つけ、勢いそのまま爆走します。上の煩いも後々後よ!!! 忙しいんでっ!!!
城の外縁を回り込む。ゴメンクダサイ! と咆哮しつつ、デーモン・緊急野戦対策室。なんかそれっぽい陣もメキョリといって、御免を勝手に頂き候。……わざとじゃない。そのまま銀のサソリに猪パンダ、うちの子ばっか! を跳ね飛ばしつつ、『私』へ回収しクラゲの元へ。うーん派手に暴れてやがる。羽根だの霧だの氷だの、滅多矢鱈の流れ弾。混じって流れ大質量も。ホオジロザメが真横に落ちた。
「ノマさまーっ! 申し訳ございません! ノマさま無断の奴らの勝手、すぐに成! 敗! 致しますので!!!」
「いやちょっと!? それの被害がすげーんですよ! いったん預けてた分を引っ込めなさい!?」
「角付きは味方でございませぬっ!!!」
「そーいう問題じゃねーんです! ともあれちょっとビリっとですよ! クラキさん準備よろしいですね!?」
「わたし電撃って嫌なんだけど。」
サメから飛び出しフルートちゃん。そこに自重! と叱責飛ばし、背中に確認合図を送る。不服そうだけどたぶんヨシ! 人形娘らも文句は言う。主の仕切りには従い動く。がっちこん! ストーブモドキが展開された。こいつでウナギの電圧下げて、なんかいい感じにすげー制圧するのだ。たぶん。迅速確実丁寧に、安全安心非殺傷。私を信じる私を信じろ多分いけるって明日の為に! 緊急発進!
いまの私の魚体の背中、背負った感じの増設部分、ウナギがパリパリ帯電する。そこにストーブぶっ刺され、使い方ぁ!? と思いはしつつ、即断即決ぶっ体当たり、根本飛び込んでクラゲにどぱん! 目も眩むくらい火花が散った。紫電が下から頭上へと、魔王城ぐらいクソデカクラゲ、太陽を隠す笠の部分。そいつが派手にビカビカ光り、弾けて散体滂沱の雨に、帯電したまま国中に。国中に!?
あ、水の娘がのびたなコレ。上に残っていた化け物組、展開していた銀の軍勢、まとめて硬直し落ちてくる。地上被害のそいつの前に、軍勢連中は解体吸収。他の皆さんは積み込んで、ひっくり返ったフルートちゃんも。んじゃあそうなんでお邪魔しました! マジでお邪魔この上ない。ウナギの脂肪の絶縁体、それで守っていた背中を除き、見渡す一帯被害が大。ぶっ倒れ。将兵市民、分け隔てなく。
「逃げます。」
「逃げんな!?」
「おいてくなぁ!?」
私の背ビレの影辺り、絶縁体であるウナギの下で、急に響いた知ってる声。オーク娘とゴブリン娘、サタナチア嬢の雇われ二人、どうやらしがみ付いていたらしい。いつの間に。曰く、避難誘導をしていたと。そしたら爆走ワタシを見つけ、こんな所で置いてけぼりは、何を言われたかわかったもんじゃ! 走って走って飛び乗った、と。なるほど。ついでに魔将の女性もいる。ブチ切れてはる。妥当。怖。
『逃すか貴様ぁ!!! 陛下とフレルティを何処へやった!!?』そうと私に剣を立て、『だから連れてってやろうツってんですよぉ!!!』そうと勢いで私も返す。たぶんおそらく邪悪じゃない。それも主張し右回頭し、予定のとおりの収容者。乗っけてついでのオマケも乗っけ、物理的静か他皆さんの、目の覚める前で脱兎が如く。逃走! お詫びまた会う日まで。お城裏側へ回送キマイラ。
んで。だばだば地下へ飛び込んで、キティー製地図を参照しつつ、戻ってきたからこうなんですよ。語る時間も舞い戻る。おわかりですか? 茶も振る舞って。元のおチビに縮んだ私。許してくれとは言わんけど。割と皆さん煤塗れだし、フルートちゃんはめそめそするし。横でドリルもぎゃりんぎゃりん。焦げ人形。三体じりじり私に迫る。クラキさんは? 止める気ねーな。許せと言わんといったけど!
「ああぁなんたるっ!!! このフルート吹き! ノマ様の御心に叶わぬなどと!!!」
「いや、さっきはまぁ言いましたけど、やれるだけの事はやりましたって。いいからお顔、お上げなさい?」
「なー、なー、なー。田舎娘さぁ。さっき、後って言ったよなー? リンとボクらに後々後って、なー? 言ったよなー?」
「いや、さっきはまぁ言いましたけど、やれるだけの事ことはやったというか。ですね? ほら。ですんでそちら物騒とかね? お下げ貰えると出来ればこうね?」
「んじゃー、オマエ。その前で上から降ってきて、ボクらに当たって爆ぜさせたヤツ。」
「はい。」
「あっちの分は?」
「よかろう来いやぁぁっ!!!」
顔面ドリル。以下を略。
「……えー。それでは禊も済みましたんで、こっからどうするをそろそろですね? 決めさせて頂きたいとー。はい。そういうの思うんですけどもー。」
ホントにな。乱痴気騒ぎの済んだ後、おでこに空いた穴を撫で。円陣と呼べぬバラバラ程度、顔を突き合わせます多様性。富み過ぎていて纏まり無いが。王国組と人形組、蛮族組と化け物組。更にその中で所属だなんだ、仲の良し悪しごちゃついてるし。ぐびーっ。木彫りのお湯呑地べた上、剥き出しの岩のそれに置く。まぁ、ともあれ実際アレで、決めるもなんも無いのである。私の腹は決まっているのだ。
過日約定に従いまして、この奥扉の先へ行く。『機械仕掛けの神』。遊戯盤であるこの惑星の、制御の為の舞台の装置。アレだけヤバげな雰囲気だして、ハズレですっても無かろうて。つまり、付いて来るのか来ないのか。問うをさせて頂きたいと、選んで欲しい択はそちらであった。ゼリグとキティーも同様に。来いとも否とも私は言えぬ、言うに足るだけの根拠が無い。本音で言えば、一人は嫌だが。
「命じる責任は取りたくない。できたら自分で選んで欲しい。そーいう顔、してるわね?」
「……ちょっと言い方が悪し様では?」
「此処まで引っ張ったならアナタのせいよ。大人しく責は被りなさいな。」
「むぬー。」
半端に広がるヒトの輪と、ヒトで無い輪から一歩を踏んで、歩み出てきた最初の一人。キティーがそうと宣った。『ん? んだよ? そーいうハナシ?』次いでゼリグも一歩を踏んで、私の隣、通って過ぎる。二人並んで『こっち側』。損得勘定打算抜き。『ノ、ノマさまー! 私も! 私もっ!』ちょっとお鼻にツーンとくるぜ。あ、もちろんフルートちゃんもね。浸って破顔、にへらと笑う。
「てーかそもそも仕事でさ? 姫さんから金は貰ってんだろ。」
「うーん、もーちょっと浸らせて欲しかったっすねー。」
「へっへっへ。まぁ、べつに冒険は嫌いじゃない。」
わしっと頭をモシモシされる、悪かぁないね、鼻鳴らす。悪くないんでどうされますと、聞いて回って目の合うお次。例えば、クラキの嬢ちゃんとか。どうします? 来いって言えば? そこの自主性は尊重で。こんなやり取り見えとるなぁと、優柔不断、二の足踏んだ。手札の一枚としちゃ来て欲しい。外に置いとくと揉めそうだしさ、イラっときたからブッ転がした。そういうアレは、なんだ、困る。
「……なによ? 来いって言ったらいいでしょう? さっきのキティーのとおりだけれど、こんなところで気を遣われて、置いてかれるほうが迷惑なわけ。それがわかったら……。だから、なによ?」
「……え? あ、いえ。なんか意外と……、呼び捨てってするんだなって。」
「けっこうお茶とか一緒にするわよ。」
いつの間に。それを噛んで飲み干すうちに、クラキさんも移動こっちの側へ。と、くればそれで意思決定。人形娘らも追随し、あっかんべェしたりガるる! としたり、すれ違いでめっちゃ威嚇をされる。仲よくしよぜ? やらかすの最近わたしが先だが。ともあれこれで『ノマぁ! さっさとワシらにも声を掛けぇ!』おう、意外なところで乗り気の声。マガグモか。もう関係を無いを気取るかと。
「くかか! 祭壇のカタキは討たせて貰ろうた。ぬしの目的が何だか知らんが、それに付き合って貸し借り無しよ! ほかの皆にも文句は言わせん。」
「いや。言うぞ? 南の。わたしはあすこに近づきたくない。」
「ゴギー! 負ぁけた者がたわけを言うな! わしらが上、ぬしらが下じゃ。ノマもなんぞ言うてやれい!」
「えー。それじゃあですね、とりあえずその……。乳房と肋骨を仕舞って欲しいと……。」
出っぱなしだし。心臓ぶっちぎったその後が。見ると痛いと苦言を呈し、それに対して『見てんじゃねー』。そんな感じの目を向けつつも、蟲の娘がバコンと閉じる。胸郭を。いいんかそれで? ヒトの事とかまったく言えんが。さておき『それ』も手打ちであると、呑んだか以上の文句でず。北の親分と南の親分。揃ったんならば他も否やは言わず、あーだこーだとやんやは挙がる。掛ける七。お静かに。
「ひゅひ、ひぃ。どーも気は進まんな。尋常ならざるが渦巻いておる。」
「かっ! しかしヤマヂチよぅ。銀色のヤツの手前があるし、借りのままでは我らの恥ぞ。」
「アチキはノマ様に従うぞー!!!」
「なぁ? わたし本当にイヤなんだが?」
「負けたんだからしょーがあるまい。ふは! それに、地下の遺物には興味がある。」
「って、いうかっしょ? そもそもなーんで喧嘩してっけ?」
「みなみの……。ペグがさいだんこわしたから。」
「わ、ワタシじゃないぞ!? 御使いサマの……! ほらぁ!? だってワタシじゃないし!?」
ごちゃごちゃ一遍しゃべんでねー! 誰がなに言ってっかわっかんねえし、しかもなんか八つだし。とりあえず布を放ってやる。みんなでそこにゴソゴソ入る。『化け物に詳しいダイダラさん』。スーパー究極完全体。だいたい当初の二倍になった、御家の天井の二階くらい。でけぇ。んじゃー、これで宜しいですね? でっかいと邪魔で退いてを貰い、あとはどうする作戦会議。『待ちな。』なにか?
「地下だろうと迷宮だろうと、此処の大地はうちのシマでね、化け物。この老いぼれの目のある内は、勝手を慎んでもらおうかい。」
「では、魔王ザガンさま。勝手なこちらと成らないように、その辺の許可を頂けますと?」
「しらん。役所いって手続きしな。そーいうのは文官に任せてある。」
「地上シッチャカメッチャカなんですけども。」
「んじゃー! ダメだね!!!」
「そこをどーにか!?」
「だったら力尽くで攫っていきなぁ!!!」
矍鑠としたヤギ角老婆。北の蛮族デーモンたちの、頂点に立った魔王さま。それなお方がそう仰って、カツン! 杖も突き立ち吠える。……攫われ芸? すげー角度でひん曲がった。話が。蛮族組の残りの五人、お嬢さんズにも目配せする。元お嬢さんはこう仰るが、そこらへん正味実際どうよ? サタナチア嬢が首を振り、雇われ二名も顔見合わせて、魔将お姉さんは頭を抱え。最後、一名すっくと前に。
要塞の守将フレルティ嬢。お孫さんである。
「おい、銀色。いかなお祖母様とて、勝手な裁量で許可は出せん。だから貴様らが責負う上で、『勝手』をしろと。そう言外で仰られるのだ。」
「それって後々こっちが不利では?」
「それも狙いだ。」
「おのれタヌキめ。」
お孫さん。ツカツカ歩いてヒソヒソをする。『ダイダラさん』をすげー警戒しつつ。しかしこっちもキティーの手前、あっさり迂闊でハイとは言えぬ。政治というヤツは難しいのだ。こっちは命の恩人ですよ? それに戦力の差も一目瞭然。おわかりか? それを伝えてとヒソヒソ返し、お孫さんの背がツカツカ戻る。お祖母ちゃんのとこでヒソヒソ伝。本音、建前、表向き。政治というヤツは面倒なのだ。
「はん! ガキみたいなことお言いでないよ! それはそれ、これはこれ!」
「正論パンチやめてください。」
カツン! 杖も一緒にまた吠えた。ええい手ごわい婆さんだな! こっちもあまりぐずぐず出来ず、急がねばならん事情があるのに! 具体的には『ダイダラさん』、それとティミー嬢たち人形組が、なんかめんどくせーならぶっ殺そうぜ! そんな感じでゆらゆらしとる。事実そうだが人でなし。またもなんやか揉めだす前で、最後一組もケリつけたいが。うぬ。目配せる。キティー先生なんかない?
「まったく……。失礼! 陛下。人族、『王国の』キルエリッヒでございます。」
「あん? 角無しは引っ込んでな。いまは小娘はお呼びで無いよ。」
「いいえ、いいえ。陛下。此度の件、私が一任をされております故に。」
「……キサマの子飼いだ? ……南の角無しの差し金かい。」
「御意に。」
「……ふん! 面倒だね。……いいだろう。いいからさっさと攫っていきな。」
なにがいいのかわからんが。しかし、話は纏まったようであるらしい。なんかこれって状況変わった? ふむ。そういえば魔王お婆ちゃん、なんで私らがそもそも来たか、そこの背景を知らんのか。お孫さんの仕掛けた反乱である。そうと最初は思ったようだし。よって南の王国の影チラつかせ、人族の意志有りと牽制する。お婆ちゃんは手札を持つが、それを強くは行使をしづらい。多分そう。知らんけど。
んじゃー、これでようやく終わり。人族人形化け物蛮族、意思の決定が全完了。今さらどうこうと文句は出るまい。『お祖母さま! おひとりで等と危険が過ぎます!』『そのとおりです! 陛下! 妙な前例は困ります!』出てたわ。フレルティ嬢と魔将の女性、しかも後者は切実なヤツ。ちなみにサタナチア嬢は立ち回り、自身のそれ決めでキョロキョロしてる。あ、お友達側にくっ付いた。うむ。無難。
「っち、どいつもこいつも面倒だね。だったらフレルティ! そこの、辺境伯の娘といっしょに来な。手前の持ち込んだ面倒事だ、手前自身でケツ拭くんだよ。」
「ですので陛下! このような前例は……!」
「ウェパル、おまえは後詰だ。そこの雇われ者の二人も残す。地上に繋いで、ここに陣地を構築しときな。」
「……しかし!」
「二度は言わん。」
『……御意に。』こちらにも、絞り出すような声が僅かに届いた。こえーな婆さん。将来うちのお姫さんもこうなりそうだ。まぁ、さっきのヒソヒソを思ってみるに、孫のほうは織り込み済みだったようではあるが。なおお友達は後ろに立って、『え? 私も?』ってキョロキョロ継続。点数稼ぎにはなるだろし。魔王のお付きは恐悦至極。そうと思っといて前向いといて。な? 衛生上で、精神とかの。
んじゃー、です。んじゃー、これで今度こそ! 割り振り行き先取り決め終わり! みんなの配置を全完了! あとは、鬼が出るか蛇が出るか。戦闘要員は多めにいるし、いざ! があったなら引いて貰おう。私残してしんがりに。ですんで速やか撤収用。後詰の要るのは私も同意。死んだら死ぬヒトの安全とかね? バルバラ嬢とリーナ嬢、それから魔将のウェパルさん。その辺いい感じでお願いします。
「よろしくなー、魔将サマ。ついでに領主サマの件も頼んでいいか? うちのさぁ、口利きとか。」
「なんだコイツら。」
「なんでも売る、なんでも買う、マイドドーモ! リーナゴブリン商会の予定です。うへへ、姉御ぉ。地上の復興の資材の調達、ベンキョーをさせて頂きまっせ。」
「なんだコイツら!?」
そんじゃヨロシクお願いします。任せていいんかちょい不安だが。前を向く。恐々見る。いよいよとうとう此処まで来たが、そうと大人しく『獲らせて』くれるか? 獲ったら獲ったで後が怖い。獲らなきゃ獲らんで後も怖い。雇われのツライところである。『機械仕掛けの神』かー……。劇を強引で終わらせる、演出の為の舞台の装置。転じて、それはご都合主義。……誰の都合? 頭を振った。
仕様なし。敢えて、口にも出すまいて。とまれ行くのと決まったもので、やるならさっさで終わらせましょか。だって行くのと決めたのだから。のっしのっしと前に出る。魔王お婆ちゃんの手を持ちグイと。『では、御無礼をさせて頂きます。』『エスコートの作法が成っておらん。』『攫うの立て付けは守りましょうよ。』構わず引っ張るグイグイグイ。一歩足を踏み出す毎の、俗世を遠ざける奇妙な感覚。
……から、『転げ落ちる』のほうが近いかな。
それじゃあこれから団子になって、ともに転がって参りましょう。デーモンお嬢さんお二人組も、お婆ちゃんに付いておっかなびっくり。ゼリグとキティーとフルートちゃん、人形化け物蛮族組と、あと私。総勢二十名の団子である。コッチに来てから長くはないが、大勢出会ったもんだなと。だからなー。やっぱりなー。……滅びに繋がらぬ平和が欲しいな。気分よく、私がのうのうと飯を食む為の。
ぞろぞろ一団が動き出す。残す三人に手なんて振って、先頭に立ったゼリグの方へ。お婆ちゃんの御手はもうよいね? 後ろ、お孫さんのそっちへ預けた。取りの敢えずは件の門、そこの不穏までは知ったるもの。すいすいと皆を追い抜いてゆき、ちょうどキティーの真横に付いて、ふと、思い出すアレを話題に挙げる。地上部分の暫定墳墓。そこに立っていた碑文のこと。読めたよね? 故人は、なんて?
「……ああ、アレね? たった短い一文だけだし、べつに、面白いようなものじゃあ無かったわよ? ……そう。面白いようなものじゃあ、ね……。」
『ここから始まりここで終わります。』




