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異世界転移のバツバツさん  作者: カボチャ
151/152

深海魚は雨を知らない

本作はグロテスクな表現を含みます

「あー。今更で言うもなんなんですが、べつに、上で待ってもらったったって良かったんじゃあ?」



 んだ。



「嫌よ、強襲きょうしゅうでも受けちゃ死ぬでしょう? 此処ここまで来たんなら守ってちょうだい。」


「ごもっとも。うけたまわりです。」



 遊戯げいむでいうところ中ボス戦。それを退しりぞけ穴へともぐり、坑道こうどうとも呼べぬせまいを抜けて、曲がってくねって真下ましたへと。降りて立ったのは広い空間。鍾乳洞しょうにゅうどう? 溶岩洞ようがんどう? 素人しろうとさんにゃあわかりはせん。が、ともあれ上のそれとは違う、ナニカであることは事実じじつであった。『ヒトの手が入っていない』。天然自然の形を残す……。あるいは、枯れた地下水脈か。遠くの羽音はおと、蟲のそれ。


 ふーむ……。居るな、此処ここか、何処どこだか知らんが。いちおうクルリ振り向いて、ゼリグ、マガグモ、キティーとそれと、へたばりデーモンお嬢様。後者二人にこえけをして、返ってきたのは同行のむね。サタナチア嬢はたましい出てる。けども、そうならお願いします。どっち行くだかわからんし。見識けんしきあるくみの意見は欲しい。わたし暴力しか出来んので。下を見る。わずかな傾斜けいしゃ。さて、ならばのぼるかくだるか。



「よし。んじゃー、行きますか。ほらぁ、サタナチアさん起きて、起きて。フレルティ(お友だち)さんと魔王様(スポンサー)、どっちもお助けにゆくんでしょう?」


「ぜぃ……、ぜひぃ……。お前……、なんぞにぃ、言われずともぉ……! ぜひ……。辺境伯へんきょうはくだましいを、めんじゃねぇぇ……!!!」


「その意気いきです! いっしょに無限むげんに頑張りましょう!」



 ぐしゃり。崩れ落ちて静かになった。そういや無理か、生者せいじゃ無限むげんは。そのあたりちょっと忘れてた。では、それはさて置いてどうしたものか。上を見る。天井はかなり高い。繰り返しになるが横も広い。整っていない岩肌いわはだがあり、それが似たように延々(えんえん)続く。うーん。りのえずは歩いてみます? 蜘蛛くももそれなうしろに付く。うろうろする。あっちこっちあっちこっち。うろうろすんな。怒られた。


 ゼリグ、キティーと限界娘サタナチアいわ痕跡こんせきを探すらしい。底面ていめんに薄くあくたの積もる、大型動物もニンゲンも、明らか出入でいりの無かった場所。そこを彼女ら(さがしもの)敗残はいざんの身で、うのていで逃げたのだ。ならば足のわだちが残る。言われてもみりゃあ当然であり、よって私もきょろつく所存しょぞん。『あ? ニンゲン、なんじゃその言いぐさは。喧嘩けんか振ろうってならろうてやるぞ。』マガグモ、ステイ。


 どう、どう、どう。人参にんじんたべる? 殴られた。それはそれとして足元あしもと見つつ、今度はれっきと目的を持ち、みだされたちりのそれをば探す。すろすろとく、めつ、すがめつ。すろすろすろ、すろすろすろ。うん。無理だってこれわっかんねぇ。『おーい、あったぞ。』すげーなオイ。声を上げたのはサタナチア嬢。言われその場所へみんなでつどい、ひょいっとのぞいて小首をかしげ。うーん? 多い。多くない?



「あー、めっちゃくちゃだな。踏み荒らしていきやがったか。」


「……あしのつもりかしら? あ、ここ。踏み切ったわね。」


ばれたな。四方に散るぞ。人族、お前たちは下流かりゅうを頼む。」


「すいません解説かいせつってお願いできます?」



 疎外そがいかんからツッコんで、ゼリグ、キティーと復活娘サタナチアいわ攪乱かくらんのそれであるらしい。野生動物が足跡あしあとを、追跡ついせきかわすその目的で、んで戻って遠くへぶ。それになんとなく似てるんだとか。ほーん? そうか、そういうものか。兎角とかくそうと決まったもので、皆様みなさまそれぞれ方向を決め、円を広げるようにして。ぐるぐる探す。ぐるこんぐるこん。『お? くひひ! あったぞニンゲン!』マガグモの喜色きしょくの声。


 何処どこぞやら知らんだい空洞くうどう。の、くだんわずかな傾斜けいしゃの中で、『見た』は上流じょうりゅういわゆる上手かみて。んじゃー、アレか。探すならソッチのアレか。ふわふわである。ご指示をください。『それじゃノマちゃんはあっちの方ね。』『わしは?』『アンタも。』『任せておけい!』蜘蛛くもの機嫌も治ったらしい。何時いつものことながら締まらんな。わしが見つける! と気炎きえんを吐いて、わたし捨て置いてどったんばったん。お子様か。


 あった! ない。そっちかよ!? 探す阿呆あほうと見る阿呆あほう。しかし別段べつだんおどるで無しに、跳躍ちょうやくあと辿たどって歩く。なぞな地下道をのぼりつつ。上で見かけたかつての未来みらい直上ちょくじょうまで掘った誰かの骨も、果たして、此処ここを見たのだろうか。作為さくいがあったかはわからない。が、近づいたことは事実である。あるいは『掘り当ててしまった』のか。……ひどく、寒いような感じがした。五感ごかんとは違うだい六感ろっかんとおかぜなげこえ



 ひょーう。ひょーう。ひょーう。



「……正体不明トラツグミ。……なんつってな。」


「なんじゃ? ノマ。なんかうたか?」


「いえ。なにも? ……空気の流れがありますから、閉鎖空間じゃないんだなぁと。」


「ふぅん。瘴気しょうきまりは確かに無いの。ヘェサの何がどうだか知らんが。」



 さかのぼる。さかのぼる。さかのぼる。さかのぼる。次第しだいに空気が重くなり、みな口数くちかずも減ってきた。やっぱりな。この場所な。なんか、ナンカ、フツウじゃない。霊山れいざんのようなおそれがある。あるいは危険に近づくという、動物としての忌避きひがそうさせるのか。風にじった反響はんきょうおん。チック、タック、時計のそれ。断言だんげんさせて? ろくでもねぇ。お嬢さんがたに目を向ける。大なり小なりは感じるようで、次第しだい足取あしどりも揺揺ようようなった。



「……おい、蜘蛛くも。」


「……なんじゃ、ニンゲンモドキ。」


「モドキとか言うんじゃねえ。今度こそ……、ほら? 迷宮だろ?」


阿呆あほう。こんな冷たい……、刺すようなご加護かごがあるか。」



 次に見つけた着地ちゃくちあと。なんとなく、そこでだれともなしに足を止め、波及はきゅうしてそれが輪留わどめとなった。だれことに上げるで無い。が、たぶん全員が同じである。先に進むかを迷っているのだ。何故? 不安だから。何に対し? 正体不明。いて言うなれば未知みちへの恐怖か。ぐるり、まなこを一周見る。困惑こんわくおびえ、疲労ひろういらち。それを差し置いて一歩踏む。待ってます? めんじゃねーと、異口いく同音どうおん


 そうという事になりまして。そうという事になったので。よって皆さん引き連れまして、おだんのようにのてのて進む。五人いつつ、並んでらさない。ちょうど相手あいてらないようで……、気力きりょくとか。此処ここらでねるのをめていた。コッチものてのてアッチものてのて。あしりも重くって、蛇行だこうするあとし……。ようのやっとでまり。来た。見た。いまからぁつ!



「まぁったく! ほんっとお手間てまかけさせやがる、ますね? こら。ムシムシさん。」


「……ああ。……そうだな。」


「……なんですそりゃ? もうちっとこう……、あるもんでしょう? 『此処ココ貴様キサマホロビレロ!』とか。」


「……ああ。」



 りが悪い。まぁ、言うて私も口先くちさきだけで、られても正味しょうみ後ろが困る。『左様で。』口内こうないで小さく返した。行き止まり。吹き溜まり。むしむすめとなんやかその他、目の前にして両手を広げ、背後から来る団子(四人)を制す。なんとも、光景こうけい奇妙きみょうであった。不気味ぶきみ怪々(かいかい)だい回廊かいろう。そこの終端しゅうたんの扉の前で、何をするというわけでなく。分厚い無骨な金属きんぞく目にし、ただ、立ち尽くすだけの誘拐バッタ(おじょうさん)。追い詰めました。


 ……の、わりにゃ? 感じ、窮鼠きゅうそじゃねえな。そばには逃げ去った悪い子ちゃんの、踏んで地団太じだんだ元気な方。それと近くのいわの影に、してもの言わぬかげ三つ。フレルティ嬢と魔王様おばあちゃん。一瞬ざわりと総毛そうけち、胸の上下じょうげの確認をして、激発げきはつほこはいったんおさめた。いずれ、老骨ろうこつにゃあ無体むたいである。残る一つは両手足、失ったままの球根ちゃんで、どうやらちから尽きたらしい。身を投げ出す。冷たく硬い、岩のはだ


 ……よだれらして爆睡ばくすいしていた。回復かいふく中。……いや、まぁ、いいけどさ?



「ゴギー! ちょっと! なんでっしょ!!? そこ! まえ! 入っちゃったなら勝ちっしょ勝ちぃ!!?」


「……いやだ。近づきたくない。」


「だーかーらっ! 銀バカのやつが来てるっしょホラぁ!!!」


「銀バカて。」



 気を取り直して落ち着いて、やり取りを聞いてツッコミ入れる。どうも怖気おじけが付いちゃった? オウド・ゴギー。北の化生けしょうの親分(づと)め、ドが付く迷惑めいわくけになって、ここに来てみょう神妙しんみょうである。それにごうやしたか、親分のとなり手のむすめ。再びあらわす巨大なお手々(てて)、左右のそいつをがっちんこ! して、ぶくり、ふくらせつぼみを作る。そこを親分に制された。ゆっくりとこちら向いたかおかんばせあおかげりのいろも。



「……銀色。お前も、『これ』を求めたのだろう? 教えろ……。なんだ? 『コレ』は?」


りません。」


「ならばっ! 何故なぜこんなにも恐ろしい!? お前もハリルも、何故なぜこんなモノを知っているのだ!?」


「だから、別にりませんって。」



 微妙びみょううそは言っていない。ヒトづてに聞いただけですもので。左右後方をちらちら見れば、こちらの四人も個人差あれど、がたいというはどうにも同じ。露骨ろこつに顔をしかめていた。手の娘(ロング・アーム)威嚇いかくの分、フシャー! のそれも含めるとする。サタナチア嬢はれず、ゼリグ、マガグモもさわりが見えて、特にキティーが青息あおいき吐息といき悪心おしんを覚えたか口元()さえ、ひざをつくような有様ありさまで。少しね、みんな休ませないとか。



「では、さて。……此処ここは、ゆずっていただけることでよろしいわけで?」


「……条件がある。」


「……なにか?」


「負けることに納得させろ。」



 ぎちん! ひるがえる大きなかま。死神・サンのそれでは無しに、蟷螂かまきりっぽいギバギバである。それが両腕先端(せんたん)えて、びて大見得おおみえを切り、いで四枚(ふる)えるつばさ。『一騎打ちです?』『一鬼打ちだ。』おっしゃってやろーじゃねーのサあんた。手出し無用むよう宣言せんげんし、だれにとも無しにかたって聞かせ、邪魔じゃましちゃタイマン遺恨いこんが残る。『お前さぁ、けっこう育ち悪いよな。』うるへー。赤毛ゼリグの言い分黙殺(だまころ)です。


 互い、一歩いっぽ前に出る。ついででふところあさってみるが、生憎あいにくコインは見当たらなかった。決闘けっとうとくれば合図あいずがね? 荒野こうやならうはまたの機会で。二歩、三歩、構え、ふんす。『……マガグモ、なんかこーいうの作法さほうてあります?』『知らん。ってめしゃあ喧嘩けんかは勝ちじゃ。』おーけーとってもわかりやすい。礼を言う。互いの一挙いっきょしゅ一投いっとうそくを、ムシムシ女とじろじろする。しずく天井てんじょうのそれが一滴いってき落ちた。



 ぽちゃん。



 転倒てんとう。なに? 突然とつぜん足を払われた。私は視線を外していない。なのに、やつが消え去ったのだ。横槍よこやりを受けた可能性。ぎょろり目玉めだまを動かし見るが、あちら、お仲間は後方こうほうまもづらのまま。超高速? 知覚と注意の落とし穴(みえないゴリラ)? にもかくにも起き上がる。出来ていないのをようやく気付く。『右のひざから先が無い』。しになった肉と骨。流れ出すあかは半透明。色のあでやかべにでなし、それを失ったくろでなし。


 って、いうかなんかえんがあしが!? それを考えるいとまも無しに、今度は支えの右腕みぎうで斬られ、すってん! 再び姿勢しせいを崩す。ど畜生。溶血ようけつせいの出血毒? 私の再生を阻害そがいするのか。たぶん代謝たいしゃにゃ時間が掛かる、ええいどうにもめんどい真似を!前方ぜんぽうの元の位置、高速振動(つばさ)を広げ、舞い戻る視野しやへムシムシ女。おとも無し。そうかと思えばあとからきた。空気のかべつらぬおん。超高速! 衝撃の波(そにっくぶーむ)でぶっ飛びおもう。



「くく! どうだ? 銀色? くびを落としたら私の勝ちで!」


「それじゃコッチが不利ふりでしょう!?」


「私はこまらんっ!!!」



 再びやつえる。残る手足てあしたれて落ちる。くそ、ててものうが追いつかないな。芋虫いもむしのように転がった。それでも千切ちぎれた手足をかし、迎撃げいげきオオカミで狙ってみるも、とらえきれずに返り討ち。きばつめちゅうを切り、空気のかべごと粉砕ふんさいされて、私もえズタボロぼろり。あか達磨だるま皮膚ひふがされてぎょろつく目。……ほかは? みんな岩陰いわかげか。やつは? た。側面そくめんあたり。大分だいぶんいきが上がってなさる。


 はねの付け根の駆動くどう部分。赤くシュウシュウとけむり、少しばかりのくささ。負荷ふかで筋肉がけているのか。ならばアチラも長くは持たず、つぎあたりダン! と終わらせたいはず。転がる胴体どうたい仰向けに、髪の一房ひとふさ大蛇だいじゃへと。変えて伸ばしてシュウシュウ狙い、当然のごとく女が消える。熱源探知ヘビのアタマ真上まうえを向いた。だろね。そーくると思ったよっ!!! 迎え撃つ、残る銀糸ぎんし大蛇だいじゃの群れ。


 いまの私のこの態勢たいせいで、くびりたいんならそこしかない! 赤い熱源ねつげん流れ星。てんとらえたその目標を、へびの本能でがっつり捕捉ほそく。名付けて野と成れ山と成れ(オートなパイロット)! れる鎌首かまくびと女のかまと、上空で派手はでにぶち当たる。牙とうろこが砕け散り、アバラ諸共もろともたてへと裂かれ、雷光らいこう一閃いっせん! くらうがわ。あ、やっべ押し負けた。女の右腕みぎうでもひしゃげちゃいるが、しかし残ってもう片方かたほうが。ぐちり。私のくびが飛ぶ。






 どん。ごろごろごろ。






 ぐちり。ワタシのくびが飛ブ。ゴん! っと岩間いわまにぶち当たル。ソレを真っ赤の断面だんめんの中、赤い眼球がんきゅうを開いてタ。ヤラレチャッタ、シカタガナイナ。アあもってしまった以上、アソコたって仕方が無いシ。残る胴体どうたい全面部ぜんめんブ目玉メだま五十個ごじっこ展開てんかいをしテ、一撃イちげきを決めた女を探ス。マだ直上ちょくじょウ。イまの状況に胡乱うろんの目。ソの推察すいさつは正解ダ。ナぶリ、オかシ、いて喰ろうてくレ、レ、れ、る。でえぇぇいっ!!!


 がばちょ、理性が浮上ふじょうする。意識の表層ひょうそうけるとコレだ、ええい! さっさと制御を返せ! ワタシを私の統制とうせい正気しょうき主導しゅどうけんを取り戻す。四肢ししも頭も皮膚ひふすら無いが、こんな程度でどうにかできるとマジで思ったってダメのよアンタぁ!? お腹から『』を伸ばし、離脱りだつしようとする女のあしを、がしっとつかんでそれをばふせぎ。傷が治らないんなら増えればよいのだ。わかります? きん爛々(らんらん)


 ばっくり背中せなかく切れ目。つかんだ女を引き込みながら、残った胴体どうたい裏返しつつ。きば伸ばし、うろこを生やし、ヒレと、エラと、でっかいくちと! 赤い眼窩がんかもしゃがりとく。狼狽ろうばいの顔とが合った。知ってますかね提灯チョウチンアンコウ。罠をかまえて下からおそう、でっかいマッドなアングラー。こーいうふうに! 上下じょうげ閉じ、彼女の拘束こうそく完全として、おへそから下をきばの中。筋肉をんでごりごりつぶす。美味おいしくない。



「かはっ!? が……! ぐ……っ! おい、銀色ぉ! ちゃんとくびねただろうがっ!!?」


「うるへー! ころころされなんてちゃいいんですよちゃあっ!」


「言わせておけばぁ! ……ふん! 真正面まっしょうめんからやり合ってな、やぶられたとったとあれば、にも落ちると思っていたが……。」


「が……、なんです?」


不尽ふじんぎてなんかムカつく。」


「……殺し合いできゃあまたどうぞ。」



 脊椎せきついを噛み切った。どちゃり、胴体どうたい脱落だつらくし、ぬのに包まれたおむねが揺れて、うでむすめあわてて駆け寄る。これで、北の化生けしょうらは全滅か。本当にお手間てま掛けさせやがる、ただし見えない犬面いぬめん除く。……うん。アレの動向どうこうは気になるな。ひっくり返ってる親分おやぶんむすめ、起こしたらあとで聞いとくか。ともあれ終わり、びをしたい。したいが人体じんたい残っておらず、いまや十割じゅうわり魚類ぎょるいである。おなかは変わらずぷにぷになのだが。


 ヒレと尻尾しっぽをべちべちし、のってのってとその場で歩き、格好かっこうながら方向転換。転がっていた『あたま』をくわえ、ひょい、ぱくっ! とまるんで、やぶって提灯ちょうちん付け根のあたり、ぞるりぞるりとワタシをやした。赤い目銀髪(ぎんぱつ)ちんちくりん。のうあたりに意識を移す。ノマちゃん復活ふっかつ! お手々(てて)がもげた。うーわさっきの毒かこれ。タンパク質がぶっ壊れとる、私がやり合って正解でした。内臓ないぞうも溶けてれてるし。


 を増やす。右の脇腹わきばらぷにぷにあたり、穴のいた箇所かしょをぎゅむっとさえ、ようやくにそれで一息ひといきつく。……ふむ。ムシムシおんなは戦闘不能、うでむすめ戦意せんいなし。倒れてるくみは倒れたままで、お味方みかたのほうはドン引きである。なんやねん。いまさらやん。北の親分おやぶん上半分うえはんぶんが、いてこされるのを横目よこめに見つつ、ちょいとばかりに不服ふふくを示す。サタナチア嬢のあと退ずさり。代わってゼリグがまえに出た。



「……おーい。ノマ?」


「なんですかー? 人類じんるいか? ってならちょっと魚類ぎょるいですけどー。」


茶化ちゃかすなよ。お前さぁ。……さっき、ちゃんと、『お前』だったか?」


「…………で、なかったら何方どちらであると?」


「……ならいいさ。」



 なんとも怖いことを言わんでください。むなビレべちべち抗議こうぎする。魚体ぎょたい口内こうないに引っ掛かってる、異物いぶつかんに気付きもごもごする。まったくマッタク失礼しつれいナ。ワタシハワタシハこんなにモ、正気しょうきであるトいますのにサ。したさきでほじくり出して、異物いぶつ正体しょうたいをんぺっ! と吐いた。千切ちぎれた女の半身はんしん正気しょうきだよ。だってほら、あの子は化け物だから平気へいきじゃないか。だから、私は正気しょうきだよ。



 片方かたほうあしころがっていく。ごろごろごろ。ころころころ。



 地下の異様いようだい空洞くうどう。高い、高い天井てんじょうの下、おくおくに来た行き止まり。これまた異様いようの『とびら』に当たり、湿しめの音がびたりとひびいた。






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― 新着の感想 ―
ノマちゃんの身体に相応しい立派な銀化生の人格も生えたのか有ったのか 意識有る分裂体も制御無くせば人類より化け物寄りなのはこれが原因かな もしかして最初から有り無意識で制御してたら最初の吸血時何とか出来…
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