表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転移のバツバツさん  作者: カボチャ
150/151

アクアリウム

「そもそもです! とっくに、順位付けは済んだでしょう!? 私が上! そっちが下で! わかれってんですよロング・アーム(長腕なんちゃら)っ!」


「ネリーっしょ! ざっけんなっしょ!? アンタ自分コケにしたヤツをっさぁ! (ほう)ったらかしで許せっワケぇ!?」


「んなもんめっっちゃ腹立ちますねえっ!!!」



 遠く北方(ほっぽう)デーモン首都の、地の下における底の底。悪い子・ちゃんの『手』をぶっ飛ばし、跳ねたそれらが合体をして、赤白の派手な衣装を纏う。二つ結びのお団子ガール。真っ赤な(ひとみ)、金の髪。黙ってたらばカワイんだがねぇ! 性懲(しょうこ)りもなしに迫る(うで)。掴んで引き寄せ真っ正面へ。蹴り。容赦なく腹にぶち込んだ。困るんだよね、こーいうの。(むすめ)っ子(なぶ)る趣味など無くて、悦に浸ったらどーしてくれる。


 しかし当(よう)はどこ吹く風で、さして、(こた)えた(ふう)もなし。腕の先端引っかき(づめ)で、こっちも駄賃に食道()かれ、やって、やられて距離が(ひら)いた。小娘が。血の泡をベ! っと吐く。どうせ片割れも居るんだろうさ、(うかが)ってないでさっさと……っ!? 足元に浮かぶ影。私にくっ付いていた女の二人、キティーとサタナチア嬢が即座に離れ、床を突き破って少女の姿。顔を掴まれてでっかいギザ歯ぁ!?



「……わたしのことは?」


「……グリーン・トゥース(緑の牙の)・ジェニーさん。」


「……あってる。」



 そのまま首をねじ切られた。視界と眼球がぐるんと回り、両のお手々で慌ててキャッチ。合ってんでしょが!? 言わせておくれ。お返しに『顔で』ぶん殴り、球根みたいなモドキの娘、その(やつ)()がし遠間(とおま)へと。まぁ、とりあえず初手はしのいだか。先日のアレで恨まれてたか? 狙いが私は大分(だいぶん)助かる。ザリザリと、根っこのお(あし)が床上削り、最初ぶっ飛ばした娘と合わせ、睨むお目目(めめ)爛々(らんらん)四つ。



「っちぃ! ぜんぜん動くっしょ!? やっぱおかしいっしょコイツ! 銀色ぉ!!!」


「……だいじょうぶ。しぬまで殺せばぜったいしぬし……。」


「ふふはははっ! ならばやってみれば宜しいのです! わたし、ノマを相手で出来るもんならぁ!!!」


「勝つからまけない……!」



 明らか最後にやられる邪悪。そんなセリフをバリバリ吐いて、敵意をこっちへと引き付ける。しかしアレか、殺すと来たか。よほど、頭に血がいったか? この子らの強い同族意識、それを踏み超えて言わせるとはね。傷つくわぁ……。『死んで欲しい?』『……ううん。殺したいだけ。』『さいですか。』落ちた頭をがっこん! ()めた。乙女心は複雑らしい。……さぁて。じゃあ、どうすっか。


 状況を一度整理しよう。()めた頭をついでで回し、周囲『一周』を視認する。場所は屋内地下(ちか)閉所。敵は狭いが得意の二人、味方は死ぬ子と死なない子。勝利条件は撃滅でなく、泣かして逃走追い込みである。泳がせた(あと)を追いかけたいので。で、そうすると前へ押し出せるのは、ゼリグとまぁ、マガグモか。残り二人も(わる)かぁない。とはいえそれは対人ならで、対(よう)とあっちゃ馬力(ばりき)の差がね。如何(いかん)とも。


 戦車に殴られると人は死ぬ。死ぬので(そで)をよいせと()くり、クラキさん(じるし)クラインの壺、取りいだしたるはでっかい鍋。(うち)は完全な半球形。大きさは人を覆える程度、王国職人力作(りきさく)である。例の空間跳躍装置(スーパー無茶ぶり)()わり、頼んで制作を頂きました。ちなみに諦めていないらしい。さておき! ぶん投げる。キティーとサタナチア嬢の間に刺さる。轟音爆砕。砕け割れ、壁の機械(れきし)が剥がれて落ちた。



「ちょーっとね! 使用が『目的外』じゃありますけども、そいつ盾にしてよろしくどーぞ!!!」


「既に一回死にかけたんだが!? (かす)ってんのぞギリギリ髪がぁ!!?」


「ノマちゃんあとで折檻(せっかん)ね。」


「すんません非常事態ですもんで! っと!!?」


「つーべこべヤってんじゃネーっしょバァカっ!!!」



 (うで)。細く、長く生え伸びて。少女の肩の後ろから。狭い室内を自在に渡り、二本、三本、六本、いっぱい! 最初一撃は飛び退()いて、次の一撃を叩いて落とし、退()いた勢いでゼリグに当たる。後ろ(あたま)がお胸へ埋まり、転倒もんどり追撃回避。様子(うかが)いの邪魔すんな? なんでも御免(ごめん)で済ませんな? ゴメンてこっちお願いします! オマケで加勢(かせい)で付けるよ蜘蛛も! 不精(ぶしょう)(はじ)っこメンドー言うな!


 『アナタ祭壇のカタキでしょう!?』『そーじゃった! ぶっ転がしじゃ!』やったの半分私だけどな。その辺の(じつ)は黙っておいて、更に追い(すが)る上腕の群れ、引き付け強引に二人のほうへ。離脱する。突撃する。追って肉薄の球根(むすめ)、そこへ自らで突っ込んでいく。お互い激突どんがらがった。げっふほ。これでどちらも死なず(こちら)と対峙、死ぬ方(あちら)行かれては厄介なので。人質の知恵、持たれちゃ困る。


 ゼリグの短剣抜刀音。マガグモの粘糸放出音。あとに続いて切り(むす)(おと)()って落とされた『腕』が糸ごと(もつ)れ、鍋の下からもぎゃーぎゃー音が。めげずに手首で這い寄ったそれ、タコ殴りに()って蹴り出されてる。そうならそのままお任せしま……!? す!!! 両の腕先(うでさき)(つか)まれた。こじ開けられてがら空きの首、(せま)大口(おおぐち)(きば)が立つ。太い血管(けっかん)食い破られて、どす(ぐろ)い赤、(こぼ)れてどぷり。



「ごぶ……っ! がっ……! ……ええいっ! わたし(吸血鬼)の芸風を!」


「……まだしなない。……どうしたらしぬ?」


えらい人(カミサマ)にでも聞いてくださいっ!」



 とりあえず一発頭突(ずつ)いておく。引き()がそうとする。()がれない。あ。手首の(けん)が切断されて……! この()手のひらにも口と牙!? 仕方がないのでガンガン頭突(ずつ)き、球根(むすめ)をヘコませてゆく。首の柔らかな脂肪層(しぼうそう)。それぐるみ(にく)を食い千切られて、ようやっとそれで数歩(すうほ)()いた。チッスのマークにゃお(ねつ)が過ぎる。頚椎(けいつい)も欠けてぶらぶらするし、両の手首も()げ落ちてるし。再生する。手を()でる。



「まっったく……。あー。そういや聞こうかと思ってまして、アンタ(がた)何がしたいんです?」


「……なにって、……なに?」


食人(ごはんが)目当てと違うでしょう? 草原都市でもそうでした。明らか(ころ)すが目的ですし、食べもしないならそこら(へん)、何がやりたくて『こう』なんですかね?」



 髪からコウモリを発射する。牽制(けんせい)のそれは(つか)んで取られ、そのままお(くち)でモグモグされた。



「げぷ……。なんでって……? ニンゲンがしぬの、いーことだし……。」


「……その(こころ)は?」


「……おさかな。……ぎんいろはおさかな、飼ったことある?」



 (にら)み合う。少女が小さくぽつぽつ(かた)り、後ろを(うで)がぶっ飛んでいき、糸に(から)まってどんがらどんがら。『逃がした!? さっさと決めい! ニンゲンモドキ!』『ニンゲンモドキ言うんじゃねえ! (あめ)ーんだよそっち(おさ)えがクモぉ!』『あああぁ!? もおおぉ! ブッコロっしょぉおおっ!!?』お静かに。あっちやこっちを破片が飛んで、閉じた鍋にもガンガン当たる。私も口角をひん曲げた。



「……まぁ、……ドジョウくらいなら?」


「ちいさいおさかな、ツボにいれるの。みずのくさもいっぱいいれる。そうするとどんどんふえる。」


「種類によっちゃあそうでしょうけど……。」


「ふえすぎるとしんじゃうの。ぜんぶ、みんな、しんじゃうの。」



 少女の()(まる)下半分。それがスカートのようにふわりと舞って、助走なし。頭上をひとっ()びに急襲する。大上段からの唐竹(からたけ)割り。牙付きの腕が降り下ろされる。そいつをガン! と両手で受けた。前腕骨(ぜんわんこつ)と周囲の肉。()んで(つぶ)されてミチミチをいい、耐えきれず先にへし()れる床。なるほどね。つまり、それがこの子の思想か。わからんという話じゃない。どちらかと言えば共感できる。認めはせんが。


 至極(しごく)単純な話であった。ドジョウを百匹捕まえて来て、(はち)に入れたら全滅をする。金魚であったとて同じこと。酸素、食糧、循環、その他。『金魚鉢』の中で許容をできる、生体(せいたい)の数は限られるのだ。増えた金魚(ニンゲン)は減らせばよい。しかし喰うだけじゃ到底(とうてい)足りず、彼女らのパイは奪われ続け、それら巡りの結果がコレ。わかります。わかるけど。得失(とくしつ)の点で認めはせんよ、私の金魚はワタシのモノダ。



「そちらの言い分は了解です! しかし『金魚鉢』は大きくなる! だからっ! 私は知ってますからっ!」


「キンギョって、なに……!?」


「ツボですよっ!!!」



 (ツボ)じゃねえ。微妙に揃わぬやり取りの(すえ)、魚類がなぜだか陶器に化けた。()まらんな。ともあれ切り口を(ちが)えて見ても、繁栄(はんえい)の先は『終わり』であって、それがこの星の真理(しんり)じゃある。だからです。えらい人(カミサマ)に黙ってね、静かに、こっそり、びくびく、そっと。変えちゃおうってんですよ私が(ツボ)をっ! 押し戻して吹っ飛ばす。スカートの下の根っこが伸びて、またも首筋貫通(かんつう)狙い、(つか)んで床にぶん投げた。


 どずん! と石材が()(くだ)け、後ろを(うで)がぶっ飛んでいき、ゼリグと()み合ってどんがらどんがら。どーにかわかってくれんかなぁ。水の(むすめ)はおバカが過ぎて、同じ質問に首を(かし)げた。一方で(どろ)(さか)しいばかり、『いつかわかる』と嘲笑(ニチャっと)するし。比べりゃこの子は素直である。負けず嫌いで直情的で、ちょっと動脈(どうみゃく)千切ってくるが、そんなくらいの玉に(きず)(うで)? うーん……、(みず)寄りかな……。



「うに……。うにぃ……っ! いーから……! いーの! いまはそーいうの……! こんどはたべる……! たべて……! ……オマエはこわくないっ! ムジナモグライっ!!!」


「見てんですよ(まえ)にそっちの(わざ)はぁ!!!」



 少女の()(きば)のそれ。石材の床を激しく叩き、無数に飛び出した歯列(しれつ)(とげ)が、足場(あしば)を引き裂いてぎゃりぎゃり迫る。笑止(しょうし)! よって大見得(おおみえ)()り、恰好(かっこう)をつけて全弾(ぜんだん)喰らった。別に避けられるとは言っていない。ついでに膝下(ひざした)斬り飛ばされて、突き抜けた(きば)がお鍋のほうへ。()れた? やっべ。(なべ)が立つ。傾斜(けいしゃ)()かした受け流し。代わって壁面(へきめん)()(やぶ)られて、三角(さんかく)(すい)、裂けた。がずんっ!


『やりますねぇ!』述べておく。よくよくと見りゃあ破片の(たぐい)、他にも椅子(いす)やら(つくえ)やら。ゼリグ()のほうから()んで、()んだ、既にそれらの着弾(あと)が。『……慣れてきたわねいい加減(かげん)。』『慣れて(たま)っか()くぞコラァ!!?』限界らしい。頑張って? 向き直る。()られてた。三度(さんど)突進(とっしん)少女のお顔、(たて)にそいつが()()けて。丹田(たんでん)にまでかけて上から下。現れたのは巨大な(きば)、巨大な(した)と……!



「『こっち』の(わざ)は……!?」



 半身(はんしん)まるごと巨大なお(くち)ぃ!



「マブイエグリ……!!!」



 ぎぱっと開いて真正面(まっしょうめん)。喰らいつかれてほぼ全身が、左右から(たて)に圧し潰される。筋肉と骨のあげる悲鳴(ひめい)。侵入してくる(きば)(れつ)。内臓と(けん)()(とお)されて、私の中身(ナカミ)がばらばらになり、(のど)からきゅぷ! っと空気が()れた。が、そこまで。心臓(しんぞう)(はい)胃腸(いちょう)子宮(しきゅう)。どこを串刺(くしざ)しにされようともだ、私に痛痒(つうよう)を与えはしない。(うで)(さき)。にこり、(わら)ってようようと上げ、少女のほっぺ、()でて、ひたひた。



「……なんで? なんで、なんで、なんで、なんで!? なんで! どこにも……!? (いのち)がないの……っ!?」


「『そいつ』は前世(ぜんせ)で死にましたので。」



 私の体積(たいせき)膨張(ぼうちょう)した。さらにみしみし()()まされて、(きば)()()げられちゃあいるのであるが、んなもん知ったこっちゃあねぇのである。コウモリの群れが飛び回り、(いびつ)()じった(けもの)の群れが、(きば)()し出して(あふ)れ、(こぼ)れる。『……やだ! かつの! こんどはかつぅ!』一緒(いっしょ)(こぼ)れた半泣きの声。悪いね(ゆず)ってあげられません。一際(ひときわ)大きな(けもの)(くち)腹膜(ふくまく)(やぶ)るオオカミの顔、()()(さか)しま()らって()む。


 がぶり、(くわ)えた胴体部(どうたいぶ)。オオカミの顔は横倒(よこだお)し。鼻先(はなさき)の横にお(むね)が乗って、そのまま伸ばして無理(むり)くりベキベキ、彼女を私から()()がす。追って増量(ぞうりょう)オオカミヘッド、じたばた暴れる()(うで)()み、空中で十字(じゅうじ)(はりつけ)とする。『(まい)りましたを言いなさい!』『やだっ!!!』『ならば痛い目に()って頂きます!』言うだけを言って躊躇(ちゅうちょ)する。いいか? いいか。『このくらい』。一思(ひとおも)いです。()()った。


 少女の両腕が脱落(だつらく)する。真ん丸球根(きゅうこん)下半分、上にくっ付いたまぁるいお(むね)接続(せつぞく)の部位もボキリと折れた。それでも()まない(うな)り声。床の上にごっちん落ちて、(むね)(あたま)でぎゃうぎゃう! を言う。うーん健康(きわ)まるな。人様(ひとさま)(こと)は言えないのだが、しかし流石(さすが)にここまでやれば……!? ばがん!!! (てのひら)が降ってきた。巨大、(うで)の集合体。床を(くだ)いて私を飛ばし、(かじ)られ(むすめ)(すく)って(さら)う。『奥の手』か!



「ジェニー! ばっか! 熱くなりすぎっしょ!?」


「尻尾を巻くと?」


「くっっっそムカツクっ!!!!!」



 ぐってりしてきた仲魔(ナカマ)背後(はいご)、隠す(むすめ)()(あお)る、(あお)る。それに乗ってかガチン! ガチン! 『(おく)右手(みぎて)』が罠具(わなぐ)のごとく、起きる、(せま)る、(むす)んで(ひら)く! そこにさっきの(けもの)()ませ、(たた)かれて(たて)にぶっ飛ばされた。おっと、伊達(だて)酔狂(すいきょう)でふざけちゃねえな? ゼリグのほうは……。あ、『(おく)左手(ひだりて)』ドンパチしとる。(はじ)く、下がる、蜘蛛(くも)巻き込んで、私のところへ胴殻(どうがら)がっしゃん。


 『っと、そろそろ逃がすか?』『泳がせますよ。』『なんの話じゃ!?』()いて雁首(がんくび)合わせます。三位一体(さんみいったい)すっころびつつ、ひそひそ(ばなし)に半ギレが()り、お(かんむり)であると気炎(きえん)()いた。だいぶ、手を焼かさせてくれたらしい。(おく)()だけに、(うで)だけに。そんな左右の(てのひら)二つ、こちらの目の前で合体をして、(ふく)れてブクっと(つぼみ)のように。妖女(ようじょ)二人の(かく)(みの)所詮(しょせん)小手先と嘲笑(ちょうしょう)し、蜘蛛(くも)にど()かれ()を締める。はい。


 見る間、張られる(つぼみ)()。大きな葉っぱもわしゃわしゃと。こっちの(むすめ)も植物系か? (とが)る先端が私へ向いて、なんかくいくい動いてますし。姿勢制御と射角の調整。なぜか、不意(ふい)にそう思った。て、いうかこれ(なん)かに似てる? (つぼみ)、葉っぱ、内圧(ないあつ)膨れ、亀裂も入って(たね)がパチン。パチン? あ。やっべ鳳仙花(ホウセンカ)!? 後ろの(なべ)を確認し、こんな規模感じゃアレですアレよ、見たんです前に映画(えいが)のアレで!?



指向性対人地雷(くれいもあ)!?」


ぜろぉ!!! 頑手ガンテっ!!!」



 どっっっぱあん!!!!! 軽快に、思いのほか高く音が響いた。弾けるつぼみの内から外、大量のたねが撃ち放たれて、自身、諸共もろともに破壊をく。一個が甲冑かっちゅう小手こてくらい、広く円錐えんすいに拡散し、床と天井とななめとこちら、あらしかのように手当たり次第。うなり、くだき、けずり、つぶす。皮をぎ、肉をぎ、砕かれた骨とからまり合って、オオカミたちとコウモリと。残る手持ちがき回されて、粘性ねんせいの赤いかすみに変わる。


 めんっっどくせぇ事してくれたなぁ!? 私はといえばあわてにあわて、放射状、かみを展開する次第である。銀糸ぎんしで編んだ鉄条網てつじょうもう。そこの隙間に蜘蛛くもいとが張り、ゼリグが支えで後ろのがわへ。足を踏ん張って対荷重たいかじゅう。盾にされた気がしなくもない。が、それはそれとして必要であり、あみに突き刺さってくるクソでかたねが、引っ張るんですよわたし質量しつりょうとかで! 千切れそう。吹っ飛びそう。とかく衝撃を漸減ぜんげんせねば。


 背後の死んだら死ねる組(キティーとサタナチア)。そっちの安全勿論(もちろん)として、『なべ』も壊されちゃ困るのだ。どっかんばっかんぜ当たる、たね小間切こまぎれた跳弾片ちょうだんぺんが、微細びさい、さらに八方はっぽう弾痕だんこん穿うがつ。私の顔面もド直撃。言わせておくれ? くっっっそムカツクっ!!! 食いしばる。むきー! とうなる。最後にカツン! 音がした。一瞬の長い災禍さいかが過ぎて、地下で朽ち果てる歴史のねやに、戻る、ようようの最初の静か。



「……けっほ! 最後っにしてもひでぇなこりゃ。おい、手足ちゃんと付いてっかよ?」


「ええい! あしを一本もがれたわっ! ほれぃ言わんこっちゃあ無いではないか!」


「出たのくちよりこぶしでしょう!? それとうでは付いてんですが、はなから上がーっすねこれ!」


えーよおいっ!?」



 次弾じだん装填そうてんの可能性、それとゼリグに怖いと言われ、欠けた視界をきりきり直す。ぎゅるっと眼球を動かした。妖女ようじょ二人の姿はない。蜘蛛くもはぶりぶり怒っちゃいるが、さして致命ちめいでもないらしい。ひるがえってお鍋を見れば、なんかぎゅんぎゅん回転をして、慣性かんせいたまはじいた跡が。勢い余って吹っ飛んだ。肩で息して呼吸をあらげ、だいぶへばった二人が見える。『『やってられっか!!!』』すごいね人体じんたい


 ……まぁ、本命ほんめいくらましかな。とりあえずみんな無事ですもので、歩いてのしのし前に出る。消えた彼女らの居たあたり、ぽっかりと床に大穴がき、蛇行だこうしながらえぐっていた。植物系は植物らしく、って根っこで逃げましたかね。向かう先? 決まっている。あの子ら親分のところだろう。こちらとしても行く道が出来でき、迷わずに済んで好都合。たぶん。ぎゅるっと動かす眼球()って、かおれの再度一瞥(いちべつ)す。



「うし。んじゃー、みなさん! お疲れのところおすうですが? 急いで即座そくざで追い掛けましょか!」


「……あの、休憩は?」


「ないです。」



 サタナチア嬢をばっさりやる。最後に、部屋をぐるっと見た。壁の機械や生活のあと、過ぎた、古い歴史のそれ。大暴れの中で損壊そんかいり、もはや原型はとどめておらず、見るも無残むざんな姿である。部屋のもう少し奥のがわ、落盤のほうも視線をやるが……。無い、かな。それならまぁ、ようがないか。



「あぁ、うでが上がらないわ。で? ノマちゃん何よ? きょろきょろしちゃって。」


「いえ……? すいません。向かいますね。」


 

 過去の『水槽すいそう』の誰かの骨。果たして、砕け散ってしまったのだろう。


 もはや、何処どこにあるのかはわからなかった。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ノマちゃんに吸血鬼としてのアイデンティティーがまだ有ったとはビックリ 吸血鬼らしい言動してたのが初期の暴走ノマちゃんだけだったのに 血ペロペロもしてたけどそれも最近してなかったのでもう恥ずかしい黒歴史…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ