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異世界転移のバツバツさん  作者: カボチャ
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魔王さまのお膝元

 魔王城トロメーア。それを擁する首都アンティノラ、軽砂岩で出来た白亜の都市。これぞ、北方蛮族の大勢力、デーモンさんとこの根拠地である。王国より規模はだいぶデカい。位置は大陸の最北端。と、言わないまでも近くにあたり、深雪を被る山々を背に、遠く長大な河川を望む。風光明媚、絶景かなと、そりゃあ気分もおのぼりさんよ。ヨー! ホー! を是非とも述べたい。お天道様がお辛いが。


 で、そういったこちらでっかい魔都市。そもそもを古く辿ってみれば、元は人族の統べる版図だそうで。百年の前の大戦争。そこで滅びた旧帝国。造反の側を蛮族と呼び、体制の側を人族と呼ぶ。結果文字通り四分で五裂、散り散りの末で今世となった。そんなかつての大国首都。が、まさに眼前のこの地であると。ふーむなるほど味わい深い。つわものどもが、ゆめのあと。呼ぶにゃあ大分と賑やかだがね。


 そう。とても非常に賑やかであり、大変にとても活気があった。略してとてとて騒々しい。なんせ建物のその合い間、敷き詰めた岩の大路の左右。そこにべったりと屋台が並び、野良のゴブリンが呼び込みをして、オークが旅装で買い物をする。ゴブリン風鍋のキツイにおい。さらに半魚人の団体さん。観光案内のデーモンさん。みんな手に手に鞄を下げて、どやどやざわざわ行ったり来たり。お魚くさい。


 そうというわけで聞きますに、現魔王であるザガン様。そちら膝元であるこちらの都市は、一生に一度のお伊勢へ参り。もとい巡礼で向かうその先として、人気の名勝でありますだとか。あくまで、蛮族の人的に。だいーぶ観光の色が強めである。かつて支配者であった人族たちを、打ち倒して得た自由の象徴。時代に英雄と持て囃された、将の血族が治める地。『見てから死ね』曰く、詩人のそういうの。



「……ほーん。へ~。……だ、そうですよ皆さん方?」


「お前さぁ……。なぁ、ノマ。なんで、そんなこと知ってんだ?」


「さっきあちらの団体さんに、混ざってお話を伺いまして。あ、こちら旅のしおりです。」


「いらねー。」



 と、いう訳でして遥々と、やって来ました野を山を越え、期待できそうな目星の地。入んなと塞ぐ要塞も超え、王国を発って臨機に応変。高度な柔軟性を維持しつつ、もとい行き当たりばったりの結果である。他人様の縁に恵まれました。なお無理やり代表はフレルティ嬢。今回上洛のその目的は、世にも珍しい品の献上です。そんな名目で縛って運ぶ、スーパーな竜がスーパー目立つ。ガンバだゴリアテ。


 板に乗っけて車輪付け、ごろんごろりん引っ張ります。どっかの旅行記よろしくねーと、動力はデカい雄羊さん。そこにくっ付いて私らが居て、先導をするは蛮族組で、後方がその他人外組。それとお目付けでフルートちゃん。お目が付くのかはまぁわからん。とはいえ羽目は外さんだろて、たまに『肉ー!!!』とか聞こえるけども。粉砕音。何やった。届くクラキさんからの『気にしないで』無理。


 野次馬根性と知らぬ振り。天秤に掛けて後者が勝って、しれっと戻します意識を隣。すればさっきあぁ言ったゼリグのやつ。素っ気無いながらしおりを手にし、流し見るそれへ興味は津々。と、いった有り様である。んまぁ敵国のそれだしね。次いで覗き込んだキティーに曰く、『……都合のいい歴史だこと』と。そこもわかりますけども。立ち位置ってのはそういうもんで、余所もんが故で言えますけどさ。



「ギョ、ギョ、ギョ~。生きて竜を拝めるとはノ~。長生きはするもんじゃナ~、爺さんヤ。ギョ。」


「そうじゃノ~。死んだ婆さんにも見せてやりたかったノ~。ギョ。」


「ギョ~。おじいさン、おじいさン、わたしゃココに居りますよォ。」


「あーいドラゴン通りま~す。そちら~サハギンの皆さま方~。危ないんで~道の内側へ~、おさがり下さ~い。」



 そんなこんなでうにゃうにゃと、しつつゴロりん続行の為、前に出てたまの交通整理。『珍しい品』はデッカイのでね。これが意外と聞き分け良し。見た目人族のこの私では、この辺じゃ奴隷と同義だろうに。サタナチア嬢とフレルティ嬢。一般に比して大きな角の、よりヒト型に近いデーモン貴種。そこが同行という点で効いたらしい。いわゆる御威光。偉い人の連れた犬。そりゃあ絡んでは面倒だろて。



「ははは。デーモン・添乗員の方。私なんかが出しゃばるもんで、苦い顔をされとりますな。……んーで。ちょいと、フレルティさん? とりあえずこうと来ましたけども、そーんでどうされたおつもりで?」


「……どうも、こうもあるものか。まずは現状の報告をして、おばあ様からの判断を待つ。貴様らの処遇はそれからだ。精々がその貧相な首、よぅく洗って待つのがいいさ。」


「ふんむ、なるほど。しかし、無下にしてしまっては危険が過ぎます。今、まさにこの国へ、危機と呼ぶべきが迫っている。そこはちゃあんとお伝えをして、適切に処置を為されるべきかと。」


「……私にも職務がある。一応はまぁ、聞いておこう。で? 何がどう、危機であるって?」


「そりゃあ私のすんげぇ暴れが。」


「サタナチア。こいつやっぱり今すぐ殺すぞ。」


「いや、そうと言われたって死なんしコイツ。」



 ふはははは、怖かろう。そう、この私は死なんのだ。おまけに暫定で無敵であって、図に乗ったあげく後からへこむ。わかっちゃいるけどやめられねぇ。親鸞聖人もそう言ってた。しかし悪辣は出来ないもんで、デーモンコンビの見せる首肯。それに応じて握って締める、オークとゴブリンの手が私を襲う。バルバラ嬢、黙ってろ? リーナ嬢、了解です。だから屋台の熱々ですね、そちら勘弁少々もぐぁ!?


 えぇいおのれ、どいつもこいつも。私の笑って許せる線、そこの限界で踊ってやがる。殻付きのソレを嚙み砕く。目ざとくうちの子が見つけてくる。『ノマ様! 私にも後でやらせてください!』いいんだけどちゃんとフーフーな? 盛大にとても話が逸れた。逸れたついでで現地のご飯、それの調達もやらんとなぁ。ふいっと、それが頭をよぎる。過日私の勝手によって、ご縁という奴も増えましたので。


 ご縁、言いますかしがらみか。あくまで目的は迷宮調査、魔王城地下のそれである。しかし草原の都市が望む支援。加えて要塞の先へ進出するに、一つ悶着もありましたので。曰く、こんな化け物は信用できない。曰く、被害実態の把握が先。曰く、肉類の備蓄どこいった。すんませんねぇオバケの子らが。その辺も後日補填します。まぁ、コレは日持ちをせぇへんけどさ。三葉虫。すんげぇ刺さる、口ん中。



「げふー。しっかしまぁ、魚介、穀物、怪しい肉と、出店が実に豊富なことで。土地がー、肥沃なんですかね? 北のほうって。」


「……まぁ、サタナチアのそれに比べればな。氾濫原に恵まれており、河も遠浅の地形が多い。水竜どものはびこるせいで、運河としての利用は出来んが……。む、そこ! 桃色人族! 国の情報を盗んで聞くな!!!」


「あ、そういえばわたくしですね? 去年くらいのちょっと前、帝国末裔の値札を下げて、叩き売りなんかされたりしまして。いやーこれもご縁と言うか、さすがは人族の元中枢とー。」


「聞けぇ! 貴様も銀色御化けが!!! おい、ちょっと、サタナチア! これも連れてきたお前の役だ、馬鹿どもに利かす規律はどうした!?」


「慣れる、慣れる、あーきらめろって。……ん~。ホロ麦が~、全体に、値付け低めだな。だぶついてんのか。魔王様への口添えでさぁ、なー、フレルティ。あの辺の余剰、供給でうちへ流せんもんかなー。」



 ブルータス、お前もか。口をパクパクといわす彼女に代わり、私が心中で言っときました。いや、軽んじは別にしませんけども、あんま真面目でもお辛いヨとも。要らぬ、年寄のお節介。とはいえ正論は彼女の物で、ブルータられたとて止むを得まい。睨みを利かされて引っ込むキティー、露店で見積もるサタナチア嬢、そこで買い食いのゼリグの奴。パンに混ぜもんが全然無い? お見積りが正確ですね。



 ごろん、ごろりん。進みます。『ナア、アイツラハ喰ッチャアダメ?』


 ごろん、ごろりん。回ります。『リーン、ワタシアッチノ食ベタイ!』



 次第、店数が減ってきた。対して道幅は大きくなって、手前へ突き出した建物の裏、城壁と空の境が見える。要害の為のお城で無しに、威容を誇ろうというタイプのやつ。別にコウモリが舞うでも無い。しかしアレこそが魔王の居城、さーてお目当てはありますものか。『機械仕掛けの神』とやら。姿かたちすら知らんけど。ついででもちっと至近の課題、雑踏で至近寿司詰めでして、至近ふんだ足場がねぇ。


 運ばれる竜の見物人。勝手に付いてきた観光客。なんか集まってくるゴブリンたち。ちょっとぎゃらりぃが多すぎるのだ、こうなっちゃあ割と危険が危ない。魔王様の乗騎である? こっからの先は拝観料? リーナ嬢からの喋くる声。そこのゴブリンよ商売すんな、オークも付き合ってザル持つな。信心深い半魚のヒトら、揃ってお財布開けとるやんけ。『薄汚い人族モ~これで血筋を絶やせるかノ~』怖。


 ちなみにゴブリン・的屋クランのヒト。その辺は若い同胞を見て、『嬢ちゃン、いいツテを持っとるやんケ、俺らにも一つ噛ませぇヤ』と、そんな引力に乗って来ているらしく。見た感じ。まぁ、魅力的には見えるわな。デーモン貴種の高官二人、しかも片方は王の孫。そりゃあベタベタと近寄るもんで、オークの嬢ちゃんに散らされとるし。概ねがこう、物理の力で。やっぱ悪目立ちし過ぎとちゃうかー。



「……あの~、ま~、今更ですけど? フレルティさん。わざわざ『竜の献上』とかね、そんな名目要りましたかね?」


「ふん。貴様ら化け物の隠れ蓑だ、衆目を散らすには必要だろう? ……内々で済ませたい。おばあ様のこの膝元で、奇禍があったでは堪らんのでな。」


「あ~、なるほど。ご高配痛み入ります。で、あるならばわたくし共も、前向きに善処させて頂きたいと~……。はい。思っては~。ええ。……おるんですよ?」



『田舎ムスメー! 水クレヨ水! リンガソロソロ欲シイッテサー、言ッテンジャン!』

『アハー、聞イテクンナイト火ノ海ダゾー! ソウテーン! ガッチャーン!』

『ジャーカーラー! サッキカラ皆モ言ウトルジャロー! ノマー! 喰ッテイイ奴ハオランノカ!?』

『暴レルナ! コノ私コソガ目付ケノ役デ……! 暴レルナ! ワカッタ貴様ラブチ転ガス!』



「……思っては~、おるんですヨ?」


「ノマちゃ~ん。ごめん、ちょっと待ってね~。防衛設備、この都市の全部覚えていくから。」


「サタナチア。コイツらやっぱり今すぐ殺すぞ。」


「むーりー。」



 なんかぶっ壊れた音がした。破砕音。爆発音。後ろから届く衝撃波。死んだ鯖みたいな目のサタナチア嬢、吹き流されて髪が真横に揺れる。手に汗を握る悲鳴あり、潰れ散る肉のそれは無し。至る、代わって歓声の圧。ならいっかぁ! 火事と喧嘩はお江戸の華よ! そうという訳でどうにか一つ……。 縮こまる。早いうちで抜けときましょう、人的なアレがアレする前で。言うほどは私図太かなれぬ。



 転落防止の柵が見え、水の張られたお堀が見えて、皆してそこへゴロンゴロ。踏んで歩きます石の橋。精緻な彫刻が施され。ちょっとミシミシは言ってるけども、どうにかで無事に無傷で耐えた。橋が。で、流石にここいらの辺りへくると、ぎゃらりぃも遠慮なさるらしい。潮の引くように離れ去り、観光のヒトやゴブリンのヒト、入れ替わってそこを兵士が占める。すげぇ、厳戒態勢で。我々は安全ですが?


 本当です。とても安心。公明正大アヤシクナイ。後ろから届く衝撃波。デーモン・タブン衛兵サン。瞳孔を細く楕円に潰す、ヤギの皆さんもガン見を為さる。なので通らせて頂きますね? 全力で槍で突っ返された。ざっと数えまして五十とちょい。残念であるが至極妥当。アポイントメントどうなってんの? 『部下に先触れを任せてある』? じゃあ、まずは誤解の方を……。炸裂音。落ち着け貴様ら。


 んーむ。付けた目星はもう目の前で、届きそうじゃああるんですがねぇ。そびえ立つソレを仰ぎ見る。正門を抜けて広場の中。高い尖塔をいくつも備え、それぞれに空いた物見の穴が。芸術を兼ねた実用性。近づいて尚も立派なもんよ、しおりにも載ったデーモンお城、表紙ではもっと盛ってたが。……ぱんふれっとを懐へ、視線も戻して刃の先へ。遊山、興じるも此処までか。血生臭い事にならねば良いが。


 もう一度、改めて隣を見る。サタナチア嬢は顔色悪く、フレルティ嬢は何か焦った様子。売られたって線はまぁ無いか。それはそれとして想定外。やはり我々の不審と危険、その辺がちょいと過ぎましたかね? ぎょろり、動きますティラノの目。まぁ、その事に異論は無い。こちとら物騒人外なのだ、その事で別に異論は無いが……。この、狼狽の無さは気になった。つまり『伝わっている』のである。



「エリゴール! 私の預けた封書はどうした!? 守備隊へ開示されていないのか!? 報告しろっ! エリゴール!」


「……フレルティサマ。エリゴール、此処ニ。お命じの通リ控えておりまス。」



 なーんかちょっと変ですねぇ? そうと言い放つ一寸前で、横のお嬢さんが口火を切る。軽く怯えた雄羊を撫で、そのまんま歩みずけずけと。応じたは囲む兵士の一人。お嬢さん方のような貴種では無しに、頭蓋の輪郭もヤギなヒト。今日までの道でよく見たそれだ。で、そんな彼の瞳の金に、上司に詰められた怯みは無い。んー? おー? だってなら、もしや裏切りですか? 嵌めちゃってますか我々を。


 ヤンノカコラー、スッゾコラー! 軽く拳をシュッシュする。そうとするうちに兵士が増えて、いよいよ半円で包囲をされた。……どういうつもりだ? フレルティ嬢の言葉に対し、耳を貸そうという様子が無い。既に、話はついているのだ。自己の保身という観点で見て、こうなるに至る動機があるとは……。抜刀。エリゴールとされる彼が抜き、一下、号令の動きが始まる。来るか。正気か?



「諸君ッ! フレルティサマをお助けシロ!!! 卿は心を惑わさレ、化け物に囚われておられるのダ! 大恩ありシ陛下に向けテ、忠を見せるハ我らが今ゾッ! トツゲキィィィィィッ!!!」

 


 三度、顔を向けてみる。お嬢さん方も私を見た。真顔。こちらもそうなのだろう。





 

 残念であるが妥当であった。






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