ダイナミックお邪魔しました
「サタナチア! お前、生きて……、無事で居たのかっ!?」
「はっはっは。フレルティよぅ、勝手に殺すな。このとおり足だって付いてるしな。ほーれ胸に飛び込んで来い。」
ラリアットが派手に決まった。やった側とやられた側、娘さんが二人ぶっ飛んでゆき、もんどりを打ってぎゃーぎゃー喚く。どうも、ノマです。本日はデーモンさんとこの守りの要、大要塞カイーナへお邪魔しております。なおついさっき陥落しました。二十割くらい私のせいで、ちょっと頭蓋骨にカチンときたので。ついでに此処も城内であり、野戦病院もさながらである。ひでぇお話もあるもんですね。
……こほん。そんなわけでして応接間。正門の下を堂々くぐり、なんやかんやと雪崩れて込んで、ちゃっかりと居座った現在である。すげえ皆さんの視線が痛い。いや、確かにキティーからはやれと言われた。単独で以って神出鬼没、要衝を軽く粉砕する。それが防がんとする立場にとって、如何に恐ろしい仕草であるか、見せつけてやれと言われたのだ。迅速、確実、丁寧に。無血で圧倒的に粉砕しろと。
とはいえ私とて傀儡でなしに、ちゃんと考える葦である。注文されずとも穏便穏当、『話せばわかる』と一席ぶって、そうとしたうえで突撃した。らぶあんどぴーす。だってノマちゃんは穏便なので。で、『問答無用、打て!』ってされて、前述のとおりカチン! と鳴って、反撃の末のこんなんでして。いや、調子に乗ったのを否定はすまい。他者を追い詰める嗜虐に酔う。所詮、考える葦である。
いやはや。これでは『お話』についでと乗った、過度な暴力を未然に防ぐ、その、犠牲となった子らも浮かばれまい。部屋の隅っこへ目を向ける。ぐるぐると巻いた大糸玉。こんもりもっちり天井までも、羽根だの顔だのを混じって生やし、恨めしい目を私の方に。すまんて。ごめんて。イツマデちゃんとフルートちゃん。君ら絶対にやらかすからさ、私が攻撃を受けるを見ては。お為倒し、笑って逃げる。
「きさまぁ! 本国を裏切ったのかっ!? こんな化け物に手を貸すとは……! 私の、思いを……! 失望した! 恥を知れっ!!!」
「裏切ってないっ! こっちだってなんかさホラ、色々ともぅあったんだよ!? 出来ちゃってんの! 借りってやつが! でなきゃ、なんでこんな化け物になどっ!!!」
「どうも。『こんな化け物』です。お二人さーん、ちょーっとそろそろ宜しいすかね?」
ぎゃーぎゃーみゃーみゃー。切りがないので片手を上げる、割って入って見上げてイーネ? 娘さん。したら『びにゃ!?』って鳴き声が。二人揃って天井近く、角っこまで逃げて突っ張り棒に。ネコみてぇ。山羊だけど。ついでにお付きの蛮族娘、オークとゴブリンの微妙な目がね。いや、別に私じゃねえ。間接で言うと私だけども、愉悦してんのも私だけども、そもそもの趣旨はそうでは無いのだ。
話したい旨は通行許可と、今後向かうべき先のその見当。なんせ我々は秩序の徒。折り目正しくぴっしりとして、一歩たりとも通過はせずに、ちょっと押し入っただけである。非常識であると言うまいね? 先に射掛けたはそっちであるし、その点で割と強気であった。気持ち鼻息も五割荒い。では、そうという訳でして。改めてまぁ、状況を。高そうな椅子をぎっこと引いて、薄いお尻、乗っけてもふり。
次いでお手々も長机、どーんと座したるそいつへ乗せて、室内にざっと目を通す。私を擁する王国組。私が引き込んだ衆国組。足を突っ込んだ化け物組に、既に挙げました蛮族組と、大所帯ですねすっかりまぁね。そんで協調は死ぬほどねぇ。てんでばらばらウロウロしたり、好き勝手したり、びにゃったり。なんか邪悪に微笑んでたり。キティーである。意地が悪い。政治というやつは難しいのだ。
「いいですかー? 我々の要求は二つあります。『通りたいです』と『迷宮情報』。とーくーに! 一般に広く知られていない、秘匿されたモノが望ましいです。よろしいですねぇ。」
「断る! 仮に、そんな『モノ』があったとしてだ。迷宮は国家の財産! 貴様らの如き得体のしれぬ……、まして化け物になど、応じた義理がどうしてあるかよ!?」
「正論です。ですが、えーとフレルティさん? 貴方は、ご自身の『いま』をわかっていない。アレだけの目に遭われておいて、鑑みるべきの立場と言うのを……。」
「だまれっ! 過去とは! 乗り越えるべきものなのだ!!!」
「そんな天井で言われましても。」
うーん取り付く島もない。キャンキャンと吠えるその真横、サタナチア嬢へ視線をずらし、島を作ってと秋波を送る。マジ無理って目で返された。まぁね、そりゃね、ごもっとも。敵性種族とバケモンである、島が無けりゃあ義理とて無くて、心の船乗りも無理って言うし。しかしだからって引き下がれん。そこを通して引っ込め道理、スッポンのノマはしつこいのだ。他人様のこと、ベッドの上も。
さてさてさて。それではなんぞ、我々に。譲って折り合える何かがあるか? その辺がしかし難儀である。要塞守将のフレルティ嬢。我々が何を言ったにしても、そりゃあアチラさん側の一方損で、呵責ってのがねぇ良心の。サタナチア嬢の伝手も無いではない。とはいえ明らかな管轄外。要求も筋も通らんではね、諦めのほうが勝つってもんで。スッポン? あぁ。やっこさんもう荼毘に付したよ。
他の皆さんをチラと見る。三人寄らば文殊の知恵、多けりゃ船でも山頂制覇、ここは集まって功を成そう。勿論にして死にたくなくば、生きて朝日を拝みてぇなら。そういったアレ、サンシタ・トークは却下である。よって化け物は全員没。クラキさん麾下の人形娘、うちのフルートちゃんも没没没! 端っこでお芋食べてなさい。ゼリグは食うな。『あ、終わった?』みたいな顔で混ざんじゃねえ。
「あら、あら。しかし聞きましたよ? 北方蛮族が王家の直系。それがねぇ……。こんな礼節も知らぬとあっては、おばあ様にとってお笑い草では? お可哀そうに。とても、尊敬は致しかねます。」
「人族……! 貴様ぁ、我ら魔王家を愚弄したか!? 礼無きは貴様らだ! 化け物に与し操った末、民草へ虐を働くなどと! 外道の所業、神がお認めになった道理はあるまいっ!」
「いいえ。いいえ、フレルティ様。『力こそ正義である。』残念ですが赤の神も、そうと言い残されておられます。だからこそ我々が……、王国が口利きとなり、『いま』を取り成そうと申すのですよ。」
「……っち。よくも言う。角無しの女狐めが。」
「ふふ。ふっふふふ。光栄にございます。」
しばし、沈黙が降りてきた。切り込んだのはキティーである。すっげぇわかり辛いサンシタ・トーク。『こっちだって被害者だよ。悪いのは私じゃないよ、コイツだよ。』って感じのやつ。しかし妥当といえば妥当であって、言えた対案があるわけでなし、黙って頷き乗っかっておく。ちょっと憮然。で、天井の娘らも、降りてスチャ! っと身を翻し、不承不承ながら上座のほうへ。通ったらしい。一応ね。
ちなみに桃色のやつは下座である。高圧的な物言いで、しかしそこら辺ちゃんと譲ったあたり、頭良い人の妙っていうか。ズルイよね、ぷー。唇もとんがった。そんな私はといえば席次に迷い、差し詰めはキティーのお隣のまま。自身の所属もさりげなく、仄めかす事で圧迫するし。んなもんでずっと機嫌が良い。私じゃない。桃色の方。そりゃあわからんという話じゃないが、お調子も付いて揚々だこと。
なんせ今日までの実利の面。そこを切り取れば万々歳で、値千金じゃお安かろうて。王国という組の立場において。北方蛮族は敵である。私にはそんな視点は無いが、有る組にとっちゃそりゃそうだろう。切った張ったの歴史があるのだ。そこへぐいぐい突っ込んでいき、今後使えそうな面識を得る。しかも幹部級の山羊さんと。あとは着地点の好悪次第、その辺利用されています所存である。わたくしが。
「……さて。ともあれ必要として、取り成しをしたい誤解が一つ。『虐を働いた』件の泥、我々の仕掛けではございません。アレは貴国を喰い蝕んだ、化け物の成せる猛悪でして。」
「……ふん、信用ならんな。ならば、貴様らの連れたその化け物。銀色のソレはどうだというのだ? まやかした術が何かは知らんが、我が友は騙せたとして、この私までも嵌めれはせんぞ。」
「いや、フレルティ? ちゃんと『我が友』は正気だから。騙されとか別にあんまりないから。」
「フレルティ様。一枚の岩と成れないそれは、アチラであろうとも変われぬものです。それが証拠、あのとおり。猛悪を成すは討ち果たされて、既に繋がれた狗ですもので。」
「聞いちゃいねー。おーい人族、私にもちょっと芋くれよ芋。」
手は出ないまでも口八丁。指で示される『ダイダラさん』。その横を通る辺境伯と、皿に取り分けるゼリグの奴と、長机に乗った蒸かしたお芋。なーんか気が付っきゃ仲よいね? まぁ、そこは宜しくて、私がやらないと始まらなくて、近づいて捲り引っ張り出す。皿ごとムシャってるオバケ布。鳥の居ないだけ小さなそれを、差し引いて娘一個の分。芋を咥えたのがごろんと掘れた。
「……なんだ、魔人。オトシマエならば先日とうに、くれてやったものと記憶をするが?」
「そこをまぁ~、ご納得のない方も居りますもんで。……もう一個くらい、頂けません?」
ちょいとキツめで当たってみる。目だけ、一応笑わずに。泥の化生のブラック・アニス、殺をお掛けした奴ですもんで、もうちょっとくらいはねぇ? 嬲ったとて理には適うだろうて。そうと思って交渉する。腕を引き千切ってみせられる。肘から下、左のやつ。それをズパッとぶん投げてきて、フレルティ嬢のお顔の横へ、突き立った壁の赤い染み。『じゃ、戻る。』すんません首輪千切れてました。
平静を装うキティーの奴も、これには流石にドン引きだろう。ましてお嬢様方は言わずもがなで、守将殿もだいぶ顔が青い。『飯が不味くなるからさぁ……。無事ってんならまぁいいけどさぁ……。』『あら、案外に気が合うわね。』長い机の反対の側、芋を齧ってる奴らの言。慣れていくんですかそうですね。別から人肉も要求される。機械油も一杯くれと。うるせぇ大人しく芋ってろ。獣肉の塩辛あるよ。
「……あの~、一応。平気なんですかアレってば。」
「かっ! なぁにが平気か。見てみぃ、ペグにもがれたこの右手! 生えてくるのに三日も掛かった!」
「そうですか。お互い健康で何よりですね。」
「はーい、話戻すわよー。ノマちゃんそいつらの対処をお願い。」
微妙なお顔で手を叩かれる。ぱん! ぱん! が二回聞こえた。よってもっかい厚布の下、めくって氷女とお話を込む、私も向き直りいそいそと。ちなみに泥は不貞腐れてて、水も頬っぺたつねられてます。民事不介入なんでまぁいいです。ん-でそっからは細かい話、サタナチア嬢の欲しい支援とか。これからに向けた関係だとか、不可侵の言も引き出すだとか。またズレた。わかるけどそんな一方的な。
優位を振りかざす言質取り。真の友人は国家におらず、毟れるんならば毟っておこう。よくも言われた話じゃある。『……持ち帰り、検討する。』ほらぁ守将殿もうつむき気味で、そうと言うだけになっとりますし。ノマちゃんポイントマイナス五。しかしそっから吹っ切れたのか、語気は荒ぶって段々強く。人族蔑視、過激な口調。お嬢ちゃんそりゃあ宜しくねぇ。そっちも同じでマイナス以下略。
「……ノマ。さっきからなぁにウロウロしてんだ?」
「正論判定ノマちゃんです。」
「頭ん中お前ブレブレじゃねぇか。」
うっせーですー、芋食いゼリグ。ほら、デーモン・ショクドウノオバチャン達。ついぞさっきの陥落時、奴隷を装ってうろついてたら、『お偉いさん? 血相変えて地下室行ったよ。』そうと教えてくれたおば……、お姉さんが、お芋の追加くれましたから。引き続きこれでムシャってなさい。ちなみに立ち位置の変化に併せ、キティーも論調に強弱が。すげぇ嫌そう。わかるけど私フラットですし。
「ええいっ! と、ともかくだ! 貴様らの如き無作法の言、元より聞いた義理など無い! サタナチア、貴様もだ! そうやって見せた不甲斐の無さが、こうも連中を増長させる!」
「んぐ!? ……んん。そー言われてもなぁ。うちだって支援欲しいし、借りは返さなきゃあ後が怖いし……。なぁ~、頼むよフーちゃん。幼馴染のよしみで一つ、魔王様のとこで口添えとかさぁ。」
「フーちゃん言うなっ!? この悪鬼どもがもしやでアレを……! いや、ほら……。わかれ! 言ったら!」
「ん? 濁すなよ。なんだっけ…………。あーっ! アレってアレか! 『魔王城地下大迷宮』! 幼体の頃に遊びで行って、迷って揃って死にかけたヤツ!」
ラリアットが派手に決まった。やった側とやられた側、娘さんが二人ぶっ飛んでゆき、もんどりを打ってぎゃーぎゃー喚く。いや、天丼は別にいいんで。魔王城地下のそのお話ね、そこんトコとても詳しくどうぞ。ついでに糸玉ごろんごろ。『ノマ様の言葉聞き入れぬとは! 不敬者! 抹殺します!』そのまんま押してお帰り願う。とりあえず先は決まったなぁ。魔王様のお膝元。鬼が出るか、蛇が出るか。
ちなみに鬼ならもう居てまして、ジトく睨んでるキティーの奴。全面で味方せんかって? そうと言われましてもね。人族、蛮族、人外の人、味方の見方が三方なもんで。とはいえ焦りたい気持ちはあって、出所は違え私も同じ。『上』の趨勢が気になるのだ。盤上の駒の最上位。どうと返っても指し手にゃなれぬ、所詮、考える葦である。葦で無くなったモノが『私』であるか、一抹で済まぬ不安もあるが。
……まあ、そんなわけでして。まぁ、そんなこの状況。差しも当たって出来ます事は、こっからの場の潤滑くらい。だから微妙な目をするでぇ無い。オーク娘とゴブリン娘、キミらの雇用者を悪かぁせんよ。機を窺う。左右を見る。ギャーツクの切れる合間を縫って、元気よくとても大きな声で。片手を挙げる、見せてやろう。気配りの業が如何なるものか!
「フーちゃんさん! ほらぁ、サーちゃんもこうと言っておりますもんで、是非に! 改めてお願いします!!!」
ラリアット。ダブル以下略。




