ケジメ案件
両手足をジタバタする。瓦礫を押し退けてジタバタする。……うむ、どっちが上なのかまったくわからん。目を凝らそうと闇ばかり。実に窮屈なことに圧し潰されて……、杭がお腹を貫通していた。先の倒壊の巻き添えに遭い、下敷きとなって埋まったらしい。エドガー・アラン・ポー、『早すぎた埋葬』か。今は吸血鬼のこの私に? 少し、上手いことを言った気分になる。聞く者も無し、笑いが漏れた。
両手足をジタバタする。さて、それはまぁ宜しかろう。それより心配は他人の事で、他の皆さんの安否である。全員無事で逃げおおせたか? 『泥』の小娘はどこ行った? 最後の瞬間は抱いていた。つまり過程で弾かれてはぐれたわけで……。そこまでを考えて、やっぱりね、出なきゃあ始まらんとジタバタをして、右足の先がボコりと抜ける。お、外気。思う瞬間引っ掴まれて、引っこ抜かれて根菜気分。
「お。やーっと掘れた、田舎娘。自力でさっさと出てこいよなー。ほれ。そんじゃあさ? これでもう貸し借り無しな、お互いに。」
「あんれまぁ。どうも、お手間おかけしましたようで、ありがとうございますティミーさん。……で、不躾でちょいと失礼ですが、他の皆さんはどちらの方に?」
「なーんかあっちで揉めてるよ。おーいにょろにょろ! 見つけたぞーっ! お前の採れたてご主人様だ、さっさと受け取って落ち着けっての!」
片足を持たれ宙ぶらりん。そのまんま下にべちょりと落ちて、へばりつき交わす二言三言。私へ気を遣ってくれたらしい。人形娘のその筆頭の、何気なさがちょっと嬉しくなる。しかしまぁ揉め事と? 私の大破する間に何が『ノマさまぁぁぁあっ!』考える前でドカンとお胸、激突で派手に一周回った。フルートちゃん、君も情緒が育たんねぇ。次いでゴトゴト震える真下、竜の鼻づらも顔を出す。
「おっと、ゴリアテ君もお役目ご苦労。ああ、もちろんフルートちゃんも……。あの、離してくれません? わっぷ!?」
「おー、おー。見せつけてくれてんじゃーん? リーン、ねぇねぇ。ミーシャ様たちもご褒美欲しいなー?」
「あははー。だーってさ? いっぱい燃やしていっぱい掘った、リンの言うこといっぱい聞いたよー。ほーらほら、頭を撫でろー?」
両手シャベルの重機な子たち、人形娘の残りの二人。あちこち掘り返してくれたらしい。それにどうもとお礼を言って、続くクラキさんに頭を下げる。下げさせて? 抱きしめる腕を押し退けむぎゅり、ちょっとだけ場所を確保した。なお礼のお相手は足取り軽く、左手は既に生えかけである。右手にはでかい水差しも。水分取ったら直るんか? そんな事を頭に浮かべ、ぐるっと見回す辺りの様子。
さぁてそれでは揉め事とやら、探すそいつは……って、聞くまでも無いですなこりゃ。背後は積み上がる瓦礫山。そのお向かいで真っ向二人、対峙しておりますは山羊と蜘蛛。サタナチア嬢とマガグモである。辺境伯殿は逃げ腰だけど。そして蛮族陣営と化生組、双方の裏にそれらが付いて、途中にはなんか転がるモノが。泥の小娘と凍った娘、いつぞやで会った水妖ちゃん。下手人はキミら二体のようで。
ふむ……。『腕』と『歯』は逃げたかな? っていうか『水』も来てたのか。なお王国の組は一歩を引いて、どっちとも組まぬ静観である。そこまでを見て頭を掻く。あぁ、面倒な事になってしまった。真下からの揺れが大きくなる。ゴリアテがにゅっと頭を出す。それに押し上げられて纏めて上に、滑り台が如くするりと降りた。じゃ、揃ったところで向かいましょう。我々もそう、慎ましくね?
「ノマ様っ! 奴ら不敬です! 御身のことを探しもせずに、裁きだなんだと熱するばかりでっ!」
「うーん……。でも埋まってたの私なわけで、そりゃあ、まぁ? そうなるでしょうねぇ。」
「ったく。ほんと適当な造りよねえ、アンタの身体。ほーらその杭さっさと抜く。見てるこっちが苦しくなるわ。」
「おっと失礼。んでもちょいとクラキさん、そこら辺はまぁお互い様で……。いえ、何も?」
フルートちゃんの立腹と、人形遣いの気を損ねたの、双方からスッと目を逸らす。次いで腹に刺さるのを掴んで抜いて、その辺へ放り一息ついた。この子もね、『ヒト』である事に拘るなぁ。会いたい人、帰りたい場所があるとそういうものか。私にはとうに未練も無い。……子や、孫が居たら違ったかな。ちょっとおセンチな気分になる。それを引き摺って連れ立ち歩き、諍いのちょいと端っこ側へ。
ゼリグとキティーの後ろへ付く。ひょいっと傾いて片足で立ち、事の詳細を覗き見る。当の本人の複数名、それを囲んで野次馬の群れ、一般デーモンのヤギな人。物見高くも集まった末、好き勝手既に流言飛語が。アレですね、大事な事なのでもういっぺん。実に、面倒な事になってしまった。振り返る。私の成果へと目を向ける。塔の残骸は外向きで、街を避けるかのような倒壊を見せ、よぅし上出来。
目に見えた被害は無い。そう、要するに此処は街なのだ。草原の中の蛮族都市。民間デーモンが大勢暮らし、無論それ相応に人目がある。よって泥の脅威が去った今、建造物の大崩壊が、それを引き付けてしまうは否応無しで……。つまり、アレだ。黒山の人だかり、もといヤギだかりがね、うん。これでは秘密裏における手打ちが出来ず、衆目の前でせざるを得ない。端的に言うとそうなのでして。
「泥を操っていたのだろう!? そいつらが! ならばこちらへと引き渡せ! 我々には裁く権利があるっ!」
「お断りじゃなぁ、ニンゲン風情が。つべこべと口を出すでぇない。オトシマエならばワシらで決める、これは化生の争い事よ。」
身振り手振りは大仰に、サタナチア嬢が正論を吐き、それをマガグモがばっさり切る。ヤギの人たちもニンゲンなんか? 聞いていて、そんな仕様も無い事をふと思った。さて、矜持と状況の違いはあろう。しかしどちらとて譲れぬ話、だからこその面倒であり、視線もちらちらと行ったり来たり。する。します。したところでどうすっか。首を突っ込んだのは途中であるが、既に双方は知った立場であるし。
まずは言わずとも当然の事、デーモンの人は恨みがある。泥人形による不明の攻撃、いや、実質で言えば通商破壊か。それに散々と晒された。事実商隊の末路も見た。よって彼女サタナチア、街の顔役の立場としては、身柄の要求をするは自明である。更に言うならばこの人目。これがある故に妥協も出来ず、強行を通さねばならぬ事態なわけで……。顔色が悪くなってきた。私じゃない、彼女のほう。
では、そんな一方で化生のマガグモ。あちらさんの立場とすれば、それはどうだってよい些末だろう。確信を持ってそう言える。人族蛮族の如何を問わず、喋る食肉の種類に過ぎぬ。それが同族を裁こうとは! 多分、こんなところかなあ。受け入れ難いのは想像が付き、しかし自制してくれたのは見て取れた。屍の山が積まれていない。敵へ回しちゃあ勝てないものね、私に配慮してくれたらしい。
「ちょいと、ちょいとねぇキティーさん?」
「んー? なによ藪から棒に。」
「どうなんですかねえ? こういうの。王国の立場とかそんなの的に。」
「出来れば傍観が一番よ? 蚊帳の外で居られるのなら。」
「ですよねー。」
王国の意志の代弁者。の、袖の端っこをツンツンとして、渋い感じの返事を聞く。私も面持ちが渋くなった。次いでそんな彼女の隣、ゼリグと顔なんか合わせてみるも、思うところは同じのようで。肩をすくめられて終わりである。面持ちがもっと渋くなった。どうせなら双方潰し合い、削れて活動が鈍って欲しい。そうと言われないだけ大分マシか。ある意味でそれは妥当である。私も否定には難渋する。
要は物の見方であって、加え立ち位置のそれなのだ。属す集団の立場と並び、個人としてもまた立場がある。王国へ属すキティーとしては、蛮族は所詮敵対種族、化け物に至っては被捕食者と言える関係だろう。そこへ手心の入る余地はない。しかし『歯』から救われた恩はある。化け物に対し融和を唱え、一方的と言える味方にならぬ、『私』というモノの手前もある。困ったね。一言でこうと断じ辛い。
ちなみにそんな私としては、どうにかをして八方良しに、穏便で済ませ頂きたいと……。ネタが無い。何処へ軽視を押し付けるのか、頭を抱えた。なお連れ立った組はお気楽気味で、フルートちゃんは『ノマ様の判断が正義です!』って感じであるし、人形遣い御一行様はなんだ、アレだ。既に見物人と化してるし。しかもゴリアテが人目を集め、聴衆に混じる混乱不穏。竜だしね。悪目立ちしております。
『火竜じゃないか?』『水竜を狩った魔術師が居るらしい。』『アレが化け物を下したのか。』混乱が熱を帯びてきた。宜しくない兆候だ。化け物はもはや災禍に非ず。そういった意志が蔓延すれば、投げられる石の一つがあれば……、これら聴衆は暴徒になり得る。そして返り討ちに遭うだろう。下等と見做すニンゲン相手、先に手を出されておいて、マガグモ達の黙る理由が無い。残す禍根は大きくなる。
なるべく小さくはしたいのだ。あちらを立てればこちらが立たず、回避する術に期待は無いが、そこは最小で抑えたい。そこを考えると被告を渡し、あとで私刑に処されたとして、反撃を喰らい全滅とかさ。なんか、普通にありそうで。そうとなったでは寝覚めも悪い、やはり引き取って治めるべきか。そこまでを考えて、むーんと唸る私の耳へ、キティーが近づいてもしょもしょとする。渋っ面が加速した。
「……貴方、この私に道化をやれと?」
「妥協案よ。得意でしょう? 別にこういうの。」
「お調子者なのを否定はしません。」
茶目っ気も無しに言われてしまい、代案も出せず閉口する。そのまま口を尖らせて、あっちやこっちやの周囲の知人、ざっと目を向けてお腹を括った。やむを得ん、やりますか。誰も何とも言わんしな。その一言は言わずに呑んで、『はい!』っとばかりお手々を上に。まぁ、所詮チビのする事よ。さして衆目も集めない、ままにしずしず剣呑の中、足を踏み入れて『おほん』を言う。次は一様目が向いた。
「おう! ノマ! よーぅやっと来よったかっ! 見てみぃこやつら! 何の役にも立たん癖して、ワシらの上前はねようなんぞと一丁前にのぉ! ほざきおるっ!」
「お、おお! 妖術師どのっ! 頼む、奴らに言って聞かせてくれ! 君は我々を助けてくれた、だから我々の味方だろう!? いや、その、なんだ。決して横柄では無くってな!?」
「……ノマでも、妖術師でもありません。」
不満げに怒鳴るマガグモと、これら状況で察してくれと、目で以って縋る辺境伯。それら訴えを片手で制し、ぼそり、平坦にモノを言う。当然集まってくる怪訝の目。『泥』の小娘もそこへと混じり、『水』は地へと伏せたるままで……。私の胴が、ぼこんと膨れた。肉の塊が盛り上がり、皮膚と衣服を破って伸びて、小山の如くまでうず高く。家々の屋根の更なる上へ、半身を残し『ヒト』で見る。
いつぞやで見せたツチノコモード。膨れ上がる肉を鱗で覆い、巨木ほどもある尻尾の先は、勢いを付けて瓦礫の上に。ずしん! 口の代わり、重さで吠えた。囲む群衆が数歩引く。辺境伯どのは硬直し、代わって前に出る配下の子らへ、遥か下、人差し指を立てるゼリグの姿。騒がずにちっと黙ってろ。そう言わんばかり片目を閉じる、目配せの妙に小粋なことで。大事無し。あるいはそうと伝えてくれたか。
「私は魔人、ノスフェラトゥ。娘、契約は成りました。よってこの私から沙汰を出します。」
見上げる顔触れを上から覗き、なるべく厳かにモノを言う。それから袖をごそごそとして、ぱんっ! と頭上で日傘を差した。辺境伯どのに言うようで、その実相手は群衆である。振りかざす畏怖でこの場を吞むのだ。驚愕と憤り、興奮、警戒、緊迫感。様々な意志が表情に乗り、四方八方から私へ向く。正直とんだ茶番だろう。見る者が見ればそうなるはずで、事実マガグモのそれは冷え切っていた。
「ノスフェラトゥ!? ほ、報告にあった、南の化け物っ!?」
「領主様よぅ! だぁから俺ら言ったんだよっ! やっぱりこんな奴ら信用ならねえ! リーナ、退路はっ!?」
「有って精々あの世くらいっ! 悪いわね! 一矢報いるってんなら付き合ったげる!」
親分を守る配下の娘、その筆頭のオークな子。欠けた両腕の代わりの義肢へ、灯す真っ黒な異様の火。次いで隣ではゴブリンの子が、何か小包みをその腕に抱き、実に悲壮たる決意を固め……。取り押さえられて喧嘩を始めた。やったのは老ゴブリン、我々王国からの同伴である。頼む、お静かにさせといて? 以前のような捨て鉢の技、させてしまうような場面じゃないのだ。もう一度言う、茶番である。
どうもゼリグからの取り計らい、あまり伝わりはせなんだようで。そりゃ無理か。とまれ、既に群衆の熱は冷め、巨体の怪物の一挙に一動、注視やむなしの状況である。誰も自らの保身の為に。これでまずは最初の狙い、場の決定権は私が有した。化け物に抗す頼みの綱が、自身も化け物と化したのだ。勇ましく出れる根拠は消えて、今や諦観をもたらすのみ。果たしてねぇ、次の狙いはどうなったやら。
サタナチア嬢を一瞥する。呆然としてへたり込み、しかし何処かしら浮かぶ安堵の気配。悪いね結局、貧乏くじもいいところでね。彼女にしてみれば先の狂奔、その事に圧されるままで、決裂をするは回避を出来た。泥の人形の排除の為。こんな怪物を招き入れ、結果化け物に与した事も、そうと辛うじて言い訳は立つ。無論反発は出るだろう。が、後の実害が出なければ……。徐々に薄まるを期待したい。
そうなってくれるかなぁ。なおけしかけたキティーの側は、なんか跪いてすましたお顔。隣も引っ張って座らせてるし。おのれ、アンタそう来たか。王国はこの、まぁ、比較的。理性ある化け物が支配した。そうと物言わず売り込む事で、いつかの将来を牽制したのだ。『蛮族よ、南下してきたらコイツが居るぞ?』と。この場を収めての事態の進展、それを成しつつの副産物か。邪知ですねキミ。
「ひ、ひ、ひ。およしなさい、およしなさい。知っているのでしょう? この私が不滅であると。だから、無駄はおよしなさいな。今日の私は中立です。悪いようには致しませんよ。」
「……ほーぅ? ナニだか知らんが、お前のようなモノが世に出るとは……。何か、時世が動こうとしているのか? ふふ! ちょっと、興味沸いちゃうなぁ。」
言葉は思いがけぬところから。ひしゃげた帽子にくたびれた服、白と黒とでまだらの意匠。『泥』の小娘。たしかその名を……、ブラック・アニスか。それがすっくとその身を起こし、好奇心に満ちてこちらを見る。いや、お前さん方の処遇でね? こっちゃすんごい揉めててね? こいつ、空気読めねぇなぁ。心の温度が大分下がった。法で定められた内の外、そうだからキミら厄介なのに。
「……貴方。少し、悪びれてもみなさいな。別にこの私自身において、おもんばかってやる理由は無い。お分かりでしょう? ただ、契約に応えるのみ。それもわからない愚物であれば……。」
「わかっているとも。ニンゲンの言う『ケジメ』だろう? 『キカイジカケノカミ』とやら、ゴギーに付き合って探していたが……。まぁ、滅されるわけにもいかんしな。この私の命の探求、出来ず終いでは困ってしまう。」
身振り手振りで身体を裂く。それっぽい事を必死で言う。なんの契約かは私も知らん。それはそれとして『機械の神』と? 聞き捨てのならん言葉が出た。何を、どこまで知っている? あの犬面の動向は? 俄然、彼女らの身が欲しくなる。事情が変わった。そもそもの今の目的なのだ、確保して裏で尋問せねば。行き当たりばったりと言うなかれ、所詮私も俗物である。とかく、なんかそういうもんです。
『それはそれは……。よい心掛けです。』笑って見せる。低く、不敵に、底冷えをさせ。この場全員の目を私の元へ。で、沙汰って具体的にどうしよう。それを考えて誤魔化すうちに、泥の小娘が動きを見せた。右腕の爪が長く伸び、それを自らの左の胸へ、逡巡も無しに突き立てる。そのまま着衣を切り裂いて剥ぎ、形の良い乳房がこぼれ……。さらに、爪を突き立てた。粘性を帯びる、液体の音。
トウモロコシに似る皮下脂肪。その下の筋膜を裂き、肉で出来た繊維の束を、ひと掴み、ひと掴み。探るようにして退けていく。やがて肋骨が露出して、脂と鮮血にまみれたそれを、数本、引き剥がすようにしてごきんと折った。額には脂汗。如何に化生の頑健さでも、流石にこれは堪えるらしい。剥き出しになった鋭い歯。噛み締められて、欠け落ちて。最後に太い血管が繋ぐ、塊が一つ引き摺り出される。
肉では無い。弾力のありそうで、未だどくどくと脈打つそれが、引き千切られて彼女の手に。それと同時に血が溢れ出し、よろめいて数歩歩いた先の、辺境伯殿の震える手へと。渡った。赤黒い心臓が。サタナチア嬢の血の気が引く。囲む周囲からも悲鳴があがり、年若い者は目を覆う。私はといえば溜まった唾を、知れず胃の底へゴクリと呑んだ。天晴れと言うべきか。阿呆、貴様本当で身を裂くとは。
「ふ……、ふふは……! 受け取れニンゲン、私の『ケジメ』だ……。なに、そう怖がらずとも……、な。これで、当分はまともに動けん……。」
「……あの、マガグモさん? ちょっとアレ……。心臓引っこ抜いて平気なんです?」
「くひ! ひ。なぁにを言うとる。あそこまで欠けてしまっちゃのぅ、ワシの見立てじゃあ冬まで動けん。……で、じゃ。くぉらぁ泥の! そこな連中にゃ心腑をくれて、それでワシらにゃあ詫びすらなしか!? おぉん!?」
ガラが悪い。思わず素を出した私の言に、横のマガグモが応じて吠えた。そこへ煩いと目が向けられて、引き千切ったアバラの骨。それが数本投げつけられる。イヴでも量産しろってか? っていうかキミら健康ですね、そこまで破損して四半期ちょいかい。なお、当妖的には妥当のよう。受け取った骨を割り砕きつつ、『まぁよかろ。』という合点の顔。彼女らにとり、それなりで意味ある行為らしい。
後ろから他も寄ってくる。蜘蛛の手の中を上から覗き、鳥と霧さんも合意の様子。ただ唯一、雪ん子だけは眉根を寄せて、『大陸は野蛮じゃのぉ。』と引いていた。私もそれなりで同意します。貴方が極東から流れたわけ、鑑みてみれば嫌そうだしね。それから……、しばし、一帯が静まり返った。頭まで、さながらどっぷりと冷や水に。泥の小娘がぱたんと倒れ、『はよう連れてけ。』とぶちぶち言う。
……とりあえず、まぁ、なんだ、アレだ。勢いで呑めたかな? キティーもゼリグもクラキさんらも、誰かなんか言って欲しいんだけど。あ、フルートちゃんだけはお静かに。煽り散らすと絶対わかる、ゴリアテよちょっと抑えとけ。じろり、じろりとねめつける。誰に対してという事も無く、ただ、己の威容を誇った。併せ、尻尾をどすん! とやる。ふんぞり返るのは気分がいい。俗物ですので。
「では、これを以って手打ちとしましょう。私は魔人、ノスフェラトゥ。化生もヒトも、私には勝てぬをお忘れなく……。」
くるり、頭上で日傘を回す。無理やりで締めた自覚はあって、『待て』が入る前で退散したい。じゃあ、そうねぇ。したらば後は、尋問と次いで家探しか。『機械仕掛けの神』とやら、案外この地下で在ったりしてさ? 足元を軽くべちべちした。先人の遺すその行い、仮に住民が知らぬとしても、後世へ伝わらぬ事もあるのだろうし。
息を吐く。一応辺りの警戒をして、緊張の感を一段上げる。……虫が、数匹飛んだだけ。腐り落ちかけた果実の匂い。幸いにも、それは何処にも無かった。




