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異世界転移のバツバツさん  作者: カボチャ
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ヒゾウブツ

 遥か東から流れ来た。殺し殺されに戸惑い怯え、かつての知己すらも軋轢の中、捨てて逃げ去ってきた臆病者。幸いと言うかこの容貌。見た目にヒトの童が近く、じぃっと船荷に紛れて潜み、そこから大陸へ出でて夜闇へと。白い肌、白い髪、青白い目に赤い舌。元々かどわかすのは得意であって、男をたぶらかし町から町へ、心落ち着ける場所を求めてやまぬ。しかし、馴染むなどと出来ようものか。


 不埒者どもの肉を食み、野へ打ち棄てて迷霧の中を、伏して、伏して歩みゆく。それが、果たしてどれほどであったのか。わからないままに見上げる星は、とうに見覚えのないそれらとなって、たぶんそのくらいの折であやつに会った。妖蟲マガグモ。自身も西から流れたのだと、そうと言い漏らす蜘蛛の化生。これがどうしてか気安いモノで、当てが無いのなら居着けと言う。なれとねんごろに誘うのだ。


 ふん。このタルヒも焼きが回った。舐められたものよ、お願いします。そうという訳で転がり込んだ、王国という土地のその近辺。居心地は以って上々であり、思っていたよりか悪くもない。我ら化生への畏れがある。イツマデ、ヤマヂチ。新しき知己も懇意となって、まぁ、オツムが足りるとは世辞にも無いが、それなりに楽はやれていた。やれてゆけると思ったのだ。あやつ、銀色がヒトに付くまでは。



「……確かにのぉ、膝を折ったのは私のほうよ。亀裂が完全と生まれる前に、橋架けとなって言葉を添えた。だというに! それが知らんうちに勝手で揉めて、北のくんだりまで連れ回しおるっ!」


「ひふひ。ど~ぉした、タルヒぃ。敵ならばホレ、よぅさんおるぞ? 我ら南のモノ共へ向け、横から殴り付けおった痴れ者じゃ。遠慮は要らん、たぁ~んと弑せい。」


「かっ! 単なる愚痴じゃ! 言われいでかっ!」



 緋色が蒼天を塗り潰す、下は荒涼の果てなき地。枯れ草の色が茜を纏い、内へ孕んだ泥土の邪気を、無尽蔵に剥がし野へ立たせる。それがヒトの形を成して、あるいは獣の姿を模して。ともすれば重なり合った、ただの歪な醜悪として、ひたり、ひたりと手を伸ばすのだ。中々面白い芸である。北のモノ。いまの私とは異なる一派、面識はないが戯けたものよ。こうものお、臆面もなく喧嘩を売るか。


 シャン! と一つ扇子を振る。霧の軽口はなおざりに、小さな小さな氷雨を浮かせ、伝い這わせるは冷気の帯。足指を流れ地の表層、覆い尽くすそれを泥土の元へ、霜枯れと共に果てるがよいさ。しんしんと凍れ、寒氷陣。一瞬、甲高い音がした。次いで静寂が蝕んでゆき、動くモノはみな真白くなって、残るは土色の透けた飾りだけ。くく、興が乗ってきた。木偶め、静けさと死は同義であるぞ。



「ひひひひぃっ! ええぞ! ええぞ! 凍てて身まかれぃ泥の風情がっ! あとはこの我が穿ってぴぎゃひゃいっ!!?」


「ヒャ、ヒャ、ヒャっ! 的じゃ! 的じゃ! よき的じゃ! 御使いたるノマ様にのぉ、手向かおうとは反賊どもが! 疾く疾く砕け、消え失せえっ!!!」


「むっ! ぐ! きぃっ!? ええい! 鞭が振るいづらいっ! 鳥女ぁ! 好き勝手羽根を降らしてくれるな! こうも爆ぜ散っては邪魔でっぶふっぺっ!!?」


「あっはははーっ! いいね、盛り上がってきてんじゃーん!? ミーシャ! クリスティ! リンに貰ってきたとっておき! ボクらもいくよーっ! 新しいのっ!!!」


「「あいあいさーっ! いっけぇ神剣! グランドナパーーームっ!!!」」



 静けさが派手に消し飛んだ。肉色の鞭が凍土を抉り、羽根の爆砕がない交ぜとして、見える一帯を荒らし掻き回す。あげく奇妙な火の玉が飛び、宙で弾けて眩しく失せて、熱を撒き散らし地表を舐めた。肌を打ち付ける轟音が、退けられる風の険しい圧が、ただ焼き焦がす暴虐が。氷雪を喰らい私の陣を、完膚なきまでに叩いてのめす。台無しじゃ阿呆、クソボケども。物のあわれを知らんか熱っづぅっ!?


 ええい! しかも単なる焔でないな? 燃え種もなしに這いまわりよる! 鳥と人形の野放図め、にょろにょろと霧は火勢の中か、よもやこんな程度ではくたばるまいが。それを見届けて後背へ、飛んで踏みつけた上枯れの先、凍てついて砕け首を垂れて。次いで私ごと横っ面、風にはたかれて千切れて舞った。わっぷ。走り去ったのは銀竜か。ちょうど私の真後ろ辺り、付き合ってバチは当たらんじゃろに。



「そこな阿呆のモノ共よぉ! 周りを見いっ! こぉんな派手に松明あげて、泥のモノどもめ集まりよるぞっ! ほれ、ほれぃっ! 壁になって迫ってきよるっ!!!」


「別にいいでしょーっ!? そんくらーいっ! 此処へ集めて一網打尽、街に向かわれるよかずーっといいさ! リンだってそう言ってたもんっ!!!」


「タルヒぃ! 言葉は無用じゃ! こんのおたんこなすのあんぽんたん! 浅慮ソコツの人形どもめ、このヤマヂチを虚仮にしよってっ! こーなったらば貴様が先よぅ! 手ぇ貸せぃぬし! にょろにょろ女っ!!!」


「待て待て霧のっ! そう逸るな! まずはノマ様のご意思ごっぽえっ!!? くぅ~っ! 貴様らの一味だろうっ!? それよりも先! あの鳥女どうにかしろっ! 頭上を取られてぼっこんぼっこん、あの時の仕返しかぁっ!? また腹底へ呑んでやるっ!!!」 



 うむ、協調性のきの字もねえ。かつての知己のほうがまだマシでいや、ちょっと、悩ましいところである。それはそれとして阿呆モノ。人形サソリが多脚を鳴らし、背負う三つ胴はやんやと吠えて、ぼん! ぼん! と尾から炎を吹く。その足を止めて射止めんと、霧の穿孔が五爪を成して、燃え殻を抉り土砂を見舞った。『やったのは鳥が先だろうっ!?』『ヨソモンがするはまた別じゃっ!』おう。


 せからしか。そんなギャーツクを横目へと、流し代わって黄昏の下、捉えるは延びて羽ばたく影。羽根の爆砕もひたりと止んで、何をするでなく旋回しよる。落ち着けにょろにょろ、ヤツを引き摺り下ろそうとするでぇない。こりゃあ何かしら見えたぞ上で。なお周囲はと言えば死屍累々。凍り砕けて焼かれて炭へ、土地を巻き添えに全部が朽ちた。うーん絶対叱られるのぉ。そうと呟いて真下が割れる。



「ふひひぃっ! アニスぅ、お待たせ! ペグ・パウラー様の参上だぁ! 弱い者イジメはワタシに任せろーっ!!!」


「かっ! だぁれが雑魚じゃ! 痴れモンがっ!!!」


「え? うえぇっ!? 誰よさこのチビっ!!?」


「ぬしだってチビじゃろがいっ!!!」



 ぱっと飛び退いたその眼前、どこぞ知らんがたわけが出よった。地の裂け目から顔を出し、低俗を一つ私にぶって、伸びて上がってゆくひょうろく娘。乗るは朽ち果てた古骨であるが、これがまた異様に大きい。首の高さは塔ほども、現れた背に甲羅は無くて、見た目ハイカラの亀なんだがな? そうと見るうちに脚も出た。死した大地を血肉に纏い、降ってくるそれを咄嗟で躱す。ずしん! 鳴った雷の音。


 ふん、この娘お仲間か。こういったモノは匂いでわかる、意地の悪いかも大方のぉ。さらに襲い来る四つ足の、雷鼓をはしっこく抜けて頭へ当たる、にょろにょろに霧と人形の胸。最後のだけやたら硬い。それはこの際でさて置こう。ぐぅんと振り向いた泥の巨体、相応に土も集めて起こし、嵩はお屋敷の一つが如く。そこへ巻き込まれ辺りの木っ端、泥の群れ共も寡勢となった。目端が利くのー、あの鳥め。



「おう! おう! おう! やっぱり出よったなぁ、泣き虫ペグっ! アニスがこんだけに暴れておるんじゃ、馬に乗っかってくると思うておったわっ!!!」


「ひぃん場所が違うんじゃんっ!? 南のモノぉ! アンタ達なんかお呼びじゃないよっ! 憂さを晴らしてるお邪魔をすんなっ!!!」


「こんだけをやって言うのがそれかっ!? 泥どもを使い仕掛けをうって、喰わんのに肉がもったいなかろっ!!!」


「うるさいうるさぁいっ! こ、怖くないぞ! いっちばんデカイ骨も貰ってきたし、今日はワタシが一番つよいっ! だからっさぁ! 堕ちろぉ円盤っ! アメグモクラゲっ!!!」



 泥の首長のそのてっぺん。吠える阿呆へ矢羽根が撃たれ、それが振るわれた両腕の先、広がった傘の水面へ沈む。次いできらり陽光を、照り返す水の突起が伸びて、お返しとばかり阿呆を襲った。下のこっちにゃどっちも阿呆、落ちる流れ矢に配慮もせぇと。爆ぜて、逃げて、てんやでわんや。それでものぉ、討って見せんではどうにもな? マガグモに低く見られてしまう。そうとあったでは我慢ならん。



「ちぇっ! 足元炙ったってぜーんぜん駄目! 上は水ダマで壁張られてる! おーいにょろにょろぉ! ボク達になんか名案よこせっ!!!」


「やぁかましいっ! 頭三つもある癖をして、もうちょっとなんか計るもあるだろっ!? だから……! う~、ほらっ!? あーっ! 化生っ! おい! そっちはどうだっ!!?」 


「おちつけド阿呆。で、じゃ。ヤマヂチよぅ。上のあのヤツは水妖か? 下はでかぁて半端が効かん、凍らせてやるも限りはあるが……。」


「ああん……? ひひっ! おうともよっ! のっぴきのならぬ我らの仲じゃ、ぬしのやりたいはしっかと組んだっ! 任せておけいっ!!!」


「では、やり口は決まったの。頼むぞ友よっ! 一切しばし! ぬしらへ預けたっ!!!」



 ばちっ! とご贔屓の扇子をば、閉じて荒れ狂う四つ足雷鼓、その一本を目掛け脱兎が如く。振って下ろされる農具を弾き、塞ぐ行きがけは泥人形の、腕を凍てつかせ真横を抜けた。左右は爆炎に霧の五爪、それがねじ伏せて開いた活路、先駆けて肉の鞭が飛び。次いで狙いの大足を絞め、引いて千切れそうな間際が響く。一瞬、それだけで十分よ。泥肌を固め氷へと、変えてガツっ! と足掛け跳ねる。



「お! もっ! いぃぃぃっ!? くぅぅ霧のっ! やれと言われてやったがなぁ、こんなものそうは堪えりゃせんぞっ!!?」


「でぇい! 意気地の無いを吐くでぇないっ! ぬしもじゃ人形! 残る厄介はカミナリ竜よ、達者で働いてタルヒを助けぃ!!!」


「撃ちまくってんじゃんとっくにさぁっ! つーかどっから竜とか出たし!? これ以上は尻尾焼き切れるってぇ!!?」


「知らんのか!? たっぱでかぁて雷鼓を打たば、カミナリの竜で構わんじゃろがっ!!!」



 『納得いかねーっ!!!』が風に乗り、どん! どかん! の響きと共に、壁面を登る私へ届く。正しくは肩のあたりだろう。しかし程度では詮無きことで、下へ突き刺さる火弾を尻目、最後一蹴りで以って背骨へ降りた。吹き荒ぶ熱で焦げる髪。ぴしり弾いてしかめっ面で、ふーむお次がこっから首か? 生え伸びた長いやぐらを見る。そこへ手ぐすね突起を向けて、待ち受ける傘の水ダマお化け。ふん。



「反応……? 後ろ? あーっ!!? お前このぉ! ヨソモンのチビっ! いつの間にっ!!?」


「かかっ! 鳥めに気を取られよったのぉ! そーれーと! いまは南の一員じゃてな、毛唐とは呼んでくれるでないぞっ!」


「べ、べつに油断じゃないしっ!? ちょーっとさ!? ほら! 機会をくれてあげたってーかっ!? わっかんっしょほらぁ!? そーゆーのっさぁっ!!?」


「たぁけがたぁけを言いおって……。ま、吹っ掛けてきたはおぬしのほうじゃ。泣きが入るまでは付き合うてやるっ!!!」



 痩せっぽちにして小柄の身。そこへ軽そうなおつむを乗っけ、髪をちゃぷちゃぷと言わす水の女怪。振るう手先は糸繰るように、空で膨らんだお化けの手綱、握り操って突起を放つ。二本、三本、四本くるか! 太さは私の胴ほども、狙うはもはや言わずもがなで、跳ね飛んで避けてくぐってお次っ!? 五本目のそれが右手をもいだ。っち、気ぃ吐いたわりに締まらんのぉ。膨らます頬を小袖で覆う。


 とはいえじゃ。転ばせて腕を喰ろうたモノへ、ただ起き上がってやる義理も無し。よって追い打たんと襲い来る、うねるソイツもひび割れ止まり、目と鼻の先で凍って果てた。上へ、上へと蝕んで。孕む冷気を自らが道、なって伝えて届ける間際、しかし丸ごとがたわみ下へと落ちる。切って離された水突起、土砂降りが如くざぁんと注ぎ。むぬぅ。先は卑屈が目に付いた割、こりゃあ案外で厄介モノよ。


 いちおうは上で羽根も爆ぜ、鳥めも攻めたてちゃあいるんだがの。あやつも攻め手には欠くらしい。膝を付いたまま睨む頭上、勝ち誇る顔と水ダマの裏、水の分厚さに阻まれて。そうとするうちに残った四、迫る突起らがこの身を嬲り、巻いて締め上げて空へと攫う。アバラ数本はイカれたか、中途半端で小突いてからに。そのまんま宙で逆さ吊り、持って上げられて嘲笑の前、ケタケタの音が癇に障った。



「おーっとっとぉ? ふひっ! せ、雪妖かオマエ、危ない危ない。でーもー? 今日のワタシってば最強だから、そ、そんなんでも圧倒的っ! ふひ、ひ! 勝っちゃうもんねーっ!」


「……ふん、解せんのぉ。それだけに持った自力が有って、おぬしにはどこか怯えがある。なにが、ぬしをそうさせる? 虐げられてきた覚えがあるか? だとすれば、まぁ、友には恵まれんかったのぉ。」


「……はぁ? おい、おい、オマエっさぁ? 馬鹿にした? よ、ヨソモンの癖をして、北のみんなの顔とかなんか、泥とか塗っちゃってくれちゃってっさぁ!? 不敬だぞオマエ! そーいうのっ!!!」


「かか! 気ぃ悪うしたらそりゃあすまん。しかしそうでもおぬしのサガを、何処で身に着けたもんと思うてな? よもや、卑しさが天賦の才。そうと造られた生まれであると、そういったわけでもありゃあすまいに。」


「うっさいうっさいっ! しょーがないでしょ最初っからで! 在って生まれた元からこーなのっ! っていうかワタシ生まれもなんも、いつから在ったなんてわっかんないしっ!?」


「ほうか、ほうか。そりゃあすまん。重ねてスマンが本音を言うと、別に他愛もない些末でな? ……だから、ほれ。そうやってまた。向かう一つへ躍起になって、気ぃを引かれて隙間を晒す。」



 要らぬお喋りで煽り立て、釣り込んだ時をもうちょい稼ぎ、ちょうど成ったのを見てヒヒリと嗤う。そこへ『あん?』が返されて、次いで『ぴぃっ!?』と奇声があがり、ヤツの背面で飛沫が飛んだ。水妖の肌が波打って、のしかかる霧が背の内側へ、沈み込んでゆき混ざってタプリ。嘲った顔がお腹に透ける。姦しいのは上と下、どっちも同じの炸裂音の、その内へ紛れ登ってきたのだ。諦めぇよ観念せぇ。



「ひぃ~ひひぃ! お邪魔をするぞぉ北の水妖! この我も水じゃてな、あの銀色の真似は腹立たしいが、縛り封ずるはお易いもんよぉっ!」


「ヤ……マ、ヂチぃ! このっ! 嵩はワタシのが多いんだ! 薄っぺらい霧の風情が、操ろうなんて思ってくれんなあっ!!?」


「ひひ。そんなこと別に思うておらん。そうじゃろう? なんせぬしへいっとき科した、この不自由がありゃあ十分足りる。顧ってみせい。目の前にいま、だぁれがおるか。」



 ぎゃーつくと喚きお腹を掴む、その様が急でぴたりと止んだ。たぶん冷や汗をダラダラに、流すその顔がこちらを向いて、待てを叫ぼうと大口開ける。それで待ってやる阿呆がおるか! この身を締め上げた水突起、そこへ流し込む冷気の渦が、音を伴って再び根へと。バキン! バキン! と遡上して。今度は切り離す対処も出来ず、浮かぶ水ダマの腹まで届いた。伸びよ銀竹。真っ白に薄く、濁り果て。


 当然に下もタダでは済まず、髪を通して繋がりを持つ、ヤツめもガタピシと動きを止める。最後叫んだはオボエテロ? 上等じゃ。この腕とアバラの恨み、こんな程度では晴らせるまいぞ。次は泣くまでド突いてくれる。そして凍ってそのまんま、ヒトの形と水ダマは割れ、伸びた突起ごと砕けて落ちた。派手に鳴り響く崩落音。私も仰向けでひっくり返り、背をしこたまに打って呼吸が止まる。


 よし。追加で恨み、も一つな。どうも落ちたのは泥の背で、首長のそれは未だに健在。ヤマヂチが曰くカミナリ竜か、言ったそのヤツは粉々だけど。そうとするうちに見届けた、イツマデの奴も頭上を飛んで、ゆっくりと空を大きく回る。頼むからそこで気炎を吐いて、追い打ちだなんだするでぇないぞ。デカイとはいえ所詮泥、あとは術の大本を探して討たば……。申し立て、腰をば上げる、その寸前。



 空気が激しく鳴動した。向いてみれば先ほどまでに、私たちの居た塔の壁。そこへ巨大な泥が突っ込んでおり、既に崩壊を仕掛けている。おんや、まぁ。取り憑かれてしもうたか。下の側でも悟ったらしく、にょろにょろと人形が騒々しい。しかしあすこにはマガグモが居り、なにより銀色が残っておる。ちょっとやそっとじゃあビクともすまい。私の見立てが正しけりゃあの。懐を漁り、扇子を手へ。


 ……さぁて、それじゃあ。口角を上げた口元隠し、沸いた昂りを静かに込める。



「お手並み、拝見といきましょうや?」






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[良い点] 雰囲気がいい キャラの心理描写が好き [気になる点] 最近の戦闘描写になると、何処にいてどうなっているのか分かりにくくなって来た [一言] ノマがこの世界の操作盤を手に入れれるのか、手に…
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