覚醒__________そして本当の出会い
今、なんと言った。
西条玲奈は、機械と言ったのか?
おい嘘だろ…だって、バーコードなんてどこにも…。
「バーコードは魔法で消す事ができます。…このように」
そう言って西条は肩の下にあるバーコードを見せつけ、消した。
おそらく今朝もその方法を使ったのであろう。
だから俺らには見えず、証明となり…あいつは去っていった。
「それと…その事を知った上で、お話があります。…神沢さんは、機械とタッグを組むという事がどういう事か、おわかりですね?」
たしか人間の方に機械の中心核、つまり命とも言えるリングを渡して相合同意の上で契約を結ぶ。
そしてそこから魔物を倒すためのチームに入り、本格的に『魔物殺し』として活動する。
だが機械の命を握った人間は脅し、悪用し、壊して機械貯蔵庫に戻す場合もある。
というか、それが大半なのだ。
俺は一通り思い出してから、頷いた。
「悪用されることも?」
「あぁ、もちろん把握してるよ」
そう答えると西条は意を決したように口を開いた。
「お願いします、タッグを組んでください!」
お願いしますって、西条の方がリスクが高いのに…。
そこまでして、あんなに酷いことをされたのに…人間を…。
「人間を、守りたいんだな?」
一瞬の間。
少し不安になったが、西条はそれを思いっきり吹き飛ばした。
「はい。だって、私は人間に創ってもらったんですから!」
いつもの、無表情な西条とは思えない、それでも人間には劣る笑顔を浮かべた…。
嗚呼、出会って半日も経っていないコイツの事をここまで信用できるなんてな。
俺も、西条とほとんど一緒だ。
だからこそ、俺はこいつの事を信用できる。
それに、もし裏切られたとしても、西条の命は俺が握る。
何も問題はないし、ここまで人間を守りたいと思っているこいつを見捨てたくない。
しかもそれは、間接的に人間を裏切る事になる。
だから…。
「じゃあ…いいよ。俺はお前を信じるから。…裏切るなよ?」
「もちろんです。その言葉、そっくりそのままあなたに返しますよ」
少し笑った気がするが、気のせいだろう。
そして俺たちは手を重ねて。
「「ここに、記す。緊急タッグを組む事を。ミラージュ・タッグ!!」」
ピカッと光り、指輪の様な物が宙に浮かぶ。
やがてそれは俺の胸元まで近づいてきた。
これが、西条の命…。
「触っていいですよ。指にはめてください」
「あ、ああ」
ふわっと体が軽くなった気がした。
そうか、魔物と戦うために、か。
にしても不思議なリングだなぁ…世界中のどの宝石よりも綺麗だと思う。
まあ、当然っちゃ当然だな。
なんせ機械と言っても命なのだから。
どんな額のお金にも。どんな綺麗な宝石にも。
何にも変えられない、特別で、大切…。
「ありがとうございます。そんなに大切に扱ってくれて」
「機械と言っても命だ、当然だよ」
それを聞いた西条はそっと目を閉じて、手を組み、祈りのポーズをした。
本当に感謝している、と…何故か伝わってくる。
それに対し、俺も伝わればいいなあ…くらいにどういたしまして…と軽く返した。
本来なら伝わらないはずなのに…。
「「は?」」
お、おい…これって、魔法の中でも高位のやつじゃ…。
「テレパス、またはテレパシー…です。伝説の勇者の中でも取得している人は少なく、かなり経験を積んだタッグじゃないと取得できないとされた…」
西条が信じられないという顔で淡々と説明する。
「初心者が習得した例は一つのみ。一度しか例がない事を今私たちがやり遂げたんですよ…?」
まだ信じられない。
実例があったにしても、たった1件だけだろ?
その事実は二人とも一緒の様で、しばらく固まっていた。
「あっ!まずいです、魔物が騎士団を押し込み始めました。急がなければ…」
「西条、運んでくれ!」
「了解しました」
西条は節々のエンジンをフル稼働させて、景色を、地形を置いていく。
機械の有能さは見にしみていたが、機動力もやばかった。
全てを置き去りにしながら、なおも進む。
数瞬がたつと、西条が止まった。
「目的地到達。現状最悪とみる」
「や、やばいな…」
草原一体が赤く染まっていた。
相手はメジャーモンスター、ゴブリン。
警戒を怠らなければ負けることはまずない。
初心者でも、だ。
どうして、こんな普通の群れに…騎士団が壊滅状態になるほど追い込まれてしまったんだ。
ビリッ
「!?」
「あーあ…気をつけてたんだけどねえ…。はあ、ススまみれじゃない。きったな…凛子に怒られるわ…」
得体のしれない、殺気を隠そうともしないモノ。
「んー!って、あんた誰?ゴブリン相手に壊滅した騎士団の壊滅原因?だったら排除するけど」
そんな殺気隠さずに排除するとかいったら、誰も白状しねーよ…。
この女の子バカなのか?って!
俺の転校してきた礼央学院の特進科の制服を着てる…。
「礼央学院特進科…。俺まだ一ヶ月経ってないから特進科いけないのか…言われたもんなあ、受付に」
「あんた、噂の転校生なの!?一ヶ月後にはすでに特進科入学が決まってる優等生…」
「はい、決まってますけど」
それが何か?というような口調で話す俺。
っと、ようやく警戒が解けたみたいだ。
「私は神沢様…れい様と緊急タッグを組ませて頂いています。西条玲奈です」
「そーなの?」
なんか後ろからすごい速さで走ってくる人がいるんですけど。
なにも言わないほうがいいのでしょうか?
だって、明らかに特進科の人の方向いてるし。
俺に関わっていることではないと、そう思いたい。
「有菜様!なんでここにいるんですの!?私は寮の中にいろと仰ったはずです!」
「うっさいわね」
ビリビリ…バシュッ
電撃とは思えない音を立てて、当てる。
「シールド・ベネティクトォォォォォ!」
恐らく本気のシールドだろう。
それくらい分厚くて、魔力も濃い。
だがそれを簡単に割る。
「あんたのシールド…だから鍛えなさいっていったのよ。むしろ質が落ちたわ」
「あ…有菜様が、全速力の、攻撃を、したから、ですわ…」
うぅ…悲痛な叫びをあげる中、俺はただ考えていた。
あいつは確かに全速力と言ったし、別に嘘ではないと思う。
だが、妙に引っかかった。
全力…本気という言葉がない事に…!
それが何を意味しているかなんて、すぐ分かってしまった。
-彼女の力は、こんなものではない-と。
特進科を舐めていたんだ。
俺がすぐに入れるんだから、きっと他のやつは大したことないのだろうと。
「…?何よ」
「いや、別に何でもないです。ところでゴブリン達が向かってきてるんですけど、やりませんか?」
「あんたがやっといてくんない?私勉強しないと」
「行きますよれい様」
すぐに手を取りゴブリンに向かって斬り刻む。
上下右左、神速の突きを繰り返す西条。
俺も、負けてられないな。
「ハァッ!」
右斜め上から斬る!
ステップを踏みつつ、次のゴブリンの足元に俺の足を絡め、バランスを崩させた所を斬る!
西条に注意が向いているゴブリンの背後を取り、範囲攻撃をしかけ、一気に倒す。
「背後にいます!」
ッ!?
俺は咄嗟に後ろを向き、剣でガードする。
なんとまあ切れ味のいい剣だ。
咄嗟に西条にもらったものだが、今まで使った中で一番の切れ味だろう。
「おーい!こっちは終わったぞ!」
「こちらも終了しました、すぐに学校に帰還します」
うわあああああああああああああああ…。
いつもこんなジェットコースター並みの速さを体験しなくちゃいけないのか。
めちゃくちゃ辛い。
俺そういうの得意なわけじゃない。
正直言うと、吐きそう。
「おーいお前ら、どこに行ってたんだ!」
そんな先生の声を聞いてしまったおれは…さらに気分が悪くなった。