第7話『結局、爆発オチ』
学校というものはつくづく嫌気が指すものの、知識を得る面に関してだけは素晴らしい場所である。最も、知識を得るための環境が揃っていればの話。
僕は今日ものうのうと学校へと向かう。呑気に会話に勤しむ学生達の屯する教室、窓側最後尾のぼっち席に座り次第、机に突っ伏して顔を埋め、夢の世界へと自我を誘うことに。しかしながら、寝ようとするとなおさら、周囲の雑音が良く聴こえて眠気を阻害してくれる。
最近の話題はVRMMOで持ち切りだ。男女問わずに皆がのめり込むゲーム『ユニークワールド・オンライン』と呼ばれるVRMMO。異世界ファンタジーを執筆したい僕からすると絶好のゲームではあるが、僕にはそのゲームよりも小説ジェネレーターによるRPGの方が惹かれるものがあった。
「……お、おはょ、う……」
雑音に混じり、か細い声。顔を上げると目の前にノエルに似た女子がこちらを見つめていた。前の席に座るクラスメイトだ、名前は忘れた。
「……おはよう」
一言それだけは礼儀として返し、そのまま顔を伏せて眠りに就くつもりだったのだがーー
「……ユニークワールド……やってる?」
この僕なんかに話しかけるとは珍しい人間もいるのだと関心に浸っていたが、その言葉を聞くや否や、友達作りをしたいだけらしい。確かに男子にゲームの話題はヒットかもしれないが、僕だけに関してはそれはヒットどころか的外れであった。友達になるなら小説好きとなりたい。
「やってない」
「そっかー……」
クラスのざわめきとは反した気まずい空気が二点間に漂う。気まずさを覚える必要のない僕は再び眠りにふける。
「歴史のテスト……私、苦手なんだよね」
どうでもいい話をどうでもいい奴から聞かされてうんざりする。そう言えば今日は五教科の総テストであった。予習復習などする気もなく、そこそこの点数が取れて赤点回避が成されればそれだけで僕の望みは叶う。高得点を得る必要のない僕に、テストの事を聞かれましても答えかねる。
「観音寺騒動だったかな? いつ頃だったか覚えてる?」
「1563年……悪いが君に関わってる時間はない」
とんだ時間の無駄遣いであった。話を聞き、答えるまでの時間に夢の世界への扉を開くことが可能だったというのに。
ため息一つの後に眠りに就いた。
それはさておき、今日も高校ライフの一日が終わりを告げ、再び小説ジェネレーターを起動して小説執筆のサポートに勤しむことにした。勘違いしないで欲しいが、僕はゲームをするためではなく、あくまで小説の世界を脳内で描くためにしているのである。異世界ではないが、異世界に近しいVRであればファンタジーを構想しやすいだろう。異世界ファンタジーは異世界で作るべきだと、僕はそう思っている。
セーブされたポイントは、王城一室爆破テロ犯のはずのノークがノエルに交渉を持ちかけ、なぜか食卓に座す一人となったところから。聞くとこの会話では、部外者の僕には理解できないが、ノエルは却下の意思を示しているように聞こえていた。しかし、ノエルはーー
「あなたの目的が完遂される時期は未定ですが、平和の秩序が保たれるならば……いいでしょう、手を貸しましょう」
答えは承諾であった。こうして敵だったノークが仲間の一人に加わったのだった。
そうか、昨日の敵は今日の友。小説で、敵を仲間に引き入れるのも悪くない。後に裏切りに走る伏線を張れる。
見た目は最高級料理なオーラと香りを放つノエルの暗黒手料理に、地獄を見そうになるのを必死に自我で抑え、試練という名の食事が幕を閉じる。ノエルとノークの二人は街に出るとの事で家を後に。僕とペトラは留守番となった。ノークの顔色が悪いのはノエルの料理のせいではないかと疑いつつ、ご愁傷様と死に顔のノークに敬礼をして送る。
「ご武運を」
ペトラと二人きりの空間。
「変な事考えてますか、変態さん」
「失礼な、まだ変態と決まったわけではない。例え、幼女と二人きりの無法地帯に置かれ、抑えきれぬ欲情に疼いていたとしても、行動に出なければそれは単なる妄想で終わり、変態という名の勲章には置かれんのだ」
「その発言が確たる証拠ですから!」
「証拠にはならない、所詮は証言であって確たる証拠にはならない! 真偽は審議によって確定する!」
下らない茶番を終える。
僕とペトラは特にすることもなく留守番として暇を食らう。主人公を置いて、このファンタジーは一体どんな展開を迎えさせようと言うのか。落胆と言った表情をしていた僕だったが、平和と言う暇が恋しくなる事態に陥る。
「よぉ、ちびガキども」
夕暮れの暗闇に紛れ、一人の人間が家の前に立っていた。黒いフードに隠れた素顔は謎だが声と格好だけで分かる。ちぎれた右腕に心当たりがある。帝国巡回軍であるノエルが追い詰めていた『アーテル』という輩だろう。明らかに殺意剥き出しで爆破された無防備の入口からこちらへとやってくる女。
逃げるために席を立ち上がり、窓から脱出を試みようと思ったのだが、ペトラが敵の前に立ちはだかった。さっき瀕死に追いやられたのにも関わらず、堂々たる姿でそこに立っている。
「あれだけ木っ端微塵にされてまだ死んでないんだな、お前」
「不意打ちしなければ私に勝てない弱者でしたら、今の私一人で十分です。この間に逃げてください」
「言ってくれるねー、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんはやめて。私はペトラ」
「ふーん、ペトラ、ねぇー。じゃあ、さようなら、ペトラちゃん」
女はあの時と同様、黒いモヤのようなものを、今度は左手から放出した! 朝とは違って薄暗いのでモヤが肉眼でも確認しにくく危険である。ペトラは避けようとする意思がなく、頭に乗せていた古めかしい大きめのゴーグルをつけた。
「二度も同じ技でやられるほど甘くーー」
ペトラの言葉が途切れ、あの時と同じように身体が破裂して鮮血を撒き散らした。
「……や……やられてんじゃねぇかぁあっ!!!!!」