第6話『ノーク、交渉』
王城爆破テロの捜索になぜか連れていかれた僕。ノエルと共にテロ犯らしき人物を捕獲したのだが、王城の警備役であるノエルは犯人を自らわざと逃がしたのだった! 結局、理由は謎のまま、ペトラの待つノエル宅へ。
帰るとリビングで、データ整理のためペトラがスクリーンのようなものを空中に展開していた。謎の行為に対し、ノエルはペトラを疑う。その瞬間、玄関口が爆発した!
今度はノエルの家が爆破された。あの時、敵を逃がしてしまったがために起きた襲撃だと思われる。玄関付近の僕は危うく巻き込まれるところで間一髪、生き残った。
外から敵らしき雄叫びが聞こえる。
「懲りませんね……」
一吐きの溜め息の後、ノエルはソファーから立ち上がり、レイピアに手を添えながら、爆破されて剥き出しの玄関口に立った。ノエルの前には王城でもあった男の姿。その脇にバズーカらしき武器が置かれている。
「死んでみる?」
「ノエル! 一つ提案……というか、頼みがある!」
敵から放たれた言葉にノエルは無反応。僕とペトラは普通に疑いの目で、壁に隠れてチラ見していた。
「降伏した、などと戯言を吐くようでしたら、即殺します」
「頼みの前に聞きたいんだが、犯人である俺をなぜ、あの時、逃がしたんだ?!」
それは僕も聞きたいところだった。ペトラには伝わらない話である。
護衛のノエルが犯人を逃すことにメリットなどないはずだ。まして、ノエルの知り合いとも思えない。
そんなノエルはレイピアから手を離し、一言放つ。
「あなたの半袖があまりに不似合いだったから」
理由は犯人を逃がすのには全く関係性のないものだった。拍子抜けな回答に敵の男も呆れ果てる。
「何言ってんだよ、お前?」
「……まずはーー」
卓上を埋め尽くす美しく香り漂う豪華な食事たち。何かの祭事でも行われるかのような状況。現実でこんなにも美味しそうな食べ物を見たことがない程に。いや、ノエルの作る料理に不味いものなんてないのではないか? しかし、なぜかその席に、僕とノエル、ペトラと、他にもう一人、敵であるはずの男がキョトンとした顔で座らされていた。
「食事でもしながら話しましょうか」
ノエルのその言葉に、腹の虫が暴走しそうになる。フォークを手に持ち、遠慮しつつも目の前の肉に突き刺してかぶりつく。
「……っ?! ぐふぁっーー」
危うく失神の恐れあり。吐き出しそうになる内容物を必死に吐瀉物に変化させないよう堪えつつ、不味いものではない意思を示すために笑顔を見せる。しばらく猛烈な吐き気に襲われて身動きが取れない模様。ペトラは表情一つ変えず、美味しそうに食べていて、僕は絶望感に締め付けられた。異世界ではこの程度で満足している。二度と異世界で食事なんてしないと誓いを立てたいところである。
「ーーぶふぁっ?!」
目の前で堂々と食べ物を吹き出す男の姿がそこに。ホッと一息、ノエルの料理は明らかに下手くそであり、ペトラが味音痴なことが良く理解できた瞬間であった。ノエルに睨まれた男は一言、
「熱くてつい、猫舌なんだよ」
嘘が上手。しかし、それ以降は手が次の食事を運ぼうとすることはなかった。
「簡潔に説明しろ、なぜ殺さないのか、俺をもてなすのか?」
「来客はもてなすのが普通、殺すのはもってのほか」
「来敵はどーなんだよ?」
「以前は同じ志を共にした仲だったなのに」
「……簡潔に言えよ」
「1563、意味分かる?」
ノエルの発言した謎の数字に男の表情が固まる。
「……奇遇、だな。俺の名はノークだ、ノエル……。安心して頼み事が言えるぜ」
男は自分の名前を明かす。先程の硬い表情が柔くなって安堵という感じである。ノエルは顔色変わらず、食事に手をつけていた。
「ビクター先生でもヤル気になった?」
「昔っからその気だぜ、ノエル。俺と手を組もう、そして奴をーー」
「却下」
一言、それだけで締めたノエルは再び食事に手をつけようとしていた。ノークの唖然顔はその目に一切映ってはいない。僕とペトラが隣同士で第三者として、深刻な空気を見届けることに。
「なぜだ?! お前だってあいつに恨み一つくらいあるだろ?!」
「だから?」
「殺したいだろ!!」
「別に」
「嘘だ、そんなわけがない! お前の殺意は異常だった!」
過去に何があったのかは知らないものの、ノークが冷静さを欠け、叫び散らすその様から酷い過去があったのは察せれる。野犬のように絶叫しているノークの言葉をまるで聞いていないノエルは手を止め、立ち上がると突如レイピアを引き抜いてノークに向けて構えた! ノークの言葉が途切れて、しばしの静寂が訪れた。
「私より弱いあなたが、ビクター先生を殺すことはできない」
「だ、だから頼んでんだよ」
「却下します。私は王の盾、王城を守る剣。その役目を全うするのが私の使命」
「使命なんてクソ喰らえだ。あの日、俺たちは自由を求めて奴らに抗った。もう縛られるのは勘弁だ」
「私は……こう見えて平和主義ですよ」