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第3話『ペトラ、生きてました』

 目覚めると暗闇が僕を覆い尽くしていた。それは早とちり、頭にVR装置を被ったまま眠りに就いてしまったようだ。起き上がり、被っていたものを外して朝の光に顔を顰めつつ、目覚めの良い朝に一つあくびでも吐く。朝……朝?!

 僕としたことが、ゲームに熱中し過ぎて夜更かしをしてしまった。いや、寝ているのだから夜を更かしたわけではないが、問題はそこではなく、遅刻というとこだ。時計の針が指し示す文字は西の方角、すなわち九時をお知らせしている。遅刻確定の瞬間であった。


 一日目の引きこもりに加え、二日目の遅刻で心の中に罪悪感が漂う。普段は真面目を装う僕は、珍しく欠席と遅刻をしたために教師に病気を心配されたが、その優しさが僕の心を余計に滅多打ちにしてくれる。

 教室は四面楚歌。友達などいないので、窓側最後尾のボッチ席が今の僕には唯一の癒しであった。ボーッとしながら途中から授業に挑む。目の前に座るクラスメイトの女子が楽しそうな笑みを浮かべて授業に参加しているが、その心境が理解できないとこである。一体この授業に何の楽しみを見出しているのだろうか。小説ジェネレーターによるゲームをプレイし過ぎたせいなのか、目の前の女子生徒がノエルに見えてしまうほど末期のようだ。


「……な、何?」


 注視し過ぎてバレた。


「いや、別に」


 早く学校なんて終わって、異世界ファンタジーにのめり込みたい切望に取り憑かれていた。

 この暇な時間を使い、ノートに小説でも書くことにした。勉強してるように見え、かつ好きな執筆活動をすることができ、一石二鳥とはこの事だ。


「……あのさ」

「……んー、今はほっといておくれ。創作意欲を無駄にしたくないんだ。話は後にしてくれ、ノエル」

「ノエル?」

「あ」


 無駄口を叩くとこういう目に遭うということをノエルは教えてくれたようだ。失敬、無駄口は二度と吐かない。


 マニュアル通りの日常を演じきり、何事なく無事に帰宅した僕は、宿題そっちのけで小説ジェネレーターを起動する。あくまで執筆活動という体で使用するのであって、ゲームをするつもりではない。語弊はなく、そういうことにしておく。

 ベッドに横たわり、小説ジェネレーターという名のVR装置を被った。直後、機械に五感全てを制御され、不思議とまぶたが重くなっていき、眠りに落ちてしまった。


「起きてー! 聞いてる?! ねぇ、起きてよ!」


 どこか聞き覚えがあるような無いような綺麗な声に起こされる。寝ぼけ眼でぼやける視界の中、一人の少女の顔が目の前にあることを理解する。ヤケに大きめの古めかしいゴーグルが特徴的な、彼女はーー


「……ペトラ?」

「おはよ、お兄さん」


 スっと起き上がって呆然としているが、今、僕はこう見えて軽くパニックに陥っている。機能しない頭をどうにか動かして状況把握に入る。

 場所はどうやら、ノエルの家らしく、自分はノエルのベッド上に寝転がっていたようだ。窓から差し込む光がオレンジがかっているから多分、時間帯は夕方頃と推察できる。ノエルの姿はなし。

 一番の問題は目の前で微笑みを見せる一人の少女、ペトラについて。彼女は確か昨日、一人の殺人鬼らしき人物に殺されたはずだった。ノエルが助けに入ったが、その時にはペトラは死んでいた。遺体は確かに確認してた。ノエルは『アーテル捜索任務』と言っていたから、奴はアーテルと言う名前、もしくはグループの一人なのだろう。

 可能性で考えられることは、異世界ファンタジーの世界だから復活魔法か。もしくはあんな無惨な姿でも生きていて、奇跡的に助かったか。


 ひとまず、ペトラは放置して、ノエルに会いに行くことにした。


「どこ行くの?」

「ノエルに会いに行く」

「ノエルさんはお仕事で、今日はいませんよ?」


 仮に僕が主人公で話が進んでるなら、ノエルがいない今、ペトラが次のキーになるのだろう。ゲームでは人々に話しかけることでイベントが発生したりする。この場合はペトラ。


「そう言えば、ペトラ。君は昨日、街中で見ず知らずの他人である僕に話しかけた」

「そうだよ?」

「一体僕に何の用だったんだ?」

「何言ってるの? あなたが私を欲してるんでしょ? 私はただ、あなたのために動こうとしてるんですよ?」


 全く覚えにない。なぜか急に、変態感が増してしまった。ゲーム内とはいえ、こんなにリアリティのあるVRだと、さすがにやらしいことなんてできるわけがない。ロリコンであっても一線は越えないつもりである。


「僕は小説作家だ。訂正、小説作家の卵だ。……いや、訂正。小説が書きたい!」

「じゃあ、観察だね。物を知ること、すなわち物を使わする! 知識はきっと小説に役立つよ。さぁ、街に出ましょうか!」


 ごめんなさい、何言ってるか、ちょっと分からないです。

 街に出るというイベントが発生してしまった。僕のようなB型引きこもりにとって、家の外に出るという行為がどれほどの負担となるか、彼女はまだ分かっていないらしい。その負担たるものや、まさにーー


「街にやって来ました」


 例の事件が起きた街へ。アーテルに遭わないよう路地は避けて大通りを行く。ペトラの後ろを追尾する形で一列配置。幼女を襲う男子生徒の姿がそこにはあった。


「何で後ろにつくの?」

「RPGっぽいかなって」

「こうしてる今も、見過ごしてるよ? 良い小説とは、身近に存在する素を拾い集めること」


 なぜかペトラに上から目線で言われているのだが、語彙力ない僕ではこの幼女にですら逆らえないので黙っておく。口は災いの元だと言うことをノエルに教えてもらったからだ。


「外の世界に触れるだけで良いのです。例えば、歩く人々や綺麗な街並みとか。あとはーー」


 城が爆発した。


「ーーあの爆発とか」

「へー、異世界って爆発も日常なんだ」


 そんなのんきな事を呟く。炎上の黒煙が立ち上る王城が遠方に見える。爆発テロの仕業だろうか。焦る住民とは違って、平然そうな顔で街を徘徊することにした。


「……えぇっ?! 何で?! 敵襲?! 逃げないと!」


 一つ間を置いて、ペトラが焦り出した。


「なぜ逃げるのさ?」

「敵ですよ、敵?!」

「決まったわけじゃない。単なる料理ミスかもしれない。全く、最近の主婦には呆れたものだよ」

「どこに爆発ミスする主婦がいるんですか?!」


 まっすぐ城を指す。


「そういう意味じゃないよ!」

「小説のネタにできるかもしれないから野次馬しに行こうか!」

「死んだら元も子もないんだけど?!」


 嫌がるペトラの背を押しながら、野次馬予備軍になるために城を目指すことに。

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