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3 ケートスの秘密

(ピピ、ピピ、どうしたの?)

 だが、ピピの心はきりおおわれたように真っ白になり、壁面を離れてフラフラとそちらに引き寄せられて行く。

(ピピ、ダメよ、目を覚まして!)

 ピピからの返事はなかったが、その時、思わぬことが起こった。モモの視界が一瞬暗転あんてんしたかと思うと、今ピピが見ている光景がダイレクトに見えるようになったのだ。

(こ、これがケートスなのね)

 恐ろしいほど巨大な、金色に光る二つの目が迫って来る。

 しかし、よく見ると、それは目ではなかった。本当の目はもう少し下にあり、体の大きさに比べると、随分小さい。目のように見えているのは、発光する体の模様もようのようだ。

 その間にある突き出した口が開くと、ズラリと並んだするどい歯が現れた。

(逃げなきゃ!)

 モモは混乱していた。自分が今見ている光景がピピのものであることを忘れ、反射的に逃げようとしたのだ。

 すると、フラフラとケートスに近づきつつあったピピの体がクルリと反転した。視覚だけではなく、体の動きもモモの意思に従うようだ。

 獲物えものに逃げられると思ったのか、ケートスがスピードを上げてきた。

(ああ、食べられちゃう!)

 その瞬間、ピピの噴水口から真っ黒なスミが噴き出し、ケートスの視界を覆った。

 だが、ケートスは躊躇ちゅうちょなくスミの煙幕えんまくを突っ切り、真っ直ぐこちらに向かって来た。

 モモは知らなかったが、ケートスは口から出す超音波をソナーのように使って獲物の位置を把握はあくするのである。もはやのがれるすべはない。

 ピピと一体化しているモモは、生命の危機に震えあがった。

「ケートス、やめて!」

 思わず叫んだ言葉が、意外な効果をもたらした。大きく口を開けて迫って来ていたケートスが、ピタリと止まっていた。

 口を閉じ、ジッとこちらを見ている。

(どうしたんだろう。わたしの言葉が通じたのかしら。いいえ、そんなはずはないわ。わたしの言葉はピピのクチバシから出たのだから、ケートスにはピピがしゃべったとしか聞こえないもの。と、いうことは)

 モモは声に出さず、(ケートス、わたしの声が聞こえるの?)と、心の中で呼びかけてみた。

 驚いたことに、ケートスは頭を上下に動かした。

 それだけではない。目の上の模様からあやしい光が消え、真っ白な皮膚が現れた。

 ケートスは巨大な魚のような姿をしており、目の上の模様とアゴから下の腹側が白く、それ以外の皮膚は黒かった。魚と違い、尾ビレは水平になっている。

(なんだか、ずっと昔に見たような気が。でも、そんなはずはないわ。きっと錯覚さっかくね。それにしても、そんなにこわい感じはしないわね)

 だが、ケートスの目の上の模様から光が消えたせいで、ピピの心からサッと霧が消え、モモの心は再び自分の体に戻ってしまった。同時に、ピピの意識が回復した。

(ぼく、どうしたんだろう。あ、ケートス!)

 反射的にピピが逃げたのがいけなかった。ケートスの狩猟しゅりょう本能が目覚め、ピピの追跡を再開したのだ。その気配を感じたモモはあせった。

(ああ、どうしましょう、ケートス、その子はわたしの友だちなの、やめてちょうだい。だめだわ、声が届かないみたい。ピピの体を中継しないと、遠すぎるんだわ。どうしたらいいのかしら)

(モモ、助けて!)

 もう一度ピピが気を失えば、モモの意識が体を支配できるのだろうが、ケートスが速すぎて、とても間に合いそうにない。

(そうだわ。ピピ、聞いてちょうだい。決して振り向かないで、そのまま泳いでドームの中に入って、わたしのいるところまで来て!)

(わかった。やってみるよ)

 ピピは必死でドームの下を潜って中に入った。ケートスは妖しく模様を光らせ、そのすぐ後を追って来る。

(ピピ、こっちよ!)

 モモの声に導かれるまま、ピピは噴水管を使って全力で泳いだ。決まりなど守っている場合ではなかった。

 背後からケートスの水を切りくように進む音が迫って来ている。その妖しい光が、並んでいる空気槽を照らし出していくと、全体のかたまりからポツンと離れた小さな空気槽にいるモモの姿が見えてきた。

(ケートス、おやめなさい!)

 今度はき目があった。大きな口を開き、あと少しでピピに追いつこうとしていたケートスが、ピタリと止まった。妖しい光がスッと消えて行く。

(そう、いい子ね。ピピはエサじゃないのよ)

 距離が近づいたせいか、モモにはケートスの心の中がよく見えた。

(ああ、そういうことなのね。だから、わたしの、いえ、ヒトの感情に反応するのね。何とかあなたと話せるといいんだけど、ピピたちと言葉の種類が違うみたい。お願いだから、そのまましばらく待っていてね)

 ケートスが大人しくなったのを確かめ、モモは意識をピピに向けた。

(ピピ、大丈夫?)

(あ、ありがとう、モモ。助かったよ。きみは命の恩人だ)

(いいのよ。元はといえば、わたしのせいだもの。本当に良かったわ)

 だが、ふたりが安心したのもつかの間、いきなりドーム内の照明がすべて点灯し、非常放送が鳴り響いた。

《陸族館ドーム内にケートスが侵入した模様。総員戦闘態勢で集結せよ!》

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