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小夜狐さんはいろいろズレている~最凶にして最愛の許嫁?~  作者: 藤咲 流
俺の初恋を「かくれんぼ」に託せというのか
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どんだけかき乱したいんだよ!! ~夏休み前日-5~

 小夜狐の出現は家主と客人を逆転させた。茫然自失の俺を彼女が家へ招き入れ、ソファに座らせた後にキッチンから2人分の麦茶を用意してもってくる。小夜狐が出してくれた麦茶をがぶがぶと飲み干し、やっと正気を取り戻してビシッと人差し指を向ける。


「……って、なんでお前がお茶用意しとんじゃ!」


「いや、意識飛んでたから。とりあえず落ち着いてもらおうと」


「そもそも、俺の意識が飛んだのは、あんたのトンデモ発言のせいだろうが」


「もう、いやだなあ……。意識飛ぶほどに見惚れてくれたってこと?」


「そこじゃねえ!!」


 いや、半分は合っているかもしれないが……。口に出しそうになるのを我慢して、一度咳払いをして頭を冷やしていく。もう一度小夜狐を見てみるも、手荷物や冊子を持っていない。妙なものを売りつけに来たセールスマンでもないし、新興宗教信者とも違うみたいだ。


 しかし、レトロさを感じるセーラー服や発言のすべては、俺に疑惑という感情しか抱かせない。というよりも、いきなりやってきて「幼なじみ」と言われても、何一つ記憶が無い。何かの間違いかもしれないし、念のため事実確認をしてみるほかないだろう。


「なあ、あんたは俺と小さい頃に遊んでたって言ったけど、それは本当なのか?」


「本当よ。事実を疑ってどうするのよ」


「いや、とはいっても。俺にその記憶がまったくないわけで」


「ひどい人、私と遊んだ記憶を忘れるなんて」


「……なんか誤解を招くような言い方、しないでくれるか?」


 俺のツッコミもサラッと流しつつ、小夜狐は胸ポケットから1枚の写真を取り出す。そこにはじいちゃんの姿と小さい頃の俺、そして少女が映っている。その少女は目の前にいる小夜狐と同じ髪色で、目元もまったく同じである。


 違うところと言えば、写真の中の少女は頭にとんがった耳を付けているところだ。おそらく獣の耳が装飾されたカチューシャでも着けていたのだろう。しかし、この耳はどこかで見たような気がしてくる。というよりも、少女に耳が付いているなんて、夢のままじゃないか!


「どう、信じてもらえたかしら?」


 小夜狐は自信ありげに俺の方を見てくる。夢の内容なんてアテにするわけにもいかないし、肯定してしまうとズルズルと彼女のペースに巻き込まれかねない。主導権を握らせないよう、情報を引き出す必要がありそうだ。


「あ、ああ……。でも、あんたと遊んだ記憶はどうしてもなくて。それに、嫁ってどういうことだよ?」


「あら、忘れたの? あなたは約束してくれたわよ。『大人になったら小夜狐ちゃんをお嫁にする』って。だから私も結婚できる年になったから、こうして嫁ぎにきたのに」


「そんな子供の他愛もない発言を頼りにされても」


「そうやって乙女の純情を紙屑のように捨てるというのね。あの頃の彰は、あんなに優しかったのに……」


「いや、そこまでは言ってないだろ! それに、過去の俺と今の俺を比較されても」


 ズズッとお茶をすすりながら、小夜狐はテーブルに置いてある彰のiPhoneに手を伸ばす。


「今はこうしたものが流行っているのね。でも、このアクセサリーだけは時代遅れっぽい感じがするけど……。彰も何だかんだいって、クラシカルなものが好きなんじゃない?」


「うるせえよ。ってか、人のものを勝手に触るんじゃない」


 俺は彼女からiPhoneを取り上げ、自分のポケットにすぐつっこむ。小夜狐はつまらなそうな表情を浮かべ、ローテーブルに出しっぱなしだったスナック菓子に手を伸ばす。

 このままではやばい、完全に彼女のペースだ。何とか追い返す方法を考える中、小夜狐は何か思い出しように手をポンを叩く。


「……そうだ」


「なんですかい、今度は?」


「源造さんは? あたし達の婚約を承認してくれたし、ほらこれ」


 そう言いながら小夜狐は写真をぺラリと裏返す。そこには「彰との結婚については、きちんと修行を積んだ後ならば認める」と書かれてあった。その筆跡は、確かにじいちゃんもので間違いなかった。


「源造さんに確認してもらうのが手っ取り早いと思うんだけど。どこにいるの?」


 小夜狐は未だにじいちゃんが生きていると思っており、彼に何があったとは知らない目をしている。じいちゃんとの関係は見えない部分もあるが、ここは事実を伝えたほうがいい。俺はそう思った。


「実は、じいちゃんは今年に死んじゃったんだよ」


「……ごめんなさい。あたし、まだ生きているものだと思ってて」


「いいんだ。あんた、知らなかったんだろ?」


 うん、とだけ小夜狐は答えた。今まで騒がしかった彼女だが、心底ショックを受けたのか顔をうつぶせたままだ。未だにじいちゃんの直筆サインが掛かれてる写真も持っているし、本当に信頼していたのかもしれない。


「……人間はこういうとき、手を合わせるのよね?」


 人間は、という言葉は引っかかるも、仏壇前で手を合わせてくれるようだ。俺は立ち上がり、仏壇のある畳部屋へ彼女と一緒に向かった。

 畳部屋にはキッチンを通った隣の部屋で、仏壇以外にもタンスが2つほど並んでいる。しかし、その中にはじいちゃんの遺品や捨てられないものしか入っていない。


 仏壇を見た小夜狐はすたすたと駆け寄り、そこに置いてある写真を取って息を詰まらせた。写真にはきれいに禿げ上がった頭と、たくましく見える白い眉毛を生やしたじいちゃん。いつも口を大きく開けて笑っており、写真にはその姿のままが映っている。


 小夜狐はすぐ手を合わせたい、と言うので彰は線香に火を付けて準備をした。


「それじゃ、いつでもどうぞ」


 うん、と頷いてから小夜狐は仏壇の前に正座し、深く目を閉じてから手を合わせる。まるで写真越しに会話でもしているかのように集中しており、祖父と面識があることに嘘はないように思えてくる。それに、祖父の死を悼む人の訪れは喜ばしいことである。


 しばらく時間が経つも、小夜狐は未だに両手を離そうとしない。彼女の姿を見ていると、自分も手を合わせておこうという気持ちになってきた。

 タンスから背中を離し、小夜狐の隣に座ろうとしたときだった。彼女のお尻から尻尾のようなものが生えていることに気が付いた。

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