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小夜狐さんはいろいろズレている~最凶にして最愛の許嫁?~  作者: 藤咲 流
俺の初恋を「かくれんぼ」に託せというのか
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正夢とか笑えねえ!! ~夏休み前日-4~

 俺は2人から逃げるように高校を後にし、誰もいない家に逃げるように帰って来た。制服を脱ぎ捨ててラフな格好に着替えた後、何もする気になれずそのままリビングに直行する。そこにはL形ソファが置かれており、俺は海中に潜るようにドテッと身体を沈めた。


「はあ、なんでこうも運がないかねえ……。いつもそうだぜ」


 別に悲劇のヒーロなんて言うつもりはない。優しい源造じいちゃんや、遊びに関しては困らない悪友にも出会っている。しかし、間が悪いというかタイミングがいつもずれているというか、ここぞという時の星のめぐりあわせの悪さには奇跡を感じている。


 たとえば限定品のおやつが欲しくて並んだときはラスト1個前で確実に終わる。ジャンケンも負けたくないときほど負ける、これはもはや鉄板。トランプでババ抜きをした日には、2回に1回はジョーカーがやってくる。ここまでくるとやるせなくなってしまう。


「……このブレスレットが無かったら、俺の人生はもっと悲惨だったのかもな」


 あまりにも運のない俺は、小学生のときにじいちゃんから数珠で作られたブレスレットをもらっていた。このブレスレットを着けた日から心なしか運勢が良くなり、以前ほど不幸に見合うことは無くなった。


 心理的なものでしかないかもしれない。だが、じいちゃんの残してくれたブレスレットをギュッと握る度、心臓がじんと温かくなって落ち着くのは事実である。


「とはいっても、今日のは堪えるぜ……」


 自分の初恋相手に男の影を見てしまう。こんな不幸なことがあっていいのだろうか。天然なところのある亜季に限って彼氏とか作るわけない。そんな思い込みというか油断を持っていた自分が悪い。だが、再会した彼女を異性と意識した瞬間、どのように接すればいいのか俺にはわからなかった。


 亜季に再開してからやったことと言えば、ビーズのアクセサリーを机の引き出しから急いで取り出してiPhoneに付けたことと連絡先の交換。あとはネットでデートまでの道のりを調べて計画を立てたが、情報があいまいで不安ばかりが大きくなって実行に移せず今日を迎えたワケだ。


 そんな自分を反省すべきなのはわかっている。だが、もう少し違う裏切り方があってもいいのではないだろうか。やり場のない鬱憤が胸の中で渦巻き、どんどんテンションを削いでいく。


 このまま眠ってしまおう。そう思って目をつぶったのだが、庭にある木々の葉が音を立て始める。身体を横にしたままリビング窓から庭を眺めると、どうやら天気雨が降っているようだ。まだ取り込まれていない洗濯物も目に入り、ソファに張り付いた身体を何とかひき剥がして立ち上がった。


 ポケットに入れてあったiPhoneをローテーブルに置き、突っ掛けを履いて庭に出る。俺は物干し竿やハンガーに掛けてあるタオルや下着類を取り、リビングの中に放り込んでいく。


 雨自体は小ぶりで、太陽も容赦なくこちらを睨んでいる。当てつけに太陽を睨み返してみるも、その恨み節を癒すように雨が乾いた肌を濡らしていく。


「なんだよ、ちょっと気持ちいいじゃないか」


 雨は浄化作用があるとかじいちゃんも言っていたけれど、割と本当かもしれない。太陽に向かって背を伸ばしてから室内に戻ろうとすると、番傘をさした人が玄関前に立っているが見える。

 傘の下はセーラー服を着ている女の子で、その組み合わせに自然と釘つけになってしまう。俺の熱視線に気づいたのか、彼女は傘をたたんでこちらに近づいてくる。


 俺は近づいてくる彼女の容姿に息を飲んだ。白色に近い銀髪は滴でキラキラしており、今朝見た夢と同じように見える。その髪にしばらく気を取られてしまい、彼女が目の前にやってくるまで雨も止んでいたことに気付けなかった。


「明星彰さん、ですよね?」


 薄い唇から自分の名前がスルスルと出てきて、一瞬呼吸が止まってしまう。それは名前を呼ばれた衝撃だけでなく、近づいてきた彼女の顔に心を持っていかれたからだ。


 中高な鼻を中心に、すべてのパーツが寸分の狂いもなく作られている顔。銀髪の下に潜む切れ目から発せられる視線は心臓を射抜く力を持っているも、ふっと笑うだけで世界を味方にできそうな笑顔を見せてくれる。もし傾国美女がいたとすれば、彼女のような人を指すのだろう。


「あの……。もしかして、人違い?」


「あっ、いや! 合っています、大丈夫ですよ!」


「良かった! この家にもあなたにも見覚えはあったのですが、どうも時間が経って色々と変わっていて」


「そうですね、家とか道も変わりますし。というか、どうして俺の名前を? それに、何の御用で?」


 こんな可愛い子、どこかで見かけていれば顔を覚えているだろう。それに、彼女の着ている制服は赤いスカーフに大きな青い襟のセーラー服と、どこか古めかしさが漂っている。こんな制服を採用している高校、いまどきあるのだろうか。


「やっぱり、覚えてないか。あたしと彰が会ったの、小さい頃だもん」


「えっと、ごめん。俺は覚えてないんだけど、名前を聞いたら思い出すかも」


 そう言われた彼女は深呼吸をし、再び向き直って堂々と言い放った。しかし、彼女の発言が右から左へ流れると身動き一つできなかった。


「あたしは小夜狐。あなたの嫁として来た、幼なじみの小夜狐だよ」

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