もうラッキーイベント回避できない模様です!!~夏休み2日目-4~
「……あっ、お目覚め?」
俺の目が開くと、小夜狐の顔が目の前にあった。2日前とかであれば驚いて飛び上がっていただろうが、すでに感覚がマヒしているのか身体を動かなかった。というよりも、だるさが身体全体を包み込み、まるで水中に沈んでいくような感覚だ。
「俺、どうなったんだ?」
「別に何とも。慣れない力を使っちゃったから、身体が驚いたってところ。急に運動して次の日に筋肉痛になったみたいなものよ」
「まったく……。お前が突然にー」
「あたしだって他人の力で妖術を使うなんて初めてだったから」
「だったら加減しろよ」
「力の加減できないぐらい、秘めた力を持ってたのよ」
「ったく。そういうことも考えた上でやってくれよな」
「いいじゃない。身体が動かないお陰で、こうして膝枕してもらえるなんて。ラッキーと思いなさいよ」
昨日のウシロ神の件を踏まえ、小夜狐はもう過激なアプローチを仕掛けてこないものだと思っていた。しかし、どうやら彼女のこうした行動に意図がある場合があっても、ベースは天然であるようだ。先ほどのブラジャーに関してもそうだし、こうして膝の上にー。
「って! 俺は今どこに!」
「どこって、ここはあんたのいる現世ですけど……。妖怪の住む世界でもなく、霊界でもなく」
「そんなことは聞いとらん! 俺は、here!」
「hear? 何を聞きたいの?」
「ヒア違い!」
これ以上は反論しても意味がないと思い、俺は自分の手をおでこに当ててみる。ヒヤッと冷たい感触が指先に触れたので、俺は思わず手を引っ込める。その正体を確かめるようにもう一度おでこに手を近づけると、そこにはタオルが掛かっているようだった。
「お前、基本的には何も変わってないな」
「なに?」
「いや、もういいよ……。で、なんでタオル?」
「こういうときは、タオルで頭を冷やす。定番でしょ?」
「もっとちゃんと対応してくれよ……」
「大丈夫よ、身体自体には影響ないんだから。少し頭を冷やせば万事かいけつ~」
「そんなことで不安なぞ拭われん」
「妖術のプロであるあたしが言ってるんだから。そこは信頼しなさい」
小夜狐はいつもの軽い調子と違い、相手に安心してもらうような声色で語りかけてくる。その顔はプロそのものという感じで、自信にも満ち溢れている。思わずその表情に没頭していると、そっと彼女の手が俺のおでこに乗ってくる。
「うん、なんか顔が赤いけど。どったの?」
「はあ!? べ、別に顔が赤いことなんて」
「もしかして、これが俗にいう熱中症というやつ! なにか、なにか問題が!」
「なんでもねえよ!」
俺はおでこにあったタオルを取って顔全体を覆い隠す。小夜狐は本当になにか異常が発生したと思ったのか、先ほどの余裕のある姿とは打って変わりタオルを無理矢理はがそうとしてくる。
「まったく、なにバカップルみたいなことしてんのよ。見てらんない」
突然の声に俺はハッと我に返り、その声のほうを振り向く。そこには1匹の黒い猫が佇み、こちらをさげすむような眼で見ていた。




