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小夜狐さんはいろいろズレている~最凶にして最愛の許嫁?~  作者: 藤咲 流
俺には彼女を斬ることなんてできない
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「天元突破!!」とか言ってる場合じゃない!!~夏休み2日目-3~

 小夜狐は嫌そうにブラジャーを着けた後、彰の待つ庭に再び出てきた。先ほどよりも完全に不機嫌そうな表情、というよりも不快な表情を浮かべている。よほどブラジャーが好みでないのか、しきりにワイヤーを気にしている様子だ。


「……そんなに気になるのか?」


「嫌に決まってるじゃない! どうしてこんなもの、わざわざ……」


「それが人間というものだ」


「早く人間になりたい、とかいうんじゃなかったかも」


「どこの妖怪人間だよ。それに、ブラジャーが嫌なら他の形もあるだろ」


「えっ、なにそれ!?」


「ヌーブラ、とかもあるんじゃないのか?」


「こんな不快な気持ちにならないなら欲しい!!」


 まるで神にでも懇願するように、小夜狐は彰の脚にすがりながらヌーブラを求めてくる。とは言っても、ヌーブラの販売場所はおろか種類だってわからないし、着け心地なんていざ知らず。しかも、元妖狐にヌーブラをせがまれるとは何とも複雑な気分である。


「ヌーブラはとにかくとして。ほら、霊力に関することを早速教えてくれるんだろ?」


「今すぐにでもヌーブラとやらが欲しいんだけれど……。まあ、仕方ないか。それじゃまずは、霊力そのものについて教えようか」


「そもそも霊力ってなんだよ? 色々とでたらめな力っぽいけどよ」


「でたらめとはなによ? 別におかしいものじゃないし、本来は誰もが持っているものよ。その使い方を知っているか知らないか。それだけよ」


「なんだよ、そのすがすがしいまでのありきたりな台詞は……」


「ただの事実よ」


「じゃあ、その具体的な使い方とやらを教えてもらおうか」


「いいわよ」


 小夜狐は忍者が忍術を使うときのように、手で独特のポーズを作る。そして、すっと目を閉じて何かを念じ始める。俺は何かが起きる予感がしてごくりと唾を飲み込むも、じわりと流れる汗が首筋を濡らしていく。


「……とまあ、こんな感じで」


「いや立ってただけだろ!」


「なによ~ なにも感じなかったの?」


「感じるも何も、忍者っぽい印を結んで立ってただけだろ」


「ほんと力は持ってるのに、使い方はてんでダメなのねえ」


「感じられない霊力を使えと言われても、そんなものは絵に描いた餅を食えと言われとるようなもんだ」


「あら、うまいこというじゃない」


「……お前、俺に教えるつもりあるのか?」


 ふう、とため息を付きながら小夜狐は腕を組んで見せる。


「当たり前でしょ。あんたをこのままにしておくと、昨日みたいに危険な目に合うかもしれないんだから。ちゃんとコントロールできるようになってもらわないと」


「だったら、もう少しかみ砕いたレクチャーをお願いしてよろしいだろうか?」


「はあ……。でもねえ、霊力って簡単に目に見えるものじゃないし」


「なんかわかりやすい形はないのか?」


「ないわね」


「断言するの早いよ」


「じゃあ彰、風を見ることはできる?」


「いや、そんなの無理だけどよ」


「それと同じ。確かにあるけど目には見えない。世の中にそんなもの、たくさんあるでしょ?」


「なんか騙されてる気分だな……」


「まあ、ある程度修行すれば『流れ』みたいなものは見えるようになるけど、やっぱ今の彰には無理みたいだし」


「せめて実感できるものがないとなあ」


「……それじゃ、実感させてあげようか?」


 えっ、と間抜けな返事をしている間に、小夜狐が俺の背中に立つ。後ろから俺の右手首を掴み、手の平を上にしてすっと持ち上げていく。風によって彼女の髪がサラサラと流れる度、今までに嗅いだことのない香りが流れてきて、その度に心がざわつく。


「いい? 彰は手の先に力を集中させて」


「えっ!? あ、ああ……」


「な~に? 腕掴まれてドキドキしてたの?」


「ち、違うわ!」


「それじゃ、このブラジャー着けた胸元を堪能しようとー」


「変なこというな!! とっととレクチャーせい!!」


「はいはい。それじゃ、手の平に力を集中させて」


「力を集中?」


「ええ。自分の中に流れる血液でいいから、それを手の平に集めるようにイメージして。いい、時期に手の平が熱くなってくると思うわ」


 俺は匂いを断ち切るように、手の平をじいっと見つめて神経を集中させていく。すると、小夜狐の言う通りじんわりと手の平が熱くなっていく。そのまま見つめ続けていると、チリチリと何かがこすれて摩擦熱が生じているような感覚がしてくる。


「おい、なんか手の平が熱くなってきたぞ」


「おっけ~ それじゃ……。えい!」


 小夜狐が合図を出すと、手の平から青い火柱がボッと飛び出してくる。その炎は幼少時代から食らい続けていた狐火のようだったが、勢い余ったガスバーナーのように空に向かって真っ直ぐに伸びていた。


「な、なんだよこれ!」


「彰の力を元に、あたしが狐火に変換したのよ。でも他人の力だと、上手くいかないものねえ」


「早く止めろって! こんなの近所の人に見られたらどうするんだよ!」


「はいはい」


 まるで天に上る龍のような火柱は、小夜狐が手を離すだけで収まる。目の前で起きた現象にワナワナと手が震えると共に、足も上手く動いてくれない。ついには力が入らなくなり、俺はその場にヘナヘナと崩れ落ちてしまう。


「どう? はじめて自分の力を放出した感想は?」


「なんか、色々と言葉にできねえ……」


「慣れない力使うと疲れるからねえ。あたしも初めて力使ったときは気絶しそうになったもんだわ。ーって、彰?」


 俺はだんだんと意識が遠くなっていき、後半からは小夜狐の言葉を覚えていなかった。グルグルと空が回ったかと思うと、プツンと意識が途切れてしまった。

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