亜季との思い出は永遠に!! ~夏休み前日-2~
美化委員会の集まり、と言ってもやることは造作ない。一学期の中で壊れた掃除用具とその数の報告と、二学期の目標設定。その後に掃除用具の保管場所を各メンバーに別れて点検すれば終わり。やることはたったこれだけ。
しかし、俺にとって最大の目的はこの点検時間だ。掃除用具の点検は亜季と同じメンバーとなっており、唯一自然と2人切りになれる時間。夏休み前、俺にとってこの時間は天王山そのもの。点検時間を制するものが、この夏休みを制すると言っても過言ではない。
「……あきらくん? なんか目が血走ってるけど」
いつの間にか美化委員長の形式ばった申し送り作業は終了しており、点検時間に移っていたようだ。今日のミッションのことで頭がいっぱいだった俺の眼前に、パートナーである亜季の顔があった。つい慌ててしまい、こけそうになりながら席を立った。
「えっ!? ああいや。何でもあるけど、なんでもないぞ。よし、やっちゃおうぜ点検」
「そ、そうだね。ちゃっちゃと終わらせちゃおうか」
少し引いているみたいだが、いい声であることに変わりはない。優作や那美と違って騒々しいこともなく、夏の暑さを忘れるような凛としたものがある。点検作業に移るも、彼女の声が今日見た夢のワンシーンを思い出させてくれる。
俺が亜季と出会ったのは、夢で見たのと同じくじいちゃんの家だ。じいちゃんは元々住職として働いており、辞めた後は自宅で気ままな隠居生活を送っていた。
本人はゆっくり過ごしたかったようだが、地元では顔の知れた住職で、彼を何かと頼る人も少なくなかった。そんな彼を頼っていのは、亜季の両親も同じだった。
亜季の両親は家に帰ってくるのが遅いことが多く、祖父は彼女を預かるように頼まれていたようだ。いつから、というのは流石に覚えていなかった。でも気が付いたときには、亜季と祖父の家で暮らすのが日常化していた。
亜季も家族との時間は少なかったようだが、俺も家族で食卓を囲んだ記憶はほとんどない。家族そろって食事したのは、おそらく小学生の低学年が最後。物心が付いた頃にはじいちゃんの家で過ごすことが大半になっており、今では父親も母親も姉の顔も思い出すのが難しい。
当時は友達と違う境遇の自分が嫌いだったし、親のいないことに寂しさを覚えることもあった。でも、亜季と一緒に遊んでいると、そんなことはどうでも良くなっていった。彼女と一緒に宿題、ゲーム、祖父から教えてもらった昔の遊び……。
同性の友達では何も思わないのに、異性というだけですべてのことが新鮮に感じられる。その感覚が何よりも愛おしかった。
だが、そんな日常は何の前触れもなく崩壊した。小学校高学年のとき、亜季は両親の仕事の都合で引越すことになった。最後に会った時、亜季は涙で顔をクシャクシャにしていた。今目の前で見せている顔からは想像できないぐらいに。
あまりに突然の出来事に、俺だって魚のように口をパクつかせた。あまりの出来事にその場で立ち尽くしていると、亜季はビーズで作ったカニと魚のアクセサリーを渡してくれた。俺がお礼を言おうとしたとき、彼女はすでに町を去っていた。
「ほんと、こうして同じ高校に通うとは思わなかったわね」
「あ、ああ。ほんと、そうだよね」
きっと神様がイタズラをしたんだね、と亜季の不意な言葉に恥ずかしいレシーブを返しそうになる。俺はグッと言葉を飲み込み、無難な返事を返しておいた。
しかし、本当に奇跡が起きたのではないかと俺は錯覚した。小学時代に離ればなれになった亜季を高校で見つけたとき、蜃気楼にでも遭遇したのかとさえ思ったほどだ。確かに亜季は背格好こそ変わっていたものの、目元や笑ったときにできるえくぼはそのままだった。
始業式が終わった後、俺は彼女が教室へ入っていく前に声をかけた。彼女は俺を「彰」と判断するのに時間が掛かったが、そのぼんやりした雰囲気こそ亜季そのものだった。クラスが違うのも、すぐに気付かれないことも悲しかったが、何も変わらない亜季に出会えてほっとした俺がいた。
2人の未来手帳には再会することがすでに書かれていたのだ。那美の立てた自分勝手なくだらない予定とは比べるのも甚だしい。これこそが、運命の選択である!
そして、未来手帳に新しい予定をさらに書き加える。この絶好の時間とタイミングに、俺はミッションを遂行してみせる。
その未来の予定とは、亜季と夏休みにデートをすることだ。