同じ屋根の下で暮らすのには理由が必要!! ~夏休み1日目-17~
まるでアニメで聞いたような小夜狐の発言に、彰は何もリアクションできなかった。その台詞が自分に向けられていることを理解するだけで時計の針が一周してしまう。
「……それ、どういうことだよ?」
「あんたさ、今日あたしとテレパシーで会話したでしょ? 言葉を受信するのは別に何の力もいらないけど、発信するとなれば一定の霊力やら鍛錬が求められるものなの。だからね、あの時から薄々は霊力あるかもって思っていたんだけど」
「それって、もしかしてブレスレットが効果を失いかけて、霊力が漏れ出してるってことか?」
「ブレスレットの弱体化か、彰の霊力自体が強くなっているのかわからないけど。霊力を封じ切れていない点に関しては、あんたの推測で間違っていないと思うわ」
「……でも、今までブレスレットを外しても、妖怪に出会う経験なんてなかったぜ」
「それってかなり短い時間なんじゃない? たぶん短時間だけ外した状態なら、霊力を防いでたんじゃないかしら。でも、今回は力任せにテレパシーを行うことで霊力を感知されやすい状況になっていた上に、言い合いするぐらい長い時間ブレスレットを外してたから、見つかったんだと思うわ」
「複数の偶然が重なった、そんな感じか……」
「あたしだって、突然莫大な霊力を感じるわ、ウシロ神の気配を察知するわ。割と驚いてたんだから」
「それで俺を助けるため、お風呂へ突撃したってわけか」
それなのに、と彰は小夜狐に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになっていく。しかし、当の彼女はやはりあっけらかんとしており、いつもの挑発的な表情を見せる。
「あたし的には、そんな理由が無くても一緒にお風呂を楽しんでもよかったんだけどね~」
小夜狐の言葉を最後まで聞くことなく、彰はキッと睨み付ける。それでも彼女はテヘペロ、とわざとらしい笑顔を見せつけてくる。
「とにかく、そのブレスレットじゃあんたの霊力を完全に封印するのは難しくなっている。これは事実なわけ。今後ブレスレットの封印する力が弱くなって、あんたの力も強くなってくると考えると、上質なあんたの霊力を妖怪が狙ってくるでしょうね」
彰は先ほど体験した非日常の出来事を思い出す。またあんな危険な目に遭遇する可能性があると思うと、途端に身体の底から震えだしそうになる。しかし、震えが出る前にフワッと手に暖かい感触がよみがえる。彼の目の前には小夜狐がおり、また手を握ってくれていた。
「大丈夫、あたしがいる限りは。また危険な妖怪が出てきても、ウシロ神のときみたいに撃退してあげるわ」
「……いや、ずっと頼るわけにはいかないだろ」
「気にしなくていいのよ。夫が問題を抱えていても、一緒に抱えるのが妻の務めだと思っているわ」
「だから、夫婦っていう前提で話すのやめろって」
ふふっと、彰の言葉につい小夜狐が笑い声を出す。
「ごめん、また無理強いしちゃったわね。これじゃ、またウシロ神を呼んじゃうかも」
「そっちの方が勘弁だぜ……」
「でもあたし。今の彰を放っておけないわよ、絶対になんとかするんだから」
まるで嘆願でもするように、小夜狐は彰の目を見つめながら訴えかける。それは今までのふざけた雰囲気はなく、でたらめな求愛行動とも違っていた。心の底から彰の身を案じる目だった。その姿を見た彰の中では、家族のことを話していた彼女とダブり始める。
その目はどちらも彰をしっかり捉えている。なのに、なぜ捉えられているのか自分ではわからない。その矛盾はまるで世界中の人が興味を持つミステリーのようで、彰自身もその謎を追わずには入られずにいた。
「わかったよ……」
「わかったって?」
「お前、妖力とか霊力の扱いには通じているんだろ? バシャモンテさんも妖狐はエリートって言ってたし」
「あ、当り前よ! 今じゃ修行して人間の身体も手に入れているから、この力は絶大で壮大なんだから」
「壮大な力ってなんだよ。まあ、それぐらい自信を持っている方が頼みやすいか」
彰の意図が掴めないのか、不思議そうに彼の顔を見つめる小夜狐。こほん、と一度咳払いをした後、ソファから降りて彼女と同じ目線になる。さらに正座をしてから、彼女と正面から向き合う。
「小夜狐、俺に力をコントロールできる方法を教えてくれないか?」
「教えるって、あんたに?」
「ああ。力の使い方もだし、妖怪のことも。どうせこの力とも付き合う必要があるんだろうし、このまま放っておいていいもんじゃないだろ? だから霊力や妖力に精通しているお前に、コントロール方法について教えてもらいたいんだ」
その言葉を待っていた、と言わんばかりに目を輝かせ、頬を紅潮させていく小夜狐。
「もちろん! 彰のためなら何でも教えるわ」
小夜狐は胸をドンと叩いて引き受ける。何とも男らしい、そこら辺にいる見栄だけの人間よりも確実に勇ましい女の子だ。彼女がここまで言ってくれたのだから、今度は自分の番だと彰は意を決する。祖父の「ケンカの後、これが人生で一番大事だ」を心の中で呟き、深呼吸をしてから真っ直ぐ小夜狐を見つめた。
「だから、その……」
「なに?」
「しばらくは、俺の先生というか……。同居人という形ならこの家に居座るのを許してやるよ」
彰は小夜狐の目を直接見ず、一度追い返した彼女に帰ってくることに許可を出した。ただ彼女を向か入れるだけのことなのに、自分から彼女に歩み寄るのが妙にこそばゆい。小さいときに友達とケンカして、自分から謝るときの気持ちを彰は思い出していた。
「あきら!」
小夜狐は彼の名前を叫びながら、足をバネのように使って飛び付いてくる。なし崩し的に彼女に押し倒されるも、彼女は一向に離れようとしない。
「やった、これで一緒に暮らせるのね!」
「あ、あのな小夜狐! これは決して婚約とか結婚とかではないからな! それは肝に銘じておけ」
「いいわよ、そんなの! とにかく、この家で一緒に暮らしていいでしょ~」
やったわ、を何度も繰り返しながら小夜狐はギュッと彰の身体を抱きしめる。とんでもない同居人であることに変わりない。だが、彼女がいなければ自分の命さえ危うかった。これを考えれば、祖父が彼女に念書を書いておいたのも無駄ではなかったのだろう。
「まったく、なんちゅう人生じゃ」
トラブルばかり生む祖父の念書付き写真も、彼のことを深く知る人間を運んできてくれたことを考えれば、実はそう悪いことばかりではないのかもしれない。これでは本当にラブコメの主人だな、と思いながら彰はほくそ笑んだ。




