俺に霊力があるとかどんな冗談だ!! ~夏休み1日目-16~
小夜狐の目は磁力を持っているのか、彰は自然と惹きつけられてしまう。やることなすことはすべて滅茶苦茶だけど、やはりこの魅力は人外級。魅惑というよりも魅了する力があり、思わず彼女に籠絡されてしまいそうになる。心なしか、彼女と顔の距離も近づいて……。
「……って、さりげなく顔を近づけるんじゃない!」
ここぞとばかりに、あわよくばキスでも狙っていたのだろうか。顔を近づけていた小夜狐の頭にチョップを入れ、身体一個分の距離を取る。
「いた~い、それが命の恩人にすること?」
「うるさいわい、命の恩人と言えば何していいと思うんじゃない」
「命の恩人は恩を売った人間に何でも要求できるんじゃないの? 人助けは相手に何かを要求するための引換券みたいなものって聞いたけど」
「まったく、どこでそんな知識を付けたんだか……」
思春期たけなわな彰は、恥ずかしさが勝りつい手を出してしまったものの、やはり小夜狐は小夜狐である。そのことに呆れながらも、ウシロ神が消えた効果か先ほどよりストレスを感じなくなっている。むしろ、この安定したやり取りに頬が緩みそうなのを我慢しながら、彰は自分に起きた現象について話を戻していく。
「なあ、今まで妖怪に襲われることなんてなかったんだけど……。どうして急にこんなことが?」
「たぶんそのブレスレットと、あんた自身の身体に眠る霊力が関係していると思うわ」
「このブレスレットが? それに霊力って、そんな馬鹿な話がー」
「とりあえず、ひとつずつ整理していこうか。まずはそのブレスレットだけど、それって誰からもらったの?」
「これか? これはじいちゃんから貰ったんだけど」
「なるほどね……」
小夜狐は眉をひそめ、はじめて真面目な顔つきになる。手を口元に当てて考え考えに持論を展開し始める。
「実はそのブレスレット、霊力を封印する力を持っているみたいなの」
「霊力を?」
「ええ。驚かないで聞いて欲しいんだけど、あんたはかなりの霊力を持っている。その力だけならば、そんじょそこらの術者や妖怪を軽く凌駕しているわ」
彼女の突拍子もない発言に、彰は口をあんぐりとさせて物も言えなくなってしまう。まるでアニメのように大きく開いた彼のアゴを、小夜狐は優しく持ち上げて元に戻す。
「ぷっはあ……。息できなくて死ぬかと思った」
「鼻で息してたでしょうに」
「それはいいとして! 俺に霊力があるって、一体なんで?」
「それはわからないわよ。霊力は修行して培う場合もあれば、生まれ付いて持っているものもあるわ。あんたは妖怪なり霊能力者について何も知らないみたいだから、霊力についても修行していないんでしょうけど」
「ああ、修行した覚えなんて全くない」
「じゃあ、生まれついてのサラブレットというところね」
「俺に、霊力……」
「そんな手を見つめたってわからないわよ」
「う、うるさい! 何となく、こういうときは手を見るもんだろ」
「それはいいけど。で、あんたのその莫大な霊力を封じる役割を、そのブレスレットが担っていたみたいね」
「なんでわざわざ封印してたんだよ?」
「霊力は修行しないとコントロールできないのよ。でも、あんたみたいに初めから莫大な霊力を持っていると、使わない食材を家に溜め込んでいる状態みたいなものなの。つまり、霊力をはじめから持ち過ぎていても余るわ使えないわで害になるだけ。今日みたいに、妖怪に襲われたりとかね」
「えっ!?」
「妖怪は普通の人間より、霊力を持つ人間のほうが好物みたいでね。今日のウシロ神みたいに人の感情を食べる妖怪も、普通の人間より霊力を持つ人間の感情のほうが好物なの。
だから、力を使いこなせないあんたを妖怪から守るため、源造さんはそのブレスレットを付けさせたんだと思うわ。今回ウシロ神に襲われたのも、ブレスレットを外したときでしょ?」
「そういえば、そうだったな」
「その点から考えてみても、そのブレスレットは確実にあんたの霊力を封印していた。この点に関しては断定していいと思うの」
彰は一通り話を聞き、ブレスレットを見つめる。祖父からお守り代わりとしてもらったものだが、不運を退けるだけでなく妖怪からも身を守っていた。死んでも尚、彼に守られているようで胸がジンと熱くなってくる。
「それで、ここからは完全な推測」
「推測?」
「このブレスレットが源造さんの作ったものだとすれば、霊力を扱えた人とみていいでしょうね」
「じゃあ、優作が話していたあのバカみたいな怪談も」
「ええ、おそらく本当の話でしょうね。あんたの霊力を封印するブレスレットを作れるところを踏まえると、かなりの霊能力者だと思われるわ」
小夜狐の推測はおおよそ間違っていないだろう。祖父が霊能力者であれば小夜狐にも物怖じせずに対応できるだろうし、このブレスレットを作れるだろう。
「でもよ、小夜狐。じいちゃんはどうして俺に霊力のことや、お前のことを話さなかったんだ? 話しておけば、こんな事態になることも防げたかもしれないのに」
「それはわからないわよ。源造さんにどういった意図があって話さなかったなんて。霊は見えても、10年以上も会えなかった人の真意なんて見えないわよ」
「そ、そりゃそうか……」
「あんたの霊力についても初めから備わっていたのか、突然開花したのか。それによって源造さんの対応も変わったでしょうけど。まあ、どっちにしてもそんな化け物みたいな霊力があるんじゃ、子どものときに扱おうとしても無理でしょうけど」
「そ、そんなにスゴイのか? 俺の霊力って」
「現代で言うところのチート級ね」
「またアニメと漫画を拠り所にした発言を……」
彰のツッコミに小夜狐は何も答えなかった。彼女の方を見るも、また神妙な顔つきをしながら話を投げかけてくる。
「ねえ彰。あんたのそのチート級の霊力なんだけど、おそらくそのブレスレットでは防ぎ切れないようになっているんだと思うわ」




