風呂場で遭遇とか笑えねえ!! ~夏休み1日目-12~
小夜狐からしっかりと話を聞いた優作と那美は、満足そうな笑みを浮かべながら源造宅を後にした。小夜狐も話を聞かれる中で「婚約」などのキーワードはあえて出さず、その代わりに優作が食いついた「幼馴染」をプッシュしまくった。
「……あいつ、ほんっと性格悪いよな」
彰は2人が帰った後、既成事実を作り上げてニヤニヤする小夜狐を見ていられず、すぐ風呂に入ることにした。湯船に浸かっても彼女の顔が頭から消えず、一緒にそうめんを作っていた際に感じた陰もすっかり感じなくなっていた。やはりあいつは、ただの性格が悪い妖狐だ!
しかし、彰自身も「幼馴染」という単語を出したのは失敗だったと反省している。なぜか日本人は男女同士の「幼馴染」というカップリングに恋愛関係という先入観を抱く。恋愛漫画やアニメでも幼馴染はイチャイチャするのが定番だが、優作と那美も例に漏れずこの先入観通りの反応を見せてきた。
だが、一番の誤算は小夜狐がそれを逆手に取ったことだ。婚約関係にこだわるかと思えば、持ち前のオタク知識と悪知恵を駆使し、巧みに外堀を埋める作戦に打って出てきた。彼女の手段を選ばない態度については、今一度厳戒態勢を敷く必要があるようだ。
「あ~きら」
女の子の声が浴室の中に響いてくる。嫌な予感がしながらも、ドアのほうへ首を向ける。すると、そこにはバスタオルのみで身体を包んでいる小夜狐が立っていた。
「はあああああああああああ!?」
「背中、流して上げるぞ。ハート」
「ハート、を直接言うんじゃねえ! って、問題はそこじゃない! おま、ええっ!」
「ひとつ屋根の下、男女が一緒に暮らすとなれば。これは避けて通れないイベントでしょ」
小夜狐はいいじゃない、と言いながら彰に近づこうとする。彼女を包むバスタオルは、その身体を支える白い足も、彼女の身体のラインもこれ見よがしにアピールしてくる。彰の頭はパニック状態となり、とにかく頭に浮かんだ台詞を口にしていく。
「いやいやいや! 普通ならば一緒にお風呂に入るなんておろか、入浴中の女性が男性と鉢合わせようものなら『キャー、エッチ』と叫ぶのがお約束だぞ! それに、結婚した男女だって一緒にお風呂入ることはない……。と俺は聞いているぞ?」
彰は何とか小夜狐を追い出すため、人間の一般的行動を説いてみせた。すると、話を聞いた彼女は顔を赤らめながらモジモジし始める。人間の嫁になりたい彼女の心に響くエピソードを披露したのだが、少しは羞恥心を感じたのだろうか。
やっと彼女の鼻を明かせた気分になり、彰は心の中でガッツポーズをして見せる。
「小さい頃、お風呂なんて普通に入ってたじゃない……」
小夜狐の斜め上の台詞に、彰は思わず湯船の中でずっこけてしまう。思い切り水しぶきを上げるも、すぐに身体を起こして彼女に噛みついていく。
「ここに来て新たな既成事実を作るな! それに幼馴染ネタを引っ張るんじゃねえ」
「まあまあ。それに、幼馴染って言い出したのはあんたからだし」
「うっ、うるさい! とにかく早く出てけ!」
「いや、でも少し……。彰に関して調べておきたいことがあってさ」
「調べたいことのために、風呂場に突撃する人間がおるか!」
「に、人間!」
小夜狐はいきなり大声を上げ、浴室内に響き渡る。思わず黙ってしまうも、彼女は目を輝かせながら彰に訴えかける。
「あたしを人間と認めてくれるのね!」
「そこに感動してんじゃねえよ!」
「あ~ もう。しっちゃかめっちゃかにうるさいわね」
「いつもお前が火の出どころじゃ!」
「とにかく。さっきの優作の話とテレパシーの件を含めて、気になることができたの!」
小夜狐は彰の有無を問わず、ズカズカと近づいて肩を掴んでくる。彼女のふんわりとした香りが湯煙と混じって肌にまとわりつき、その妖艶な目でじっとりと彰の身体を見つめる。そんな体勢、初恋相手をどれだけ胸に忍ばせようと、健全な高校生が耐えられる訳がない。
彰は彼女を押しのけながら湯船から出て、そのまま浴室からも脱出する。待ってよ、とエコーの掛かった小夜狐の声が追いかけてくるも、彼は身体を拭くこともなく半裸で自室に逃げ込んだ。しかし、すぐに彼女も風呂を出たのか、ドンドンとドアを叩く音が鳴り響く。
「彰、このドアを開けて?」
ドア越しにまた小夜狐の声が聞こえてくる。彰はドアの前に座り込み、耳を塞ぎ、目をつむり、自分の身体をバリケード代わりにする。その姿は貝そのもので、テコでも動かないといった様子である。
「ねえ彰、お願いだから開けて! 早く調べないと、もしかしたらー」
「黙れよ!」
ドアの向こうにいる小夜狐に対し、彰は声の限り叫んで拒絶する。さすがの小夜狐もその声色にいつもと違うものを感じ取り、激しくドアを叩いていた手をピタッと止めてしまった。




