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小夜狐さんはいろいろズレている~最凶にして最愛の許嫁?~  作者: 藤咲 流
「幸と不幸は紙一重」とはよく言ったものだ
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〇〇さえ言っておけばホラーっぽくなる!! ~夏休み1日目-10~

「これはある人から聞いた話なんですけどね。あまりに突拍子もない噂話なんですけれど、この町に伝わる不思議な話なんです。

 この町に住む明星源造さんという人は住職をしていたんですけどね、それはそれは町の人から厚く信頼されていたみたいなんですよ。しかしね、この人はただ人がいいだけじゃなかったんです。源造さんの元にはね、ちょっとおかしい人も訪ねていたんですよ」



 おかしい人、と小夜狐が真面目な表情で聞き返す。優作はそれに頷くだけで、そのまま話を続けていく。



「ええ。これは一例なんですけどね、源造さんの元に突然奇妙なうわごとを繰り返す人が来たんですよ。今で言うところの精神異常者、みたいなところなのですが、その人は医者さえ匙を投げた方でね。家では縄で縛られるぐらい狂っていたようです。

 で、ついに家族の人は源造さんの噂を聞きつけて、彼を頼ったみたいなんですよ。うわごとをくり返す人は、それはそれは源造さんに対して畏怖したようで。いやだなあ、暗いなあ、怖いなあと逃げようとしたみたいですけどね、源造さんが一喝した瞬間!」



 優作が思い切り叫び、つい雰囲気に飲まれた3人はそろって肩をびくつかせる。



「うわごとを言っていた人の口からね、犬のような霊体がぼわあと出てきたみたいなんですよ。それは動物霊だったらしくてね、それを源造さんがしっかりと供養したら、うわごとを言っていた人はケロッと治って、日常生活を送ったみたいなんですよ……。いやだなあ、暗いなあ、怖い話だなあ」



 優作が呪文のような言葉を繰り返し、話を締めくくった。しばらく沈黙が場を支配し、彰を含めた他2名は優作の話を真面目に聞いた自分を呪っていた。同じ感想を抱いていることは、まるでのっぺらぼうのような表情を失った顔が物語っていた。



「な~にその出来の悪い都市伝説」



 那美はスイカを食べながら、優作の話を一蹴する。



「源造さんに見てもらったおかしい人が突然体調がよくなった? そんな馬鹿な話、あるわけないでしょ?」



「でもよ、源造さんは住職だし。なにかこう、霊的な力を持っていそうな感じするじゃん?」



「漫画とアニメの見過ぎよ。それに、そんな力があったら彰が知ってるはずでしょ。で、実際はどうなの彰?」



 急に話を振られるも、彰はすぐに答えられなかった。彼自身にはまったく覚えのない話だが、実際に妖狐の小夜狐と面識はある。その点を考えると妖怪しかり、現代科学では解明できない存在について知っていたり、本当に霊的能力を持っていた可能性だってある。



 しかし、彰はそのことについて彼から何も聞いていないし、その事実を確定できる証拠もないのだ。



「彰? なにぼ~っとしてんのよ?」



「えっ! あ、ああ。悪い、ちょっと暑さに当てられてた」



「いやねえ、普段から鍛えてない男は」



「お前だって、今は本格的に空手やってないだろ」



「私はもはや、身体のメンテナンスはルーチンとなっているのよ。基礎が違うわ、基礎が」



「女の吐く台詞じゃねえからな、それ……」



「で、さっきの優作の話はどうなのよ?」



「ああ、そうだな……。とりあえず、俺はじいちゃんのそういった話は聞いたことないな」



「そう。ま、そんな話があったとしても、信じられないわよね~ 今どき妖怪とか霊の存在を肯定するほうが難しい時代だもの」



 ーいや、お前らの前にいる女の子は元妖狐なのですが。



<まったく、妖怪の地位も落ちたものねえ>



 流石にしびれを切らしたのか、小夜狐が彰の頭の中に語りかけてくる。意思を飛ばす方法なんてわからないしやったこともないが、試しにやってみることにした。人へ話しかける要領で頭の中で文章を作り上げ、小夜狐のほうを見て目だけで合図をおくる。



<この声、届いてるか?>



<あら、やるじゃない彰。あたしが送受信をコントロールしているとはいえ、意思を飛ばせるなんて。割と難しいのよ、これ>



<目、乾きそう……>



<その目、怖いからやめて。そんな目開かなくても意思疎通はできるから>



<そ、そうか……。てか、お前は妖怪だって名乗らなくていいのか?>



<別にいいわよ。あんただってバシャモンテさん見たとき、泡吹き出しそうなほど驚いたでしょ? ここで2人に名乗ったところで混乱させるだけだし、あたしはほぼ人間みたいなもんだから>



 小夜狐はあらかた事情を説明した後、スイカを口に運んでいく。こうした部分は冷静なのに、こと婚約や恋愛の話になると視野が狭くなってしまう。常にこれぐらい冷静でいて欲しいと思うも、昨日の所業を見る限り無駄な願いであるだろう。



 彰はついため息を付きながら、別の話題に切り替えていく。



<お前はどう思う、じいちゃんの力について>



<どうでしょうね。あたしが源造さんに出会ったときは、力のコントロールができないときだったから。源造さんの霊的な力の有無についてはわからないわ。むしろ、その点についてはこの家に来た際に聞きたかったぐらいなんだけど……>



<その点? じゃあ、もしかしてお前ー>



 小夜狐に詳しい話を聞こうとした瞬間、優作が彼女に源造とのつながりを聞きはじめる。彼女が優作に意識を向けることで、頭の中で会話することに慣れていない彰との会話経路は簡単に途絶えてしまう。

 彰の意識が現実世界に戻ってくると、小夜狐は心底残念そうな顔つきをしながら口を動かし始める。



「ええ、源造さんとは顔なじみだったわ。この家に来た際にはおじいさんはぜひ会いたかったんだけど。まさか、亡くなっているなんて思わなくて……」



 小夜狐との間にできた会話の糸口を優作は逃さなかった。優作はさらに話を掘り進めようと、彼女に質問を投げかけていく。



「へえ~。小夜狐っちは源造さんと知り合いだったんだ」



「ごめん優作さん、率直な感想。なに、その呼称」



「まあまあ、気にしない。で、そもそもこの家に来た理由って何なの? 彰とも仲が良さそうだったけど」

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