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小夜狐さんはいろいろズレている~最凶にして最愛の許嫁?~  作者: 藤咲 流
「幸と不幸は紙一重」とはよく言ったものだ
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祖父の言葉を胸に抱け!! ~夏休み1日目-9~

「なによ、騒がしいわね」



 やっと洗い物を終え、那美と小夜狐がリビングに入って来た。2人はテーブルに置かれたスイカを一切れ手に持ち、彰たちの近くに腰を降ろしながらサクッと果実を口に含んだ。彰は自分のツッコミを制した那美に対し、優作のふざけた所業を訴え出る。



「そんな今さら。優作の言葉に本気でぶつかっていくなんて、あんた何年そいつの相手してんのよ?」



「たしかに、俺が間違っていた……」



「で、源造おじいさんのことよね? それ、さっき洗い物しながら小夜狐ちゃんとも話してたのよ」



 すでに「ちゃん」付けで呼ばれていることには言及せず、どんなことを話していたのか聞いてみた。那美は特別なことは何も、と枕を置いた後に話を続けていく。



「私がこの家に来てから知った、源造おじいさんのことについて話したぐらいよ。いつもニコニコしてて、気のいいおじいさんだったって」



「気のいい、ねえ。まあ、住職をしていたぐらいだからな」



 そうなの、と彰の発言に対して小夜狐が疑問を呈する。



「ああ。人のいい住職として、この町内ではちょっと名の知れた人だったかもな。葬式で呼ばれるだけじゃなくて、色々と町の人から相談受けてたみたいだ。住職を辞めた後でも、じいちゃんを頼って子どもを預ける人がいるぐらいだから、信頼はされてたと思うぞ」



「ふうん。やっぱり、源造さんはすごい人だったんだ」



 怖いときは怖かったけどね、と今度は那美が口を挟んでくる。



「源造おじいさんって基本優しかったけれど、威厳みたいなものも持ってたし。ほら、一回本気で怒られたこともあったじゃない?」



 あったなそんなこと、と興味なさそうだった優作が話に割り込んできた。



「進路も決めずフラフラしてたときだよな。『別に無理して学校の勉強をしろとは言わん、じゃが自分を誤魔化したり騙したりして生きることはするな』って。あの時の顔と声だけは、今でも忘れられないよなあ」



 口いっぱいにスイカをほおばりながら、那美は優作に同調する。その姿を「はしたない」と祖父にシカられぞ、と思いながらも、彰も優作の話には同意していた。



 優作や那美を叱り飛ばした内容しかり、ケンカした後の身の振り方や食事中の作法、使ってはいけない言葉……。人として大事なことを祖父から数多く教えられたが、ああしなさい、こうしなさいと押し付けられた記憶はない。



 たとえば、スーパーに行ったときに列を守らない人を見かけたことがあった。そのとき、祖父は彰に「どう思う?」と尋ねてきた。幼心ながら、彰は「列を守らないのはよくない」と答えた。その答えに関して、祖父は「そうじゃな、あんなことされたら嫌な気持ちになるもんじゃ」と言葉を添えた。



 スーパー以外でも、町の外で見かけた人の行動やニュース、出来事について、祖父は彰に色々と質問を投げかけた。彰は感じたままの感情を言葉にし、その間に祖父は絶対に割り込んだり否定したりしない。きちんと彰の言葉を聞いた後、自身の考えを話してくれるのだ。



 ただの何気ない会話だった。でも、口うるさく言われるよりも、そのほうが返って身体に言葉がしみ込んできた気がする。



「あ~あ。今の僕たちを見たら、源造さんは何て言うんだろうな」



「大丈夫じゃない? とりあえず試験で赤点は取らなかったわよ」



「そういう問題じゃないでしょ。学校の勉強に囚われる必要はないけど、『自分を誤魔化したり騙さずに生きなさい』って言ってたんだから」



「それも大丈夫よ。私は本能のままに生きてるから」



「……そりゃ見ればわかるよ、その姿はまさに野生のー」



「優作くん、私が野生の何だって?」



 ボキボキ、と指を鳴らしながら那美は立ち上がり、優作の前に立ちはだかる。オロオロしながら待て、と声を掛けるも彼女は優作の首根っこをつかみ、襲い掛かろうとする。



 この2人も普段はふざけているけれど、何だかんだ祖父のことや言葉を覚ているみたいだ。その言葉を那美も優作もかなり自由に解釈し、もはや真意は遠くかなたへ吹き飛んでいる。だけど、2人の口から祖父の残した言葉を聞くと、まるで彼が生きているように感じられる。



「ま、待て待て那美! まだ源造さんについて話すことあるから!」



「はあ? この状態から逃げたいからって、適当なこと言ってるんじゃないわよ」



「いやいや、これガチだから! 源造さん、不思議な力を持ってるって!」



 不思議な力、と優作以外の3人が同時に聞き返す。意外な情報に那美の力も自然に緩まり、その隙を付いて彼女の手からするりと脱出する。絞められていた首元をさすり、優作は3人の顔をゆっくり眺める。まるで怪談を語る噺家のような優作の表情に、3人は思わず固唾を飲んでいた。

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