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小夜狐さんはいろいろズレている~最凶にして最愛の許嫁?~  作者: 藤咲 流
「幸と不幸は紙一重」とはよく言ったものだ
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出会いはお約束のグーパンチから!! ~夏休み1日目-8~

 そうめん流しは滞りなく進み、流す人を順番に交代しながら行われた。誰が流してもそうめんの争奪戦が繰り広げられ、勢い余って着ている服を濡らしながらそうめんを食した。

 薬味も十分に用意してあったこともあり、味を変えられたので飽きも来ず、用意していたそうめんはあっという間に終わってしまった。



「ふう、そうめんでこんなに楽しめるなんて。思ってもみなかったなあ」



 そうめん流しパーティを十分に堪能した優作は、腹をパンパンと鳴らしながら満足そうな表情を浮かべている。そうめん流しに使った器具を片付けた後、ジャンケンで負けた那美と小夜狐はさらに洗い物を担当することになり、2人はそろって口を曲げながら皿や調理器具を磨いている。



「いやあ。やっぱ普段の行いがいい人間は、いざというときの勝負運も凄まじいねえ。なあ、あきら君」



 優作はリビングで圧倒的な煽り文句をのたまい、それを聞いていた那美は恨めしそうに叫び声を上げている。その声を聞いて、優作はまた高笑いをして見せた。



 優作はお調子者というか、クラスに1人はいるノリで生きているタイプの人間だ。クラスを引っ張ることもなく、偉そうに指示したり命令したりすることもない。自分が面白いと思うことに忠実で、とにかく自由に生きたい。色々説明しようとしても、中一から付き合いのある彰も優作を例えるのは難しい。



 ただ、確実に言えるのは弁が立つということだ。クラスの中で浮くこともなく、別のクラスメイトともそつなく付き合っているのをよく見かける。彰たちに話したい人がいる場合、その橋渡しをしてくれるのも優作である。



 那美と彰のつながりができたのも、優作が中学時代に話しかけたのがきっかけである。那美はその気性や生い立ちから、女子グループに入るのが苦手だった。彰が中学一年生に那美と同じクラスになった際も女子グル―プへの入り方がわからず孤立しており、彼女の周りだけ景色が違って見えた。



 そんな彼女に声を掛けたのが優作だった。彼は那美に対して、いつものふざけた調子で話しかけた。当時の彼女はさながら野放しにされた獣のようで、全身から「寄るな触るな話しかけるな」のオーラを出していた。しかし、優作の言葉は麻酔銃のように彼女をなだめ、ピリピリと針のよう立っていた彼女の雰囲気を中和していった。



 ただ、元来お調子者の優作がそのまま終わるわけがない。つい調子に乗って「瓦割りやってよ」と言い出し、いきなり彼女から鉄拳制裁をくらってしまったのだ。思い切りパンチを食らった優作は保健室送りになり、那美も悪いと思ったのか一緒に付き添ってくれたのだ。



 この事件をきっかけに3人の仲がはじまったのはもちろん、那美のお茶目な本性を引き出すことには成功した。その結果、意気投合する女子も出てきはじめ、クラスの人間関係にも変化を見せ始めた。



 それでも那美は鉄拳制裁以降、優作と彰の2人と積極的につるむようになっていった。空手漬けの影響で那美は男みたいなものだったので、2人もそこまで抵抗なく彼女を受け入れることができた。この関係は高一になった現在まで継続し、今では悪ふざけしかない悪友へと変質していった。



「……それにしても、僕のアイデアは完璧だったね。タライの中でスイカを冷やす、これこそ夏って感じだと思わないかい?」



「そうだな。お前が急にタライへ投入したのにはビビったが、悪くないアイデアだったな」



 優作はこの日のためにスイカも用意しており、そうめん流しで使う水を受け止めるタライに投入しておいたのだ。流水のおかげでスイカは自然に冷え、心なしか旨味も底上げされているように感じられる。



「スイカって、別に夏だからって食べなかったんだけどねえ」



「そうなのか?」



「ああ。この家に来て源造さんにご馳走になってからハマったかな」



「今じゃわざわざ、スイカ食べる人のほうが少ないのか?」



「そんなうまいってわけじゃないしな、スイカ」



「えっ! 普通に上手いじゃん、スイカ!」



「あきら君、君の味覚は割と古風だからね。あと、先ほどはスイカをキレイにさばいてみせたけど、そんじょそこらの高校生の技じゃないよ?」



 洗い物をしてもらう前、彰は手間を省くためにスイカをサクッと切り分けておいたのだ。見事に三角形へと変貌したスイカ達は、大皿の上に並べられてリビングにあるローテーブルに置かれてある。



 その姿を小夜狐も見ていたわけだが、彼女からすれば嫁としての力量の差を見せつけられる拷問的時間となったようだ。その憂さ晴らしなのかもっと言ってやってください、と今度は小夜狐がキッチンから吠えてくる。余計なことを、と彰が歯ぎしりをして見せると、優作がにやついてみせる。



「仲がよろしいことですな、あきら君」



「ばっ、別にそんなんじゃねえよ! そっ、それよりも。じいちゃんのことについて、少し聞いていいか?」



 小夜狐の話を避けたかった彰は、多少強引ながらも祖父のことに話題を逸らそうと試みる。



「なんだよ、今さら。僕から源造さんの何を聞くっていうんだよ?」



「いや、俺の知らないじいさんをお前が知ってる可能性だってあるじゃん。元住職だったことは知ってるけど、それ以外のことって実はあまり知らないしさ。ほら、他人のお前のほうが、外でじいちゃんの話を聞いてる可能性ってあるだろ?」



 事実、祖父は彰の知らないところで小夜狐と約束をしていた。彼女について祖父がどの程度まで理解した上で約束したのかわからないが、自分の知らない「祖父」は確かに存在している。優作が妖怪に関する知識を知っている可能性は低いが、少しでも自分の知らない祖父の情報を第三者から集めるのは悪くないと思ったのである。



「なるほどな、自分に近い人間ほど見えづらいことってあるからなあ」



 そう言いながら優作は目をつぶり、スイカを機械的に口へ運んでいく。ちゃんと考えているのかどうかわからなかったが、咀嚼する音を止めると共に彰のほうへ顔を向けた。



「……とりあえず、スイカという魅力を教えてくれた偉大な人だな」



「どれだけ食い意地が張っておるんだ、おのれは!!」

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