運命でもなんでもねえ!! ~夏休み前日-1~
今日を逃したら、二度目は無い。
夏休みを前にした補習授業を窓際の席で受ける中、太陽から発せられる熱によって首元に汗がダラダラと流れていく。額に汗かきながら教師も教科書を読むが、誰もが授業後のことを考えているのか、浮足ムード全開なのがわかる。
かく言う俺も、教師の話なんて何一つ頭に入っていない。朝から何度も「二度目はない」という言葉を口の中で繰り返し、今か今かと終業ベルが鳴るのを待っていたのだ。
高校生活初めての一学期終了を告げる鐘が鳴り、夏休みがついに開幕した。挨拶も早々にクラスメイトは席を立って教室を後にしていく。俺も机に掛けてあったカバンを取って席を立ち、目的の場所へ向かおうとしたときだった。
「あーきらくん。君は夏休みをどう過ごすつもりなんだい?」
ミッションをはじめようとした矢先、後ろの席にいる須藤優作がさっそく妨害行為に及んでくる。普段は一緒にダラダラと同じ時を過ごせる貴重な友人。しかし、同じぐらい面倒ごとも起こしてくれる悪友でもある。
何も答えないまま立ち去ろうとしても「ね~ね~」と気持ち悪い猫なで声でじゃれようとしてくる。この暑さでただでさえイライラするのに、まるで本物の猫が身体にまとわりついてくるようなうっとうしさがある。
「って、ほんとにくっつくな。暑うっとおしい!!」
「すっごーい、暑うっとおしいってツッコミ。さすがは我らのツッコミ専門」
「好きでやっとるんじゃないわい!! 誰のせいでツッコミをせんといかんと思っとるんだ」
優作の相手をしていると、その隣にいる小松沢那美も絡んでくる。
「ね~ね~ 彰。夏休みだよ、やっぱかき氷は食べに行くよね! こんな暑いんだからさ~」
優作と同じぐらい一緒にダラダラと過ごしてきたのが那美だ。女友達よりも俺たちといる時間の方が多く、実家の格闘道場で修行していたことが理由らしい。道場では男子のほうが多かったこともあり、女子といるよりも自然でいられるとのことだ。
とにかく、俺はこの2人と中学時代からゲーセンや古本屋、買い食い、祖父の家で遊ぶ……。有り余る青春をこの2人と費やしてきた。ぜいたくな時間の使い方をしていると思う。だが、それ以外の使い方も無かったので、今までは現状を受け入れるだけの生活を送っていたのだ。
「しかし、今日は現状に甘んじる訳にはいかない!」
自分を叱咤激励するつもりの言葉が、つい口元からこぼれしまう。俺の態度にさすがの2人も少し引き気味になっていた。
「な、なんだよあきら。おまえいつからそんな熱血キャラになったんだよ?」
「すまない、優作。今日はちょっと用事があるんだ」
え~、と那美が予想通りの態度を取ってくる。
「夏休みは一緒に遊び倒すんでしょ?」
「いつそんな約束をした?」
「約束なんじゃないわ。これは、運命が定めた選択よ」
「……お前の独断だろ」
「でも私の手帳には、今日はあんたの家で夏休み開始を記念する『そうめんパーティ』って書いてあったわよ」
「お前の手帳には、未来に起こる内容が書かれるのか!?」
「いいや、私が勝手に書いただけ」
「選択でも何でもねえ!」
いつもの調子でツッコミに追われている自分をいけない、と叱責する。教室の時計を見てみると、すでに作戦の行動予定時間に近づきつつあった。
「とにかく、今日は忙しいんだよ! 美化委員会の最後の集まりもあるんだ。先に帰っておいてくれ」
今度は2人そろってえ~、ときれいにハモりながらブーブー言い出す。こいつら、なんでこうも人をおちょくるときは息ぴったりなんだ。双子か、と疑ってしまうほどのシンクロ率だ。
とにかく、これ以上2人と問答を繰り返していても埒がない。俺は颯爽と教室を出て、美化委員会の集まりが開かれる教室へ向かうことにした。そこで竜胆亜季が待っていると思うと、俺の足は自然とセカセカ動いていた。