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小夜狐さんはいろいろズレている~最凶にして最愛の許嫁?~  作者: 藤咲 流
「幸と不幸は紙一重」とはよく言ったものだ
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人は見た目通りじゃねえから!! ~夏休み1日目-7~

「よーし、準備は整ったわよ!」



 開放されたリビング窓から、優作と那美の騒がしい声が網戸を抜けて届いてく。彼女の声とほぼ同時に調理作業も終わり、彰と小夜狐はお盆を使ってそうめんと薬味を運んでいく。リビングを通って窓から庭を見ると、そこには竹で作られたそうめん流しのセットが堂々と鎮座していた。



「うわあ、すごい!」



 お盆をひっくり返しそうな勢いで、小夜狐が網戸を開けて飛び出す。



「これ、2人が作ったの?」



 おうよ、と男よりも男らしい那美が鼻をしゃくり上げながら答える。



「夏と言えばそうめん流し! やるならこれぐらいしないとね~」



「でもすごいなあ、作っちゃうなんて。えっと……」



「那美だよ、小松沢那美」



「これ、作るのすごく面倒そうだけど。那美さんは得意なの?」



「まあね。小さい頃から大工作業とかもしていたから、これぐらいならチョチョイのチョイよ」



「へえ~ すごいなあ。足場とかも複雑そうなのに」



 割と簡単なものだぜ、と那美の代わりに優作が答えた。



「重いものを支える訳じゃないからな、適当でも何とかなるもんだよ。それに、こうした細かい作業は僕の担当で、力仕事は専らこちらの怪力姫がー」



 優作が言葉を続けようとするも、それよりも先に那美のチョークスリーパーがさく裂する。ギリギリと首を絞められる優作はギブをくり返すも、絞める力はどんどん強くなっていく。



「だ~れが怪力姫じゃ!」



「やめ、これホントだめなやつ! お前のチョークスリーパーは死への階段を確実に上るから!」



「だったら、はじめから余計なこと言うな~」



 ぐええ、と優作の貧相な悲鳴が響き渡る。お盆をリビングの際に置いてから、小夜狐が2人のケンカを止めに入ろうとする。しかし、それを彰が制止する。



「止めなくていいぞ」



「え、でもこのままじゃ。あの人、那美さんの手で本当に召されるかもよ?」



「大丈夫だよ、いつものことだから」



「いつものことって……。どういうクレイジーな関係なのよ」



「マジで落とすことはないから大丈夫だよ。那美、あれでも全国制覇したことのある空手家だから。ちゃんと程度は心得ているよ」



「ぜ、全国制覇って……。那美さんって、この日本を統べる猛者なの?」



「いや、そこまでの人間ではないが。まあ、ある意味で最強の人間であることに変わりはないが」



「ほえ~ 人って見かけに寄らないわねえ。あんなキレイな見た目して、日本最強……」



 小夜狐は信じられないといった様子で那美を見つめる。那美は決して筋骨隆々という体系でもないし、修行によって表情筋がカチカチになっていることもない。外見は至って普通の女子高生で、顔立ちだってキレイ系のアイドルに負けないレベルの健康美人である。



 ただ、残念なぐらいに性格が男らしいのだ。たとえば、彰たちの通う高校には学食があるのだが、順番を守らなかった男子生徒に対して拳で制裁を加えたことがある。基本的に物事を暴力的な方向でしか解決できないが、裏を返せば女性のようにまどろっこしい形で人をいびることもしない。



「と、まあ那美に関してはほとんど男みたいなものだから。あんま見た目に騙されるな。お前だって、出会った瞬間に抱き着かれただろ?」



「そ、そういえば……。あの目は男のそれと変わらなかったかも」



「……さて、那美。そろそろ優作を開放してやったらどうだ? せっかく茹でた麺がまずくなるぞ?」



 彰の声を聞いた那美は、パッと手を離して優作をチョークスリーパーから解放する。まるで道端に捨てられた紙クズのように優作は放置され、他の人間はそうめん流しの周りに集まっていく。



 彰は庭先にあるホースをそうめん流しにセットし、那美に蛇口を捻ってもらう。勢いよく水が発射され、高い場所から低い場所へ物理的法則に則って流れていき、下方においてあるタライに水が溜まっていく。



「よし、問題なく水は流れていくな。それじゃ、誰が麺を流す?」



 ハイハイハイ、と先ほどの調理実習のときのように小夜狐が全力で手を挙げる。



「あたし、流してみたい! 見てみたい、そうめんの行く末を!」



「無駄にそうめんのハードルを上げてやるな……。夏の庶民食の代表格なんだから、プレッシャーで胃を痛めるぞ」



 彰のツッコミを余所に、小夜狐はそうめんの入った皿を手に持ってスタンバイする。いくよ、という声が掛かるころには、彰も那美も並々と麺つゆが注がれたお椀を手にし、そうめんが流れてくるのを待ち構える。ただのそうめんなのに、こうして流れてくるのを待つだけで不思議と高揚感が高まっていく。



「よし、行くよ!」



 小夜狐の手から麺の塊が放たれる。ピチャンという音を立てると共に、水の流れに乗って彰たちの元に流れてくる。その束を奪おうと猛獣の目つきをしていた彰と那美だが、彼らの元に流れ着く前に塊がスッとすくわれていく。



「お前ら、油断してんじゃねえよ!!」



 ずるる、と食欲をそそられる容赦ない音。彰たちのそうめんを奪い取り、喋りながら食べているのは、先ほどまで地面で眠っていた優作だった。



「上部での待ち伏せ、ダメぜったい!」



 彰と那美は息ぴったりにツッコみながら、優作の頭にチョップを加えた。2人分の攻撃を受けながらも、優作はケロッとした表情を浮かべてそうめんを食べるのを止めなかった。

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