表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小夜狐さんはいろいろズレている~最凶にして最愛の許嫁?~  作者: 藤咲 流
「幸と不幸は紙一重」とはよく言ったものだ
16/33

この嫁、使えねえ!! ~夏休み1日目-4~

 彰は朝起きると、毎日欠かさず祖父に向かって手を合わせるようにしている。その行為はすでに習慣化しており、やらない日があると調子が狂うほどである。優作も那美も祖父とは顔なじみで、よほど慌てた用事が限りは、家を訪れた際に手を合わせるのが通例となっていた。



「……よし、もういいだろ」



 彰の声を合図にお祈りが終わり、それぞれ手を離していく。いつもふざけている2人だが、このときは静かにお祈りをしてくれる。その姿を見る度に祖父が慕われていたことを実感していたが、小夜狐の敬虔な姿勢はこの2人よりも深いものを感じる。



「それじゃ、あきらくん。料理はきみに任せたのでいいかい?」



 優作に言われてから時間を確認すると、すでに11時を回っていた。そうめんパーティを開催するのであれば、今から料理を作ったので丁度いいだろうと彰は判断した。



「わかった、じゃあ料理はこっちで用意する。で、お前らは今日も漫画かゲームして、料理が出るのを待つつもりか?」



「ひどいなあ。皿出しとか洗い物はいつも手伝ってるじゃないか」



「それぐらいしてもらわんと、割に合わねえわ」



 材料だってちゃんと持ってきてるし、と食べる専門の那美も優作に加勢する。



「お前は男よりも食うときあるんだから、当たり前だ。お前の食べる分をうちだけで賄ってたら、とっくに破産してるわ」



「女の子にいうセリフじゃないわよ、それ」



「なんだ、今さら俺とか優作に女の子扱いをしてほしいのか?」



 那美はなかなか見せない難しい顔をしてから、目をくわっと開けて答える。



「きもい、きも過ぎるわ!!」



「だろうな。で、お前はお前で大層な袋を持ち運んでいたけど、今度はなにやらかすつもりだ?」



「ま、それは見てのお楽しみ。さ、優作。あんたも彰が料理しているときは暇人になるんだから、こっち来て手伝ってよ」



 へいへい、と言いながら那美と優作は玄関方向に向かっていく。何をしでかすつもりか知らないが、止めたところでやめるようなタマでもない。2人のことは放っておいて、自分はそうめんの準備を進めることにした。



「ねえねえ、彰。あたしは何かすることある?」



 すっと立ち上がってキッチンに向かおうとすると、ピョコピョコと耳を動かしながら小夜狐が彰の前に立ちふさがる。どうも自分以外の人間と何かすることにテンションが上がっているようだ。まったく人の気も知らないで、と思いながら彰は料理を手伝ってもらうことにした。



「よ~し、料理ね。まっかっせっなさい♪」



 意気揚々と小夜狐は台所の前に立ち、腕をぶんぶんと振り回す。彰は流し台下にある収納スペースから鍋と湯切りザル、そしてまな板を出しておくように頼む。その間に彰は冷蔵庫からネギの残りとチューブ型のショウガ、そしてミョウガを取り出す。



「出せたか、小夜狐?」



 振り返ると、彰はキッチンテーブルに展開された道具を1つ1つチェックしていく。そこにはフライパンにお玉、そして大根おろしが出ていた。彰はギッと彼女を睨むと、なぜか照れてみせた。



「か、完璧よね?」



「0点だよ」



「はあ!? いつからこれらが指定された道具じゃなくなったの?」



「お前の宇宙の法則は常に狂っとるわ」



 彰はそれ以上は何も言わず、道具を黙って片付けながら、指定した道具を取り出していく。



「いいか、これが鍋でこれが湯切りザル。そして、これがまな板だ」



「へ、へえ。あたしが修行している間に、この世界も大きく様変わりしたのね」



「そんな一瞬で道具の名称が変わってたまるか」



 彰は手に持っていたお玉で、つい彼女の頭をコツンと叩く。いてっ、という声と共にコンという鈍い音がキッチン内に響いていく。



「叩いた、彰が叩いた」



「俺は昨日、お前に火の玉を食らっとるわ」



「それは、あんたが色々とー」



「それよりもお前。嫁ぐつもりでここに来たらしいのに、まさか料理の1つもできない。とか言わないよな?」



 先ほどまで元気はつらつだった小夜狐があははは、とから笑いを絞り出していく。彰が釣られずにジィと彼女を見つめていると、諦めたようにため息を付いた。



「……そうよ。人間に転身する修行に時間が掛かって、料理の練習なんてしてないわよ」



「料理だけか?」



「……お嫁さんって、他にもやることあるの?」



 小夜狐は目をパチパチさせながら彰に問い返してくる。いくら人間界と妖怪世界で文化が違うとはいえ、さすがに頭が痛くなってくる。



「……はあ。嫁になるなら、一般的には掃除や洗濯もできるべきだと言われているな」



「へえ、お嫁さんってすごいのね~ まさに最強な職業だわ」



 まるで他人事に言う小夜狐。そんな彼女に対し、彰は冷たい視線で串刺しにしていく。流石の彼女も自分の置かれた状況を理解したのか、彰の視線がグサグサと刺さる度に耳と頬を紅潮させていく。



「し、仕方ないじゃない! お嫁さんに料理とか洗濯が必要なんて知らないし、人間界の基本的な生活ルールだって怪しさ全開だし!」



「じゃあ、お前のいた世界じゃお嫁さんとかお母さんって、どんなことをする人って認識なんだよ? お嫁さんとお母さんというのは、ほぼイコールだと思うが」



 お互いの認識のズレを埋めるためにも、彰は小夜狐に確認のための質問を投げかけてみる。しかし、その返答は彼の想像の斜め上で、一瞬だけ声が詰まってしまった。



「お母さん、か。……そうねえ、お母さんはいなかったわ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ