あの約束、生きてたのかよ!! ~夏休み1日目-3~
彰の発言に、小夜狐は腰に手を当てながら呆れたように返答した。
「なんでって、昨日の勝負で決したじゃない。あんたは『好きな人に告白する権利』を使って、あたしに告白してくれたじゃない」
「いや、だからあれはさ!」
「なに? それともやっぱり、昨日突然きた女の子にでも告白したかったとか?」
昨日、まだ亜季に振られただけならば挽回のチャンスはあったかもしれない。しかし、わざわざ家に来た彼女の前で不可思議な現象を見せてしまったし、小夜狐に抱き着かれた上に「告白した」と誤解されている。あんな姿を見られたからには完全に詰んだ。どう考えても詰んでいる。
「彰? どうしたのよ、急に黙って」
「いいや、別に何も」
「さっきまでポテンシャル上げて叫んでいたのに、昨日と何か様子が違うじゃない」
小夜狐は不審そうに彰の顔を覗き込もうとするので、すっと目を逸らしてしまう。このまま反論を続けても、もう昨日は帰ってこない。亜季とまだギリギリつながっていた日々は、もう自分の手には帰ってこないのだ。
亜季との関係をこじらせたこの女を、なんとかしなければいけない。不思議そうに彰を見る小夜狐が憎らしく見えてくるも、グッと堪えて追い返すイメージだけを膨らませていく。彰は深く呼吸してから、彼女をできるだけ見ないように話し出した。
「もう昨日の件でクタクタなんだよ、こっちは。それに、これ以上厄介事はー」
彰が小夜狐に止めをさそうとした瞬間、ガラガラガラと玄関の引き戸が開く音がする。開いたドアの前に立っていたのは、スーパーの袋を持った優作と那美の2人だった。
小夜狐を見つけた瞬間の2人の口元はニッとつり上がっていく。それに反するように彰の全身には旋律が走り、「ムンクの叫び」のように景色が歪み始める。
「あ~きらくん、昨日あれだけ抜け駆けは許さないと言ったのに。こんな可愛らしいお嬢さんを家に上げているなんて。ひどいじゃないか」
優作は彰に断ることなく家に上がり込み、スススと近づくと共に人差し指で彰の肩をつつく。優作に続いて那美も彼に近づき、もう片方の肩を叩く。
「寂しいもんね、こんなに太陽が私たちを照らしてるのに。独り身なんて寂しすぎるよね。私は良いと思う、獣耳に尻尾を付けた女の子」
那美の発言を受けて小夜狐はハッとなるも、急いで耳と尻尾を隠そうと慌てる様子は見せなかった。彼女は再度腰に手を当てて胸を張りながら、自信満々に彰の方を見た。
「彰、見られちゃったけど。どうしようか?」
「いや、なんで当の本人がそんなに冷静なんだよ」
いいんだよあきらくん、と言いながら今度は優作が会話に参加してくる。
「獣耳に尻尾の付いた女の子なんて、かわいいじゃないか」
「お前……」
「なんだい?」
「そんな性癖があったのか。……引くわ」
「この世の絶望を見るような目で言わないでくれたまえ。それに、たった今お前が全否定した彼女と、同じ屋根の下で仲良さげに話していた君に、そんなこと言われたくないね」
「いや、違うんだよ優作! 好きであんな姿をやらせているわけじゃないし、ここにあいつがいるのも事故みたいなものでー」
「事故だと!」
「そう、事故なんだよこれは!」
「事故でこんな可愛い女の子と過ごすなんて……。お前どこのラブコメの主人公だよ」
「じゃかましいわ! あんなの他人事やからみんな笑えるんじゃ!」
優作や自分の発言に小夜狐の様子が気になった彰だが、照れたり怒りのスイッチに触れたりした様子は見られない。
そんな彼女に対して、那美が突然ぎゅっとハグしてみせる。咄嗟の行動に流石の小夜狐も反応することができず、キャッと昨日まで聞いたことないような甲高い声を上げて見せる。
「そうそう、可愛いは正義だよ。別に獣耳とか尻尾あってもいいよね~」
「あの……。女の子同士でこんな抱き合うなんて」
「あれえ、もしかして苦手な感じ? てか尻尾すごいね、少し足に触れてるだけなのに、サラサラしてるのがわかるよこれ! コスプレ道具にしては凝り過ぎてない?」
このこの、と言いながら那美は小夜狐のことを抱きしめて離そうとしない。小夜狐は耳と尻尾に力を入れているのか、それとも恥ずかしいのか頬を赤めている。那美はそんな尻尾も耳も作り物と思っているみたいだが、むしろ人間から耳やら尻尾が生えていると信じる高校生なんていないだろう。彰はそう思った。
「……で、優作。こんな朝から2人そろって、一体何の用があってきたんだよ?」
小夜狐の正体をここで説明するのも面倒なので、とりあえず那美に彼女のことを任せておいた。その間に、彰は家を訪ねてきた理由を優作に尋ねてみることにした。
「何って、特に用事なんて無くても来てたじゃん。それに昨日『明日ならいいか』って聞いたら、勝手にしろって言ったし」
「そりゃそうだけどよ……。てか、そんな言葉通りに意味取るなよ。せめて事前に連絡とかしろ」
「チッチッチッ……。今更俺たちの間に、言葉なんて必要ないだろ?」
「言葉は無くても、せめて相手への配慮の心は持とうや」
「まっ、今日パーティをするにはちょうどいいんじゃないのか?」
「パーティ?」
優作は手に持っていた袋を高く掲げ、彰の家にやってきた目的を発表する。
「獣耳を持った女の子を歓迎するそうめんパーティだよ」




