サービスショットとか求めてねえ!! ~夏休み1日目-1~
身体の右側に朝日が当たり、彰の瞼は自然に開いていく。目には自室の天上の景色が映り、右側にある窓は開放されており、網戸を抜けてサラサラと夏風が入ってきている。その風を受けてカーテンはスカートのように舞っており、まるで夏休みのはじまりを告げているようだった。
祖父の家には2階部分があり、そこの一室を彰は自分の部屋として使わせてもらっていた。昨日は小夜狐が持ち掛けてきた『かくれんぼ』なる悪趣味なイタズラに巻き込まれ、えらい目にあった。
亜季に小夜狐の存在がばれ、目の前で化けられ、その上彼女との関係を疑われ……。今考えなおしてもめまいがする。弁明しようにも言葉が見つからず、何も取り繕うこともできないまま、現実離れした出来事に頭がショートした亜季をそのまま帰す結果となった。
「ったく……。悪夢かっつうの」
昨日のことを夢であることを願いながら、彰は身体を起こそうとして右手をベッドに付く。その瞬間、ムニュッと何か柔らかいものが手に当たる。今までに触ったことのない、言いようのない柔らかいもの。水風船のようで、捉えどころのない柔らかい物体。
「……んもう、朝からな~に?」
彰はその声を聞いた瞬間、素早く手を離すと共にベッドから転げ落ちながら距離を取る。ベッドからむくりと起きたのは、やはり小夜狐だった。
「なななななななななしておおおおまままええええがががが!!」
「なんでって、あたし達はすでに契られた系でしょ?」
「イミフだよ、契られた系ってなんだよ! って、その前に! なんでお前が俺のベッドで寝とるんじゃ!」
彰はいつもの調子でビシッと指さしながらツッコミを入れると共に、小夜狐に状況説明を求める。ふふっと昨日見せた余裕ある笑顔と共に、彼女は素直に説明し始めた。
「あんた。昨日の『かくれんぼ』で疲れちゃったのか、いくら声かけてもぜ~んぜん反応しなくてさ。だから彰の身体をこの部屋まで運んで、寝かせて上げたんだから」
「誰のせいで疲れたとおもっとるんじゃ!」
「ひどいなあ、華奢な身体で2階まであんたを運んだ女の子に『ありがとう』も言えないの?」
小夜狐の発言は挑発的ながら正論であり、彰は二の句が継げなかった。とりあえず、自室まで運んでもらったことに関しては謝意を告げておいた。お礼を告げられてえっへん、と胸を張る彼女を見ると、昨日着用していたセーラー服ではなく、ラフなTシャツと青い短パンになっていることに気が付いた。
「なあ、お前。その服は昨日持ってきていたのか? それとも、変化の力とかで服装も変えられるとか。昨日も亜季さんに変化したとき、服装も変わっとったし」
「いいや、これはあんたのやつ借りただけ」
しばらくの沈黙。何も言えない彰を前に、はにかみながら小夜狐は笑顔を見せる。
「彰の、ちょっと大きかった……」
「なんで勝手に着てるんだよ!」
「このクソ暑い時期、あんなセーラー服で寝られるかっちゅうの!」
「だからって、お前、なんで俺の服を」
「源造さんの家に女ものの服なんてあるわけないし、あんたの借りるしかないじゃん。というよりも、女の子に自分の服を着てもらうとか、ちょっとした萌え要素でしょむしろ」
「自分からアピールするな、そんなこと!」
「まあまあ、いいじゃない。あたしが着替えていたお陰で、朝からおいしい体験できたでしょ? Tシャツ越しだと、制服よりも感触を楽しめたんじゃない?」
小夜狐は雑誌に載っているグラビアアイドルのように、胸の間に自分の指をはわせていく。その動作だけで彰の手に先ほどの感触がよみがえり、一気に顔が熱くなっていく。その様子を見た小夜狐は、まるで年下の男の子でも見つけたように、大人ぶった顔で彰に近づいてくる。
「ふふっ、彰ってかわいいところあるのね」
「う、うるせえ! ってかお前、昨日は尻尾触られただけで俺のこと変態スケベとか言うとったのに、胸は触られていいのかよ?」
「耳と尻尾を触られるのは妖狐にとって、恥ずかしいとかそういうレベルじゃないの。力の源であり弱点でもあるから、人間でいうと胸とかお尻触られるよりも嫌なのよ。……それに、せっかく人間の姿になったのに、こんな耳と尻尾なんて、彰に見られたくないじゃない」
「知らねぇよ、お前の恥じらいのさじ加減!!」
「まあ、その代わりじゃないけど。この完璧なヒューマン・ボディはいくらでも堪能してくれていいのよ。どんな男でも悩殺できる痩せすぎず、付き過ぎずを目指したんだけど、どう?」
小夜狐はそう言いながら、徐に着ていたTシャツの裾をめくりあげようとする。彰は瞬時に立ち上がってその手をハシッと取り、腹から上の部分が露わになりそうなところで寸止めする。
「……なに、ここからがいいところなのに」
「バカ、ってかバカかお前。脱ぐとか色々とアウトだから」
「大丈夫よ、どうせ聖なる青い炎があたしの大事な部分をー」
「ただの狐火だろ! どこぞの聖なるアイテムみたいに言うな!」
キーキー叫ぶ彰に、そっと顔を近づける小夜狐。ふわっと鼻腔を付く薫りにツッコミが遅れ、まるでその隙を突くように彼女は彰の耳元に口を近づける。彼女の吐息が耳に触れ、身体がぞわっとするのを覚える。
「匂い、嗅いでも怒らないから」
言葉が耳に流れ込んだ瞬間、一気に顔が沸騰して耳たぶが落ちそうになる。カサカサと虫のように手足を動かしながら後退したため、後ろにあった洋服ケースに背中を思い切りぶつけた上にこけてしまう。あまりの勢いだったのか、ケース上に置いてあった写真立てが落ちてきて、彰の頭にこつんとぶつかる。
「もう、意外に女慣れしていないわよねえ……。あたしが修行している最中に浮気してたクセに」
「……お前、絶対にワザとやっただろ?」
「さあね」
そう言った瞬間に見せた不敵な笑み、それがすべての答えだ。挑戦状と取った彰が目をギラギラさせると、1階からインターホンの音が鳴り響いてきた。




