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小夜狐さんはいろいろズレている~最凶にして最愛の許嫁?~  作者: 藤咲 流
俺の初恋を「かくれんぼ」に託せというのか
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伝統ある『かくれんぼ』で決着を!! ~夏休み前日-9~

 小夜狐の発言に表情が崩れるどころか、彰はギャグ漫画のように身体がずっこけてフローリングに頭をぶつける。彼女はドヤ顔をしていたが、彰の様子を見て不思議そう顔つきになる。



「なに、これは妖狐に伝わる由緒正しき決闘スタイルよ」



「かくれんぼで決めるって、お前はこの期に及んで何を言っとるんだ!」



「いいじゃない、血なまぐさい戦闘とかじゃなくて。それに、あたしと殺り合って勝てると思う?」



 小夜狐は先ほど召喚した細い狐と火の玉を見せつけてくる。たしかに、何の力もない彰が彼女と正面から戦ったとして勝てる見込みはまずない。その点を考えれば「かくれんぼ」のほうが勝算はある。しかし、だからといってこの不毛な論争のためにかくれんぼをすると思うと、面倒といえば面倒だ。



「はあ……。かくれんぼをしたら、お前は納得してくれるんだな?」



「納得? なにを生ぬるいことを」



「なんだよ、かくれんぼで勝ったほうが負けたほうの言うことを聞く。そんなところだろ?」



「甘いわ、あきら」



 小夜狐は手に持っていたiPhoneを彰に向けて放り投げる。立ち上がって慌てながらキャッチをすると、彰の顔の前にズイと彼女が近づいてくる。



「『かくれんぼ』はお互いの主張を賭けた戦い。勝負に負けたものに納得なんてないわよ、勝者への絶対的服従。勝者の主張がどれだけ無理難題でも、敗者にはそれを拒むことも意見することも、そして反故することだってできない。それが妖狐に伝わる『かくれんぼ』の鉄の掟」



 余りの迫力に、彰はつい生唾を飲んでしまう。子供のころに誰でもやったことがあるお遊戯。そのはずなのに、小夜狐の目にふざけた様子は一切見られない。彰は後ずさりをしてしまい、後ろにあったソファに気付けずにつまずいてしまい、身体がソファに包まれていく。



「なんだよ、そんなマジになって……。小さい頃の約束だろ! そんな主張を俺に認めさせるために、そんな伝統に則って勝負しようなんてー」



「……あたしは、マジなんだよ」



「えっ……」



「あんたがあの日、あの時、どういう気持ちであたしに『結婚しよう』なんて言ったのかはわからない。小さいころの約束だから、あんたが覚えている確証だって正直無かったよ」



 覚えている確証無かったんかい、と心の中で突っ込んでしまう。しかし、小夜狐の表情は徐々に険しくなるどころか、今にも砕けてしまいそうな脆い顔つきになっている。



「でも、あたしにとってはかけがいのないことで、あんたのあの時の言葉を思い出す度に心が温かくなる言葉だったんだよ。自分の身体を人間にしちゃうぐらい、マジなことなんだよ!」



 小夜狐の顔に嘘はない、それだけは彰にもわかった。彼女は一心に彰のことを思い、そのためだけに今日を迎えた。耳や尻尾は残っているのに、それでも「嫁」となるため小夜狐は祖父の家に戻って来たのだ。



 その不器用ながら一心に誰かを思う気持ちは、彰の持つ亜季への思いと近しいものを感じた。自分だって亜季に対してはマジだ、誰が何と言おうと。そんな思いを抱いているせいか、小夜狐の今の顔は、先ほどまで告白に失敗した自分の顔を見ているような気分だった。



 しかし、決定的に違うことがある。それは行動の有無だ。小夜狐は一心不乱に修行をしていたのに、彰は会えない現実から目を逸らし続けていた。その上、偶然再会できたにも関わらず勇気を持てず何もできなかった。


 そんな自分と決別するためにも、ここできちんと小夜狐の気持ちに応えるべきではないだろうか。彼女に対して、自分も本気で勝負に挑むのが礼儀ではないだろうか。



 これは、お互いの「初恋」を掛けた譲れない勝負なのだ!



「わかった。お前がそこまで言うんなら、かくれんぼをしてやろうじゃないか!」



 彰はグッと右手に力を入れ、小夜狐に向かって拳を付き出す。宣戦布告のはずなのに、小夜狐はフフッと楽しそうな笑みを浮かべる。



「あきら、やっと昔みたいな顔になったね」



「昔みたいな顔って。今からかくれんぼするせいじゃないか?」



「あらあら、えらく余裕をかましてるわね」



「真剣勝負に変わりはないが、かくれんぼだろ?」



「残念だけど、彰の考えている『かくれんぼ』とは違うかもね」



 小夜狐はそう言いながら手で印を結び、コンと叫ぶ。その瞬間に彼女からポンという音が鳴り、同時に煙が立ち込めてくる。煙が無くなると小夜狐の姿はなく、代わりに1匹のミケネコが佇んでいた。



「……小夜狐?」



「なに?」



 ミケネコから小夜狐の声が発せられるので、思わず彰はおわっと叫んでしまう。ミケネコになった小夜狐はコロコロと笑いながら話し始める。



「妖狐が行う『かくれんぼ』は、お互いの化かし合い。特定の場所でお互いに化け合って、先に相手の変化を見破ったほうが勝ち」



「待てよ、俺は変化なんてできないぞ」



「だから、今回は変則ルール。かくれる場所は家の中と、それを囲む塀の周辺だけに範囲を限定してかくれんぼを行うわ」



「おいおい、それでもお前のほうが有利じゃないか?」



「あたしはただ見つからないように変化するだけで、攻められないのよ。で、ずっと探し続けられても困るから、今回は時間制にしましょ。ちょうど今から日没まであと1時間ぐらいだから。タイムリミットは日没までってことで」



 窓から見える街並みは夕日色に染まりつつあり、時計を見ると19時までちょうど1時間というところになっていた。



「その間にあたしを見つければ、あんたの勝ち。反対に日が完全に暮れるまでに見つけられないと、あんたの負け。どう、これだと人間の『かくれんぼ』っぽくない?」



 確かに、ルールは彰の知るかくれんぼっぽくなった。要は、自分は鬼となって時間内に小夜狐を見つければいいのだ。しかし、対戦相手はかくれるプロ、もとい変化のプロ。先ほども人間の姿から完全なミケネコに変化して見せた。そんな完全な変化ができる妖狐相手に活路なんてあるのだろうか。



「それじゃ、ルールはこれでいい?」



「……変化先のヒントは?」



「あくまでこれは、お互いの化かし合いよ。どうにかしてあたしの変化を見抜き、自分の主張を勝ち取ってみなさいよ」



「くそっ……。ヒントなしかよ」



「そうじゃないと面白味がないでしょ。それじゃ、お互いに相手に望むことの確認。私が勝てば嫁として認めてもらってこの家に住むわ。あんたはどうする?」



 ミケネコ状態の小夜狐が彰の望みを聞いてくる。彰はしばらく考えた後、ネコに向かって堂々と宣言する。



「俺は、自分の好きな人に告白する権利をもらう」

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