男のロマンと狐女が一緒になった夢とかカオスでしかない!! ~夏休み前日0~
絵はルクセン様という方からいただきました。それでは、本編へGO~
「あきらくん」
俺は自分の名前を呼ばれてハッと辺りを見渡す。周りは色あせた写真のように色が抜けているも、祖父である源造家の庭先だとすぐにわかった。リビング窓から出た先に作られている小さな縁側に自分は腰かけており、声の方を見ると幼馴染の竜胆亜季の姿があった。
竜胆亜季、俺が密かに思いを寄せている女の子。
小学生の頃、祖父の家でよく一緒に遊んでいた彼女。そんな彼女と進学した高校で再会してからも、俺はよくこの風景を見るとまた夢だな、とわかるぐらい同じ内容のものを見ている。小さい頃の亜季との記憶はまるでDVDに記録されているように正確で、ずっと続けばいいなと夢を見る度に思ってしまう。
ーあきらくん、次は何する?
次々に展開されるお遊戯を亜季と堪能する中、俺が新しい遊びを提案しようとした瞬間。亜季の頭からぴょこりと獣の耳が飛び出した。夢とはいえ、一体何の遊びだ? 俺は夢の中で首をかしげるも、気になってその耳を触ろうとする。
ーや~め~て~よ。耳はあきらくんでもさわってほしくないの。
亜季の言葉であろうと、夢の中の腕白な男子小学生の好奇心は抑えきれない。何としてもその耳を触りたい俺は、嫌がる亜季を余所に触ろうとトライし続ける。阻まれるほどに燃える、これが男というものじゃないか。
ーねえ、止めてよ……。ほんとに、ダメなんだから。
よく見るアダルトな動画の影響だろうか。夢の中の亜季は小学生のはずなのに、どこか色っぽい声で俺の手を阻もうとする。いや、彼女のことは決してそんな目で見ている訳ではない。ただ、女の子にそういう気持ちを抱くことも男としては正常と言いますか、というか好きな子には願望を抱くもんだろ!
どうせ夢だ、と思い俺はぐんぐん獣耳に向かって手を伸ばしていく。しかし、突然チリチリと獣耳の辺りから熱を感じる。咄嗟に手を引っ込めると同時に亜季の姿を確認すると、見知らぬ女の子に姿が変わっていた。
その女の子は白色に近い銀髪で、色あせた景色の中で青色の炎を携えていた。
ーだから、獣耳は触るなって言ってんでしょ!!
女の子の叫び声と共に、俺の身体が何かに縛れてしまう。手足や身体を見てみると、どうやら俺は十字架に貼り付けにされてしまい、いつの間にか上半身の服も脱がされていた。露わになった腹にはダーツのような的が描かれており、亜季から変化した銀髪の女の子は狐のお面をかぶり、弓を手に持っている。
ー女の子に無茶しようとしたあんたに、罰ゲーム♪
女の子は俺と同じ高校生ぐらいに成長しており、その声も亜季とは全く違うものに変化している。仮面で表情こそわからないが、その下ではニタニタとこの状況を楽しんでいることだけはわかる。彼女のことなんて何もしらないが、絶対に悪趣味な笑顔を隠していることはその声が物語っている。
ー今からあきらくんには、狐火の刑を受けてもらいま~す。
何のためらいもなく女の子が弦を引くと、ボウッと青い矢が浮かんでくる。俺の背中は冷や汗がダラダラと流れ出し、もがいてみせるが一向に逃れられる気配がない。
ーそれじゃ、これからのあたし達の関係を祝して。いっきま~す♪
「祝すも何も、こんな罰ゲームあるかあああああ!!」
シュッと青い炎の矢が放たれた瞬間、俺は叫びながら目を覚ました。起きた場所は自室のベッド上で、どこか辺鄙な場所に飛ばされているような奇々怪々な展開はなかった。大きく息を付くも、背中の冷や汗は夢と同様でぐっしょりだった。
「なんだったんだよ、あのカオスな夢……」
今日は夏休み前の補習最終日。亜季との仲を進展させるパーフェクトな計画を実行する日。その日に夢で亜季と会えるという吉兆まであったのに、最後のほうは不安しかない展開である。
「でも、今日しかないんだ!! この日を逃せば次はないぞ、明星彰!!」
俺は一人だけで暮らす源造宅にて、家全体に響き渡る声で朝から吠えて見せた。しかし、今日みた夢が自分の運命に大きく関係していることを、このときの俺はまだ知らなかった。