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06.月夜の使者ノーブル仮面、白昼堂々見参!

 モニカを攫った海賊団の潜伏する海賊船で、騒ぎが起きていた。


「お頭! マストに女の子が!」

「メインマストのてっぺんに、何だか頭の軽そうなちんちくりんの人影がッ!」

「なァ~にィ~?」


 「お頭」と呼ばれた海賊の船長がメインマストを見上げると、確かにそれらしき人影があった。

 背の低い身軽そうな細身の人物。物腰からして女性のようだが……今日び落ち目のサーカス劇団員でも敬遠しそうな、時代遅れのセンスの仮面をつけている。


「だーれがちんちくりんよッ!

 あんた達がモニカちゃんをさらったあくどい連中だって情報ネタは上がってんのよ!

 しかも聞けば、あちこちで他にも子供を攫って売り飛ばしてるそうじゃない!

 このシレトゥクで、人身売買が違法なのを知らないとか……さてはモグリね! あんた達!」


 念のため、解説しておくと……この仮面の少女の正体は忍者セニアである。


「そーはさせないわ! この月夜の使者『ノーブル仮面』が!

 お前たち海賊の邪悪な野望、断固阻止してみせるッ!」


 ビシッと決めポーズを取る「ノーブル仮面」。

 グラグラ揺れるマストの頂上で、全くバランスを崩さない体術だけ見ても、並の使い手ではない事は見て取れるのだが……その異様さに海賊たちの誰一人、正しく状況を判断できた者はいなかった。


「……つーか、今はまだ昼過ぎだぞ? なんで月夜?」

「早く降りた方がいいぞ? そんな所から落ちたら危ないから」

「うっがー! 海の男のクセに細かい事気にしたり、一丁前に敵を気遣うんじゃなーいっ!

 こーなったら、あたしの本当の実力を見せつけてやるんだからっ!」


 頭をかきむしった後「ノーブル仮面」は……咳払いを一つすると、華麗に跳躍!

 優に10メートルはあるメインマストから、猫のように軽やかに甲板に着地。海賊たちから「おおーっ!」と喝采が上がった。


 刹那、セニアは懐から棒状の飛苦無を取り出し──それらは稲妻の如く閃いた!

 周囲にいた海賊4人の首筋に突き刺さり、派手に血しぶきを上げる。


「あいっでええええ!?」

「ギャアアア! 血が、動脈がァァァァ!?」


 悲鳴と共に、甲板上を無様に転がる海賊たち。

 セニア──もとい「ノーブル仮面」は満足げに肉食獣の笑みを浮かべた。そこに年相応の幼い愛らしさはない。


「──外道屠るべし。慈悲はないわッ!」


「この……子供だと思って気遣ってやれば調子に乗りやがって!」

「囲め! 大人数で囲め! 油断するな! 妙な体術を使うぞこのガキ!」


 海賊たちは放心状態から早くも我に返り、目の前の女忍者を脅威と判断して臨戦態勢に入った。


「さすがーっ! セニアーっ! かっこいいー! 大好きだーっ!!」


 ……が。剣呑な雰囲気の中、一人無邪気に歓声を上げる──フリフリのメイド服を着た女侍(中身は男)が一人。ジンだ。

 いつの間にか海賊たちに紛れて、嬉しそうに手を振っている。声を上げるまで誰一人として気づかなかった。


「って、ジンあんたねえ! 何あたしの正体いきなりバラしてんのよ! 空気読みなさいよ!

 あたしがイザリ家の人間で、大っぴらに名前明かして暴れたら問題だから、恥を忍んでこんな格好してるのにっ!」


 仮面で見えないが、明らかに赤面している様子で絶叫する「ノーブル仮面」ことセニア。

 恥を忍んでいた割には、登場時の前口上がノリノリだった件には誰も触れない。


「っていうか仮面で顔隠してるのにっ! どうして即分かっちゃうわけ!?」


 完全に素性を自分の口から白状している以上、全ては無駄な努力に終わった。

 ジンのここぞという時の、呆れ返るほどの空気の読めなさを考慮に入れなかったセニアの敗因だった。何しろ声でバレる──


「仮面つけてても分かるよ! だってその凹凸の無い美しい体型! セニア以外に考えられないっ!」

「てめぇマジで喧嘩売ってんのかおどりゃー!!

 つーかあんたあたしの事、どこで識別してんのよっ!?

 この変態どMストーカー野郎ぉーッ!?」

「いやぁ、照れるからそんなに褒めないでよセニア」

「褒めてねーよ! 『褒める』の意味、辞書で引いてこいボケェ!?」


 セニアの全力の罵詈雑言を受けて、ジンは恍惚としておりむしろご満悦だ。

 ジンの変態性がものの数十秒で、その場の海賊全員に知れ渡った。

 屈強な海の男たちが異様な雰囲気を恐れ、無意識に浮足立っている──!


「あと素性バレなら心配いらない! この場にいる海賊どもを皆殺しにして口封じすれば解決さー!」

「確かにそーかもしれないけど、サラッとこっちもドン引きする解決法、朗らかに叫ぶなーッ!?」


 普段はヒエラルキー最底辺で、セニアに足蹴にされているイメージしかない侍・ジンであるが。

 事ここに至っては洒落にならない発言である。彼はセニアを守る為なら──本当に「やりかねない」のだ。


「くそッ。なんでこっちの狙いが、こうも早く知れ渡ってやがる?

 話が違うじゃねえかよッ!」

「だが、相手は女二人だ! あの『テオ』とかいう奴は来てねえ! かかれッ」


 海賊たちの一人が、腰の舶刀カトラスを引き抜き、女侍姿のジンに素早く襲い掛かった。

 男の持つ刃がジンの胸を突き刺した──と思った矢先。


 ぎんっ、という鋭い音が鳴り、賊の舶刀カトラスは宙を舞った。

 いつの間に抜き放たれたのか。ジンは妖しい輝きを放つ大刀を手にし、瞬時に男の武器を切り払ったのだ。

 呆気に取られている男に、ジンは素早く踏み込む。

 鈍い音と同時に、賊は情けない悲鳴を上げて地面に転がり、のたうち回った。


「うっぎゃああああッ、俺の腕がぁぁぁッッ」

「大の男が、腕の一本くらいで騒ぎすぎです。命に別状はないですよ」


(……ジンってば、こーゆー時は本当クールなのよね……

 やっぱり普段からセニアに痛い目に遭わされ続けてるからかしら……)


 遠目で二人の様子を伺いながら、魔法剣士リコルはこっそり船倉へと侵入しようとしていた。

 セニアとジンの派手な陽動で、海賊たちの注意を引き──その隙に囚われているモニカの下へリコルが救出に向かう作戦だ。


 物音ひとつ立てないリコルに誰も気づかなかった。彼女に忍者のような潜伏技術はない。だが魔法剣士として扱う事のできる精霊魔法──《沈黙》を自分にかけ、周囲の音を掻き消しているのだ。本来なら敵の魔法を封じるために使う術を逆手に取ったのである。


 少々打ち合わせと違う事態になったが、当初の目論見通りに事が運び、リコルはほくそ笑んで船内へと消えた。


(つづく)

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