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04.リコルの精神感応→追跡へ!

 嵐のような人ごみが消え去って後、モニカ・バスカールもまた、消えた。

 その場に残されたのは、大仰な装丁の本「テオ語録」のみ。著者の名前は「バンパイアロード」とある。有名な吸血鬼の王の名だが、明らかに偽名だろう。


「モニカ! モニカちゃん! どこに行ったの?」

 リコルは魚市場で声を張り上げたが、金髪の女の子の姿は見えなかった。


「ものの見事にはぐれちゃったわね。……もう帰っちゃったとかじゃ?」


 セニアが能天気な考えを口にしたが、リコルは首を振った。


「仮にそうだったとしても、この本を……置いてっちゃうなんて事、あると思う?

 あれだけ大事そうに抱えていたのに!」

「……ま、そりゃそうよねー」

「だから、探さなきゃ! ジン、起きて! モニカを見つけないと!」


 リコルは未だにガニ股で地べたに這いつくばったままのジンに声をかけつつ──地面に転がった「テオ語録」を手に取った。


 とくん。

「!?」

 リコルの手が本に触れた途端、奇怪な感覚が頭の中に、一瞬だけ伝わった。

 まるで生きた人間の心臓に触れたかのような……脈動。


「……どしたの? リコル」

 異変に気づき、セニアは心配そうにリコルの顔を覗き込んだ。


「………………っ」

 我に返ったリコルは、ひょっとしたら──と一縷の望みを託し、モニカの残した「テオ語録」を抱きしめた。


 とくん。

「!」まただ。謎の脈動が再びリコルの心に響いた。

 だが段々分かってきた。この脈動は『物質』に宿りし、意識の波長であるという事に。


 リコルは槍が好きだ。自他共に認めるほど好きすぎるぐらい好きで、冒険者の数ある職業の中でも、竜槍を扱える「魔法剣士」を選んだぐらいである。


 槍好きが高じたリコル自身、竜槍ドラグニルに対し愛情にも似た情熱を注ぎ込み愛用していたのと同様に。

 この「テオ語録」もまた、所有者であるモニカの愛情が込められている。それがリコルには伝わったのだ。


 リコルがイザリ家に一週間閉じ篭もっていたのは、何も敵から身を守るためだけではなかった。彼女の精神感応能力は、その内ありとあらゆる人間の感情が、その心の中に流れ込む結果になるという。大勢の人間や物質の『感情』を、たった一人のちっぽけな精神で抱えきる事はできない……そのため、かつてジンも行っていたという「心を閉ざす」ための術の訓練をしていたのだった。


 だが今は、その力が必要だ。

(お願い『テオ語録』。正直あなたの事は気に入らないけれど、今はモニカちゃんを助けたいの。力を……貸して)

 リコルの念じる心が「テオ語録」に流れ込むと同時に、数秒間の光景……恐らく「テオ語録」に宿った所有者の情報……が、頭の中に飛び込んできた。


* * * * * * * *


 喧騒の最中。モニカを無理矢理に引っつかむ男の姿。二人組だった。

 背中にロープでぐるぐる巻きにした荷物を背負い、日に焼けた肌を持つ屈強の男たち。彼らは……魚市場で最初に「テオ」について騒ぎ出したあの二人だ!

 モニカが必死になって離すまいとした「テオ語録」が、虚しく地面に転がされるのと同時に、その光景は暗転し、途切れた。同時に凄まじい衝撃が、リコルの頭を貫く。


* * * * * * * *


「ぐッ…………!?」激痛に思わずうめき、リコルは膝をついた。


「リコル! 大丈夫!?」

 ただならぬ様子に事態を察したのか、セニアが駆け寄って彼女の背中を支える。


「う、うん……ありがとう、セニア。平気だから」

 リコルは弱々しく微笑みながら、どうにか体勢を立て直した。


 もう少し早く気づくべきだった。

 「テオ語録」とやらは西方では有名なのかもしれない。だがこの港町シレトゥクにすでに出回っていて、町の人々にも浸透しているほどであれば、とっくにリコル達の耳に入っていて然るべきだったのだ。


「モニカちゃんをさらった連中。魚市場にいて、最初にテオについての噂話を広げ始めた二人組の男よ。そして奴らが……大体どこにいるのかも今、分かったわ」


 リコル達は、モニカ誘拐犯の居場所を捜索することにした。

 モニカ自身、父親の目を盗んでお忍びで町に出たと話していた。そんな時に誘拐されてしまったとなれば……間接的にしろ、リコル達にも責任の一端はあるのかもしれない。


「それに……ずっと屋敷に篭りっぱなしで、外に出たいって。あたし達にとっても他人事じゃないものね」


 セニアのぽつりと漏らした言葉に、リコルもジンも深く頷いた。

 さすがに一週間、イザリ家の缶詰だった直後だと身に染みる。何よりモニカの身に何かあれば、仮に助かったとしても今度こそ厳しく外出禁止にされかねない。


「助け出さなくちゃ……あの子を!」


(つづく)

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