第一話 そこは1941年12月4日
低気圧の中を抜けると、急にGPSシステムを利用している機械がすべて使えなくなり、現在地が不明になってしまった。
これは、艦隊のすべての艦に同時に起こった。
「船務長、急にGPSシステムが作動しなくなりました。その為、本艦の正確な現在位置不明です。」
「急に何が起きた、本艦が嵐の中で避雷したという事は無いのか。いや、避雷ごときでシステムに異常が起きるという可能性は低いな。
現在は、戦闘中でもない。新手の攻撃方法なのか。
他に何か原因は、無いのか。」
「それが、現在要因を調査中なのですが、一つだけ可能性があります。GPSシステムの衛星のすべてが何者かに攻撃を受けたという可能性しか分かりません。」
「まさか、その可能性はないだろう。そんなバカな事おこるわけがない。その数の衛生を同時に破壊する事など不可能だろ。いくら、中国の宇宙軍が巨大化したとはいえ、そのような力は、無いはずだ。とにかく、早急に原因を特定しろ。
俺は艦長室に行き艦長と話してくる。」
船務長は、この事は自分の手に余ると考え、艦長に判断を仰ぐため、艦内をできる限り急いで移動した。船務長は、艦長室に入り、報告を行った。
「艦長、現在我が艦及び、我が艦隊は、全艦にGPSシステムに異常が発生しております。その為本艦の現在位置は、詳しくは不明です。おおよそは、最後の記録から計算するに、我々の攻略目標である本島から180km付近の水域と推定されます。原因は調査中です。」
「航海長、人員はいくらか使っても構わない。早急に問題を解決するように。」
各艦で必死の原因特定作業が行われたが、結局何故すべてのGPSシステムが使用不能になったのかは分からなかった。
さらに、GPSシステムの問題で発覚が遅れたが、通信衛星のすべてがロストしている事が分かった。それだけでなく、低気圧から迂回して飛んでいたP1-B早期警戒管制機からの情報もなくなっていた。
「艦長、意見具申。
我々は、現在謎の障害に見舞われています。これは、明らかに敵の攻撃だと私は思います。
これから敵の攻撃を避ける為、レーダーに火を入れ、現在我が艦隊を先行している前衛艦隊に報告を入れる必要があると思います。
更に、偵察機と早期警戒機を上げるべきだと思います。」
「船務長、私もその必要があるとおもう。艦隊司令に確認を取り次第行えるように各艦と空母の航空隊に伝えておいてくれ。」
「了解しました。」
旗艦から命令を受けた空母さぬきは、無人機偵察機のN2とF3-D早期警戒機とその護衛のF3-Cが沖縄本島があるであろう方角に飛ばした。空母いよからE3-E電子戦機とその護衛のF3-Cが発艦した。更に、艦隊を守る為の防空部隊がさぬき型空母の空母あわと空母とさの二艦からF3-C一個飛行小隊の四機が発艦した。
早期警戒機を上げたが、中国軍機の反応は全く無かった。
偵察機からの情報では占領したはずの中国軍は存在していなかった。それどころか、破壊されたはずの国防軍基地も存在していなかった。味方の前衛艦隊すら見つからなかったのだ。
本土に向けて偵察機を飛ばすと、そこに写ったのは確かに日本ではあるが日本では無かった。発展した工業地帯も、高層ビル郡も無かった。
この艦隊は、どうすることも出来ず仕方なく本土に戻る事を決めた。日本国防軍艦隊は、本土を目指し一番遅い陸自が乗るフェリーに合わせて25ノットで進んだ。
この海上自衛隊の主力艦隊は、日本のレーダーに捉えられた事を気づいていた。
更に、無人偵察機N2のによって撮影された情報によると旧日本軍の艦隊が山口県の岩国湾から出撃したという事が分かった。
旧日本海軍の軍艦がいるという事は昭和という事だ。そして、この艦隊は何かしらの原因でタイムスリップしてしまったという事が分かった。
このタイムスリップしたという事実は、すぐに艦隊の各艦に通達された。しかし、誰もどうする事も出来なかった。
このままでは、旧日本海軍との戦闘になる事を危惧し、無線で呼び掛ける事が決定した。
日本海軍はパニックに陥ってしまった。本土の近くに大艦隊がいきなり現れたのだ。日本軍は直ぐに航空機による偵察を行い、事実かどうか確認をした。
偵察を行った部隊からの情報によって50隻以上の艦船がいることが分かった。
この時、日本の連合艦隊直轄部隊と主力第一艦隊は12月2日に「ニイタカヤマノボレ1208」の暗号無電を打電し、12月8日に真珠湾攻撃をした部隊の退却を支援する為の出撃に備え、山口県岩国湾に停泊していた。
この情報を受けた連合艦隊司令部は、急遽連合艦隊旗艦長門と共に第一戦隊を形成する陸奥、第一艦隊の日向、伊勢、扶桑、山城、空母「瑞鳳」「鳳翔」、他巡洋艦7隻、駆逐艦28隻を出撃させた。
連合艦隊司令長官である山本五十六も旗艦長門に乗り、自ら出撃した。
山本五十六連合艦隊司令長官は、参謀長である宇垣纏に聞た。
「いったい、何で艦隊に気がつかなかったのかね。」
「その‥………」
彼に答えられるはずがなかったのだが、それはあとになるまで誰も分からなかった。
突如この時代に現れた艦隊に気が付くというのは無理があった。
「そのような大艦隊に気が付く事が出来ないというのはね。
アメリカと戦う前から負けたようなものではないかね参謀長! 」
「決してそのようなことは」
「初めから勝てるとは、思っていなかったが…こうも攻められるとはね」
「司令、まだ負けたわけでありません」
そこに通信兵の一人が艦橋に走り込んできた。
「失礼します、敵艦隊が無線でこちらに呼び掛けてきております。どういたしましょう。」
「敵は無線でなんと言っているんだ」
「敵は、『我々は日本国海上自衛隊。大日本帝国海軍との交戦を望まない。』と繰り返しています。」
「長官、やつらはふざけております。 そのような大艦隊を率い攻めておきながら、戦う気が無いと言うのは。」
「そう慌てるな参謀長。参謀長が慌てるというのはみっともないぞ。確かに彼らは空母を持ちながら未だに攻撃を行っていない。この距離ならば確実に攻撃する事が出来るはずだ。
至急、全員集めてくれ。」
連合艦隊司令部の面々が旗艦長門の会議室に集まり、この事態をどうするべきなのかが話し会われた。だが、良い案が出るわけも無く時間だけが過ぎていった。
「失礼します」
「君、人を入れるなと言っただろう。入って来るな」
「すいません、けれど、敵からの無線の内容が変わりました。その事を報告する為に参りました。」
「まぁいい」
「敵はなんと言ってきてるんだ。」
「はい、敵は『私はこの艦隊の司令である川上だ。あなた方の艦隊が本当に大日本帝国海軍の艦隊であるならば、連合艦隊司令長官とお話しがしたい。』と言っています。」
「分かった。話をしてみようじゃないか。」
「長官、自らそのような事を行う必要はありません。」
「ここは、彼らが何をしようとしているのか見極め必要がある。それに本当に敵であるならば、陸軍にも頼んでも出撃してもらわないといけない。
とりあえず、私が話してみよう。」
そう言うと、山本長官は、幕僚を率いて無線室へ入っていった。
「私が連合艦隊司令長官の山本だ。まず、君達は何者だ。そして何の目的があって攻めてきた。」
「私は、この艦隊の司令官である川上翔一等海将です。よろしく山本長官。そのように疑問を持たれることは最もです。その質問の前にこちらから二点質問をさせて貰ってもいいですか。」
「分かった。先に質問に答えよう。」
「では、ひとつ目、今日は何年の何月何日です?」
「1941年12月4日に決まっているじゃないか。」
「ということは、既にニイタカヤマノボレの命令は出してしまわれたという事ですね。」
「何故、それを知っている。」
「すいません長官、説明がなく。多分、我々はあなた方の未来から来た艦隊です。なぜこのような事が起きたのか我々にも分かっておりません。ですが、過去の日本軍と戦うつもりはありません。
私は、これから航空機で長門へお邪魔します。詳しい話はそこでお話ししましょう。この無線では機密事項も駄々漏れになってしまいますから。
二つのプロペラのついた航空機4機で行きます。撃墜しないでください。」
無線による話し合いは終わった。日本海軍の長門に乗る参謀たちは、今の事態を全く理解出来なかった。ただ、とんでもない事が起きている事はなんとか分かった。
この時山本長官だけは、嫌な予感がしていた。
最後のところを航空機三機から四機に直しました