その7 お米の種類――救世主伝説・その名は『BL』『SL』
ひとめぼれがササニシキ農家さんの救世主だったというお話をしたので、もう少しこの話題を掘りさげてみましょう。
その6の項でお話した、ササニシキは病気に弱いという特性ですが、おいしいお米の宿命のようなものです。
例にしてたとえるなら、蚊だって赤ちゃんや若い子をわざわざ選んで、かぷっとちゅうちゅうするのといっしょです。
病気のもとだって、どうせならおいしい方のお米にとりついて、エキスをちゅうちゅうしたいよね、と思えばうなずけます。
でも、農家にとってはこれじゃたまらないわ、ということで農薬を減らすためにも改良をおこない、病気につよい品種を生み出していくわけです。
どうせなら安全に好みの味のご飯を食べたいなあ、と思うのは当然の人情ですが、この人情が実はものすごい情熱エネルギーとなって人をつき動かすのですね。
さてここで、品種改良イコール遺伝子操作なんじゃないの? なんだかこわいなあ、と皆さん思われるかもしれませんが、心配ご無用です。
だって、お米の品種改良というのは、かなり地道な作業の繰り返しなのですから。
基本的にお米の品種改良というのは、『交配』つまり受粉作業の繰り返しなのです。
お父さんとなるお米とお母さんになるお米を決めて、受粉させます。
お米がみのったら、それぞれの特徴を引き継いでいるかどうかを調べます。
実ったお米の中からより目的に近いお米を栽培して増やして、増やして、増やして、増やすたびに特徴に変化がないかとか、調べまくって、調べまくって、調べまくって、そうしてやっと、あたらしいお米ができあがるのです。
日曜午後7時から放映されている某アイドルグループも、この作業をおこなって『自分たちのお米』をつくりあげていたことがあるので、覚えているかたもおられるのではないでしょうか?
あの放送のおかげでかなり作業は日の目をみましたが、本当に、地道で実直な作業の繰り返しなんですね。
さて、ササニシキはおいしいお米ですが、病気に弱いため作付面積が減少傾向にあると述べました。
じゃあ、コシヒカリはどうなのかというと、実はこちらも万能選手ではありません。
『いもち病』という稲特有の病気にかかりやすいのです。
コシヒカリは天才的な能力のある、奇跡的なお米です。
あたらしいブランド米の多くにコシヒカリの系統が入っていることからも、安定性のある生産能力と、味に対するズバ抜けた人気の高さがわかります。
ですが当然、子供世代・孫世代の新ブランドのお米よりも、もとからの『コシヒカリ』という品種が好き、という方もたくさんいらっしゃいます。
しかし、唯一、いもち病という病気にかかりやすいという泣きどころがありました。
病気にさえかかりにくかったら……ということで品種改良がなされ、いもち病に強くなったコシヒカリが誕生しました。
それが『コシヒカリBL』です。
BLとは、いもち病抵抗性系統の意味となる『ブラスト・ レジスタンス・ラインズ』の略になります。(Wikipediaより)
(ナニカを期待されてドキドキしていたであろうみなさま、ご期待にそえず申し訳ありません)
ハツシモも『縞葉枯病』という病気にかかりやすい系統のお米です。
この『縞葉枯病』ですが、害虫を媒体としてかかるウィルス性の病気です。
薬剤散布で症状はおさえられますが、窒素成分のあげすぎなどでも、かかりやすさが加速するとされています。
コシヒカリファンの方と同じように、ハツシモのあの味が、風味が、大きな粒感のあるお米が大好きです、手に入るならずっとハツシモを食べ続けたいです、と言ってくださる農家にとって拝みたくなるような、ありがたい消費者の方がたくさんいらっしゃいます。
そうなってくると農家側としては、もしこれで病気にさえ強かったら一等米の評価を受けられるのに、いやいやそうじゃなくても安定して収穫が確保できるのに……と思うのは当然ですね。
そこで開発されたのが『ハツシモSL』です。
SLとは、縞葉枯病抵抗性系統という意味である、『ストライプ レジスタンス ラインズ』の略になります。(Wikipediaより)
現在、県内で生産れているハツシモはこの『ハツシモSL』にきりかわっています。
それじゃ、病気にかかりにくくなったの? どんな感じなの? と聞かれるのは当然なのですが……。
すいません、ごめんなさい、開発者のみなさん。
「こらあかへんわ、○○さんのおたくの田んぼで病気でてまったわ、ウチの田んぼ近いやん、農協さんいって薬もらってこなかんわ!」
(訳=まずいよ、○○のお家の田んぼが病気になったよ、家の田んぼは近いし農協さんにいって農薬買ってこないといけないね)
というワタワタ感がありません、と言えたら良かったのですが、作付しておきながら、実はよくわかりません、というかどこか変わった? というのが率直な感想なのでした……。
でも、ハツシモからハツシモSLにきりかわって、これで病気にかかりにくくなるぞ、という生産側の気持ちのゆとりというか余裕は、はんぱないのです。
とにかく農家にとって、こうした『固定ファンがある有名なブランド米の名前を残して、なおかつ病気や虫につよい特性を付加したお米』はとても助かる、救世主的な存在なのであります。
しかし古くからのハツシモファンの方のうちで、ハツシモSLに切り替わったあとお米の味がなんとなく変化した、という声があがりました。
コシヒカリBLが開発され発売された当初も、おなじような声があったようです。
では生産農家として、毎日ハツシモを食べつづけて、それからハツシモSLに切り替えて食べている身としては、味的にどうなの? といわれれば、それは胸を張ってこう答えます。
「美味しいですよ、なにもかわりません」
多分、食べた時の差というのは、その年その年の特徴の範囲内で収まるレベルだと思います。
話を聞いてしまったからきになって、なんだか違うような気がしてくるのは人としての当然の心理、その感覚の範ちゅう内だと思います。
言われなかったら分からないんだから、味に差はないのです。
『おいしい!』 と思う自分の味覚を信じて、お米をこころゆくまで、お腹いっぱい、味わい尽くしてください。
コシヒカリBLのWikipedia
http://search.yahoo.co.jp/search;_ylt=A7dPifmgSkdYx1UAjFPWq_17?p=%E3%81%8A%E7%B1%B3++BL++SL&search.x=1&fr=top_ipd_sa&tid=top_ipd_sa&ei=UTF-8&aq=&oq=&afs=
ハツシモSLのWikipedia
https://ja.m.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%84%E3%82%B7%E3%83%A2