その4 お金のはなし――ちりもつもってボディブロー
その3の項は出費モンスターである農機具のお話でしたが、今回は別の出費、細かく細かく、『塵も積もれば山となる』的な出費についてお話したいとおもいます。
お米を育てるために最初にしなくてはならないこととは田おこし、つまり田んぼの土を撹拌する作業です。
この作業にはトラクターを使います。
なぜ田おこしが必要なのかといいますと、次の田植えの行程の前に、代掻きのためです。
つまり田んぼに水を入れてどろどろ状態にしてあげて、苗を植えやすくする前準備というわけですね。
それだけではなく、田おこしを怠るとすぐに雑草やヒエやアワが生えてきて、土が傷んで弱くしまうのですね。
なので稲刈りから翌年の田植えまでの間に、2回ほど田おこしを行わねばなりません。
田おこしと代掻き、どちらもトラクターを動かすには当然、燃料が必要になりますね。
たいていはディーゼルエンジンですので軽油になりますが、これの出費がばかになりません。
田おこしは良いのですが、代掻きは泥田で行うので、トラクターをきれいに洗わなくてはいけませんから、水道代が発生します。
その3の項で『推奨米』というものがある、と軽く紹介しましたが、これは『県をあげて生産と販売を奨励しているお米の銘柄』という意味です。
そして現在、私の住まいである県では、この推奨米にさらに『レンゲ米』という付加価値をつけています。
レンゲとは蓮花、そうです、春になるとピンク色の可愛い花を野原で咲かせる、あのかわいらしいぼんぼりのような花のことです。
蓮花は豆科の植物で、豆科植物の特徴として根っこに窒素成分をためこむ性質があります。
すこしくわしく理科を習ったかたならご存知かもしれませんが、窒素は植物の育成に欠かせない養分です。
おいしいお米が実る手助けするためにも、肥料などで補ってやる必要がありますが、しかし近年は化学肥料よりは自然のものを、という意識の移り変わりがあります。
そこに目をつけたのが、蓮花の有機成分のみで育てたお米という付加価値をつけた『レンゲ米』なのです。
しかし、ほうっておけば蓮花の花が勝手に咲いてくれるわけではありません。
蓮華の種はJAさんから購入します。
それをこう、田んぼの中を歩いて、ぽいぽいぽいぽいとなるべく均等になるように蒔いていくわけなのですね。
まずは、この種の代金がかかってきます。
他県では蓮花の種の代わりに元肥用、田植えの前に田んぼにまく肥料代がかかってくるわけです。
ちなみに十数年前の推奨米は『アイガモ米』といって、合鴨に田んぼの雑草や害虫をとらせる減農薬米でした。
(某アイドルグループも果敢に挑戦していましたので、おぼえていらっしゃる方もおられるのではと思います)
ですが、この「アイガモ米』
あっという間にすたれてしまいました。
なぜかと言いますと、一反につき、おおよそ10羽ほどひなを購入するのですが、育苗途中でネットの囲いをかいくぐったりつきやぶったりして、おそろしく脱走しまくるからです。
逃げて見つからなかったら買い足さないといけない割には、育った後の引き取り業者の少なさと買いたたきにあったからです。
育った合鴨1羽の買い取り値段は、ひな10羽のおおよそ1・2倍から1・5倍、途中の買いたしを考えると農家さんもJAさんも手間ばかりかかり、そうかと言って等級に付加がつくわけでもなく、何の得もなかったので当然かもしれません。
さて、それでは次に苗にかかる代金の内訳をみてみましょう。
現在我が家では、田植えの時期にちょうど良い高さにまで育った苗をJAさんから購入しています。
育苗農家というものが周囲で認識されはじめてきたのは、ここ20年ばかりのことですが、それまでは家で苗箱というものに、育苗に適した土と種もみを蒔いて育てていました。
実家では割と早い段階で苗を購入していたのですが、我が家では数年前まで育苗を行っていました。
育苗に必要なのは、苗箱、土、種もみの三つですが、これらにも当然代金が発生します。
育苗にはまず発芽するまでの間、『発芽機』もしくは『育苗機』という、発芽に適した温度にたもってくれる機械に苗箱をいれます。
当然、電気代がかかってきてこれがばかになりません。
発芽した直後は、もやしのようにひょろひょろとした頼りないものですが、これを畑において水やりを行ううちに、りんとした濃い緑色の苗に成長するのです。
が、やっぱり水道代金が発生します。
我が家の場合は1町分の苗を育てるのに、上水道代金が毎月平均の倍にはねあがりました。
実家では、苗場といって育苗に適した水量のある田んぼで苗を育てていたのですが、そうする際にも温度を保つために、マルチのようなものをしたりミニハウスのような形状にしたりと手間はかかり、家で苗から育てていらっしゃる農家さんではそれらの材料代もかかってきます。
現在の我が家のようにJAさんを通じて育苗農家さんから苗を購入する場合、箱ひとつにつきだいたい800~900円かかります。
JAさんのところに取りに行けば800円前後、田植えをする田んぼに直接配達を頼むと、箱一枚につき100円余分にかかります。
田んぼ一枚につき、苗箱はだいたい15~20箱必要になりますので、我が家の場合ですと最低ラインの15箱で計算したとしても1反につき14,000円ほどかかることになります。
次にいよいよ田植えですね。
田植えを行えば、田植え機の燃料代がかかります。
自宅で苗をつくるにしろ、育苗農家さんから購入するにしろ、苗箱を洗いそして泥まみれの田植え機を洗うのに、またまた水道代金が発生します。
田植えがすめば、季節がらあぜ道などに草が生えてきますので草刈を行いますが、これにも燃料代がかかってきます。
苗が育ち出穂するまでの間に、やはり2回は肥料をまくことになりますし、出穂時期にあわせて農薬散布を行います。
農薬散布は個人で行う場合と仲間うちで行う場合とがありますが、それぞれに出費がかさんでいきます。
ちなみに、広範囲におよぶ田んぼを仲間内で行うときは無人小型ヘリを飛ばします。
(たいていは夏休み期間の早朝に3回行われ、この日はラジオ体操がお休みになるので子供たちはみんな「らっきー♪」と口をそろえます)
稲刈りの季節を迎えればコンバインを動かすための燃料代、そして刈り取ったお米を運ぶためには軽トラックが必需品です。
コンバインも、使用後に丁寧にエアブラシでクズをはらわないと故障の原因になりますので、丁寧に洗浄します。
お米をJAさんの施設、ライスセンターというところで預かってもらい乾燥などの作業をしてもらうのですが、そのための代金も必要になります。
あれやこれやを計算していきますと、苗の代金、肥料や農薬の代金、各種農機具の燃料費、ライスセンターなどJAさんにしはらう代金などで20万ほど、軽くふきとんでいますね。
しかもこれらは、お米の代金が農家に支払われるまえに請求されるものなので、ボーナスから差し引いたり、前年度のお米の収入をそのまま残しておいたりしてやりくりしています。
我が家の収入は1年で80万ほどですが、そのうちのすでに4分の1が必要経費として消えている勘定になっているのでした。
※ 稲作カレンダーとして、わかりやすいHPを参考までに
http://rice.kt.zennoh.or.jp/html/calendar/calendar_main.html