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その13 兼業稲作農家の実態――収入編

 そろそろエッセイらしく、稲作農家の現状について真面目なおはなしをしていきましょう。


 昭和50年代、わたしが小学生だったころ、大卒の初任給はおよそ85,000円、高卒の初任給はおよそ70,000円、平均年収が2,050,000円前後でした。

 価格の優等生と言われる卵が一個換算で23~25円で売られていた当時、お米は10キロ3000円~4000円前後で売られていたようです。

(当然のことながらお米を購入したことがないので、Googleで検索して調べました)



 この当時、お米1俵がいったいいくらでいわゆる『国』に買い取られていたのか、みなさんはご存知でしょうか?

 お米の品種によっても違ってきますが、だいたい1俵で15,000円~20,000円でした。

(これは地域によっても格差が生じますので一概には言えませんし、水害や冷害などの影響を受ければお米の等級も変動し、買取価格も変わってくるのも先述のとおりです)


 ここから見えてくるのは、今、ほぼボランティア活動でかろうじて支えられていると書いた稲作農業が、昭和50年代の当時、立派な『兼業』として成り立っていた、という事実です。

 作付米が『日本晴にほんばれ』から県推奨米の『ハツシモ』に完全移行し始めたのもこの頃であると記憶しているのですが(もしかしたらもう少し早いかもしれませんが)、単純に計算してみましょう。



 日本晴が平均的な1俵15,000円で取引されていたとして、ハツシモは状況により1000~3000円取引価格が上昇しますから、最も高い水準値で18,000円と仮定します

 ハツシモは田んぼ1枚1反あたり、6~7俵の収穫があります。

 18,000円にかけることの7、つまり田んぼ1枚で126,000円の収入になります。


 この頃からはじまった減反政策により、この近辺の兼業農家さんの基本的な作付面積は今もほぼ変わらず4~7反ですので、中間をとって5反としましょう。

 126,000円にかけることの5、つまり630,000円になります。


 年間通して常に仕事に追われる稲作ですが、収穫期を迎えればボーナスといってもよいだけの収入を得られたのです。


 このお米の買取価格は、上昇を続けて昭和60年前後がピークとなるようです。

 実際に子供のころ、お米の収穫を終えたあとで父の機嫌がよかったのはこのあたりまでです。


 そして一転、下落をし始めます。

 現在の買取価格はハツシモでさえ9,000円から12,000円であり、収入は1町田んぼを所有している我が家であっても800、000円そこそこである、と最初の頃のお金のはなしの項で述べさせていただきました。


 今現在の平均的な年収はおおよそ4,200,000円、昭和50年代のおよそ2倍となりました。

 にもかかわらず、お米10キロの店頭販売価格は価格の優等生といわれる卵とおなじく、昭和50年代とほぼ同価格の4000円前後。

 そして政府によるお米の買取価格は、3分の2から半分にまで下落してしまったのです。



 平均的な一等米1俵価格12,000円として計算するとして、1反分イコール12,000円かけることの7で84,000円、そして平均的な兼業農家さんの作付面積5反分は、84,000円かけることの5で420,000円です。


 実はここまで書いてきた1俵あたりの金額には、政府からの数千円の補助金をふくめております。

 補助金については機械の購入や米以外の作物を生産したりでも諸々、申請の決まりがあり変わってきますし、また、毎年のようにかわります。

 農家にとっても難しいので細かいことは省きますが、今年に限っていえば田んぼ一反につき、7,500円の補助金がでています。(正確には、10アールにつき7,500円)

 ハツシモですと、1俵あたり1,000円の補償といえます。

(この『直接支払交付金』は、平成30年から廃止されることが決定しております)



 しかしボーナスもろくにでないような昨今、400,000円以上の儲けがあれば充分なんじゃないか、とみなさんは思われるかもしれません。

 しかし、苗や肥料や農薬、ライスセンターへの代金、農機具を動かすためのガソリンや軽油の代金、農機具が壊れればその修理代、農機具や軽トラック、土地への税金がかかってくるのです。


 ざっくりと半分以上はもっていかれます。

 のこり200,000円とします。


 そして落とし穴があります。

 お気づきでしょうか?

 ここには、農作業に従事した分の給料にあたる金額が換算されていないのです。


 これこそが『農家はボランティアでお米を作付している』と訴えている所以になります。



 農作業においてかかる最低日数をあげてみましょう。


 まずは、農閑期における作業として、田おこしを平均2回行います。

 田んぼが近くあればよいのですが、離れた場所にあれば移動のてまなどもありますので1日でおえられるとは限りませんし、なによりも農作業は天気都合になります。


 1回目と2回目の田おこしをこなすのに、土日の休日を利用して朝から夕方まで、途中食事休憩をはさんで8時間労働、都合6日で終えたとします。

 日雇いの肉体労働で、1日10,000円前後の日当を参考にして、60,000円。


 蓮華の種や肥料を撒くのに2日として20,000円


 田植え前の田おこし、いわゆる代かきで2日として20,000円。


 田植え作業で1~2日かかるとして、日当として間を取って15,000円。


 途中、出穂までのあいだに肥料をまいたり農薬をまいたり、あぜ草を刈ったりひえ取り作業などを土日をかけて、交代でこなさねばなりません。

 これが最も暑いさかりである6~8月にかけて行われます。

 熱中症を避けるため、作業は早朝4時ころ、日の出前から昼にかけて行われます。

 土日の半分として4日かけることの3ヶ月として12日、早朝加算などを加味して日当12,000円として144,000円。


 無事出穂し、稲刈り作業に2日として20,000円。


 作業にかかる給料としては、年間でおおよそ279,000円となります。

 単純に、80,000円近い赤字となります。

 いわゆる現場作業の日当で計算しましたが、実際に従事されている方からみれば、この日当はひどく安い、安すぎると不平をいわれるものでしょう。


 これは最低日数で計算してあるので、これ以内で収まることは殆どなく、プラス数日は確実にかかるものと思ってください。

 おおよその目算ですが、確実に倍ちかくの日数をみておくべきでしょう。

 

 さらに、田植え後の水の管理は1ヶ月以上におよびます。

 朝に晩に、水が足りていなければ水を引き入れ、育ってきたらそろそろ抜くべきなのか、を田んぼを見回りつつ稲作カレンダーと自分の経験値をにらみあいをきかせながら、行わねばなりません。


 これらの作業の日当もふくめれば、年間でおよそ400,000円くらいでしょうか?

 200,000円近い赤字となります。



 ここで忘れてはならないのは、兼業農家さんの多くは、サラリーマンとして生計をたてていらっしゃる、ということです。


 土日の休みをつかって、もしくは工場勤務であれば交代制の夜勤明けでさえ、いわゆる3Kと言われる農作業をこなし、疲れも取れないままに本来の仕事にむかわねばならないのです。


 そして水の管理は、会社に行く前と後に行わねばなりません。

 朝は1時間早く起きて、帰りは田んぼですので当然のことながら電灯もない中、懐中電灯を頼りに水の管理を行うのです。


 雨が降って農作業の工程が遅れれば、有給休暇を取得しての作業になります。

 実際にライスセンターは、近年まで土日作業を前提としており、月曜はお休みになっていました。

 土日に雨がふったり機械が故障して作業が終らなかった農家さんは、火曜以降、お仕事を休んで天気をにらみながら作業をするしかなかったのです。


 機械がこわれて修理ですめばよいですが、購入となったら高級セダンなみの負担がのしかかります。

 当然、お米からの収入でまかなえるはずもありませんから、ローンをくんで本職からの給与やボーナスから支払っていくしかありません。


 現在のサラリーマン兼業稲作農家さんは、年間の半分以上の土日を農作業に費やし、時には有給休暇すらもつぎ込み、へたをするとボーナスをまるまる頭金などで投げ出しているのです。

 そこまでしてようやく手にする収入は、実際の作業拘束時間にはとてもじゃないですが見合うものではない、遠く及ばぬものなのです。



 ライフスタイルの変化により食事内容が豊かになった結果、お米の消費量が減少するのは当然ですので、そこはわたしも何も言いません。

 実際に我が家の子どもたちも、ご飯とお味噌汁の朝食が大好きですが、ホームベーカリーの焼きたてパンと牛乳とヨーグルトの朝食も大好きです。


 この、ご飯と食パンにかかる金額を計算してみましょう。

  スーパーなどで手に入る基本的な推奨米、銘柄米であったとしても、お茶わん一杯の金額は30円から50円くらいです。

 パン屋さんで購入する食パンや、ホームベーカリーで焼くパンはだいたい一斤で150円から350円。

 比較しても、平均的な2〜6人家族の主食にかかる費用は、特別高いわけではありません。



 しかしTPP合意で、もしもアメリカからいわゆる『カリフォルニア米』が日本に入ってきたら、5キロでおよそ650円くらいの値段設定になると取りざたされたことがあります。


 このことから、日本のお米は輸入米よりも割り高だから競争力がない、他の主食となる炭水化物系の食品と比べても高いから、儲けがなくてもお米はなれがおきても仕方がない、もっと農家は危機感をもって企業努力をすべきである、とはニュースなどでよく言われていることですね。


 けれどもそれらニュースのうちどれだけが、兼業稲作農家さんの多くが儲けどころのはなしではないのだと、同時に報じてくれているでしょう?


 もう生産者は努力しきっており、これ以上、なにをどうすればいいのか分からないところにまで追いこまれているのです。

※ 引用参考HP等 ※


http://sirakawa.b.la9.jp/Coin/J077.htm


http://agrin.jp/hp/kome/library/16pdf/60.pdf#search='%E7%B1%B3+%E6%94%BF%E5%BA%9C%E8%B2%B7%E5%8F%96%E4%BE%A1%E6%A0%BC'


http://agrin.jp/hp/kome/library/16pdf/60.pdf#search='%E7%B1%B3+%E6%94%BF%E5%BA%9C%E8%B2%B7%E5%8F%96%E4%BE%A1%E6%A0%BC'


http://www.maff.go.jp/kyusyu/seiryuu/nosan/kobetu_hosyou/pdf/27pamph_3.pdf#search='%E7%B1%B3++%E7%9B%B4%E6%8E%A5%E6%94%AF%E6%89%95%E3%81%84%E4%BA%A4%E4%BB%98%E9%87%91'


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