その11 田んぼにGO! ーー採って獲って喰う!
我が家は兼業農家ですよ、と最初の頃にお話しておきましたが、じゃあ、普段の旦那さんのお仕事はなにかというと、普通にサラリーマンです。
ただし、技能が要求される木工関係のお仕事です。
(ちょっとだけいうと、学校や学習机の天板や、マンションの造り付けクローゼットの扉とかつくってます)
ありがたい事に、わりとお休みには恵まれている会社ですので土日はちゃんとお休みですし、繁盛期以外だと祝日もお休みになります。
なので、兼業農家として成り立っているのです。
これが、モーレツ社員推奨なブラック上等会社さんですと、とてもとてもやっていけないですね。
農業は天気に左右されやすい仕事ですが、急にお休みをいただいてもおしかりもないですし、とても助かっています、ありがとうございます。
とはいえ、いわゆる3Kのお仕事ですので、なかなか人材が確保できません。
そんなわけで、旦那さんの会社はもう十何年もまえから、就労ビザをもった外国の方を雇い入れています。
就労ビザで働きにきているので、当然ながら3年ごとに働いている人は入れかわってしまいます。
入れかわるたびにいちいはじめから教えるのは大変ですが、働きに来てくださる方々は非常にたくましい人ばかりです。
というか、たくましく、バイタリティあふれる人だからこそ、故郷をはなれても立派にやっていけるのだと思います。
とかく仕事ぶりを問題視されたりとかしますが、旦那さんの会社にきてくれる外国人労働者のみなさんは、本当に勤勉なかたばかりで、ありがたいことです。
会社に勤めている外国籍の人たちは、会社が借りあげたアパートに共同で暮らしているそうです。
技術習得うんぬんという建て前もありますが、まずはお金を貯めるために日本にきている人たちですので、とにかくお金を貯めるのが大好き! な人が多いのだそう。
貯めたお金で、電化製品やら食品贈答品やらを大量に買い込んでの帰国、いえ凱旋が、彼らの一種のステータスなんだそうで、そりゃもう先を争う感じでみなさん貯蓄につとめているみたいです。
強者の方ですと3年で500万近く貯めて帰って行かれたそうです。
どうやったらそんなに貯められるんだ……と旦那さんも思ったそうで尋ねてみますと、彼は食材をスーパーでなんか、もったいなくてそうそう買わないと答えたそうです。
「○○さん、お米は会社が支給してくれてる。お米あったら生きていける」
「や、でもさ、おかずなかったら辛いだろ?」
「おかず、買わなくてもとってこればいい」
「……はあ?」
そう、彼は田んぼで食材を仕入れていたのです。
彼の名誉のために書いておきますが、断じて、田んぼで窃盗をくりかえしていたとかいうわけではありません。
彼は田んぼで採って獲って生きていたのです。
「田んぼのそばの家に、ドクダミはえてる。これ食べられる」
「どくだみ茶か?」
「ちがう、採って食べる」
(ドクダミ茶を想像していた旦那さんのまえで、やおらしゃがみこみ、足もとにはえているどくだみを引きちぎって収穫(?)すると、もっしゃもっしゃと食べ始める彼!)
「あとは、水路にセリはえてる」
「……ああ、たしかにはえてるな……」
「これ、食べられる」
「……た、食べるのか、セリ……」
「水路、川エビとサワガニとザリガニもタニシいる」
「……あ、ああ、たしかに住んでるな……」
「獲ってきて、食べる。これ、みんなおいしい」
「……お、おおお、おいしいのか……」
「日本、しおとしょーゆとみそあったら、どれだけでも生きていける。すごくいいとこ」
「……ふぉぉぉぉぉ……」
(ちなみに、こういう会話が成立していたわけでなく、カタコトの日本語と中国語と筆談と身振り手振りを交えての『多分こんなこと言ってたんだろう』てきな予測補足会話です)
この外国人労働者の彼が日本語研修を終えて入社したばかりのころ、旦那さんは自分ちの田んぼを教えてあげたそうなんですね。
で、彼は会社に就労ビザでやってくる外国人労働者の人が代々のりついでいるケッタマシーンにのって、田んぼまでやってきて、水路からセリやら川エビやらサワガニやらザリガニやらタニシやらを採って獲って日々のおかずにして、せっせとお金を貯めていたそうなのです。
白状しますと、今だから、彼はお腹もこわさずにいられたんだと思います。
今でこそ、低農薬米が主流になってきましたし、下水道が完備されて河川や水路は劇的にきれいになりましたが、数十年まえまでは農薬もかなり多めに散布されていました。
さすがにちょっと、ちゅうちょしますよ、いくら人体に影響ないといわれましても……。
農薬がまかれていた頃でも、そこはそれ、セリも生えていましたし、カエルもザリガニもタニシもいっぱいいました。
トンボとかもバンバンとんでいましたし、時期はごく限定されますが、ホタルだって舞っていました。
とは言うものの、完全に処理しきれていない汚水や強い農薬がのこっているのかも、と尻込みするわたしたちは子供たちが水路で水遊びするときも気をつけていたものです。
ですが、下水が完備されて低農薬米が田んぼの主役になりだすと、これまでの倍率ドン、さらに倍の勢いで生き物は増えてきました。
用水路がきれいになったと実感したのは、こうした虫たちや草が目に見えて増えてきたからです。
低農薬米は農家泣かせである、と先の項に書かせていただきました。
でも低農薬になったおかげで、『のどかな田園風景』と書いた時に、たいていの方がこころに思い浮かべる風景が、いま、ここにある。
それはとても贅沢なこと、豊かなことなのかもしれません。
ちなみに、お家の田んぼのそばに流れる用水路には清水がわいているので、親戚のおじさんがワサビを植えております。
こんな茶目っ気たっぷりのあそび心も、田んぼが身近であるからこそでしょう。
おじさん、でもよかったですね。
植えたのが、外国人労働者の彼が帰国した後で……。
※ 注意 ※
『ケッタマシーン』とは、このあたりの方言で『自転車』のことです
ただ単に『ケッタ』ともいいます
語源は不明ですが、蹴りあげて乗るところから、ケッタ、なんでしょうか?




