プロローグ 5
「ぷ、プチドック……?」
「そ、そんな。なにかの間違いでは?」
「先ほどの異常な光といい、魔方陣になにか問題があったのでは」
「わ、私の魔方陣に問題なんてあるわけないわ! 誰かがなにか仕掛けたのよ!」
いや、本当に間違いない? 召喚された瞬間「てめぇは犬だ!!!」って本能が教えてくれやがったんだけど、間違いありません? というか間違いだって言ってくれません?
いやいや、普通召喚されたなら王女が目の前にいて「魔王が……」とか、召喚魔法にすがった少女が「助けて! このままじゃ……」とかそういうのがお約束でしょ? なに。犬って。どうすんのよ。
これ帰れるの? いや、仮に帰れたとしてもどうなのよ? 妹に犬になった姿晒して尻尾振りながらただいま~って? 一緒にケーキ食べよう~って? ばっかじゃないの? 「どこからきたの~?」って聞きながら足裏しっかり拭かれて、「どこか痒いとこない~?」って丁寧にお風呂に入れられた後、「いくらでも食べていいんだよ!」とか言いながらカリカリのドックフードとか、実は人間も食べることができる(人間にとっては薄味)美味しい犬用のお肉とか渡されちゃうよ? あいつ動物好きだから。てか犬ってケーキ食べれる? 専用のやつあるんだっけ?
そんなことを考えながら自分の体を確認したり、しっぽどうなってんの? って追いかけて目を回してこけたり、今の行動どう考えても馬鹿丸出しの動物じゃね? と絶望して震えたりしてたら、目の前のちょいと目つきが鋭く金髪で10才前後の将来美人になるであろうお嬢様みたいな少女が「か、かわいい……わ、私が御主人様でちゅよ~。怖くないでちゅよ~」とか言いながら近づいてきた。
てめぇか! 俺を召喚しやがったのは! よりにもよって犬にしやがって! この毛並みスゲーモフモフしてるけど自分じゃ堪能できないんだぞ! どうしてくれるんだ!?
俺の強烈なガン飛ばしが効いたのか、「あ、あれ? 使役が効いてない? う、嘘。ど、どうしよう。えーと、えーと、あ、あれよ!最高級のお肉をあげるわよ? ……変なことしないよ?」と恐怖に怯えおの……あー、うん。ガン飛ばしは効いてないですね。多分俺が懐かないことが不思議なんだろう。
一応偽物の本能っぽいのが「このお方が貴方の御主人様ですよ」って伝えてくるんだけども、元人間の俺は本能だけじゃ動かない。多分この似非本能さんが使役の魔法ってやつなんだろうね。
ちなみに本物の本能は最後の「変なことしないよ?」は嘘だと知らせている。ああ、わかってる。モフりたいんだろう? お主も好きよのう?
なんて感じでお嬢様との壮大なる攻防を繰り広げていると若いメイドの一人が近づいて言ってきた。
「や、やっぱり。お嬢様、これはなにかの間違いです。使役の魔法もうまく発動していないみたいですし、やり直しましょう! その魔物はすぐに処分いたしますので」