勇者と世界
初めて書いた小説でした。
拙い文章ですが、読んでいただけると幸いです。
勇者なんてそんなにいいものじゃない。魔王を倒せば職を失い、ただの人間以下になる。かくいう俺もそのただの人間以下の元勇者だ。そりゃ魔王を倒して数カ月は皆喜んでくれていたし、英雄だなんだと褒め称えてくれていた。が、半年経てば、もう過去の事だ。魔王はいない。故に勇者も必要ない。確かに俺は色々な国の王族から多くの報奨金を貰った。一生働かずとも暮らせるだろう。だがそんな虚しい生活、此方の方から願い下げだ。残念なことに今回の魔王はどこぞの国の美しい姫をさらった、なんてことはなかった。おかげで俺は姫と結婚することもない。しかし、とある国の王から「我が国の姫と結婚してくれないか?」という申し出があった。だが、姫との面会の折、姫は俺を見てあからさまにがっかりしたように「この庶民のような出で立ちに特に美しくもない容姿の者が勇者だなんて…」と言ってきた。姫は面食いだったのだ。正直言って俺はそこそこだ。並の顔だ。勇者だがモブなのだ。主人公として生まれる未来の勇者達に第何代目の勇者とか、そういう感じで言われるのだろう。
そして、俺は今、傭兵をしている。だが昔は幼なじみの魔導士と旅をしていた。魔導士は王宮に仕えることになった。俺は剣術なんて露程も知らないから、王都のはずれに家を作り、王都のギルドに所属した。勇者だった、なんて忘れたふりをして。
周囲の奴らは俺の家に来ると驚く。たった一人で住むにはデカ過ぎるだろう、と。実際は一人暮らしではない。先の魔王軍との戦いで命を落とした人々の家族、先の戦いで職を失った人々を俺は家で養っている。元を正せば俺のせいのようなものだ。俺がもっと早く魔王を倒しておけば、彼らはここにいなかったかもしれないからだ。
「よう!元気か?」
いつものように魔導士がやってくる。手に持っているのは、パンや牛乳などの食料品だ。俺が仕事で金を稼ぎ、魔導士が食料を買ってくる。実にいつも通りの光景だ。だが今日は違う部分もあった。
「おい。そのガキは?」
魔導士はボロを着たガキを連れていた。
「そこで拾った。孤児らしい。」
先の戦いで親を失ったのだろう。また一つ、俺の重荷が増えた。
「…ここで引き取る。」
「だろうと思ったよ。」
魔導士は呆れたように笑う。俺がこう言うと分かっていたはずだ。そんな顔をされる筋合いはない。だが彼には世話になった、今も昔も。そう勇者になる前からの仲間だ。
「ねぇ…。お兄ちゃん、僕を拾ってくれるの?」
ガキが小さな小さな声で言う。不安そうなその顔は痩せ、頬はこけている。まだ十にもなっていないだろうに。俺は気がつくと声をかけていた。
「あぁ、そうだ。今日からお前は俺の新しい家族だ。もう何も不安に思うものなんてない。」
そのガキは少し驚いた顔をした後、泣き出した。嗚咽混じりに「ありがとう」と言い続ける。このガキは半年もの間、一人で不安と恐怖に震えていたのだろうか。俺は彼を眩しく思った。まるで幼かった頃の自分。その面影を見ているようだった。
俺は彼を息子として引き取った。このガキが「ありがとう」と言ってくれた時、思ったからだ。こんな世界も悪くない、と。
____それは元勇者と主人公として生まれた勇者の出会いの話。
読んでいただき、ありがとうございました。