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短いお話したち

終わりを見守る少女

作者: marron

 長い商店街の中ほどに、パンや牛乳や雑誌を売る、小さなお店があります。古い店で、わざわざそんな店に行かずとも、近くのコンビニの方が品数も豊富ですが、その店は今も毎日ちゃんと店を開いていました。

 閉店は午後6時。おじいさんがシャッターを閉めに出てくると、小学校に入るか入らないくらいの、小さな女の子が立っていました。

「おじちゃん、あんぱんひとつくださいな。」

「あんぱん?すまないねぇ、今日はもうないよ。」

 おじいさんがそう言うと、女の子はおじいさんを見上げて、無言で頷き、そして走って行ってしまいました。

 ハテ、見た事のない子だな。とおじいさんは思いました。

 それから毎日、閉店のためにシャッターを閉めにおじいさんが出てくると、その小さな女の子がお店の前に立っていました。

「おじちゃん、あんぱんひとつくださいな。」

「あんぱん?すまないねぇ、今日はもうないよ。」

 おじいさんがそう言うと、女の子はまた同じようにおじいさんを見上げて、そして無言で頷き、走って行ってしまいました。

 そういうことが数日続いた日、おじいさんは、その子のためにあんぱんを残しておきました。そしてその日も、午後6時におじいさんがシャッターを閉めに外に出ると、女の子がお店の前に立っていました。おじいさんは、あんぱんだな?と思いました。ところが、

「おじちゃん、ビンのぎゅうにゅう1ぽんくださいな。」

「はい、え、ぎゅうにゅう?ああ、すまないねぇ、今日はもうないよ。」

 女の子はおじいさんを見上げて、いつものように無言で頷き、そして走って行ってしまいました。

 おじいさんは、あんぱんじゃなかったので、ちょっと驚きました。なんだって、今日は牛乳だったのでしょう。でも、あんまり気にしませんでした。

 次の日も、女の子はビンの牛乳を買いに来ました。おじいさんはビンの牛乳を売ってしまったので、女の子はまた何も買わずに帰って行きました。

 ある日は、あんぱんも牛乳も残っていました。おじいさんは、これでどっちを注文されても大丈夫と思っていました。ところが、

「おじちゃん、キャラメルくださいな。」

 と女の子は言いました。

「キャラメルかい?ああ、今日はないねぇ。ごめんよ。」

 やっぱり女の子が注文したものはありませんでした。



 そんな日がもう、半年も続いたころでした。夕方おじいさんがいつものようにシャッターを閉めに出てくると、いつものように女の子がお店の前に立っていました。もう顔なじみになったものです。おじいさんはにっこり笑いかけました。

「おじちゃん、あんぱんひとつくださいな。」

「あんぱん?すまないねぇ、今日はもうないよ。」

 と、いつもの会話をしました。結局今まで一度も、女の子が欲しいと言ったものは売ったことがありませんでした。でも、女の子は別に気にしないで、それでも毎日お店に来ていました。そして、特に気にする風もなく、ちょっと頷くと行ってしまっていました。

 しかしその日は、女の子はおじいさんを見上げて、可愛らしい声で言いました。

「おじちゃんに会うの、きょうでおしまいなの。だから、さようなら。」

「そうなのかい。今までありがとうね。元気でね。」

 おじいさんは女の子にニッコリ笑いかけました。一度もパンも牛乳も売ったことはありませんが、毎日お店にきてくれたお得意さんです。おじいさんは気持ちを込めて礼をしました。

 女の子も可愛らしくニッコリ笑うと、いつものように走って行ってしまいました。

 今日でお終い、お引越しでもするのかな。それとも習い事かな、とおじいさんは思いました。

 その日の夜、おじいさんは自宅の階段から落ちました。そして腰の骨を折って入院しました。もう随分歳をとっていたのもあり、おじいさんはもうお店には戻りませんでした。

 おじいさんのお店はもう2度と、開くことはありませんでした。女の子に見守られて、そのお店は終わりを告げたのでした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 終わりを見守る少女 拝読させていただきました。  とても不思議な感じのするお話で、想像力を刺激されるお話だと思いました。解釈によっては解釈によってはホラー的に、見かたを変えればおじいさん…
[良い点] この女の子は一体何者なんだろうと想像が広がりますね。 おじいさんの店の終わりを見守ったのは彼女の優しさでしょうか。
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