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『真に会ったんだね。楽しかった?』

 旅伏と話したことを電話で告げた時の直江君の反応は、そんなものだった。

「てっきり怒ると思った」

『どうして?』

「だって直江君、あんまり近付かない方がいいって」

『近づいちゃダメとは言ってないし、近づいてほしくないとも言ってないよ。君が決めたことなら俺は何も言えない』

「そうなんだけど……あ、それでね、これからのこと話し合いたいと思って」

『あー、じゃあウチにおいでよ。迎えに行くから』

「直江君の家……」

 直江君は私の家に何回か来たことがある。しかし、私は彼の家に一度も行ったことがない。内心ではそれを気にしていたのだが、どうやらそれも今日で終わりそうだ。

『迎えに行くよ。ちょっと待ってて』「わかった」

 電話を切って身仕度をしている際も、私の頭は直江君の家のことでいっぱいだった。

 彼のことだ、おそらく殺風景極まりない部屋なのだろう。いや、直江君も男の子だ。ひょっとしたらいろいろ散在しているかもしれない。

 なんて妄想を繰り広げていると、インターホンが鳴った。

「こんにちはー、直江ですが」

「あ、はいはい」

 階段を駆け降りて玄関へ出る。

「準備出来てる?」

「出来てるよ。行こう」


「うわー……」

 直江君に連れられて来たそこは、いわゆる高級マンションというやつだった。「ちょっと意外だったかな?」

「意外というより、ここに人間が住んでいるなんて考えたことなかった」

「そこまで言われると、逆に不安だよ……さて、行こう。俺の部屋は三階だ」


「ここが直江君の部屋?」 いざ入ってみると、そこは意外なことに普通の部屋だった。青いカーテン、白黒のカーペット、何を取っても「……普通」

「ん?」

「ううん、何でもないよ」

「そう。じゃあゆっくり話を……」

 直江君がそこまで言った瞬間、突然玄関のドアが蹴破られた。

「え、何? 何?」

「下がってて」

 もはや玄関と呼べないそこから数人の男が侵入してくる。顔には覆面、手には拳銃を携えている。

「動くな。男一人に女一人……話に聞いた通りだな」「お前らの目的は何だ」

 直江君は堂々とした態度で覆面の男達に訊いた。

「俺達ゃ雇われただけだ。これは単なるアルバイトだよ。お前を殺せってさ。女の方はどうでもいいって言われたが……どうでもいいって事は、殺していいって事だよなァ?」

 ああ、これはまずい。今までの人生十七年で培われた防衛本能が警告する。

 そう、旅伏に追いかけられたときのように。

と、そのとき突然

「っふふ、あっはっはっはっは……!」という笑い声が聞こえた。覆面の中の誰かが笑ったのかと思ったがそれは違った。

「あっはっはっは……あーおっかしいね、この状況」笑っていたのは、なんと直江君だった。それも、今まで見たことがない程楽しそうに。

「何だ!何が可笑しい?イカれてんのか!」

 覆面の男が怒る。だが直江君はそんなことに構わず喋り続ける。

「いやはや、全く……どうやら俺達は神様に嫌われているらしい。毎度毎度邪魔が入ってしまう。ねぇ?」 ここでようやく、私に話しかけているのだと分かった。

「ごめんね、なんかこんな事になっちゃって。俺としてはもっとサービスしたいんだけどね」

「え、あ、うん……」

 どう答えていいか分からない。この状況と直江君の発言があまりにも違いすぎる。

「おい、いい加減にしろ!」

 覆面の男は怒りだし銃口を直江君に向ける。直江君はゆっくり視線を覆面の男に向け、また話し出した。

「……八、十五、百二十七」「あぁ?」

「八は入院した回数。十五は骨折した回数。そして百二十七は自分の身体をナイフで切りつけた回数。」

「お、お前――」

 直江君は右腕の裾を捲り上げた。その右腕には無数の傷痕と、無数の生傷がある。

「何か失敗したとき、何か嫌な事を思い出したとき、何か悲しくなったとき。俺は自分の身体に傷をつけるんだ。覆面の人、貴方は俺の気持ちが分かる?俺の命の重さが分かる?」

「ぐ――」

「貴方に、俺は殺せない」

 覆面の男は銃口を下げ他の覆面達に指示を出した。

「……撤収だ」


「兄貴、良いんですか?」

「良いんだよ!文句があるならテメーらが殺せ!」

 リーダーの意気に気圧され、取り巻きは素早く部屋を出ていった。

 リーダー格の男も素早く玄関へ走ったが、一旦直江君の方を振り向き、呟くように言った。

「お前は、人外の――化物だ」

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