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「あいつは旅伏真っていう名前でね、元いた高校の悪友だったんだ」

 不審者から逃げた後、直江君は自分から話してくれた。直江君が自分から話してくれたことは滅多にないので、新鮮な気がする。

「あいつは何て言うか……予想できないところがあってね、そこが気に入って」

「そうなんだ……じゃあ、どうして逃げたの?」

「転校する半年ぐらい前かな、あいつに悪い噂が流れ始めたんだ。裏サイトで拳銃を買ったとか、そこら辺の不良と色々やったとか。そういう奴だから、君は近付かない方がいい」

「わかった、気を付ける」

そんなやり取りがあった、その次の日。

「ねーぇ! あーそびーましょー!」

「……うるさい……」


 旅伏真が家の前で私を呼んでいた。

「ねーぇ! いるんでしょー? お話しよーよー!」

「ちょっと、あの子何とかしてよ」母が不機嫌そうな顔で私をなじる。

「近所迷惑になるわ。早く行ってあげなさい」

「はーい……」

 一応まともな格好をして家の前に出ると、昨日と同じ服をきた不審者――旅伏真がそこにいた。

「旅伏真です、よろしく。まずは謝っておこうかな。この前怖がらせたことと、家の前で大声を出したことと」

「はあ。……で、用事は何ですか?」

 近付かない方がいいと昨日聞いたばかりだ。手短に終わらせたい。

「つれないなあ。まだ話は終わっていないよ。迷惑かけたお詫びに、君の聞きたい情報を教えてあげようと思ってね……例えば直江のこととか」

「……」

「俺は君より直江のことをよく知っているつもりだ。大丈夫、何もしない」

「……わかった」

 追いかけられたことを忘れた訳ではないが、直江君の事を訊きたいという気持ちの方が強い。

「じゃあ家に入って」

「はーい、お邪魔しまーす」


「さて、何を訊きたい?」

「まず、私を怖がらせた理由」

 直江君のことも気になるが、まずはそこから。

「ああ、あの日はこの街を散策してたんだ。そしたら君が来た。制服を着てたから高校生かなって思って、直江のこと知ってるかなーって。で、話をしたかったと」

「あの時ポケットから出したのは?」「ナイフ」「なんでナイフ」

 そう訊くと旅伏は不思議そうに首をかしげ、

「……? 話を聞くのにナイフは必需品でしょうよ? ナイフがないと答えてくれるか分からないじゃん」「……」

 やっぱりこいつは不審者だったか。素直に直江君の言葉を受け入れれば良かった。だがもう遅い。

「いつも同じ服なのは?」

「同じのを何着も買ったからさ。この服が一番よく似合う」

「そう……じゃあ、そろそろ本題。直江君のことだけど」「どうぞ」

「彼のこと、どう思う?」「また随分アバウトな質問だね。君はどう思うの?」

「正直、人と世界が違うような。彼は、自分の心には誰もいないって表現してたけど」

「そうだよ。分かってるじゃないか。誰の心にも誰もいない。それを信条に生きている」

「でも、それだけじゃないように見える」

 旅伏は困ったように微笑み、やがて言った。

「直江はさ、弱いんだよ」「どういうこと?」

「うーん……直江は、ことあるごとに怖がっているんだよ」

「何を?」

「たぶん、世界を」

「よく分からない」

「お嬢ちゃんにもじきに分かる。他に訊きたいことはない?」

「うーん、もうないかな」「そう。じゃあもう帰った方がいいかな? あんまり好かれてないみたいだし」

「ゆっくりしていけばいいよ。一応、君はお客さんなんだから」

「ああそう! じゃあゆっくりしていくよ!」

 どうやら旅伏は遠慮しない性格らしい。ちょっと後悔。

「……じゃあ、そろそろ帰るよ」

 その後旅伏は本当に居座り、実に四時間が過ぎた。

「うん、気をつけて」

「ありがとう。ああ、忘れるところだった」「?」

「君に大事なこと言わなきゃいけなかった。君は直江とは別の道を歩むんだろうね」「まあ……ね」

 そうだった。私はその事を考えなくてはならない。ドタバタしていたせいで忘れていた。

「君と直江はもうすぐ離ればなれになると思うけど、それまで直江の事、よろしくね」

「うん、任せて」

 私の言葉を聞くと旅伏は微笑み、私の家を去っていった。

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